ハリー・ポッターと滅びゆく一族の末裔   作:水湖 玲

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夏休み

ハリーとセレーンにとって今年の夏休みは間違いなく最高のものである。友達がすぐそばにいるし、起きる時間も食べる時間も自由に決められる。魅力的な魔法道具がたくさん揃っているダイアゴン横丁から出なければ好きなところへ行ける。またハリーにとっては山のようにあると感じていた宿題をセレーンは既に終わらせていて、手伝ってもらうことができた。セレーンはフローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラーのテラスでハリーの宿題を仕上げるのが、とても気に入っていた。店主のフォーテスキューは30分ごとにサンデーを振舞ってくれ、そのサンデーはセレーンが今まで食べた中で一番の美味しさだからだ。

 

「ねぇ、ハリー。サンデーをたくさん食べちゃってるから、私太ってない?」

「ううん。ちっとも。毎日ダイアゴン横丁を歩き回ってるから、大丈夫だよ」

 

2人はハリーの宿題がひと段落したところで、ダイアゴン横丁を散歩していた。ハリーはこの穏やかな一時が大好きだ。今はハリーのお気に入りの高級クィディッチ用具店へ向かっている。

 

「あら?混んでるわ!」

「ほんとだ。いつもはこんなに人だかりはできてないのに。」

 

店の外まで溢れ出している群衆を2人はかき分けていった。そしてハリーは見つけてしまった。見惚れてしまうほど美しく、素晴らしいの一言では言い表せない箒を。

 

『炎の雷・ファイアボルト』

 

ハリーは夢中で説明書きを読む一方で物欲を必死に抑え込む。セレーンは人だかりの理由が最新型の箒とわかったところで、別のことに興味を向けていた。それは新学期に必要なものを買い揃えることだ。何とかハリーを連れ出し、制服やら教科書やらを揃えることができた。

 

ハリーの宿題が全部終わり、楽しい毎日はあっという間に過ぎていった。新学期が近づくにつれてダイアゴン横丁でホグワーツの生徒たちを大勢見かけるようになった。そのころになると、ハリーとセレーンはサムたちの姿を探しながら道を歩いていた。そんな調子でとうとう夏休み最後の日を迎えてしまった。ホグワーツ特急でサムたちに会えると互いに慰めあった。サムたちに会うことを諦めながら2人は昼食を取るためダイアゴン横丁へ出かけ、フローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラーの前を通りかかった。その時である。

 

「ハリー!セレーン!」

 

そこには3人がいた。ハーマイオニーは日焼けしており、ロンは背が伸びている。そしてサムは…。セレーンは動揺していた。サムってそんなに素敵だったの?

 

「やっと会えた!」

「久しぶり、みんな」

「すごく会いたかったわ!」

「私も会いたかった」

「僕たち、漏れ鍋に行ったんだけど、もう出かけたって言われたんだ。それでいろんなお店を覗いてみたんだよ」

 

口々に再会を喜びあった。セレーンはどうしてもサムの顔をまっすぐ見ることができない。セレーン自身も不思議であった。ハーマイオニーはそんなセレーンの様子を見て、後でたくさん話さなきゃと微笑んだ。

 

その日の夕食は漏れ鍋のバーでロンの家族7人と、セレーン、ハリー、ハーマイオニー、サムで楽しんだ。双子はしきりに監督生となったパーシーをからかい、ジニーはハリーをちらちら見ては顔を赤らめている。まるで今の私を見てるみたい。セレーンはジニーの様子と自分のサムに対する態度を重ねた。

 

思い切り楽しんだその晩。セレーンはバーに忘れ物をしたことに気づき、階下へ向かった。そこでウィーズリー夫妻の言い争う声を聞いた。戻ろうとしたところでハリーが食堂のドアの前にいるのを見つけて、ハリーに近寄る。

 

「聞いちゃだめだよ」

「でも僕のことを話してるみたいなんだ。それに君のことも話してるよ」

 

セレーンは一瞬迷ったが、気になってハリーと一緒に聞いてみることにした。

 

「…ハリーにもセレーンにも知る権利がある。2人はもう13歳なんだ」

 

