ハリー・ポッターと滅びゆく一族の末裔   作:水湖 玲

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喜び

セレーンは一人、校長室でダンブルドアを待っていた。セレナが消えた後、ダンブルドアの不死鳥が助けに来てくれたおかげで無事に出口まで皆を運ぶことができたのだ。止まり木で休む不死鳥を撫でているところにようやくダンブルドアが現れた。

 

「待たせたのぉ。すまんかった。フォークスは気に入ったかの?」

ダンブルドアは不死鳥を指した。

 

「フォークスっていうんですね。とても素晴らしい生き物だと思います」

「まぁ、座りなさい。茶でも飲みながら老いぼれの話に付き合ってくれるかな?」

 

セレーンが腰掛けると、ダンブルドアはどこからともなくお茶とレモンキャンディーを出してきた。

 

「先生、これを。祖母の日記帳です。トム・リドルが…ヴォルデモートが分霊箱にしていたものです」

「分霊箱とな…⁉︎なるほど。ふむ」

 

セレーンはバジリスクが噛んでぼろぼろになった日記帳をダンブルドアに差し出した。今まで穏やかだったダンブルドアは一瞬驚きを浮かべ、何か考え込み始めた。セレーンは早くサムたちの元へ行きたくて堪らず、そわそわする。

 

「何があったか、聞かせてもらえるかの?」

 

セレーンは早口で、秘密の部屋で起きたことを全て話した。途中、混乱してしまったが、ダンブルドアは難なくすべてを把握したようだ。

 

「セレナが、そうか。君の祖母が。彼女は素晴らしい魔法使いじゃ」

「先生、分霊箱とは何なのですか?無理に魂を自分から切り離すなんて…そんなことできるんですか?」

 

ダンブルドアは困ったような顔でセレーンを見つめる。迷うような素振りを見せた後で、口を開いた。

 

「できる。じゃが、普通の者なら、良心のある者ならできないことじゃ。凄まじい闇の魔法。…心配するでない。君の祖母は闇の魔法など使っておらん。人魚の一族だけに伝わる特殊な魔法じゃ」

「ヴォルデモートは気づかないのですか?魂の一部が滅びたのに」

「よい質問じゃ。長らく魂を自分の身体から切り離したせいで気づけないのだと推測される」

 

セレーンはいろいろ考え始めた。しかし一人ではまとまりそうにない。

 

「疲れたじゃろう。もう戻りなさい。友のことは心配するでない。まもなくマンドレイク薬が完成する」

 

ダンブルドアはセレーンを安心させるように言った。セレーンはダンブルドアとフォークスにさよならを告げると、寮ではなく医務室へ直行した。医務室に忍び込んですぐ、石にされた生徒たちがいるベッドの区画に入る。そこはカーテンで仕切られ、他の者に衝撃を与えないように配慮されていた。セレーンはセレナに出会って、自分の持つ力の強さに気づいたのだった。バジリスクの目を直接見ても死なないのなら、石化した生徒も元に戻せるのではないか。手前にいたハーマイオニーに近づくと、そっと両手で抱きしめた。硬く冷たいハーマイオニーに怯むが、最大限の力を振り絞って癒し始めた。それは意外に呆気なかった。

 

「…セ…レーン?」

「ハーマイオニー⁉︎」

 

ほんの数秒でハーマイオニーの石化は解けた。まだ意識がはっきりしないハーマイオニーを休ませ、セレーンは次のひとに取り掛かった。こうしてセレーンはすべての生徒を元に戻すことに成功したのだった。ダンブルドアがセレーンの能力を誤魔化すのに苦労したのはまた別の話である。

 

 

 

