機動戦士ガンダム Silent Trigger   作:ウルトラゼロNEO

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EX Plus─太陽墜ツ─

 ルルトゥルフに侵攻するパッサート。しかし既のところに現れたアークエンジェル隊トライブレイカーズが参戦したことにより、国内に侵入したパッサートの部隊の無力化に成功した。

 

 足元に行動不能となったハイザックを見下ろしながら、シュウジは一息つく。

 その間にもルルトゥルフの消火活動は続けられており、所々で硝煙は上がるものの、ルルトゥルフを包んでいた炎は鳴りを潜め始めていた。

 

「よぉ、無事か」

「ありがとう、シュウジ……」

 

 王宮に向かったバーニングブレイカーは静かに降り立ち、王宮のテラスからこちらを見上げるエレアナにハッチを開けて、声をかける。

 こうして言葉通り、帰ってきてくれたシュウジにエレアナは瞳を潤ませ、喉を震わせながら、感謝していた。

 

「っ……! シュウジっ! このルルトゥルフの郊外でアレク達がまだ戦闘をしているのです! だから……っ!」

「アレク達が……? 分かった、任せろッ!!」

 

 喜び安心していたのも束の間、すぐに思い出したようにエレアナは叫ぶ。

 確かにこの場にはこのルルトゥルフを守護する為に肩を並べたアレク達MS隊の姿がない。アレクの実力ならパッサートを壊滅することは出来なくとも追い返すくらいは出来るはずなのに。一体、郊外でどれほどの相手と戦闘をしているのか、すぐさまシュウジはバーニングブレイカーのハッチを閉め、風圧を受けないよう移動してから飛び立つ。

 

「確かに郊外ではまだ戦闘は続いているわね……。ここから先の山岳地帯よ」

「分かった!」

 

 飛行するバーニングブレイカーに並走するように飛ぶライトングFBとスターストライク。

 先程、エレアナの話からデータを算出していたのだろう。

 カガミが通信を入れると、バーニングブレイカーは出力を更に上げ、レーダー上にカガミが指定したポイント目掛けて急行する。

 

 ・・・

 

「くぅっ……がはっ……」

 

 ルルトゥルフ郊外の山岳地帯。

 かつてここではシュウジもアレク達と共にパッサートに立ち向かっていた場所だ。

 

 その際、アレクはシュウジと並んで、エースの如き働きを見せていたが、今ではコクピット内で苦悶の声を漏らしていた。恐らく頭を打ち付けたのだろう。割れたヘルメットのバイザーの下でその美しい顔に生々しい血が伝っている。

 

 その黄金色の装甲も見るに堪えないほどあちこちに損傷を受け、スパークしているアレクのアカツキ。その周囲にはルルトゥルフが所有するMS達が鉄屑となって横たわっている。

 

 だが、傷を負っていても生きているのはアレクだけであった。

 その周囲の彼と共に出撃したルルトゥルフの戦士達は既に物言わぬ肉塊かそもそも死体すら残ってはいなかった。

 

「何故、こんな……っ!!」

 

 アレクは憎々しげに答えが返ってこない問いかけをしながら、上空から自身を見下ろす大型の白銀のMSとその背後で様子を見るかのように浮いている三機のMSを見やる。

 

 古来より戦争というのは政治の一端であり、武力によって屈服させ要求を従わせるもの。ルルトゥルフを襲うパッサートがそうだ。ルルトゥルフが所有する鉱山を狙い、ルルトゥルフを制圧しようとしているのだから。故に一方的な蹂躙による殺戮など、制圧後に従わせる事など出来ず、そもそも戦争ですらない。

 

 だが見上げる四機は明確に違った。

 後ろの三機はなにもしないものの、白銀の大型MSの力を知りたいがために、データを取るかのようにルルトゥルフの防衛隊として出撃した自分達を相手取り、結果としてパッサートの部隊が本国に侵攻するという事態になってしまった。

 

「──アレク!!」

「シュウジ……っ!!」

 

 その時であった。

 ルルトゥルフから駆け付けたバーニングブレイカー達がアカツキと合流し、彼を守るようにその前に三機が降り立つ。

 

