機動戦士ガンダム Silent Trigger   作:ウルトラゼロNEO

70 / 96
EX
EX─英雄は悪魔に─


 ──戦争は終わった。

 

 

 ───異世界から現れた一人の青年によって。

 

 

 ──────しかし戦いが終わったわけではなかった。

 

 

 ・・・

 

「総員、戦闘配備!」

「MS隊も順次に出撃させろッ!」

 

 かつて英雄が身を置いていた大天使の名を持つ戦艦・アークエンジェルのブリッジにはルル・ルティエンス、CICにはマドックが素早く指示を出していた。

 

「ここにいるでしょうか」

「……なんであれ、脅威は排除しなくては。折角、再興が進んでいるのに」

 

 指示を出しながらマドックがポツリと呟く。

 含みのあるその言葉にルルは重々しい表情でその瞳に強化ガラス越しに眼下に広がるフォン・ブラウンを映す。

 

 戦争終結後から一年、フォン・ブラウンの再興は進んでいたが、それを嘲笑うかのようにバグが投入されたのだ。

 

 今や地球軍とコロニー軍は統合され、統合軍として機能している。

 バグも元はコロニー軍の兵器だが、今回の件は和平を良しとしないコロニー軍の残党であるテロリスト……パッサートと称される集団によって齎されているのだ。

 

「翔君……」

 

 だがパッサートには大きな問題があった。

 それはルルの口から零れた名前……かつてこの世界に存在し、戦争を終結に導いた英雄とまで称される如月翔だった。

 

 今の彼に着せられたのはテロリストの一員という汚名だった。

 

 テロリストの首謀者はシャミバ・ラードル。

 かつてコロニー軍に所属し、少将としてその権威を振るった男だ。

 彼は和平をしたコロニー軍は一部の愚か者による過ちだと主張し、地球へ宣戦布告したのだ。

 だが、何よりはその傍らに立つ翔の姿に大きな波紋を呼んだのだ。

 

 事の発端は彼がかつて搭乗していたガンダムブレイカー、ガンダムブレイカー0の二機のガンダムだ。

 修復されたこの二機は英雄が乗った機体として博物館に寄贈される筈だった。

 

 しかし事件は起きた。

 突如として、ガンダムブレイカー0が強奪されたのだ。

 

 博物館へと運ばれる最中、一人の青年によってガンダムブレイカー0は奪取され、護衛を務めていた部隊を壊滅させて逃亡を図ったのだ。

 

 奪われたガンダムブレイカー0はすぐに行動は起こした。

 

 ──ブレイクピラー事件

 

 後にそう呼ばれるこの事件はブレイカー0を筆頭としたテロリストのMSによってアフリカタワーは崩壊したのだ。

 破壊された一部の外壁は地上に降り注ぎ、死者も多数に昇ったという。

 アフリカタワーが破壊された事により送電が出来なくなって、大規模な停電が多発と地球圏に大きな大惨事を齎した。

 

 英雄は悪魔に変貌した。

 

 アークエンジェルがフォン・ブラウンへ差し向けられたのもパッサート殲滅の任務だった。

 フォン・ブラウンに投入されたバグ、そして指揮するパッサートのMS隊。この脅威から再興したフォン・ブラウンを守る為、ルル達は今、この場にいるのだ。

 

 ・・・

 

「よし、ライトニングから出すぞッ!!」

 

 格納庫ではMSの発進準備が進められ、整備長であるグレイの指示と共に一機のMSがカタパルトへ運ばれた。

 濃紺のその機体はZ系のMSを発展させた試作機として開発されたライトニングガンダムだ。

 

「……カガミ・ヒイラギ、ライトニングガンダム発進します」

 

 搭乗するのはカガミ・ヒイラギ。

 かつてグラン・ライスターの隊に所属していた日系人の少女だった。

 変わらない冷たい印象すら感じる鉄のような表情で出撃していく。

 

