機動戦士ガンダム Silent Trigger   作:ウルトラゼロNEO

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50000UA突破ありがとうございます!完結してから半年以上、続編も書いている最中ですが、こちらの方も読んでいただけているようで本当に嬉しく思っております!

それを記念しまして、本来ならば完結してはいますが話の都合上は書けず、構想にはあったEX編後のパッサートとの戦いの一部を書いて行こうと思います!


50000UA記念小説
EX Plus─新たな火種─


 かつて一人の英雄が悪魔から未来を掴むために宇宙(そら)に虹色の光を放った。

 

 

 その光は見た者の心に大きな影響を与える程輝き、宇宙(そら)を貫くような光の刃は悪魔を葬った。

 

 

 ある者は思った。

 

 

 ───あれは混沌の時代を終わらせる希望の輝き、と。

 

 

 ある者は感じた。

 

 

 ───あれは自分達の存在を脅かす危険な物である、と。

 

 

 ・・・

 

「……新兵器の開発……ですか」

 

 強襲機動特装艦アークエンジェル、その艦長室ではMSパイロットであるカガミ・ヒイラギとヴェル・メリオがアークエンジェルの艦長であるルル・ルティエンスと机を挟んで重大な話をしていた。

 用件を伝えられたカガミは今まで話された内容を簡潔に口にするとルルが頷く。

 

「はい、パッサートを創設したシャミバ・ラードルが死亡した今でもパッサートの残党との小競り合いは続いています。上層部は某国で兵器研究をしているカイウル・レードン博士が作っている新兵器に更なる戦闘データを与える為、我がアークエンジェル隊が選ばれた訳です」

「戦闘データ? 一体、なにを作っているのですか?」

 

 ルルが説明をしながら立体映像を表示すると、そこには話に出てきたカイウル・レードン博士と思われる白髪の中年男性の写真と経歴などが表示されていた。

 

 わざわざ戦闘データを必要とするのは何故なのか?

 自分のデータがとるのであれば、そこは気になるのかヴェルはルルに質問を投げかける。

 

「何でも無人兵器の開発に着手しているようです。それもどんな相手にも対抗できるような……。それで統合軍のエースの方達に声がかけられ、カガミさん達も選ばれた訳です」

「……とはいえ、パッサートの残党も今の戦力で十分だと判断しています。今更、また無人兵器の開発に着手するというのも……」

 

 ルルから新兵器の大まかな概要を説明される。

 エースとして選ばれたと言うのは名誉な事だとは思うのだが、今更、パッサートも脅威とは言えず兵器の……しかも無人兵器の開発を行う事についてカガミも疑問に思う所だ。

 

「……カガミさんの気持ちも理解はしているつもりです……。断る事も出来ますが……?」

「いえ、上の判断なのであれば従います。艦長に迷惑をかける気はありません」

 

 昔から無人兵器には問題点などが挙げられている。

 ルルも今回の話は微妙な想いだ。

 

 一応、カガミ達には断るという選択肢はある。

 しかしそうをしてしまえば少なからずとも上官のルルに迷惑をかけてしまうだろう。それはカガミも避けたい。カガミとヴェルはアイコンタクトを交わすと、今回のこの話を承諾する。

 

「ただ気になる事もあって……。私、このレードン博士から連絡がありまして、その際、レーアさんとリーナさん……。特にリーナさんの所在について執拗に聞いてきたんです……。あの二人の戦闘データも欲しいとは言っていましたけど、何だかそれだけじゃない気がして……」

 

 自分に気を使ってくれたカガミ達に申し訳なく思いながら、心に引っかかっていた事を話し始める。それはカイウルがハイゼンベルグ姉妹を執拗に探していると言う話であった。

 

 あの二人は元々正規の軍属ではない。

 今は民間人としての日々を過ごしている筈だ。

 以前のデビルガンダムブレイカーの事件の際など非常時にはその力を貸してもらう時もあるが、なるべくそれも避けたいと言うのもルル達の本音だ。

 

 そんな彼女達を何故、探しているのか?