「……すまねぇ、遅れちまったばかりに」

「……いえ、それよりもルルトゥルフは……? 姫様は……っ!?」

「心配すんな。ルルトゥルフは襲撃は受けてたが、エレアナ含めて何とかはなったぜ」

 

 半ば半壊状態のアカツキだけではなく、その周囲の鉄屑となったルルトゥルフのMS達を見やり、悲痛な面持ちで詫びる。

 

 しかしこれはシュウジのせいではない。

 そもそもシュウジは部外者なのだ。

 こうやって戻ってきてくれただけでもありがたい。

 

 エレアナの安否を心配するアレクに全く被害はないとは言えないが、一応の無事は確保出来た事を伝えると、通信越しにアレクの安堵の溜息が聞こえる。

 

「どれも未確認機ですね……。識別信号もパッサートのものでもない……」

「しかしパッサートと協力関係に見えます。一体、何が目的か……」

 

 シュウジとアレクのやり取りを他所に、パネルを操作して上空の四機について調べるヴェル。しかし統合軍のものでも、パッサートのものでもない機体に困惑していると、カガミは四機を観察するように目を細める。

 

「聞こえているか? 自分は統合軍所属カガミ・ヒイラギ少尉。そちらの官姓名と所属を聞かせてもらいたい」

 

 何か行動を起こさなくては始まらない。

 カガミが外部スピーカーを使用して呼びかける。しかしカガミも返答が返ってくるとは思ってはいない。

 

 返ってくるのは恐らく……。

 

「散開ッ!!」

 

 カガミの予想は的中した。

 応えることもなく白銀のMSは左腕のシールドポケットから出現させた大型ガトリングを向け、無数の弾丸を発射してきたではないか。カガミは素早い指示を出し、MS達は散り散りに飛散する。

 

「アレク、自分で戻れるか」

「それくらいのエネルギーは……。すみません、シュウジ……」

 

 アカツキはバーニングブレイカーが抱えていた。

 しかしこのままでは戦闘が出来ない。

 シュウジは静かに彼に問いかけると、自身でも足手纏いになると判断したのだろう。

 悔しさと申し訳なさで顔を歪めたアレクは無念そうにボロボロのアカツキでルルトゥルフへ向かっていく。

 

「させるかよォッ!!」

 

 逃げていくアカツキに大型ガトリングを向ける白銀のMSにそうはさせまいと銃口の前に躍り出るようにバーニングブレイカーは飛び上がる。

 

「旋風竜巻蹴りィッ!!」

 

 機体を高速回転させ、回転エネルギーは竜巻と化して周囲に突風を引き起こす。間髪入れずに放たれた大型ガトリングの弾丸も風圧によって弾かれてしまう。

 

「なにっ!?」

 

 しかしその竜巻もその竜巻を諸共せず侵入してきた一機のガンダムがマニュビレーターを突き出し、それを両腕をクロスさせて防いでしまったことで打ち消される。まさかこんなでたらめな存在がいるとは思わず、シュウジの目は見開く。

 

 バーニングブレイカーに襲いかかったガンダム……それは灰色と濃紺を基調にした暗色系の機体であった。全体的にどことなく中華服を彷彿とさせるようなデザインと見る限りでは射撃兵装を持たない姿なぞバーニングブレイカーのような純然なる格闘機の印象を受ける。それもそうだろう、この機体はMSではなくMFなのだから。

 

「覇王不敗流……。この目で見たのは久しぶりだねェ」

 

 そのガンダムの名はディナイアルガンダム。

 そのコクピット内ではモビルトレースシステムによって稼働している為、拳を突き出しながら、相変わらず貼り付けたような笑みを浮かべているサクヤの姿が。

 

「っ……!?」

 

 しかしサクヤの声を接触回線越しに聞いたシュウジの動きが固まる。その表情は驚愕に身を震わせ、目を見開いていた。まさか、そんな……と。

 

「危ないっ!!」

「──クッ!?」

 

 動きを停止したバーニングブレイカーにヴェルからの緊急通信が響く。

 反応すれば、上空から迫る粒子砲が。

 すぐさまディナイアルを蹴り飛ばそうとするが、片腕でガードされる。しかしそれでも良い。それで反動がついて避ける事が出来たのだから。

 

「やれやれ……。兄さん、勝手はダメだって言われたでしょ」

「あくまで目的はユーディキウムのテストなわけですから」

「邪魔しないでよ。面白そうな奴、見つけられたんだから」

 