ウィーズリー氏が熱くなっている。それに対してウィーズリー夫人が激しく言い返す。

 

「ほんとのことを言ったら、どうなると思いますか!あの子たちを傷つけるだけです!」

「私はあの子たちに警戒してほしいんだ。身を守ってほしい。もしもナイトバスが2人を拾ってなかったら…魔法省が見つける前にハリーは死んでいた。そしてセレーンは、彼女の力を奪うために拷問され生きているとは言えない状態になっていただろう」

「でも2人とも無事でしたわ。だからわざわざそんな」

「シリウス・ブラックは狂人だとみんなが言う。その通りだろう。だが、あの脱獄不可能と言われたアズカバンから逃げおおせた。もう3週間も経つのに、誰もブラックの足取りを掴んでいない。はっきりしていることは奴の狙いだけだ」

「でも2人は安全だわ。ホグワーツにいるのですもの」

 

ウィーズリー夫人は声をうわずらせる。ウィーズリー氏は深いため息を漏らした。

 

「モリー、何度も話しただろう。奴はアズカバンにいる間、ずっと同じ寝言を言っていたそうだ。『あいつらはホグワーツにいる…あいつらはホグワーツにいる』とね。奴はハリーの死とセレーンの力の秘密を暴いて奪うことを望んでいるんだ。私の考えでは、奴はハリーを殺してセレーンの力を手に入れれば、例のあの人の権力が戻ると思っているんだ。例のあの人が敗れてから13年間、奴はそのことだけを独房で思いつめていた…」

 

しばらく沈黙が流れた。ハリーは必死でドアに張り付き、一言も聞き漏らすまいとしていた。セレーンはシリウス・ブラックが一体何者で何をしたのかを全く知らなかったが、ウィーズリー夫妻の会話で大体のことがわかった。

 

「そうね、アーサー。あなたが正しいと思うことをなさって。でもダンブルドアがいる限り2人は安全ですよ。ダンブルドアはこのことを全てご存知なんでしょう?」

「もちろん知っていらっしゃる。…母さん、もう遅い。そろそろ休もう」

 

夫妻が椅子を引く音を聞き、2人はできるだけ静かにそして素早く部屋へ上がった。2人はハリーの部屋に入った。セレーンはハーマイオニーと2人部屋で、ハリーは1人部屋だったからだ。このことは当事者である2人だけでまずは話したかった。

 

「シリウス・ブラックが僕たちを狙っているから、ファッジは僕らの安全を気にしてたんだね」

「あのね、ハリー。シリウス・ブラックが脱獄者でヴォルデモート側の魔法使いだってことはわかったんだけど…」

 

セレーンが口ごもりながら、恥ずかしげに言う。ハリーは驚きながらも、セレーンらしいなと思った。セレーンは知識豊富だが、世俗に疎いという弱点があるのだ。

 

「シリウス・ブラックはね、たった一つの呪いで一度に13人も殺した奴なんだ。ヴォルデモートの右腕らしい。すごく危険な奴だってニュースで言っていたよ」

「確かにすごく危険ね」

「でも僕、実は怖くないんだ。だって僕たちはヴォルデモートが唯一恐れたダンブルドアの元にいるんだから。ヴォルデモートが恐れた相手をヴォルデモートの右腕が恐れないはずがない」

「私も怖くないよ。ダンブルドアがいるもんね!」

 

2人は微笑みあった。それから何故かハリーは悩んでいる顔をした。

 

「そんなことより。ホグズミードへの外出許可証にサインをもらい損ねたんだ。あーあ、行きたいなぁ」

「私ももらってないよ。というより、孤児院の人たちは誰もどんな書類にもサインなんかくれないから最初から諦めてたの」

「じゃあ、一緒に行ける方法を考えよう」

「うん!」

 

2度もヴォルデモートと直接対決したセレーンはシリウス・ブラックを怖がったりしていなかった。それよりもホグズミードへ行ける方法を見つける方が今のセレーンには重要であった。そして何より、サムと今まで通りにできるかが心配であった。




もうすぐ2016年も終わってしまいますね。よい年末をお過ごしください。

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