機動戦士ガンダム Silent Trigger   作:ウルトラゼロNEO

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EX Plus─私の太陽─

「落ち着きなさい、どうしたと言うの?」

 

 アークエンジェルの食堂にて今にも飛び出さん勢いで問い詰めて来るシュウジを嗜めながら、カガミは眉を顰める。シュウジとの付き合いはそれなりになるが、ここまで取り乱したのは初めてだ。

 

「……っ……。いえ、なんでもないです。それよりも……」

「サクヤのことね。なら、私とヴェルさんが滞在していたクルオネア島でカイウル・レードン博士の付き人をやっていたわ」

 

 我に返って、先程の自分の醜態を晒してしまった事にバツの悪そうな顔を浮かべながら、それでもサクヤについて訊ねてきたシュウジにクルオネア島で出会ったサクヤのことを話す。

 

「カイウル・レードン……!? クソッ……! やっぱまだアイツは……ッ!!」

「ちょっとシュウジ君!?」

 

 カイウルの名前を聞いた途端に露骨に怒りに顔を歪めたシュウジはそのままこれ以上、仲間に今の自分を見られたくないと言わんばかりにヴェルが自分の名を叫ぶのを背に食堂を出る。残ったカガミとヴェルはただただ先程のシュウジの様子に困惑するのみであった……。

 

 ・・・

 

「……クッ」

 

 食堂を飛び出したシュウジは休憩所にいた。

 その手には缶に入った炭酸飲料が握られており、先程のカイウルの件を思い出しているのだろう。忌々しそうに飲み干した缶を握りつぶす。

 

「シュウジ、君……?」

 

 そんなシュウジに横から声をかけた者がある。

 横目で確認すれば、そこにはヴェルがいた。先程のシュウジの異変も相まって、どこかシュウジを気遣うような不安げな様子で立っていた。

 

「……な、なにかあったのかな……? 良かったら聞くよ……?」

「……別に。ヴェルさんにわざわざ話すような内容でもないっすよ」

 

 オドオドとした様子でも、何かシュウジが背負っているのであればそれを少しでも分かち合おうとヴェルは申し出るが、シュウジから返って来たのは刺すような視線と遠回しの拒絶であった。

 

「そっか……。その……ごめんね……? 私……デリカシーないから……」

 

 シュウジにたじろいだ様子でしゅんと視線を俯かせる。

 こうまでして拒絶されたのは初めてであったからだ。

 

「はぁっ……。その……サクヤってのは俺の兄貴なんですよ。だからちょっと取り乱しちまっただけです」

 

 流石にそんなヴェルの様子を見て、悪いとは思ったのだろう。

 髪を掻きながらそっぽを向いてサクヤとの関係について答える。だが、それより先は答えないと言うのは彼の雰囲気で分かった。

 

 この場にはただただ張り詰めた空気が支配する中、シュウジもヴェルも空気を変えるために言葉を探している時であった。アークエンジェル全体に警報が鳴り響く。

 

≪モビルスーツ隊は速やかにブリーフィングルームに集合してください!≫

 

 するとすぐにオペレーターによる艦内アナウンスが響き渡り、聞き終えたシュウジとヴェルは互いに頷き合って、指定されたブリーフィングルームへと向かう。

 

 ・・・

 

「どうやら私達は一歩遅かったようです……。ルルトゥルフが現在、パッサートと見られる勢力に攻撃を受けているようです」

 

 シュウジとヴェルはブリーフィングルームに同時に入室すると、そこには既にカガミとルル、そしてマドックが集まっていた。二人が入室したのを見計らって、映像を交えて説明を始めるルル。そこには戦火に燃えるルルトゥルフの姿が。

 

「敵は未確認の新型を引き連れているとの情報も入っています……。これが妙で……」

「……パッサートはシャミバ・ラードルを失い、資金面も切迫している筈。特にルルトゥルフと小競り合いをしている残党なんて大した勢力でもない筈なのに、どこでそんな新型を……」

 

 ルルから話された未確認の新型機の話。

 ルルの疑念に同調するようにカガミも顎に手を添えて思考を巡らせる。

 

「考え何て後で幾らでも出来るだろ!? 今だってあそこは襲われてんだ!!」

「その通りだ。ここからならばMSでも十分、迎える距離だ。すぐにルルトゥルフの防衛の為出撃してほしい」

 

 思考を遮断させるようにシュウジは声を張り上げて、映像の中の燃え盛るルルトゥルフの街並みを指差す。

 こうしている間にも人は死んでいるのだ。

 マドックはシュウジの言葉に頷きながらも出撃を促し、パイロット達は頷く。

 

 ・・・

 