 粒子砲を放ったのはブラウンを基調とした大型ユニットを装備した疑似太陽路搭載型の機体であった。その名はガンダムスローネアイン トゥルブレンツ。そして乗り込んでいるのはサクヤの"弟″である修司だ。

 

 そしてその隣に降り立ったのは純白の機体色と両肩の蕾のようなバインダーを持った独特の機体……キュベレイとそれに乗っているノエルがサクヤを窘めるが、彼は落ち着くどころかその笑みは更に歪ませて、地上に降り立ったバーニングブレイカーへと向かっていく。

 

「あーあ……。あぁなっちゃったら兄さん、止まらないな」

「彼方もよく持っているけど、時間の問題ね」

 

 ディナイアルとバーニングブレイカーはぶつかり合うが、バーニングブレイカーは防戦一方となり肉薄されている。その様を見て、諦めたように苦笑している修司にノエルは白銀のMSことユーディキウムを見やる。

 

「あまりにも攻撃が正確過ぎる……ッ!!」

「近づく事すらできない……ッ!!」

 

 ユーディキウムと戦闘を繰り広げるライトングFBとスターストライク。エースの称号を持つカガミやヴェルですらユーディキウムに損傷を与えられず、胸部に備えられた砲門から誘導光弾を放たれジリ貧状態が続く。

 なにせこちらの攻撃は避けたかと思えば、返ってくるのはカガミに負けず劣らずの射撃精度を秘めた攻撃。エース二人を持ってしても、苦戦を強いられている。

 

「嘘だろ……。まさか……アンタ……!!?」

 

 何とかディナイアルの矢次に放たれる猛攻を防ぎ続けるバーニングブレイカー。

 しかしシュウジはまるでうわ言のように信じられないと言わんばかりにモニターに映るディナイアルを見つめる。

 

「が……っ!?」

「こんなものなの? ガッカリ……。これじゃ覇王の名が廃るよ」

 

 しかしいつまでもそんな状態ではディナイアルの攻撃は防ぎきれないのか、まるで八極拳のような強く地面を踏み込んだ肘打ちを受けて、たまらず近くの岩盤に叩きつけられる。

 

 それだけでは終わらずバーニングブレイカーの首にあたる部位をディナイアルに掴まれ、そのまま持ち上げられる。

 モビルトレースシステムによってフィードバックを受けるシュウジは首が閉め付けられる感覚を味わい、苦しみで顔を歪める。そのままアッパーカットを受け、バーニングブレイカーの機体は宙を舞い、それを追撃するようにディナイアルは更に蹴り飛ばす。

 

 ・・・

 

「あれは……!」

 

 ルルトゥルフの王宮から山岳地帯を望遠鏡で見ていたエレアナは何とかバーニングブレイカーを探すわけだが、ようやく見つけられたかと思えば宙に打ち上げられたバーニングブレイカーの姿であった。

 

 ・・・

 

「俺なりの手向けだよ」

 

 バーニングブレイカーの眼前にディナイアルが迫る。

 次の瞬間、バーニングブレイカーに訪れたのは無数の手技。肘打ち、裏拳、掌底打ち……etc. etcともはやディナイアルの両腕は捉えきれず、隕石群か何かのように無数に対象を襲い、バーニングブレイカーはサンドバックのようにガタガタ震えながら、その攻撃を一身に受けていた。最後にその両手を手刀のように振り下ろして、バーニングブレイカーの両腕をバッサリと破壊する。

 

 ・・・

 

「いや……っ! やめて……!」

 

 先程まで無類の強さを見せていたバーニングブレイカーは今や見るも無残な姿になれ果てている。もうこれ以上、見たくない、もうやめてほしいと懇願するかのようにエレアナは震える口で呟く。しかし悲しいかな、その呟きなど届くはずもない。

 

「やめてえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーっっっっっ!!!!!!」

 

 ディナイアルの右手甲部からビームソードが発生する。

 それが何の為の物なのかは考えずとも分かる。これ以上は、と首を振っていたエレアナの絶叫にも似た悲鳴が響く。しかし無情にも凶刃はバーニングブレイカーを貫き、彼女の太陽は墜ちていくのであった……。


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