ハリー・ポッターと滅びゆく一族の末裔   作:水湖 玲

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今回はセレナが主人公です。つまりセレーンの祖母が学生時代のときの話です。読まなくても本編とはあまり関係ないので読み飛ばして頂いても構いません。セレナの学生時代が単に書きたかっただけです。楽しんで頂けたら幸いです。


番外編:女王セレナ
女王の君臨


「ウォーターフォード、セレナ」

 

名前を呼ばれた少女は前へ進み出た。皆が息をのむ。眩しい黄金の髪に神秘的な蒼色の瞳。その容貌は気品に満ちあふれ、あまりにも完璧で冷たく無機質な印象を与える。少女は組み分け帽子を被った。誰もが自分の寮にセレナが入ってくることを望んでいた。他の人よりも遥かに長い時間をかけて、帽子はセレナの寮を叫んだ。

 

「よぉーし!スリザリン‼︎」

 

スリザリンは割れんばかりの歓声をあげる。セレナは淡々とスリザリンの席へ向かった。席に着いたセレナに黒髪のハンサムな少年が話しかける。

 

「やぁ、僕はトム・リドルだ。よろしく」

 

セレナはちらりとトムを見て、頷いただけであった。軽く流されたトムは一瞬、不愉快な顔をした。しかし再び微笑みを浮かべて話しかけ続ける。

 

「君は純血かい?」

 

セレナは何の反応も返さない。トムはあからさまに苛立つ。無視されることに慣れていないのだ。

 

「今年、王族の子が入学したらしいぞ」

 

そのとき先輩方が噂しているのが聞こえてきた。スリザリン生は「王族」という言葉に過剰反応する。

 

「どこの国の王族?」

「スリザリンに相応しいじゃないか!」

「どの子なの?」

「なんて名前?」

 

トムも興味を示し、先輩方の話に聞き耳を立てた。その間に校長の話が終わり、夕食がテーブルに出現していた。しかしスリザリン生の関心は食事よりも謎の王族に向いている。そんな中でセレナだけは早速食事に取り掛かっていた。トムは怪訝そうにセレナの様子を見た。王族に興味がないなんて、マグルに違いない。トム以外のスリザリン生もセレナが愚かなマグルだと判断して、冷たい目線を送る。美しい容姿よりもスリザリンでは血筋のほうが重要視されるのだ。例えホグワーツ1の美少女だとしてもマグルならば無価値に等しい。

 

「ナタリア・アクレサンドロヴナ。アレクサンドル5世の大公女よ。お忍びの入学のつもりだったのに、もう噂になってるなんて思わなかったわ」

 

1人の少女がツンとした表情で名乗り出た。セレナが目立っていたため誰の目にもとまらなかっただけで、ナタリアは十分に見目麗しい少女だった。しかし傲慢さが否めない顔立ちであった。スリザリン生はナタリアが大公女と知った途端周囲に殺到した。ナタリアは困ったふうを装いながらもどこか満足気である。何を隠そう、ナタリア本人が王族の入学の噂を流したのだから。父親の目立たないようにという配慮に対して、ナタリアは納得できなかった。特別扱いされないことに我慢ならなかったのだ。トムもナタリアのほうを気にし始める。その一方で上品に料理を平らげているセレナは騒がしい軍団に迷惑そうにしている。実はセレナもまた王族であった。彼女は人魚の国の王女である。彼女の国は五大陸よりも遥かに広い、すべての海を支配下に置いている国だった。ナタリアなど非ではないほどの高貴な存在であったが、誰も知る由はない。セレナは自らひけらかすようなタイプではない。だからこの先も誰も知る由はない。

 

 

 

ナタリアはどこへ行っても人に囲まれていた。ホグワーツに入学して3日でスリザリンでは女王のように扱われている。ナタリアは大変満足していたが、一つだけ気に入らないことがあった。それはセレナのことだ。セレナはスリザリンでは冷たい扱いを受けていたが、他の寮生とは親しくなり人気者になっていた。

 

「あの子、恥ずかしくないのかしら?あんな血を裏切る者や穢れた血なんかと仲良くなって」

「ウォーターフォードはどうせ穢れた血だ。よくもあんなのがスリザリンに入ってこれたよな」

 