 他に他意はないのかが気になる。

 確かにそう言われてしまえば、何故、他にも同じようなショウマやリン、エイナルなどは選ばれないのか疑問は出て来る。

 

「……変な話をしてごめんなさい、カガミさん、ヴェルさん。また後で詳細な日程などのデータを送っておきますので確認をお願いします」

 

 しかしいくらここで考えた所でその答えが出て来るわけがない。

 それにカガミ達を付き合わせてしまうのも申し訳ない。ルルは無駄な時間をとった事を詫びながら話を終える。

 

「そういえばシュウジ君から何か連絡はありました?」

 

 

 話を終えたルルは今度は別の話題を出す。

 それはかつてこのアークエンジェル隊に所属していたKing Of heartであるショウマの弟子であるシュウジの話であった。

 

「さぁ……? シャミバの一件以降でも定期的に旅に出ていますし、連絡も向こうからは決して来ませんから」

「シュウジ君のスタンスとしてはあくまで私達には力を貸してくれるけど統合軍には貸す気はないって感じですしね。だからいまだに軍属じゃなくてレーアさん達みたいな民間協力者の扱いなんですけど」

 

 この艦にシュウジはいない。

 何故ならカガミの言葉通り、ここに留まることなく定期的に修行の旅に出ているからだ。呆れたように首を横に振りながらため息を漏らすカガミにヴェルはクスリと笑いながら答える。

 

「元気でいてくれれば何よりなんですけどね……」

 

 そうしてヴェルはふと艦長室の壁に立てかけられている写真を見つめる。

 そこにはかつての英雄が所属していた時のアークエンジェル隊の写真と現アークエンジェル隊の写真がそれぞれ飾られていた。

 

 ・・・

 

「クッソォッ! 何なんだコイツは……ッ!」

 

 山岳地帯にてハイザックの部隊が交戦をしていた。

 相手は様々なMSによって編成された混成部隊であった。その中でひときは目立つのは重厚なMSであるドムだ。

 

「旧型どころか骨董品のMSに何故当たらない!?」

 

 ドムは軽やかな動きでハイザックに接近しながら迫る攻撃をギリギリの位置で全て避けながら、ハイザックのパイロットが混乱している間に要所要所でジャイアントバズを撃ち、硝煙を発生させる。

 

「なにぃっ!!?」

 

 ハイザック達を挟むように山岳の間から戦車などの砲撃が放たれる。

 全ては直撃しないが関節部などを狙った砲弾は少しずつ直撃する。その隙をつくように一際、混成部隊の中で目立つ金色のMS・アカツキが誘導するように射撃で追い詰める。

 

「うわぁあっ!?」

 

 誘導されたハイザック達は宙から地面に降り立ち、アカツキやドムの攻撃を避け続けるが、ここでハイザック達のモニターに異変が起きる。

 ガクッと揺れたと思ったら行動不能になったのだ。急いで確認すれば自分達の足元には巨大な落とし穴が仕掛けられており、そこに嵌っていた。

 

 飛び出してきたドムのモノアイがギラリと光る。

 ジャイアントバズをまるでバットか何かのように振るうとそのままジャイアントバズを放棄して、マニピュレーターを握って動けないハイザックを打ちつける。

 そのまま回し蹴りを浴びせ、ハイザックは弾けるように吹き飛ぶと、形勢が不利だと判断したのか、残ったハイザック達は撤退していく。

 

「ハッ……何とかなったな……」

 

 撤退していくハイザック達の背を見ながらドムのコクピットで操縦桿を握っていたのは、シュウジであった。ギリギリの戦いだったのだろう。安堵の笑みを浮かべながら冷や汗を拭う。

 

 ・・・

 

「シュウジ君、今回も良くやってくれたわね」

 

