機動戦士ガンダム Silent Trigger   作:ウルトラゼロNEO

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日常話を書くだけでこんなに苦労するとは…。


フロンティアⅣー人の温もりー

「……目が覚めたようね。ここはアークエンジェルの医務室よ」

 

 アークエンジェルの医務室で目を覚ますと、今までずっと傍らにいたのか、ベットの脇の椅子に腰掛けていたレーアが重い瞼を開けた翔を覗き込みながら声をかける。

 

「おぉっ……目が覚めたかね。極度の緊張から開放されたことでの失神だ、身体には問題はない。でもしばらくは安静にしていなさい」

「そう……ですか……」

「艦長代行には私から報告しておこう。それでは」

 

 すると翔の意識が戻ったことを知った医師が翔へと声をかける。

 翔の体の状態を説明すると付きっきりで翔の傍にいたレーアへの気遣いからかその場を後にする。

 

「……ずっとここに?」

「……お礼が言いたかったの。ただそれだけ……。ありがとう、貴方のお陰で命拾いしたわ」

 

 会話のない空間に翔が最初に口を開くと、レーアもポツリと返事をして改めて前のトールギス戦での翔に助けられたことへの礼をする。

 

(……でも、あの時の一瞬感じた懐かしい感じ……なんだったのかしら)

(……助けたのは俺の力じゃない。勿論、助かって良かったけどあんなにギリギリの状況ですぐに機体を動かせる程の技量は俺にはない)

 

 翔が使用していた機体……ガンダムブレイカーがエクシアを助けた瞬間に感じた懐かしい感覚……。とても優しく暖かさを持っていた。

 その感覚にレーアは不思議がっていると、その隣では翔はなんと答えるか悩んでいた。アレはまさに身体が勝手に動いたとしか言いようがなかった。

 

「……礼を言われる筋合いはないから気にしないでいい。無事でなによりだよ」

「そう……。それでも言っておくわ。ありがとう」

 

 ベッドに身を預ける翔に照れ屋かなにかと受け取ったレーアは短く笑いながら最後に改めて感謝の言葉を口にした。

 

「そう言えば貴方の機体の話聞いたかしら? かなり不思議な機体らしくて、結構互換性の効くからパーツの付け替えが可能らしいわよ。だから下手すればカレヴィのウィングガンダムの腕なんかも接続して使えるかも。良かったらあとでテストしてみない?」

(……まるでガンプラのミキシングだな)

 

 興味深そうにガンダムブレイカーについて話すレーアに翔はガンプラの製作技術のミキシングを思い出す。

 ガンプラのミキシングは早い話は違うガンプラ同士のパーツを組み合わせて作る初心者でも手軽に出来る技術だ。

 

「そう……。なら好きに使ってくれ」

「……そう、ね。分かったわ。ゆっくり休んでちょうだい」

 

 とはいえその機体の特性を教えられても今の翔には乗る気なんてない。

 興味のなさそうな翔の返答を聞いたレーアは表情には出さないもののやはり内心では落胆する。

 彼の操縦は目を見張るものがあったからだ。とはいえ礼を言った以上はここにいる理由はない、レーアはすぐに医務室から出る。

 

(……彼は元は民間人で戦いには恐れを抱いてる……。戦わせるべきじゃないのかもしれないわね)

 

 フロンティアⅣで初めてデナン・ゾンを撃墜した時の怯えようとルスランに警告した際の様子を見ても戦い続ければ彼の精神は持たないだろう。そう判断したレーアは淡い期待をしていた自分の甘さを痛感しながら移動するのだった。

 

 ・・・

 

(とはいえ……)

 

 医務室から出たレーアを見計らって翔は考えに耽る。

 考えるのは自分の今の状況だ。改めて考えてもあまりにも異様な状況だ。

 

『どうか……あの争いを……破壊してほしい……!』

(あの声が原因で俺がこの世界に来たってことはそれはきっと戦争を終わらせろってことなのか……?)

