機動戦士ガンダム Silent Trigger 作:ウルトラゼロNEO
「リーナさんが新型のMSを受領して戻ってきてくれたお陰で戦力の補強が出来ています。ウィングガンダムゼロ、ダブルオークアンタ、ビルドストライクガンダム……現在、グレイさん達整備班によって最終調整が行われています」
地球へ降下したアークエンジェルはウィングゼロと大破したダブルオーライザーを回収し、ルルを中心に現在の状況を整理していた。
この場にはルル、マドック、カガミがいた。
リーナが別行動をしていた理由、それはルルの口からも出たが新型MSを受領するために動いていたのだ。
「……しかしブレイカー0には逃げられました」
「ああ、パナマの方向へ向かった。恐らくは近々、パッサートの襲撃が予想されている再建中のマスドライバーを狙ってのことだろう」
カガミが静かに口を開く。
地球を降下したもののブレイカー0を捕らえる事は叶わず、そのまま逃げられてしまったのだ。マドックは逃走した方角にあるパナマ基地を口にし、予想される作戦についてを話す。
「……ならばアークエンジェルはパナマに?」
「はい、ですがその前にグレートキャニオンを経由します」
ルルを横目にパナマ基地へ向かうことを尋ねると、ルルは頷きながらもモニターにアークエンジェルの経路を表しながら説明を始める。
「グレートキャニオンにある統合軍の基地が現在、パッサートによる襲撃を受けているという話です。現在もっとも近い私達が向かいます。それに今、あそこにはショウマさん達が戦っています」
目で何故かを問いかけるカガミにSOS信号が発信されているグレートキャニオン基地をマップ上に表すと、その中でショウマの名を出し、カガミは僅かに反応する。
ショウマ達も救援信号を聞きつけて戦闘を行っていたのだ。
「……了解です。それでは私はこれで」
「待って、カガミさん!」
これ以上の話はないのか、ルルはモニターを消す。
それを見たカガミは背を向け、プリーフィングルームから出ようとすると、背後からルルに呼び止められて動きを止める。
「……ブレイカー0は……本当に翔君だったの……?」
「違います」
あれが本当に翔だったのか、ルルはどうしても気になっていた。
翔は自分にとっても大切な存在だった。
そんな翔がテロリストになるなど信じられなかった。
するとカガミはハッキリと否定する。
「……翔さんは本来歩むべきだった未来に進む為に帰るべき場所に帰った……。私はそう聞いています。そんな人がわざわざテロリストになってまで私達に敵対するでしょうか? 私の知っている如月翔はそんな事は絶対しません。短い付き合いであれ私はあの人の事をそれなりに理解しています。だから私はあの人を汚すあの存在を決して許さない」
振り返りルルに向き合いながら、自分の考えを話す。
カガミはあれが翔などということは最初から信じていなかった。
だから最初から殺しにかかっていたのだ。
カガミの言葉に救われたのか、マドックはよく言ったと言わんばかりに頷くとルルはありがとう、と小さく口にして、今度こそカガミはプリーフィングルームから退室する。
・・・
「……私達や世界に対しての復讐……。それが目的だって言ってたわ」
医務室のベッドで寝ていたレーアが起き上がっていた。
その傍らではリーナがレーアを憂い帯びた表情で見つめている。
「……翔は戦うことに苦しんでいた。私達はあまりにも翔に頼りすぎた……。そもそも別世界の人間である翔を争いに満ちたこの世界に連れてきてしまった……。あれが本当に翔だったとしても私達は翔を責められないわ」
「……少なくとも私達の知る翔じゃないのは確かだよ。私達の知る翔はあんなことはしない」
フロンティアⅣで翔と初めて出会った時以降、彼は戦いをしようとするタイプではなかった。
なのに彼は戦い続けた。
自分達の不甲斐なさのせいで……。
静かに呟くレーアにリーナは紫色に発光したブレイカー0を思い出す。あれはただただ悍ましいだけであり、翔の放つ光は温かかった。
「──失礼します」
医務室内を重い空気が支配する。
全てはブレイカー0の、そして如月翔のせいだ。
彼の存在は彼女達にとって大きかったのだ。
するとそんな空気を打ち破るように医務室の扉が開かれる。
そこには料理を乗せた台車を押してきたヴェルがいた。
「食事を持ってきました。レーアさんは勿論、リーナちゃんも帰ってきてからなにも食べてないでしょ?」
「……ありがとう」
台車に乗るトレーに盛られた料理を出しながらヴェルが自分が医務室に来た理由をにこやかに説明をすると彼女の気遣いに礼を言いながらリーナは立ち上がり、トレーを一つ受け取る。
「お姉ちゃん」
「……いや、自分で食べられるわ」
フォークでトレー内のスパゲッティをくるりと巻き、レーアに向ける。
恐らくはまだベッドの上にいるからという考えから来たのだろう。リーナの気遣いを嬉しく思いつつも流石に自分で食べられる。
「……」
「……分かったわ、お願い」
どこかしゅんとした顔を浮かべるリーナにレーアは観念したようにため息をつき、ゆっくりと口を開ける。