 ここは山岳地帯の周辺にある格納庫だ。

 そこでドムを収容しそこから出てきたシュウジを作業着を着た特徴的なピンクがかった赤髪のポニーテールを揺らしながらここの責任者であるナナミ・クーデルが声をかける。

 年もシュウジと然程変わらないのだが、その仕事ぶりはベテランさえ驚愕させ今でもこの若さで整備長を務めている。

 

「何とかなったけどよ……。流石にハイザック相手にドムはいい加減、キツイぜ。それにドムの動きも最近、おかしいしよぉ……」

「そうねぇ……。見た目はドムだけど中身はそれなりに調整してるし整備はちゃんとしてるんだけどね……。いかんせんシュウジ君の動きにドムが付いてこれないのよ

 

 ドムから降りたシュウジは身体をほぐす様に首をコキコキ鳴らしながら背後のドムを見やる。流石にパッサート相手に活躍するシュウジとはいえMSの性能差は肌で感じるところだ。シュウジのその話を聞いて困ったような口調で答えるナナミだが……。

 

「……もしかして怒ってる?」

「別にー? そもそもドムはMFみたいに蹴って殴っての機体じゃないしねー。負担がかかって結果的に整備が大変だなんて思ってないわよー?」

 

 ダラリと冷や汗を流す。

 なにせナナミは笑顔だが決して眼だけは笑ってないのだから。

 

「──シュウジ、よろしいですか?」

 

 そんなナナミとやり取りをしていると横から声をかけられる。

 見れば、そこには銀髪の髪を揺らしながら黄色の瞳の美しい顔立ちの青年がこちらに歩み寄りながらシュウジに声をかけていたのだ。

 彼の名前はアレク・ミナット。先程、シュウジと出撃していたアカツキのパイロットだ。

 

「姫様がお呼びです。身嗜みを整えてからご一緒に」

「わかったよ」

 

 この山岳地帯の周辺にはある王国がある。

 その名はルルトゥルフ。

 そこの姫がシュウジを呼んでいると言うのだ。

 

 とはいえ流石にMS戦後で汗をかいているシュウジをそのまま連れて行くわけにはいかないのか、シャワーなどを浴びるように勧めると分かってはいるのか、シュウジは頷く。

 

 ・・・

 

「そう言えば、シュウジの師を務められた方は手にking of heartなる紋章を持つ人物だと聞きましたが……」

「それがどーかしたよ」

 

 数十分後、シャワーを浴び終えたシュウジは同じく身嗜みを整えたアレクと共に格納庫から手配された車に乗ってルルトゥルフへと向かう中で、後部座席に座るアレクは隣のシュウジに師であるショウマについて聞いてきた。

 

「いえ、実は私も同じような紋章がありましてね。これは私の師から受け継いだものです。いつかお会いしたい……そう思ってるのですよ」

 

 そう言ってアレクは手の甲を見せればそこにはClub aceの紋章が浮かび上がっていた。

 僅かに驚いているシュウジの反応が面白いのかクスリと笑みを浮かべる。

 

 ・・・

 

「シュウジ、よく来てくれました」

 

 ルルトゥルフの王宮の一室に通されたシュウジはある女性と対面していた。

 

 美しく、まさに穢れのないような白髪を揺らしながらドレスを身に纏った赤い瞳の少女が気品を感じるような微笑でシュウジを出迎える。

 少女の名前はエレアナ・ラトシアーナ。このルルトゥルフで王女を務める女性だ。

 

「それでは私は外におりますので、何かありましたらお呼びください」

「アレクはよろしいのですか?」

「私はあくまで彼を連れてきただけですので」

 

 シュウジをここまで案内したアレクはあとはエレアナとシュウジの時間だと席を外そうとする。

 彼女が呼び出したのはシュウジだからだ。

 しかしここまで来てもらって外で待たせるのも忍びないと思ったエレアナは同席するよう勧めるが、アレクはそれを丁重に断り、外に出る。

 

「ロシアンティーを用意してもらいましたわ。疲れた身体には良いと思いまして」

 

