機動戦士ガンダム Silent Trigger   作:ウルトラゼロNEO

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EX─涙の理由─

 

 カガミは自分に襲いかかるギラドーガ三機に対して、ライトニングは背部のバックパックのミサイルで対応する。ミサイルは避けられるが、回避コースを予測していたライトニングの早撃ちによってすぐさま爆発して塵となる。

 

「カガミさん!」

「……!」

 

 ビルドストライクも自身に襲い掛かってきた機体を撃破することに成功したのか、ライトニングの傍に寄ると、二機はブレイカー0へ意識を向ける。

 

「ウオオオオォォォォォオオオオラァアッッッ!!!!!」

 

 ビルドバーニングが地面を蹴り、一気にブレイカー0へ向かっていく。

 レールガンとバルカンで牽制しようとするが一つ一つを見極めて避けると、ブレイカー0との距離を縮める。

 

「うるさい」

「ッ!」

 

 オープン回線から聞こえるその咆哮を鬱陶しそうにビームサーベルを二本抜いて斬りかかる。逆手に持ったビームサーベルはビルドバーニングに襲い掛かるが、ギリギリで回避して、シュウジは拳を握る。

 

「ダァラァアッッ!!!」

 

 そのまま右腕を突き出す。

 風を切るその鋭い一撃はブレイカー0へと迫るがブレイカー0は左脚によるカウンターによって反撃をする。

 

 腕と足では足の方が長い。

 それは大体の人型MSであってもそうだ。

 ビルドバーニングのマニピュレーターは届くこともなく逆にカウンターを受けてしまう。

 

「シュウジ君ッ!!」

 

 弾き飛ばされたビルドバーニングを見て、今度はヴェルが大型キャノンを撃ちながら接近するがブレイカー0はシールドのIフィールドによってそれを防いで、ビルドストライクへと向かっていく。

 

「……チッ」

 

 しかしそのビルドストライクへ向かう前にライトニングの狙撃が阻む。舌打ちをしながらライトニングを見るとライフルを此方に向けながら距離を保っていた。

 

「やはりお前は邪魔だな……ッ!」

 

 ここからライトニングまでは距離がある。

 近づけば何発かはもらうだろう。

 

 それは危険でしかない。

 だが考えている間にもライトニングの狙撃は行われる。ブレイカー0は距離を空けつつビルドストライクと剣戟を繰り広げる。

 

「───俺を忘れんなァッ!!」

 

 それが狙い目だった。

 カガミの視点で見ればブレイカー0は上手い具合にビルドストライクに隠れ下手な射撃が出来なかった。

 

 しかしその間にもビルドストライクは圧されていく。

 そこにビルドバーニングは地面を蹴って、ブレイカー0の背後に狙いを定める。

 

「蒼天……紅蓮拳ッッ!!」

 

 錐揉み回転しながらアッパーカットをブレイカー0の背部目掛けて放つビルドバーニング。その一筋の流星のような一撃はブレイカー0へと向かっていくが……。

 

「──甘いな」

「なっ!?」

 

 ブレイカー0は一気に上空へ急上昇する。

 ブレイカー0のいない虚空の先にいるのはビルドストライクだけであり、シュウジは目開く。

 

「きゃぁあっっ!!?」

「ヴェルさんッ……!?」

 

 そして次に聞こえるのはヴェルの悲鳴だった。

 放たれた一撃はビルドストライクの胴体に直撃して撃墜はしないまでも大きな損傷を与えてしまう。接触回線で聞こえるヴェルの悲鳴にシュウジは目に見えて動揺する。

 

 しかしそれは戦場において命取りでしかなかった。

 

 上空から飛来したブレイカー0は紫色に発光し腕部の装甲を展開、ビームトンファーによってビルドバーニングの両腕を斬り落とす。

 

「ぐぁああっ!!?」

 

 両腕を斬り落されたビルドバーニングに待っていたのは結末は一つだ。

 そのまま振るわれたビームトンファーはビルドバーニングを傷つけ、損傷を与え大破に追い込む。

 

「……ッ」

 

 ここでカガミに動揺が走る。

 自分に任された者達が立て続けで戦闘不能に追い込まれたからだ。ブレイカー0は此方にそのツインアイを向けて輝かせる。

 