ホグワーツは歓喜に包まれた。石化した生徒は元に戻り、そして謎の怪物だったバジリスクは倒され、秘密の部屋は閉じたのだ。なぜか自慢気なロックハートはバジリスクとの死闘を語っている。ハリーとロンは一番憤慨していた。セレーンから秘密の部屋で起きたことを聞いていて、どんなに大変だったか知っているからだ。しかしセレーンはすべてを話したわけではなかった。一部秘密にしていることがあった。ヴォルデモートのセレナに対する執着心やバジリスクが生きていること、そして分霊箱のことである。あとでサムに2人きりのときに矛盾点を衝かれて正直に話さざるをえなかった。また、ハーマイオニーにもさりげなく聞かれ、素直に話していた。サムへの恋心だけは誰にも話さずに済んだが…。

 

 

ホグワーツ最終日にダンブルドアが秘密の部屋の事件を解決したハリーたち5人、特にセレーンに功労賞を贈ると全校生徒の前で発表した。さすがのロックハートも諦めると思いきや、また新たな物語を披露し始めた。

 

「5人の生徒たちを救うために、私、そう!このロックハートは!とても苦労しました。もちろん、この勇気ある5人には功労賞が相応しい。若き勇者には然るべきこと。今回は身を引きましょう!これも稀代の魔法使い、永遠のスターたる者の宿命でしょう!真の天才はっっっ、な、何ですか、誰ですか⁉︎私に本を投げたのは⁉︎し、しかもこれ、私のサイン本ではありませんか‼︎なぜ…あれ?マクゴナガル先生、その刺すような目はいかがしましたか?ん?ス、スネイプ先生⁉︎それは勇者を讃える眼差しではありませんよ⁉︎」

「えー、本日を持ってロックハート教授はお辞めになる。みな、盛大な拍手で送ろう」

「ふぇええええ⁇な、ななな何ですとぉ⁇ダンブルドア校長、私はそんなこと一言も」

「おかしいのぉ。先日、書類にサインしてくれたではないか。ほれ」

 

ダンブルドアは宙から羊皮紙を取り出した。ロックハートはそれをひったくると、食い入るように読む。

 

「あれ?あれぇ…うわぁほんとだぁー。じひょーにさいんしてるぅーなんでだろー」

「みなの者、このように書類を読まずにサインするのは危険じゃ。サインするときは内容をきちんと確認するんじゃぞ」

 

このコミカルなやりとりを、全校生徒は失笑もしくは嘲笑しながら眺めていたが、最後にダンブルドアがウインクしたことで空気がびりびりと感じられるほどの大爆笑に包まれた。がっくり項垂れるロックハートを横目にハーマイオニー以外の4人はすっきりしていた。ハーマイオニーは複雑な表情である。

 

「ダンブルドア、最高だ!やっぱりすごいな!」

「最後のウインクとか、特にね」

「さすがだな。ロックハートのサイン症候群を利用したんだな」

「ファンにサイン求められるのに慣れすぎたせいだね」

「い、いくら何でもちょっとひどいんじゃないかしら」

 

さらにグリフィンドールが寮対抗杯で優勝した。これには微妙な顔をしていたハーマイオニーも満面の笑みを浮かべる。セレーンは大喜びしながらも、気づいてしまったサムへの想いについて悩んでいた。また夏休みに入ると、しばらく会えなくなる。去年よりもとんでもなく長い期間に感じる。ハーマイオニーに相談してみようかな。セレーンはこっそりため息をついた。

 

 

ハーマイオニーは、セレーンのサムへの恋の自覚を聞いた途端に大はしゃぎした。今年の夏休みは去年より大量の手紙のやりとりがなされそうだ。帰りの汽車はやはりあっという間で、今回に限ってホームを出るとすぐに迎えが来ていた。

 

「じゃあね。絶対手紙ちょうだいよ!」

「みんな、元気で。手紙送るよ」

「君たちの手紙だけが僕の支えだからね。頼むよ」

「ちゃんと送るよ、定期的に」

「送るってば。わかってるよ。またね!」

 

セレーンは後ろ髪を引かれる思いで皆に別れを告げ、迎えに来た院長の元へ向かっていった。




秘密の部屋、完結しました。今回もいろんな登場人物の場面がなくなっていますが、ご容赦ください。ここまで読んでくださりありがとうございます。次作も頑張りますので、ぜひ読んでください。

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