 アレクが部屋から出るとエレアナはシュウジを席に案内する。

 テーブルの上には紅茶が入っているであろうポッドと様々な種類のジャムが並べられていた。エレアナは自分と彼の分をティーカップに注いで向かい合う形で座る。

 

「シュウジがこの国に来て、もう1か月半ですか」

「そういやそうか。案外早いもんだな」

 

 紅茶を一口飲むと、そのままソーサーの上に置き、ふと何気なくシュウジがこの国に訪れてからの日にちを口にする。シュウジは今より一か月半前にこの国に立ち寄ったのだ。

 

「パッサートに占領されそうになっていた所を貴方が現れて戦力となってくれました。今でも小競り合いは続いていますが、貴方のお陰でアレクもナナミさんもお父様もお母様も皆……それこそ、わたくしも勿論、救われています。貴方には感謝をしております」

「よせよ。パッサートとは因縁があるってだけだ」

 

 パッサートを相手にしていたこの国にシュウジは現れた。

 当初は訝しげられていたが一時期は統合軍側でバーニングガンダムブレイカーを駆りパッサート相手に活躍を見せていた事もあって、今ではアレクと並んで活躍を見せている。先程のナナミやアレクとのやり取りでも良好な関係を築けている事が伺える。

 

「それでも貴方のお陰でこの国に光が見えました。貴方はこの国にとって太陽のような存在なのです……。そう、アイランド・イフィッシュが落ちると言われたあの時、宇宙(そら)に輝いた虹色の光のように貴方はこの国の希望となってくれた……。心からお礼申し上げます」

「……別に俺にそのつもりはなかったんだけどな……。まぁでも、こうやって姫様とお茶出来るんだ。悪い気はしねぇな」

 

 礼や称賛の言葉を言われる事には慣れていないのか、ぶっきらぼうに答えるシュウジに微笑を浮かべながらエレアナは心からの感謝の言葉を述べる。そんなエレアナの微笑を見て、少なくともこの笑顔を守れたのであればとジャムを混ぜながら紅茶を飲む。

 

「そういやアレクやナナミとは付き合い長いのか?」

「ええ、今ではそれぞれの道に進みましたが家族同然のように過ごしました。そうだ!シュウジのご家族はどんな方なのですか?」

 

 とはいえいつまでも褒めちぎられるのは恥ずかしいのか話題を変える。

 彼に聞かれたアレクやナナミとの関係を話しつつ、ふとシュウジの事も気になったエレアナは逆にシュウジの家族について聞く。

 

「……両親は物心つく前に死んじまったが……兄貴ならいたな」

「どのような方でいらっしゃるの?」

 

 ティーカップをソーサーに置きながら先程とは打って変わって静かに答える。

 するとシュウジの兄の存在が気になったのか、更にエレアナは追求してきた。

 

「……あんまり覚えてねぇな……。生きてるとは思うけど……」

 

 シュウジの雰囲気が変わる。

 まるで話したくない事を、思い出したくもない事を話したかのようなそんな不機嫌な様子で答える。

 

「ご、ごめんなさい……。わたくし……無神経に……」

「っ……! ち、違う、今のは俺が悪いんだ! 俺にとっての家族は俺を鍛え上げてくれた覇王不敗流の師匠達なんだ! 師匠達は凄いんだぜ、なんと───!」

 

 そんなシュウジの様子に流石に気付いたエレアナはおどおどした様子ですぐに謝罪するが、我に返ったシュウジは慌てて非礼を詫びる。別にエレアナが悪いと言う事はないのだから。

 すぐに自分にとって家族と言える存在の話に切り替えると、エレアナと談笑を再開するのだった……。

 




さてEX Plusとして書き始めました今回の話。今回の中心となるのは描けなかったシュウジの素性と会話に出てきた存在、そしてリーナです。

続編でもシュウジは登場していますが、あちらにシュウジの素性を書くのもアレかなと思ったので、この機会にずっと練っていた構想を書いて行きます。どうか最後までお付き合いいただけたらと思います。

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