機動戦士ガンダム Silent Trigger   作:ウルトラゼロNEO

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EX Plus─シアワセ─

 

「……こんなに遅れちゃってごめんね、お父様」

 

 

 ここはサイド6。かつては中立コロニーとして名高かったこのコロニーの墓地ではかつてアークエンジェルに身を置いていたレーア・ハイゼンベルグとリーナ・ハイゼンベルグの二人の姉妹がある墓前に立っていた。

 

 墓石に刻まれた名前はヴァルター・ハイゼンベルグ。

 

 かつてコロニー軍に准将として地球攻略作戦を立案、その最高司令官を務め最終的にはコロニー落としをブラフにデビルガンダムを地球に落とそうとした人物だ。

 

 今では戦犯として伝えられる彼の墓はかつて彼とその家族が共に過ごしたこの場所に作られていた。その墓前でリーナが墓作りに時間がかかってしまった事を苦笑しながら詫びる。

 

「でも……シーナお姉ちゃんの隣だから……。どうか安らかに」

 

 ヴァルターの墓の隣にはレーアやリーナの姉にあたるシーナ・ハイゼンベルグの墓もあった、

 シーナの墓石を一瞥しながら、この場に作れた事を感謝しつつシーナはヴァルターの墓に語り掛ける。このヴァルターの墓はあくまで形だけだ。何故なら復讐鬼と化した彼はデビルガンダムと共に葬られたのだから。

 

 ・・・

 

「……リーナ、本当に良かったの? 私はまだしも貴女はあの人に良い思い出なんてないでしょう?」

 

 墓場を後に、街道を並んで歩きながらふとレーアが口を開く。

 それはヴァルターの墓に関する事であった。

 そもそもヴァルターの墓を作ろうと提案したのはリーナなのだ。しかし考えてみてもリーナにヴァルターに関する思い出など辛いものばかりだろう。

 

 シーナを失った悲しみに耐えきれずクローン技術によって生み出されたのがリーナだ。

 しかし時間が経てば経つほど、クローンと言えどリーナはシーナにはなれない別の存在であり、それを知っていくうちにヴァルターはリーナを嫌悪した。

 

 以降はシーナのクローンである事からMSの操縦に対する才能を見せたリーナは半ば戦闘マシーンのように育てられ戦争に身を投じた。全ては自分に決して笑顔を見せてくれない父に対して少しでも目を向けてもらえるように。絶対に実ることなどないその思いを胸に彼女はずっと戦い続けた。

 

 そして彼女の思いはこのコロニーでレーアと出会い、ハイゼンベルグ邸でヴァルター自らの手で打ち砕かれた。

 

 今でも鮮明に覚えている。

 思いを打ち砕かれたリーナが壊れたように泣きながら笑うあの姿は。

 

 レーアにとって忘れることなど出来ないあの出来事は結果としてレーアとリーナを姉妹として結び付け、彼女の笑顔と広い世界を見る為に旅をしたこともあった。

 

 そんなヴァルターとの思い出など皆無に等しい彼女が何故、わざわざヴァルターの墓を作ろうと思い立ったのか、この際、聞いてみようと思ったのだ。

 

「……確かに私にお父様との思い出はないよ。でもね、お父様は昔は優しい人だったんだよね? 私にはレーアお姉ちゃんから聞く話でしか分からないけど、でも一つだけ分かるのはお父様は私達をまた翔に会わせてくれた」

 

 レーアからの問いにふと寂し気な笑みを見せたリーナは静かに答えていく。

 リーナにとって復讐に染まる前のヴァルターの話などレーアなどから聞くだけしか分からない。だがかつてヴァルターはこの世界を去った英雄にわざわざこの世界に戻ってくるきっかけを作ったのだ。それだけでも感謝はしている。

 

「それになにより感謝してるのは……こうやってお姉ちゃん達に出会う事ができたこと……。私、お姉ちゃん達の妹になれて本当に良かった」

 

 もしリーナがヴァルターの期待通りにシーナになり代われたら?

 もしリーナがパイロットとしての技量がなかったら?

 

 少しでも何かが違っていたら人の温かさを知る事も出来ず、今こうしてレーアの隣を歩くことも出来なかったのかもしれない。辛く苦しい事もあったが少なくとも今はそれで良かったと思えるのだ。

 

「私も……貴女と出会えて本当に良かったって……心から思っているわ。貴女は私の……ううん、私や姉さんにとっても自慢の妹よ」

 

 そんなリーナの思いに触れられた事に嬉しく思いながら、自分もリーナを妹として迎え入れられた事を今、この上なく実感し喜びさえ感じる。

 

 レーアの言葉に僅かに顔を俯かせるリーナ。照れているのか?そう思った瞬間、並んで歩いていたリーナは突然、レーアの腕に抱き着く。

 

「……お姉ちゃんのこと……もっと近くに感じたくなっちゃって……ダメ、かな……?」

「ダメなわけないじゃない。こうやって甘えてくれるようになって寧ろ嬉しいわ」

 

 レーアの嘘偽りない言葉を聞いて、本当に嬉しかったのだろう。

 レーアの腕に抱き着いているリーナの目尻には薄っすらと嬉し涙さえ浮かんでいる。そんなリーナが上目遣いで不安げに聞いてくるのだ。

 

 ダメだ、などと言えるわけがない。寧ろ今まで時折笑顔は見せても甘えてくる事は決してなかった彼女がこうやって甘えてきてくれたのは純粋に喜ばしいことだ。レーアは微笑を浮かべながら受け入れる。

 

(……私……本当に幸せだな)

 

 身体でレーアの体温を感じながら嬉しそうに目を細め、今この瞬間にも感じる幸せを噛み締める。

 生まれてから暫くは幸せなど知らなかった。

 だがこうしてレーアを始め、仲間達に出会い温もりを知れた事は自分にとってこれ以上ない幸せであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ナンでアなタなノ……?】

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……!?」

 

 

 

 

 

 

 そんな幸せを実感し、噛みしめていた彼女に壊れたような少女の声を感じる。

 全身に寒気が襲い、身の毛もよだつようなそんな状態であった。しかし周囲を見渡しても、そんな人物はいない。

 

「……リーナ、なにかあったのかしら?」

「……ううん、なんでもない……」

 

 突然、様子がおかしくなったリーナに怪訝そうな表情を浮かべる。

 リーナの顔色は優れず、冷や汗さえ流していたのだ。

 ゆっくりとレーアから離れると、不思議に思っているレーアを置いて、また街道を歩きだし、かつてレーアやヴァルター達が過ごしていたあの屋敷へ向かうのであった。

 

 




もしも翔が地球軍ではなく、コロニー軍に身を置くような状況だったら?なんてのをifとして考えた事はありますが、結局バッドエンド直行ルートしか見えませんでした。まぁ続編でその後の翔が主役のネクスト編を書いた今では本小説もハッピーエンドではないかな?とは思いますが。

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