「ヴェル・メリオ、パワードジムカーディガン、行きますっ!」

 

 そしてライトニングに続くのは白と黄色を基調としたジムタイプのMSだ。

 最大の特徴はそのバックパックだろう。

 両端にシールド、そして背部の大型ライフルなどの武装類、そしてMS自体にも様々な武装が内蔵され、扱う者に必然的に相応の技量の要求する。

 

 そこに搭乗乗すのはヴェル・メリオ。

 カガミと同じくグラン・ライスターの部下だった少女だ。

 

「……レーア、いけるか?」

「……ええ」

 

 そして、最後に出撃するのはダブルオーライザーだ。

 搭乗するのはレーア・ハイゼンベルクであり、グレイの問いかけに静かに頷く。

 妹と共に世界を回っていた彼女だが今回の一件で再びアークエンジェルに戻ってきたのだ。

 妹であるリーナ・ハイゼンベルクもある理由で別行動を取っている。

 

「ダブルオーライザー……出るわ」

 

 美しいGN粒子を放出しながらダブルオーライザーはアークエンジェルから出撃する。

 ライトニング、PジムKと合流して、フォン・ブラウン防衛の任務を開始する。

 

 ・・・

 

「先行する」

「……了解、援護します」

 

 バグとその周辺に存在するギラドーガの小隊を発見する。

 ダブルオーライザーは前に出て短く僚機へ意図を伝えると、そのまま加速して一気に敵機へと向かっていく。

 鮮やかなGN粒子を放出しながら進むダブルオーライザーの姿をモニター越しに見つめながら、カガミが静かに返答する。

 

 敵もすぐにこちらの存在に気付いた。

 しかしそれまでだった。

 

 長距離射撃だ。

 ギラドーガの胴体を的確に撃ち抜いて爆発させる。次々にバグやギラドーガは宇宙の闇を照らす閃光に様変わりしていく。

 

「……!」

 

 カガミの援護もあり、ダブルオーライザーが近づくのは簡単だった。

 そして一度、ダブルオーライザーに接近されてしまえば、もう結果は見えている。

 なぜならここはレーアがもっとも得意とする距離だからだ。

 それを示すかの如くダブルオーライザーのGNソードⅢがギラドーガをただの残骸へと変えていく。

 

 たったの数分だ。

 それでギラドーガの小隊は殲滅されたのだ。

 

「バグの撃破完了、作戦通りです」

「了解、このまま母艦を叩く」

 

 バグの方もヴェル、そしてカガミによって撃破された。

 残るのはこれらを送り込んだ敵母艦だ。

 すぐさま敵の行動から大体の位置を読み取って、敵母艦に向かう。

 

 ・・・

 

「敵艦、こちらの降伏勧告には応じず」

「……仕方ないわね、カガミ」

 

 敵艦を見つけることはすんなりと出来た。カガミが降伏を促すが応答しないばかりか、これが答えだと言わんばかりにダブルオーライザー達へ向け波状攻撃を仕掛ける。しかしダブルオーライザー達は紙一重でそれらを全て避けていく。

 

「……了解、撃ち抜きます」

 

 静かにレーアに答えカガミは右肩の高性能センサーに自機のライフルを連結させ、これによる更なる長距離射撃を敢行する。

 

 カガミの表情は何も変わらない。

 その冷たささえ感じる瞳は揺らぐこともなくただ敵艦のブリッジのみを狙う。

 

 余計な場所には撃つ気はない。

 そういった意志さえ感じる。

 

 トリガーが引かれた。

 敵艦から溢れんばかりに放たれる攻撃の中で一本の線にも等しきビームがブリッジのみを綺麗に撃ち抜く。

 続けざまにバックパックに装備されているBWS(バックウェポンシステム)に装備されているミサイルランチャーを発射する。まるで激しい豪雨のように敵艦を飲みこんでいく。

 

「……終わりね」

 

