ハリー・ポッターと滅びゆく一族の末裔   作:水湖 玲

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ヒッポグリフ

セレーンは鏡で自分を見つめていた。なんで鏡の前に立ってるんだっけ?自分の行動の意味を知ろうと、さらに鏡に近づきよく見てみる。そうしてようやく鏡ではないことに気がついた。それはまるで門のようだった。門の向こう側には母がいた。優しく微笑み、セレーンに何か話しかけている。

 

会えてすごく嬉しい。でもよく聞こえないわ、母さん。何て言ってるの?

 

セレーンは門を通り抜けようとした。

 

だめよ!こちらに来てはいけない!

 

突然厳しい表情を見せた母にセレーンは足を止める。それを見て母は再び慈愛に満ちた笑みを浮かべた。

 

愛しているわ、セレーン。あなたを永遠に守り続ける。どうか強くなって…。さようなら

 

そう言うと、彼女は後ろを向いて門の奥へと進んで行く。セレーンの見る限り、その先には深く暗い闇だけが広がっている。

 

嫌だ!行かないで、母さん!

 

セレーンは弾かれたように駆け出した。彼女はセレーンの声が聞こえないようで、振り向くことなく進んでいく。いくら走っても、門はすぐそこにあるようでたどり着けない。

 

待って!待って!!お願い、私を一人にしないで!!!

 

とうとう閉ざされてしまった門にようやくセレーンは触れることができた。しかしどうしても自分には開けることができないとわかっていた。セレーンは底知れぬ恐怖を覚える。どこにも声は届かないと知りながら、セレーンは叫んでいた。

 

助けて!誰か助けて!

 

 

 

セレーンは眩しい太陽の光を感じた。そうか、あれは夢だったんだ。ゆっくり目を開き、自分が医務室にいるとわかった。汽車で不気味な影を追い払うのに力を使ったことを思い出した。あの影は何だったんだろう。そこで教科書で読んだ内容が浮かぶ。

 

「ディメンターだ…」

「そうです!その通り!」

 

独り言に答えるようにカーテンが開き、マダム・ポンプリーが入ってきた。ディメンターについてかなり頭に来ているようで、セレーンが彼女の突然の登場に飛び上がったことを気づいていない。

 

「まったく!ディメンターなんかを学校に放つなんて!繊細な子なら倒れても仕方ありません!」

「あの、マダム。私はもう大丈夫です。授業に出ないと…」

「そうですね…。一晩眠ったらだいぶん顔色が良くなりましたね。一応チョコレートを食べなさい」

 

すでに授業が始まっている時間だろう。とにかく早くマダムから逃れようと素直にチョコレートを頬張る。それを見て納得したマダムはようやく解放してくれた。セレーンは早く4人に会いたくてたまらなかった。

 

 

セレーンは楽しみにしていた数占い学と変身術を逃したが、昼食には間に合った。

 

「あぁ、セレーン!元気になったのね!よかったわ!」

 

広間に入ってすぐにハーマイオニーがセレーンの姿を見つけて飛びついて来た。他の3人も笑顔で手を振っている。

 

「セレーン、ありがとう。あの、例のディメンターを追い払ってくれて」

「君ってすごいんだぜ。汽車の中にいたディメンター、ぜーんぶ追い出したんだ!」

「だから君の身体にはとても負担がかかったみたいだ。もう大丈夫なのか?」

「大丈夫。ありがとう」

 

セレーンが席に着いた途端に、3人は口々に話しかける。隣ではハーマイオニーがセレーンのために昼食を取り分けている。そう、私は一人じゃない。大丈夫。セレーンは自分に言い聞かせていた。

 

 

 

昼食の後は魔法生物飼育学の初めての授業だ。5人はハグリッドの小屋を目指して、芝生を下っていた。スリザリンとの合同授業は憂鬱だったが、ハグリッドが先生ということで楽しみでもある。

 

「今日はみんなにいいもんがあるぞ!みんな、ここの柵の周りに集まれ!」

 

生徒が全員揃ったのを見て、ハグリッドは号令をかけた。

 

「よーし、みんな教科書を開いてー」

「どうやって?」

 

ドラコ・マルフォイが冷たく気取った声で聞いた。

 

「背表紙を撫でればいいんだよ」

 

セレーンがマルフォイに教える。ちなみにマルフォイはもちろんセレーンの隣を陣取っていて、セレーンから話しかけられて嬉しそうだ。

 

「あ、そうなんだ。ありがとう、セレーン」

 

セレーンに対しては気持ち悪いくらい素直なマルフォイである。セレーンの一言にクラスの全員がそれに習った。ハグリッドはセレーン以外、誰も本を開いていないことにショックを受けていた。