「シュウジ、無理するなよっ!」

「分かってるッ! 待ってろよ、エレアナ、アレク、ナナミ、みんな……ッ!!」

 

 格納庫にやって来たシュウジはそのまま飛び込む勢いでバーニングブレイカーに乗り込むと、ハッチが閉まる前にグレイからの注意を受け、それに答えながら世話になったルルトゥルフの人々の顔を思い浮かべる。

 

「バーニングガンダムブレイカー……シュウジ、行くぜッ!!」

 

 カタパルトデッキに接続されると、発進を促す合図と共にシュウジは声をあげ、勢いよくバーニングブレイカーは飛び出していく。

 

「……シュウジ君……。スターストライク、発進します!!」

 

 食堂の一件だけではなく、ルルトゥルフ襲撃で焦るシュウジを心配しながら、ヘルメットのバイザーを下ろし、ヴェルのスターストライクガンダムもまたカタパルトから射出される。

 

(……胸騒ぎがするわ。今回の件、ただの襲撃なんて単純な物でない気がする……)

 

 最後にカタパルトデッキに接続されたのはライトニングガンダム フルバーニアンだ。そのコクピットでは軽く手首を抑えて手をほぐしながら、カガミは胸に感じる騒めきに神妙な表情を浮かべる。

 

「……ライトニング、出ます」

 

 とはいえ、マドックやシュウジの言う通り、今もなお防衛対象のルルトゥルフは襲撃を受けているのだ。今は目先の事に集中する為、カガミもまたライトニングFBと共に出撃した。

 

 ・・・

 

「姫様、早く避難を!」

「私よりも国民の皆様を……! 私だけ背を向けて逃げるわけにはいかないのです!」

 

 あちこちで燃え盛るルルトゥルフの街並みの中、王宮では険しい表情で街を見ているエレアナに侍女が避難を促す。

 この国の王である彼女の両親は既に避難をしている。そんな中、いまだ避難する様子も見せないエレアナは叫んだ。

 

「っ!?」

 

 何か巨大な質量を持ったものが地面に落ちたような轟音と地震のように地面が激しく揺れる。不安に駆られながらも何があったのかと見れば、王宮の庭に降り立ったハイザックの姿が。どうやらここまで侵攻されてしまったようだ。

 

(……シュウジ……っっ!!)

 

 かれこれ3週間前にこのルルトゥルフを旅立ったシュウジに想いを馳せる。

 今はただ彼が戻ってきてくれれば、ただそれだけを祈る。

 ハイザックはカメラアイでエレアナを捉えると、それがこの国の第二皇女であると察知して人質に彼女を拘束しようとマニピュレーターを伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウオオオオオオォォォォォーーーーーラアアァァァァァァァァーーーーーーーーーァアアッッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 しかしそれも天から響き渡る聞き覚えのある声と共に降りた何かによって文字通り粉砕される。スクラップのようになったハイザックが横たわる中、天より舞い降りた何かはゆっくりとエレアナを見下ろす。

 

 

「お待たせ」

「シュウジ!!」

 

 ツインアイと燃える炎にも負けない真紅のカラーリングを輝かせながら、侵攻するハイザック群を見据え、挨拶か何かのように軽くマニピュレーターをあげるガンダムから聞こえるその声は紛れもなくシュウジのモノであった。

 

「好き勝手やってくれたな……ッ!」

 

 バーニングブレイカーのモビルトレースシステムが制御するコクピット内で怒りを見せるシュウジが右手を突き出し、左拳を引き構えをとる。それに連動しバーニングブレイカーも同じ動きを取り、ハイザック群へ向かっていく。

 

「シュウジ、まだ避難は完了していないわ。派手な戦いは避けなさい」

「分かってる!!」

 

 バーニングブレイカーにカガミからの通信が入る。

 カガミのライトニングFBとスターストライクは上空からハイザックを真上から狙撃して行動不能にしている。カガミからの注意を受けながら背面ジェネレーターを展開させたバーニングブレイカーはコクピットのみを狙ってマニュビレーターを突き出し爆散せずに機能を停止させる。

 

「帰って来てくれた……」

 

 まさに獅子奮迅の勢いを見せ、ハイザックを一機、また一機と撃破していく。

 彼の声を聞いただけで、何故ここまで身の震えも収まり、安心できるのだろう。いや、理由はただ一つだ。

 

「この国の……いえ……私の太陽……っ!」

 

 背面ジェネレーターを展開する姿はまさに日輪であり、太陽を、いやそれだけではなく、かつて宇宙に輝いた光を彷彿とさせる。

 燃える炎さえ照らすようなあの輝きを太陽と言わずして何というのか。エレアナはただ希望に満ちた目でバーニングブレイカーの勇姿をその目に焼き付けるのであった……。


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