クィディッチの練習日に事件が起きた。グリフィンドールが練習場を予約していたはずが、スリザリンがやってきたのだ。名目は新しいシーカーの育成。そして新しいシーカーはドラコ・マルフォイだった。マルフォイはチームメイト全員にニンバス2001という最新型のほうきを買い与えていた。それをスリザリンチームは自慢気に見せびらかす。
「みんな、練習しないの?」
ちょうどそこへハリーのプレイを見学に来たセレーンたちがやってきた。
「どうしてスリザリンがここにいるんだ?今日はグリフィンドールの練習日だろ?」
ロンの疑問にマルフォイはスネイプの書いた許可証とニンバス2001を見せた。
「どうだ?お前には一生かかってもお目にかかれない代物だぞ?」
「呆れたわ!運動の出来じゃなく、お金でチームに入ったのね!そんな人たちが正式に選ばれた選手しかいないグリフィンドールを邪魔する義理はないわ!」
「…こんの、お前は引っ込んでろ!この、穢れた血め!」
ハーマイオニーの正しい指摘にマルフォイは顔を歪めて罵った。一瞬、空気が凍る。そしてグリフィンドール側は一斉にマルフォイを糾弾した。
「マルフォイ、てめー!」
「お前はお家で教えられなかったのか?そんなこと言っていいとでも思ってるのか!」
「ふざけんな!」
「アグアメンティ!プロテゴ・トタラム!」
セレーンは杖を抜いて続けざまにマルフォイにぶつけた。マルフォイはびしょ濡れになり、魔法の盾で吹っ飛ばされた。
「あなた!最低だわ!わたしにはあなたの言ったことの意味はわからないけど、酷いことだってわかるんだから!このっ!」
「セレーン!セレーン!落ち着け」
精神的ダメージのほうが強かったであろうマルフォイにさらに何らかの魔法をセレーンはかけようとした。サムはあわててそれを止める。ロンはもう少しでなめくじの呪いをマルフォイにかけそうだったが、セレーンが代わりに何倍にもして返したのを見てすっきりした。大好きなセレーンから非難されれば、マルフォイはかなり心が痛むだろう。
結局練習は中止になり、5人はハグリッドの小屋へ向かった。いろいろ聞きたいことがあったのだ。セレーンのマルフォイに対する仕打ちとその時のマルフォイの表情を思い出してハリーとロンの笑いが止まらないままで、ハグリッドはその理由を聞いた。
「マルフォイは私に『穢れた血』って言ったの。どういう意味なの?」
「そりゃあマルフォイが悪いな。自業自得だ。その意味はマグル生まれの魔法使いを指すんだが、そんなもん口にした奴のほうが見下される。そんくらい最低の言葉だ」
それを聞いたセレーンは勢いよく立ち上がった。背筋の凍るような形相でハリーとロンは目をそらして一応マルフォイの冥福を祈った。
「ちょっとわたし、マルフォイにお話があるのを思い出した。みんなお茶を楽しんで」
「セレーン、ありがとう。もういいのよ。あんなの相手にしなきゃいいの」
ハーマイオニーは自分のために怒ってくれるセレーンに微笑んだ。ハーマイオニーにとってはこの4人が側にいてくれるだけで十分だし、スリザリン生以外は馬鹿にしてこないのでさほど気にならなかった。
「ところでハグリッド。聞きたいことがあるんだ。ローレライ・ウォーターフォードを知ってる?レイブンクローの生徒で、ハリーのご両親と同じ時期に入学してる」
サムは話にひと段落ついたところでハグリッドに聞いた。ハグリッドは眉間にシワを寄せる。
「あぁ、知っとる。ローレライは本当に優しい子だった。寮を問わず好かれとった」
「どうして今まで教えてくれなかったの?」
「ダンブルドア校長に口止めされちょったんだ。セレーンが知るにはまだ早すぎるってな」
「何が早いの?わたしの母なのよ?知る時はわたしが選ぶわ。わたしの家族についてほかに知ってることはある?」
「セレーン、これ以上言わせちょらんでくれ。ダンブルドア校長にはこれ以上話さんよう言われちょるんだ」
そう言うと、ハグリッドは口が滑る前に5人を無理やり小屋から追い出した。セレーンの家族についてなぜ秘密にされるのか、全員が納得いかなかった。
ハロウィンの夜。豪華な夕食に舌鼓を打ちつつ、5人で楽しくパーティーを過ごしていた。そこへマルフォイがやってきた。ホグワーツ生のほとんどが例の事件を知っているため、スリザリン生以外から冷たい視線をマルフォイは一身に浴びている。しかし本人はまったく動じていないようだ。図太いやつだ、とロンは密かに思った。
「何しに来たんだ、マルフォイ」
ハリーは冷ややかに言った。あれ以来、セレーンはハーマイオニーに言われた通りマルフォイを空気のような扱いでずっとやり過ごしていた。マルフォイにはそれが耐えられなかったのだ。
「お前に用はない、ポッター。…セ、セレーン、ちょっといいかな?」
「スリザリンは向こうだぞ、マルフォイ。早く席に戻れよ」
セレーンのマルフォイ空気作戦を手伝うためにロンは身を乗り出した。マルフォイはロンを睨みつけてからセレーンにもう一度話しかけた。
「セレーン、頼む。外で話そう。お願いだ」
セレーンはため息をついてマルフォイを振りかえる。サムはセレーンの片手を押さえて行かせないようにしたが、セレーンは真っ赤になってサムの手の下から自分の手を引っこ抜いた。
「いいわ、外で話しましょう」
セレーンは席を立ち、広間の外へ出た。マルフォイも後から追っていく。2人が出て行ってすぐにホグワーツ生は成り行きを見ようと我先に広間の外へ出始めた。あらゆる意味でセレーンもマルフォイも目立つ存在である。ハリーたち4人はその波をかき分けてセレーンとマルフォイを探しに行くしかなかった。
「何なの、マルフォイ?」
2人は野次馬たちに簡単に見つからないように鍵の閉まっていた教室に忍び込んでいた。
「この前のこと、謝りたい。セレーン、君の友達には酷いことを言った。謝るよ。だからどうか僕のことを無視しないでほしい」
「謝る相手を間違えてるよ。わたしに酷いことを言ったんじゃないでしょ?ハーマイオニーに謝って。そしたらあなたと口を聞くわ。それまではあなたとは話さない」
言い終わると、方向転換して教室を出た。すると教室から離れた場所で騒ぎが起こっていた。あわててそちらに行ってみると、人だかりができている。セレーンに気づいた生徒たちはすぐに謎の花道をつくってくれて状況を把握できた。そこには硬直して床に倒れているフィルチの猫と壁に描かれたおかしな血文字があった。
『秘密の部屋は開かれたり
継承者の敵よ、気をつけよ』
セレーンはその場で凍りついたまま猫と血文字を見つめていた。
いよいよ謎の怪物が動き出しました。引き続きよろしくお願いします。