 

「お、俺はこいつらが愉快なやつらだと思ったんだが」

「素敵な本だよ、ハグリッド。早く魔法生物を紹介して」

 

セレーンはハグリッドを慰めつつ、先に進めるよう促した。ハグリッドは魔法生物を連れてくると言ってその場から離れる。

 

「すごいね。どうして撫でるって気づいたの?」

 

ハリーがセレーンに問うと、セレーンは不思議そうに答えた。

 

「だって撫でてほしそうだったから」

 

さすがセレーンである。ハリーたちが唖然としていると、同じグリフィン生のラベンダー・ブラウンが甲高い声をあげた。そちらに目をやると、見たこともない生き物が早足でこちらへ向かって来ていた。胴体、後脚、尻尾は馬で、前脚と羽根、頭部は鳥のようだ。

 

「ヒッポグリフだ」

 

サムがつぶやいた。ハグリッドはヒッポグリフを柵につなぐと説明を始める。

 

「ヒッポグリフだ!まず、ヒッポグリフについて知らなきゃなんねぇことは、こいつらは誇り高い。絶対、侮辱してはなんねぇ。必ずヒッポグリフの方が先に動くのを待つんだぞ。こいつのそばまで歩いていく。そんでお辞儀して待つんだ。こいつがお辞儀を返したら、触ってもいいっちゅうことだ」

 

セレーンは興味津々でハグリッドに近づいた。他の生徒たちが後ずさりしていることを知らずに。

 

「ほんじゃあ、セレーン。一番乗りだ」

 

一番前にいたセレーンは当たり前のようにあてられた。指名を受けて、ゆっくりとヒッポグリフに近づいていく。

 

「そうだ、落ち着け、セレーン。目をそらすなよ」

 

セレーンはハグリッドの指示に従って進む。するとヒッポグリフはセレーンを睨みつけた。怯まず目をそらさないまま、セレーンは立ち止まった。

 

「そーだ。セレーン、それでええ。…そんで次はーっ、えぇっ⁉︎」

 

ハグリッドはセレーンを褒める声から突然、素っ頓狂な声をあげた。固唾を飲んで見守っていた生徒たちもざわつく。それもそのはずヒッポグリフからセレーンにお辞儀したのだ。セレーンも混乱する。

 

「…あ、セレーン、ようやった。そうだな、これはそのあれだ。何だ」

 

ハグリッドも完全に混乱する。そこでサムが気を利かせた。

 

「ハグリッド、次は僕がやるよ」

「そうだな、よしサム、前へ。セレーン、戻ってええぞ」

 

そしてサムは人間側がお辞儀をしてヒッポグリフから許可を得るという一般的な方法を成功させ、丸く収めた。さらにサムはヒッポグリフに乗って放牧場を飛んで一周することまでやってのけた。セレーンは思わずサムにうっとりしてしまう。サムが成功し、調子を取り戻したハグリッドは次の生徒を求めた。ハリーはヒッポグリフで飛行することに心惹かれて、名乗りを上げようとした。そのとき、マルフォイがハリーを押しのけて進み出る。

 

「僕がやる!」

 

ハリーとロンは嫌な予感を覚えた。セレーンに良いところを見せようとしてから回るという予感だ。しかし予想に反して正しい手順通りにヒッポグリフを撫でることができた。そこで一瞬ハリーとロンは目配せしてほっとする。

 

「簡単じゃあないか。あのマグル生まれにできるんだ、簡単に違いないと思ったよ…おまえ、危険なんかじゃないな、醜いデカブツの野獣君?」

 

マルフォイは成功したことで調子に乗って、ヒッポグリフを挑発した。ヒッポグリフの目が鋭くぎらつく。

 

「やめて!彼を傷つけてはだめ!」

 

セレーンはすぐに叫んだ。ちょうどヒッポグリフは鉤爪を振り上げたところだったが、セレーンの声に動きを止めた。マルフォイはヒッポグリフが自分を襲うところだったと気づいて、その場にへたり込む。ハグリッドは慌ててヒッポグリフの鎖を持って、マルフォイから引き離した。

 

「ドラコ、大丈夫?」

 

セレーンは腰が抜けているマルフォイに手を差し出した。

 

「あ、あ、ありがとう、セレーン」

 

セレーンはマルフォイを引き起こした後に、手を離そうとしないマルフォイを振りほどいた。そして恐ろしく冷たい声で言った。

 

「あなた、とんだ愚か者よ、マルフォイ」

 

そしてセレーンはそのまま寮へ戻っていく。急いでセレーンを追いかけるハリーたち4人は、マルフォイの情けない顔を見て心からすっとしていた。


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