ハリー・ポッターと滅びゆく一族の末裔   作:水湖 玲

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ディメンター

翌朝、セレーンとハリーは昨夜のことを3人に話したくてたまらなかった。しかし周りに必ず誰かがいて、慌ただしくキングズ・クロス駅に向かうことになった。皆で汽車に乗り込もうとしたところ、セレーンとハリーだけウィーズリー氏に呼ばれ、柱の陰へ入る。

 

「君たちが出発する前に、どうしても言っておかなければならないことがある」

 

ウィーズリー氏はかなり緊張した面持ちである。

 

「おじさん、いいんです。僕…僕たち、もう知ってます」

「何だって?どうしてまた?」

「私たち、その…昨晩のおじさんとおばさんの話を聞いてしまったんです。ごめんなさい」

「ごめんなさい」

 

2人は急いで謝る。すると、ウィーズリー氏は気遣わしげに言った。

 

「できれば君たちにそんな形で知らせたくはなかった」

「いいえ。よかったんです。本当に。僕たちは何が起こってるのかがわかったんですから」

「2人とも、怖いだろうね…」

「いいえ、全然。平気です。ね、ハリー?」

「うん。僕たち、強がってるわけじゃありません。でも、シリウス・ブラックがヴォルデモートより手強いなんてことはあり得ないでしょう?」

 

ウィーズリー氏は信じられないと言った様子である。しかし冷静そのものな2人に警告した。

 

「いいかい、約束してくれ。ブラックを探したりしないって」

「どうして私たちが探そうとするんですか?」

 

セレーンの問いにウィーズリー氏は一切答えず、2人を汽笛の鳴る汽車へと引き連れながら続けた。

 

「2人とも、約束してくれ。どんなことがあってもだ」

「僕たちを傷つけようとしてる人を、どうして僕たちから探しにいくんです?」

「誓ってくれ。君たちが何を聞こうとー」

 

ウィーズリー氏の言葉を最後まで聞けないまま、2人は汽車に飛び乗った。ウィーズリー夫妻の姿が窓から見えなくなってすぐにサムたち3人に向かってハリーが囁いた。

 

「君たちだけに話したいことがあるんだ」

 

5人は誰もいないコンパートメントを探したが、どこもいっぱいだった。最後尾にただ一つだけ空いたところがあった。男の先客が1人いるだけで、窓側の席でぐっすり眠っている。大人の乗客は今までに見たことがなく、5人は不審に思った。とりあえず腰を落ち着けてセレーンとハリーは代わる代わる事情を話した。

 

「シリウス・ブラックが脱獄したのはあなたたちを狙うためですって?あぁ…ほんとに気をつけなきゃ」

 

ハーマイオニーは心配気である。

 

「ブラックがどうやって脱獄したのか、誰にもわからない。これまで成功したやつはいないんだ。しかもブラックは一番厳しい監視を受けていた。そんな狂人が」

 

ロンは落ち着かない様子である。

 

「とにかく絶対に2人を単独行動させないようにしないと」

 

サムも険しい顔つきである。しばらく静まり返り、そして緊張した空気を変えるようにロンが話し出した。

 

「ところでホグズミードのハニーデュークスの店、絶対行ってみたい!」

「それって何?」

 

ハーマイオニーが聞き返す。他の3人も興味津々だ。

 

「お菓子屋さ。なーんでもあるんだ!激辛ペッパー、食べると口から煙が出るんだ。それに砂糖羽ペン、授業中にこれを舐めてたって次に何を書こうか考えてるみたいに見えるんだ」

「まるで恋してるみたいね」

 

うっとり顔のロンに皆は笑った。

 

「歴史的な場所でもあるから探検しよう」

「楽しみだわ!」

 

サムは呼びかける。ハーマイオニーもわくわくしている様子だ。一方のセレーンとハリーは沈んでいた。

 

「お土産、よろしくね」

「僕たちにどんなとこか教えてよ」

「どういうこと?」

 

ロンは聞いた。ハリーが残念そうに答える。

 

「僕たち、行けないんだ。2人とも大人からのサインをもらえなかったんだよ」

「そんな!そりゃないぜ!マクゴナガルか誰かが許可してくれるよ」

 

ロンのアイデアにセレーンとハリーは力なく笑うしかない。あの厳しいマクゴナガルが許してくれるはずがない。

 

「今はブラックが野放しだ。2人ともホグワーツ内にいたほうがいいと思う」

「私もそう思うわ」

 

サムが固い声で意見し、ハーマイオニーも同調する。セレーンとハリーも反論のしようがなかった。ロンが残念がって呻いたところに、コンパートメントのドアが開いた。ドラコ・マルフォイと腰巾着のクラッブ、ゴイルだ。

 

「誰かと思えば、やぁ、セレーン。調子はどうだい?」

「こんにちは、ドラコ。元気よ、ありがと」

 

ハリーとロンは目配せし、ハーマイオニーはドラコから顔を背け、サムは俯いていた。全員思わず吹き出してしまわないようにするためである。あの、お高く止まったマルフォイが頬を染めて夢見るような表情でセレーンに話しかけているのだ。

 

「僕の手紙、読んでくれた?」

「えぇ。私、ふくろうがいないからお返事送れなかったんだ。でも、手紙嬉しかったよ」

「そ、そそそっか。うん。僕も気がきかなかったよ。でも読んでくれたんだね。よかった。うん。てっきり嫌われ…いや、何でもない。よかった。じゃあ、またホグワーツで」

「うん、またね」

 

やっと去っていった途端に4人は爆笑した。セレーンは不思議そうに4人を見つめる。

 

「セレーン、ありがとう!君のおかげでマルフォイに絡まれなかったよ」

「いやぁ、見ものだったよな!」

 

ハリーとロンが口々に感想を言う。セレーンは何だかよくわからないが、4人が楽しそうなので満足した。

 

 

しばらくして汽車が速度を落とし始めた。まだ到着の時間ではない。5人が不思議がっていると、とうとう汽車が止まった。そして何の前触れもなく、明かりが一斉に消え、真っ暗になった。

 

「何が起こったの?」

「故障かな?」

「さぁ?」

「様子を見てこようか」

「誰か足、踏んだ?」

 

セレーンは手探りでドアを開けようとした。不意に誰かの手がセレーンの手を握る。ハーマイオニー?不安なのかしら。そんなことを考えていると、ドアが開き、誰かが倒れこんできた。

 

「ごめんね!何がどうなったかわかる?イタッ!ごめんね」

「ネビル、大丈夫?」

「あぁ、セレーンなの?どうなってるの?」

「わからない」

 

するとまたドアが開き、ぶつかった音と痛がる声が2つ聞こえた。

 

「だあれ?」

「ジニー?」

「セレーン?」

「ルーモス、これで皆見えるね」

 

サムが機転を利かせ、杖明かりを付けた。互いに無事を確認し合っていると、再びドアがゆっくり開いた。入り口に立っていたのは、マントを着た黒い影だった。マントからは灰白色の穢らわしいかさぶたで覆われた手が見えており、サムとハリーへ手を伸ばした。ぞっとするような冷気が全員を包む。サムとハリーが苦しそうに呼吸し始めた。それを見たセレーンはその得体の知れない者の前へ立ち、寒気に耐えながら集中する。すると青白い光がコンパートメントを全体を覆い尽くした。セレーンは影を追い払ったのを確認してから、その場に崩れ落ちてしまった。

 




明けましておめでとうございます。
今年も頑張りますので、よろしくお願いします。

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