 ──次はお前だ

 

 そう言われたような気分だった。

 だが間違いではない。ブレイカー0は損傷を受けたビルドストライクを掴んで此方に向かってきたのだ。

 

 一番の問題はブレイカー0はビルドストライクを盾のようにこちらに向けているのだ。

 恐らくビルドストライク内のヴェルに意識はない。

 だが生きているのだ。

 カガミに撃てるはずもなく、ブレイカー0にとってこれほどまでに効果のある盾はなかった。

 

 そのままビルドストライクをライトニングに投げ飛ばされる。

 ビルドストライクを受け止めるライトニングはそのままブレイカー0との距離を開けようとするが間に合わなかった。

 バルカンなどで牽制しようとするが悉く避けられる。

 地上スレスレの位置でライトニングはビルドストライクを下し、そのままビームサーベルを引き抜いてブレイカー0へと向かっていく。

 

「俺に構い過ぎたな」

「なに……ッ!?」

 

 接触回線を通してブレイカー0から聞こえる言葉に怪訝そうな顔を浮かべる。

 

 言葉の意味はすぐに分かった。

 マスドライバーだ。

 ブレイカー0から放たれたフィンファンネルは防衛隊を壊滅させそのままマスドライバーに攻撃を始めたのだ。

 

 任務は失敗。

 

 頭の中にその言葉が過る。

 任務の失敗だけではなく仲間は戦闘不能。カガミの中で絶望に似た動揺が走る。

 

 それが決定打になってしまった。

 一瞬、動きの鈍くなったライトニングからビームサーベルを弾き飛ばし、そのままレールガンを交えたビームトンファーの攻撃を与える。

 

「っ……あッ……!?」

 

 最後にはメインカメラを掴まれ、そのまま地面に向かって投げ飛ばされる。

 大きく損傷した機体は動かせずそのまま地面に叩きつけられ、その衝撃でカガミは一時的に呼吸が出来なくなってしまった。

 

 ──もう終わりだ。

 

 カガミの頭の中では明確に近づく死による絶望しかなかった。

 地上に降りたブレイカー0はこちらに歩をゆっくりと進める。その姿はまさに死神にしか見えず、抵抗しようにも体に力が入らなかった。

 

(……翔さん)

 

 カガミは目の前のブレイカー0に乗る人物が如月翔だとは思っていない。

 だからこそカガミの記憶の中での翔の姿が脳裏に浮かぶ。

 

 カガミは翔を慕っている。

 英雄という肩書を持つ彼を初めて見た時は自分と変わらない年の青年であることに驚いた。

 ただそれだけではなかった。

 段々と彼に接しているうちに彼は酷く脆く儚く見えた。

 自分が想像していた英雄とは違った人物であった。

 

 死んだ仲間の一人がかつて言った。

 

 あなたは神と。

 

 だが彼は否定した。

 

 自分は仲間だと。

 

 自分はそんな彼に惹かれ、憧れた。

 脆く儚く映るその姿の中で確固たる力と意志を秘めたあの青年に。

 

「あ……れ……?」

 

 視界が滲んだ。

 それだけじゃない、頬を何かが伝っていることに気付いた。ヘルメットを脱ぎ去り慌てて涙を拭う。

 

「なん……で……ッ……!?」

 

 しかしいくら拭い取っても涙は止まらない。

 死への恐怖がそうさせているのか、自分がなぜ泣いているのかも分からなかった。

 

(……あなたに……もう一度会いたかった……)

 

 何であれブレイカー0はもう目の前に迫っていた。

 カガミはもう涙を拭おうとすることもせず、ダラリと腕を下げて俯き、最後まで翔のことを考えながら目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分に迫る死を一筋の閃光が遮った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分に迫ったブレイカー0()は突然の閃光に離れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分とブレイカー0()の間に一機のガンダムが降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────最後まで諦めるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分に背を見せる目の前のガンダムから聞こえる声に心臓の音が高鳴る。

 ブレイカー0から発せられる声とまったく同じなのに、その声から強さだけではなく優しささえ感じられたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ガンダム……ブレイカー……」

 

 

 

 

 