 沈黙した敵艦を見ながら、これ以上の戦闘はないだろうとレーアは静かに目を瞑る。ルルからの帰還命令が出て、彼女の予想通り戦闘は終了した。

 

 ・・・

 

「……ここにはいなかったわね」

 

 戦闘終了から数時間、プリーフィングルームにはレーア、ルル、マドックが集まっていた。

 レーアの言葉の意味は勿論、如月翔のことだ。残る二人は重々しく頷く。

 

「実はそのことで、今、所属不明の艦が地球へ向かっているという報告がありました」

「調査にあたった部隊は一機のガンダムによって全滅されたそうだ」

 

 ルルとマドックはレーア達が帰還する前に上層部に通達された内容をそのまま話し、その話を聞いたレーアはすぐに食いついた。

 

「ガンダムって……!!」

「……ええ、ガンダムブレイカー0です。共に地球へ向かっているそうです」

 

 目を見開く。

 彼女の予想が何か分かっていたのかルルが頷きながら、統合軍の部隊を全滅させたガンダムの名を口にする。その場にはより一層、重い空気が支配していく。

 

「……私達に追撃命令が出ています。現在、その命令に従って行動していますがブレイカー0を地球に降ろしたら、どうなるか分かりません。復興が進むパナマやアフリカタワーが再び危険に晒される可能性があります」

「パッサートには阻止したい事だろうからな」

 

 重い雰囲気を打ち壊すようにルルがすぐさま報告とともに与えられた命令の内容を口にすると、マドックもその隣で頷く。

 何としてでもこれ以上の被害は食い止めねばならない。

 

「……地上ではエイナルさんやショウマさん達が動いてくれています。もし失敗し、地球に降りた時はショウマさん達が……」

「……何とかするわ。私達は確かめなくちゃいけない、アレが本当に翔なのかを……。悪趣味なのよ……。わざわざ、あの機体を使うなんて……ッ!!」

 

 ルルの口から出たショウマ達の名前。

 戦いから離れた彼らもこのパッサートの一件で翔の存在が気になって、独自に動いていたのだ。

 ただでさえ彼らなりに動いているのにその手を更に煩わせる気はない。

 そして何よりはガンダムブレイカー0に乗る存在が本当に自分達の知る如月翔なのかを確かめなくてはいけないのだ。

 

 彼はもうこの世界にはいない筈だ。

 だが今、現実にガンダムブレイカー0は奪われ、剰えテロリストの象徴と言わんばかりに猛威を振るっている。あの機体を知るからこそ許せなかった。

 

≪艦長、目的の所属不明艦を衛星軌道上で確認ッ!≫

「……私達は先に出て、足を止めるわ」

 

 するとプリーフィングルームのモニターに小さなウィンドウが開かれ、オペレーターからの報告が入る。

 それを聞いたレーアは静かに、そして並々ならぬ怒りを滲ませながら、ルル達に告げると床を蹴って、プリーフィングルームを出ていく。

 

「リーナさん、早く戻って来て……!」

 

 ブレイカー0の事でそれぞれ思っていることがあるのだろう。

 勿論、この場に残されたルルやマドックだってそうだ。

 

 しかし今のレーアは危険だ。

 ブレイカー0……いや翔に対する想いがそうさせているのだろう。

 しかしブレイカー0は事実、異常な強さを見せている。

 レーア、そしてカガミ達がやられると考えたくはないが、間もなく合流する知らせを送ってきたリーナが一刻も早く戻ってくるのをルルは願うのだった……。




始まりました、EX編。今回はカガミとヴェル、そしてショウマの弟子である新キャラであるシュウジが中心です。カガミとヴェルは元々、EX編を想定して登場させていたキャラでした。二人の今の機体でシュウジの機体も予想ついたかもしれません。

3、面白いですね。時間に余裕がある時はずっとやってます。ただアセンに時間を費やすせいで、プレイする時間が少ないのがアレですが…。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。