セレナはマグル出身とも純血とも主張していない。だが、純血ならば自慢して当たり前なのがスリザリン生だ。つまりセレナはマグル生まれと判定されている。ナタリアはセレナを馬鹿にしたが、圧倒的人気のセレナが羨ましかった。そして目障りだった。

 

「あんな子、いなくなればいいのに」

 

このナタリアのつぶやきが事件の発端となる。

 

 

セレナはいつも取り巻きを連れていた。もちろん全員、スリザリン生ではない。セレナ本人とっては周囲にひとがいようがいまいが関係なかった。しかしヘンリーとパトリックの双子の兄弟だけは例外であった。セレナとヘンリー、パトリックはホグワーツに来るまでの汽車の中で仲良くなったのだ。セレナを取り囲む生徒たちの中には、実はヘンリーまたはパトリックが目当てだったりする子もいる。ヘンリーは美しい銀髪に優しい淡い青の瞳で、精悍な顔立ちとは裏腹にフレンドリーな少年だった。一方のパトリックは、ヘンリーと同じ銀髪に翡翠の瞳の少年であった。少女と見まごうほど美しい容姿でいつもにこにこしているが、コメントがたまに黒いことがある。そんなヘンリーとパトリック、セレナが連れ立っている様子は壮観である。

 

「ねぇ、セレナ。呪文学でわからないことがあるんだ。教えてもらえるかな?」

「僕も頼むよ」

「構わないわよ」

 

ヘンリーは困り顔でセレナに尋ねた。パトリックはついでに便乗する。セレナは笑顔で了承した。そこへ割り込むように1人の女生徒がセレナに話しかけた。

 

「セレナ、スリザリンのやつらに酷い目にあってない?」

「大丈夫よ、エレン。ありがとう」

 

エレンはヘンリーの隣をぴったり歩きながら、セレナの様子を伺う。エレンとヘンリーの近すぎる距離には何の興味もなさそうだ。エレンは不服だった。ヘンリーに興味がないなら彼と一緒にいないでほしい。エレンの中で真っ黒な感情が膨れ上がっていた。

 

 

 

「セレナ、ちょっといい?」

 

ある日の午後。エレンに呼び出されたセレナは何の疑いもなくエレンについてきた。エレンはその先の空き教室にセレナを招き入れ、教室のドアをしっかり閉めた。

 

「どうしたの、エレン?」

 

心配げな表情のセレナにエレンは吐き気を覚える。あなたなんかにヘンリーと一緒にいる権利はない。吐き気に打ち勝ったエレンは困った顔をつくった。

 

「あのね、わからない呪文があって…。教えてくれるかな?」

「いいわよ」

 

セレナは自分の杖を取り出し、快く引き受けた。エレンはにやりと笑う。セレナ、あなたの親切さが命取りになるのよ。

 

「いやーーー!!!」

 

エレンは唐突に叫んだ。セレナは驚いて固まっている。エレンは自分の周辺の机を魔法で吹き飛ばし、自分自身にも失神呪文をかけた。エレンはこの日のために一生懸命呪文を練習したのだ。見事にすべての魔法が成功し、エレンは失神した。その途端に次の授業でセレナたちのいる教室を使う生徒たちが入ってきた。

 

「一体どうしたの?」

「何があったんだ?」

「その子は大丈夫なの?」

「君、彼女に何をしたんだ?」

「悲鳴を聞いたわよ?」

「こんなひどいことを、どうしてしたんだ?」

 

立ち尽くすセレナは生徒たちに責めたてられる。何の反論もできないセレナは明らかに犯人であった。

 

「何の騒ぎだね?なぜ教室へ入らない?」

 

そこへ教師がやってきた。生徒たちが口々に目撃したことを教師に言いつける。そして教師は現場を見て、セレナを校長室へ連れて行った。何の事情も知らない生徒たちはセレナに笑顔で挨拶していったが、セレナには返事をする余裕はなかった。まるですべてが他人事のように感じられるのだ。エレンはどうしてあんなことを?その考えだけがセレナの頭の中を支配していた。




セレナ編はもう少し続きます。本編を楽しみにしてくださっている方、しばらくお付き合いください。

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