 

 

 涙はいつの間にか止まっていた。

 目の前のガンダム……ガンダムブレイカーのお陰だ。

 ブレイカーは微動だにしないその後ろ姿には確固たる安心感があった

 

「ファ……ファンネルッ!!」

 

 ブレイカー0のパイロットは明らかに動揺していた。

 まさかそんなと。奴がここにいる筈がないと。

 素早くフィンファンネルを飛ばす。

 

 ブレイカーは前に飛び出し、四方八方から迫るビームを避け続ける。

 ブレイカーからは先程のオープン回線による一言以外、なにも言わない。迫るビームに対ビームコーティングシールドを向け、角度を調整して反射させて、一基のフィンファンネルを落とす。

 

 次にブレイカーはビームサーベルを引き抜きブーメランのように投げ飛ばし、展開したビーム刃にビームライフルで何発か当て、ビームを拡散させることで周辺の残ったフィンファンネルを破壊する。

 

 

「なんでお前が……ッ!!」

 

「……俺と似た奴が好き勝手に暴れてるって話を聞いたからな」

 

 レールガンを放とうとするが、その前にブレイカーのビームライフルによる早撃ちがそれを遮り二つのレールガンを破壊する。

 こうなってしまっては後はビームトンファーしかない。

 ブレイカー0はビームトンファーを二つ駆使して襲い掛かるが、ブレイカーはシールドを構え、残った一本のビームサーベルを引き抜いて、ぶつかり合う。

 

 ブレイカー0のパイロットは接触回線で錯乱したように叫ぶと、ここで漸く再びブレイカーから静かに返答が返ってくる。

 

「なんでだ……!?」

 

 右腕部のビームトンファーとビームサーベルが重なるなか、残ったビームトンファーで始末をつけようとするが行動を起こす前にブレイカーのバルカンが関節部に直撃し、動きが鈍ったところをシールドの先端で破壊される。

 

「なんでェッ!?」

「なんでなんでと似たようなことばかり……」

 

 ブレイカー0のパイロットは何故ここまで自分が追い詰められているのかが信じられなかった。だがその言葉を接触回線越しに聞いていたブレイカーからは呆れたような声が返ってくる。

 

「何故、お前に勝てないッ?!」

「……簡単だ」

 

 段々とブレイカー0は損傷を受けていく。対して目の前のブレイカーはほぼ無傷。

 

 それが信じられなかった。

 なぜ自分は目の前のガンダムに乗る男に勝てないのか?

 

 過去(・・)でもそうだ。

 それに対してブレイカーから静かにそして強さを秘めた声が聞こえる。

 

「お前は俺の過去みたいなものだ。だからこそ……ッ!!」

 

 突き出したビームトンファーに対して、ブレイカーはクルリと半回転する。

 

「俺は過去にだけは絶対に負けない」

 

 そしてそのまま回転した勢いで右腕部のビームトンファーを斬り落として、続けざまに蹴り飛ばす。

 

 ブレイカー0はこれに乗じて逃亡を図り、一気に戦線を離脱する。

 再興しているマスドライバーの破壊には成功したのだ。当初の目的は成功している。

 

 ・・・

 

「追うか?」

「いや……それよりも救助にあたろう」

 

 どんどん小さくなっていくブレイカー0の後ろ姿を見ながら、ブレイカーの隣に降り立つ二機のMSはトールギスⅢとガンダムアストレイレッドドラゴンだ。

 この二機にはエイナル・ブローマン。そしてティグレ・インスラがそれぞれ搭乗していた。エイナルの問いかけに対して、ブレイカーのハッチを開けながら答えると外に出る。

 

「あっ……」

 

 展開したハッチの上に立つ青年を見て、カガミはポツリと声を漏らす。

 そして再び涙が流れる。今度はその理由が分かる。嬉しさからくる涙だ。

 

 ───如月翔。

 

 かつて戦争を終結に導いた英雄は確かにそこにいたのだ。




本物の翔登場です。まぁ読者の皆さまはこうなるのは予想ついてたかもしれませんが…。
じゃあブレイカー0のパイロットである偽者の正体は?などは次回に回しまして予定では後二話くらいで終わるかなと言った感じです。

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