機動戦士ガンダム Silent Trigger   作:ウルトラゼロNEO

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EX Plus─再会─

「ベェェロォベェロバアァアアッッ」

 

 日本の京都にある大きな日本家屋。

 その縁側にに腰かけながら、かつてアークエンジェルに所属していたショウマが妻である朱 鈴花(シュ リンファ)ことリンが抱いているのは、めでたく誕生したショウマとリンの愛の結晶である娘のヒカリであり、変顔を見せていた。

 

「なんで、変な気合入れてるのよ」

「いやぁ、普通の変顔じゃつまんないと思って」

 

 ベロベロバーと普通にすれば良いのに妙な迫力を持って変顔をするショウマにヒカリは怖がってしまう。

 そんなヒカリをあやしながらリンは呆れていると、ヒカリにはウケると思っていたのかこの反応にショウマは苦笑してしまう。

 

「しっかしシュウジもここを出てもう2年近くか……。案外早いもんだなぁ」

「最初の一年はアンタと修行の旅に出ながらパッサートと戦ってたって話よね?」

「ああ、アイツは最初の基礎こそ先生達に習ってたけど、本格的な技とかは殆ど俺が教えたんだよ」

 

 異世界の英雄が悪魔を葬ってからもう二年近くは経つ。

 その中でかつて覇王不敗流の門下生であったシュウジの弟子入りから巣立ちまでの出来事を思い出しているショウマにこれまでのシュウジとの軌跡をリンが話題に出すと、頷く。

 

「師の立場になってまた学べることもあるって言われてシュウジの世話を任されたんだけど、最初は俺なんかが出来るのかってスッゲー不安だったんだ。でもシュウジは違った。あいつの目はいつだってギラギラしててさ。力を欲しがってたんだ」

「あー……それはアタシも思ってたわ。今も生意気なとこはあるけど昔は反抗的なんてもんじゃなかったし。丁度、翔の奴が戻って来たって時に少しは丸くなったんじゃない?」

 

 当時、シュウジを任された時は不安しかなかった。いつかは弟子を取ってみたいなんて言った時もあったが、いざ弟子が出来た時は不安しかなかった。なにせまだ自分は未熟だと思っていたからだ。でもシュウジはそんな自分から吸収できるものは全て会得した。

 

 今でも覚えているあの力を渇望するぎらつくような瞳はかつての自分を思い起こさせる目だった。その当時のシュウジを知っているのか、ヒカリをあやしながら頷く。

 

「けど翔の奴、なんでアタシ達に何の挨拶もしてこなかったのよ? アンタも会ったんでしょ?」

「いやぁ、でもあん時は翔も戦いが終わって、さっさと帰ったしなぁ……。元々、パッサートに首を突っ込む気もなかったみたいだし」

 

 話題の中に出たかつての仲間に不満を言い始めるリンは、その場にはいなかったとはいえ曲がりなりにも共に戦ったにも関わらず、挨拶でもなんでもなかったのかとふくれっ面になる姿にショウマなりにこの世界にいない彼をフォローする。

 

「ったくタイミングが悪すぎんのよ。アンタのMFも結局、完成が間に合わなかったし。今じゃ置物にしかなってないわよ」

「……ああ。まぁでもあの機体はデータ見る限りでも正直、ぶっつけ本番で動かすには俺でも難しいと思うから慣れたゴッドで良かったって今では思うけどな」

 

 今更いくら言っても仕方ないと思ったのか、最後に愚痴のように零す。

 そんなリンの最後の言葉に一転して神妙な表情を浮かべるショウマ。ここから少し離れた場所では跪くように置かれた一機のMFが眠り続けていた……。

 

 ・・・

 

「……ここがクルオネア島……」

「ふああぁー……。んー……っ……広いんですねぇー」

 

 アークエンジェルが停泊した基地からカガミとヴェルは軍用機に乗って、カイウル・レードン博士の研究所があるクルオネア島にやって来ていた。

 スタスタと軍用機から降りて周囲を見渡しているカガミの横で長旅だったのか、ヴェルが大きく欠伸をし背伸びをしながら間の抜けた様子で口を開く。

 

「───こらヴェルッ! だらしない顔するんじゃないわよ!」

「ひゃい!?」

 

 まだボケッとした様子で眠そうにむにゃむにゃと口を動かしているヴェルに喝を入れるように張り上げた声が響き渡り、ビクッと身を震わせたヴェルは慌てて姿勢を正す。

 

「ったく……少しはちゃんとしなさいよ」

「久しぶりだな、二人とも」

 

 特徴的なオレンジ色の髪を風に靡かせながらこちらに向かってくるのはティア・ライスターとティアの兄であり、くせのある茶髪と眼帯がトレードマークのグラン・ライスターであった。

 