リーナはたちまち少し明るい表情となりレーアに食べさせ始める。
ドクターに聞いたが翔も似たような事が何回かあったらしい。
「そう言えばヴェル、新機体の方はどうなの?」
「調整は終わらせました。レーアさんの機体も現在、グレイさん達が調整してますので、後で大丈夫なようでしたら確認お願いします」
麺を飲み込みながら、照れ隠しに咳払いしつつ、ヴェルにリーナが持ってきた新機体のについて尋ねると、ここに来る前に格納庫にいたのか、ヴェルは現在、ダブルオークアンタの調整を行っているグレイからの伝言を話し、レーアは頷く。
「もうそろそろグレートキャニオンに着きます。後でトレーは台車ごと回収に来ますからここに置いといてください」
カガミからアークエンジェルがグレートキャニオンに向かっているという話を聞いていたヴェルは最後にそれだけ言い残して医務室を去るのだった。
・・・
「ウオォォォッラァアアッッ!!!!!!」
別世界では世界の遺産の一つとして登録されているこの巨大な峡谷では今、激しい戦いが行われていた。
その中でひと際目を引くのは真紅の機体の存在だ。
炎のような激しさを持つ動きは瞬く間に周辺の機体を破壊していく。
「ヘヘッ……こんなモンかよ」
機体名はビルドバーニングガンダム。
拳を掌に打ち合わせ、首を動かしてコキコキと鳴らし、モビルトレースシステムによる操縦を行う青年の名はシュウジ。
活力に溢れたその精悍な顔立ちと、意志の強さを表すその金色の瞳はその自信に満ち溢れていた。
「ボヤボヤすんな、ここは戦場だぞ!」
するとビルドバーニング内でシュウジに注意の声が響く。
鬱陶しそうに空を見上げると大量のバグを一筋の閃光が瞬く間に殲滅していた。
「シュウジ、行くぞ!」
「OK! ぶちかましてやろうぜ!」
それはゴッドガンダム。
風雲再起を駆り、上空のバグを殲滅したのだ。
ゴッドを駆るのは、シュウジの師匠であり、かつてレーア達と共に戦ったショウマである。
シュウジはショウマの指示に好戦的な笑みを浮かべながら飛び上がる。
「旋風ゥッ!!」
「竜巻ィッ!!」
ゴッドはビルドバーニングに合わせるように風雲再起から降り、そのまま二機のガンダムは高速回転を始め、グレートキャニオンの地を轟かす二つの竜巻へと変貌する。
「「蹴りィイッ!!!」」
二つの轟く竜巻はパッサートのMSの攻撃をも風圧で物ともせず、そのままバグや敵MSを巻き込み宙に舞いあげると、そのまま飛び蹴りを一つの小隊へ放ち、玉砕する。
「周辺クリア! よぉし行くぜェッ!!」
「あっ……おい待て、シュウジッ!!」
周辺の機体は既に残骸だ。
シュウジはどんどん嵐の如く前へ進んでいく。
ショウマもその若さから来る行動に振り回されつつも、その後を追うのだった……。
・・・
「敵艦発見、終わりにしてやるぜッ!!」
立ち塞がる敵を全て叩き潰しながら前に進む。
そこには今回、グレートキャニオン基地を襲撃したパッサートの指示を出していると思われる戦艦とそれを囲むギラドーガがいた。
「ウォォォッララララララララァァアアアッッッッ!!!!!!!」
ビルドバーニングに気づき射撃攻撃を開始するギラドーガ達にビルドバーニングはすぐさま近くの岩の前に移動してマニピュレーターを高速で叩き込み、宙に舞った破片で攻撃を防ぐ。
「波動ォオッッ!! 烈ッ帛ゥッ拳ンンッッッ!!!!!」
撒き散らした破片は目くらましの役割にもなった。
破片に間に隠れるビルドバーニングはエネルギーを込めたマニュビレーターを地面に叩きつけ、その衝撃波によってギラドーガ達を撃破して、そのまま後ろの敵艦にも損害を与える。
「──俺の手が真っ赤に燃える、勝利を掴めと轟き叫ぶ!!」
ビルドバーニングの存在はあまりにも大きかった。
故に上空から迫る存在にパッサートは気づかなかった。
いや気づいた頃には遅かった。
背に日輪を輝かせながら神が死を誘いに来たからだ。
「ゴォォォォォッドォオオッッ!!! フィンッッガァアアアーーーーーーーッッッ!!!!」
上空から飛来したゴッドはそのままゴッドフィンガーを敵艦に叩き込むと、そのまま離脱しビルドバーニングの隣に並び立つ。次の瞬間、敵艦は爆発するのだった……。
「ったく……良い所取りかよ」
「お前が派手に暴れてくれたからな」
戦いは終わった。
その決め手となる最後の一撃を与えたゴッド……いや、ショウマに不貞腐れながら文句を言うと、そんなシュウジに苦笑しながら、機体の肩に手を回す「。
「……おっ、来たな」
「……?」
するとショウマが遠方で何かに気づく。
それは彼にとって馴染み深いものだった。
懐かしそうに目を細めるシュウジも釣られてその方向を見る。
「アークエンジェル……」
師匠が、してその愛妻が、なによりかつての英雄がその身を置いていた戦艦であるアークエンジェルがモニター越しに見えた。
その名を呟きながらシュウジは夕焼けを背にこちらへ向かってくるアークエンジェルを見つめる。
この出会いがシュウジの物語が動き始めるのだった……。