「……お久しぶりです、グラン隊長」

「よせよ、今じゃお前も俺と同じだろ? な、アークエンジェル所属トライブレイカーズのカガミ・ヒイラギ隊長」

 

「えぇっ!?」と驚いているヴェルの隣で久方ぶりの再会に会釈を交えながら挨拶をするカガミにくすぐったそうな笑みを浮かべながらも彼女から伸ばされた手を握り返して握手を交わす。トライブレイカーズとは現在、カガミが隊長を務める隊の事だ。

 

「わーっ! ティアさんだ! ティアさぁんっ!」

「あーもうっ! ひっつくなっ!」

 

 一方、ヴェルもヴェルでティアの両手を掴んで飛び跳ねんばかりの勢いで喜び、挙句の果てにはそのままティアに抱き着く。尻尾があればプロペラのごとく振り回しているだろう。

 

 そんなヴェルを暑っ苦しそうにヴェルの顔を押しのけながらもティアもその顔には笑顔が浮かんでいる。ティアは言ってしまえば新兵時代のヴェルとカガミの面倒を見てくれた年の近い姉貴分のような存在なのだ。

 

「お二人もレードン博士のデータ取りに?」

「ああ、光栄なことにお呼びがかかってな。今から行くところだ、一緒に行こうぜ」

 

 こんな場所でMSパイロット同士が鉢合わせしたのだ。

 目的も同じだろう。

 カガミの問いに頷きながらグランは後ろに用意されている軍用車を親指で指差す。

 

 ・・・

 

「お前達の活躍は聞いてるぜ、シャミバの一件で今じゃ注目されている隊の一つだからな。ティアなんていつもお前らの戦闘データまで確認してるんだぞ」

 

 軍用車に乗って研究所へ向かう道中でグランはカガミ達の活躍を褒め称える。

 元は自分の部下であった事もあって鼻が高いのだろう。話している様子は楽しそうであった。

 

「本当ですか!? ティアさん!!」

「はぁ……そりゃ気にするわよ。トライブレイカーズだろうがアークエンジェル隊だろうがアタシにとってはあんた達は特に妹分のように一緒にいたカガミ・ヒイラギとヴェル・メリオなんだから」

 

 ヴェルは輝かしい表情をティアに向ける。どうやら本当にティア達との再会が心の底から嬉しかったようだ。ヴェルの反応に頭が痛そうに眉間を抑えるが観念したように優し気に話す。

 

「ティアさぁぁん……っ!」

「あーもう! 一々、リアクションがデカいのよ、アンタは!」

 

 ティアからの素直な言葉に感極まり目を潤わせるヴェルに照れ隠しに頬を紅潮させながらティアはそっぽを向く。近くにいるグランは笑い、カガミの口に微笑がこぼれている。かつて同じ隊で共に戦っていた彼女達の談笑はまだまだ続くのであった。

 

 ・・・

 

「ここだな、レードン博士の研究所とやらは」

「軍事研究をしてるだけあって、やっぱり大きいわね」

 

 楽しい時間はすぐに過ぎてしまうものだ。

 研究所の敷地内に入った四人は軍用車から降りて、目の前の大きな建造物と敷地を見渡しながらグランとティアが呟く。

 

「グラン・ライスター大尉でよろしいですか?」

「ああ、後ろにいるのはティア・ライスター、カガミ・ヒイラギ、ヴェル・メリオだ」

 

 そんな四人を出迎えた人物がいた。

 後ろで一本に束ねた黒髪の三つ編みと頭頂部のアホ毛を揺らしながら一人の青年が歩み寄る。

 その身に纏った黒い中華服と首についている機械的な首輪は軍事研究所では浮いた印象がある。そんな青年に出迎えられ、グランが代表して答える。

 

「……っ……!? カ、カガミさん……!?」

「……!」

 

 予定の説明など会話をする青年とグランの後ろで青年の顔を見たヴェルと動揺したように眼を見開いて驚き、隣のカガミの反応を伺う様に見ると、カガミもカガミで多少なりとも驚いている。

 

(シュウジ……!?)

 

 その容姿はシュウジに似ていた。

 身長はシュウジより少し大きいくらいか。シュウジに似た精悍な顔つきながら、中性的な雰囲気があり一見すれば男か女かも分からなかった。

 あえてその違いを追及するならば笑みを絶やさないことだろう。だがその笑みはどことなく貼りつけたようなものにも見える。

 

「はじめまして、レードン博士の付き人をやっています。サクヤと申します」

 

 カガミとヴェルの反応に気づいた青年は彼女達に向かって微笑みかけながら己の名を口にする。彼はカイウル・レードン博士の付き人としてこの場にいるようだ。

 

 口元に笑みを残しつつ、ゆっくりと目を開きカガミやヴェルはさらに息をのむ。特徴的なシュウジよりも鋭い切れ長の金色の瞳を向けるのであった。

 

 


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