 

 だとしたら冗談ではない。

 人の了承も得ずに勝手に人を異世界へ連れて行ったと思えば今度は戦争を終わらせろという趣旨の言葉を言うのだから。

 

(第一、戦争なんてものは個人が動いて終わらせられるものじゃないだろう……。敵の親玉倒して、はい終わりじゃないんだから。けど……ガンプラであったガンダムブレイカーまでMSとなって俺はその機体の中にいたんだ……)

 

 少なくともあのMSに乗って戦っていればこの世界の戦争も動きを見せ、自身の世界へと帰れるのだろうか? ふとそう考える。

 

(だとしても冗談じゃない……。操縦できるからって簡単に戦えるものか)

 

 フロンティアⅣでの戦いは異常なまでの緊張感と恐怖心が襲った。

 デナン・ゾンのパイロットを殺した時は頭の中がグチャグチャになって吐きそうにもなった。

 

 MSに乗れば簡単に人は殺せるのだ。そして逆に相手のMSも自分を殺せる。まさに殺し合いだ。そんな場所に突っ込んでいけるほど自分の心は強くない。翔は考えを放棄するように眠りに就こうとするが…。

 

(腹……減ったな)

 

 緊張感の次は空腹が翔を襲う。

 こんな状況で腹を減らす自分に舌打ちしつつも翔は医務室から出ようとベッドから降りる。一瞬、ふらついたが移動には問題ないようだ。

 

「──あっ、お元気ですか?」

「……艦長代行……でしたね」

 

 食堂のような場所を探そうかと考えていた矢先に医務室に来訪者が。

 見てみればルルが料理が入ったトレーを持ってきていた。

 

「ドクターから目が覚めたってお話を聞いたものですから。お腹空いてるんじゃないかなって思って持ってきました」

「……気を使わせてすみません」

 

 トレーをベットに備え付けられている台に乗せたルルは笑顔で翔に話しかける。

 そんなルルの気遣いに翔は純粋に感謝しているとルルは料理をスプーンで掬い、翔へと向ける。

 

「……」

「あれ食べないんですか?」

 

 向けられるスプーンにただただ困惑するも、ルルは本当に不思議そうに可愛らしく首を傾げていた。

 

「……いや……その……食べさせて貰わなくても大丈夫ですよ? 病気や怪我ってわけじゃないんですから」

「えぇ? うーん……でも一応まだ病み上がりなわけですし、遠慮しないでどうぞ!」

 

 やんわりと断る翔。流石に誰かに食べさせてもらうというのも恥ずかしい。だがルルはそんなことお構いなしにスプーンを向けてきた。

 

「はい、あーんっ」

「うっ……くっ……」

 

 眩しいような笑顔を向けるルル、彼女はただ純粋に翔を気遣っているのだ。

 それを理解しているからこそ翔もまた困っている。

 

「……ありがとうございます」

 

 結局断りきれずに食べた。

 目の前の少女に食べさせてもらったということで赤面するが、一方で味のほうだが良くも悪くも普通だ。

 

「はい、じゃあどんどん食べましょうっ!」

「……」

 

 礼を言われたことに気をよくしたのか更に料理をすくい上げて翔へと向けられる。

 その様子からきっと全て食べさせる気だろう。翔はただただ頬を引き攣らせていた。

 

 ・・・

 

「……ごちそうさまです」

「はいっ、全部食べきれてよかったです」

 

 数分後、何とか完食しどこか疲れきったような翔にルルは満足そうに笑いながら片付けを始める。

 

「あと少しでフォン・ブラウン市に到着です。それまでの間ですけどよろしくお願いしますね」

「……貴女は戦えとは言わないんですね」

 

 医務室の壁に掛けてある時計を見て到着予定時刻と照らし合わせて話しかけるルルに翔はポツリと呟く。先程のレーアとの会話で彼女がどこか自分が戦うことに期待をしていたことは察していたのだ。だからこそあの直後に考えに耽っていたのだから。

 

「……? なんでですか? 翔君は戦いたいんですか?」

「……そういうわけじゃ」

「だったら良いじゃないですか。翔君は民間人です。民間人でもレーアさんのように自分から参加すると言ってきたわけじゃないんですし」

 

 首をかしげて問いかけてくるレーアに翔は顔を逸らしながら答える、

 誰が好き好んで戦うものか、それはルルも思っている事なのか、何故そんなことを言ったのだと不思議そうに話す。ルルのそんな反応に翔は一瞬驚いたような表情を浮かべると、僅かに俯いた。

 

「そう、ですよね……。なに言ってんだろ、俺……」

「ふふっ、きっと疲れてるんですよ。私達は戦いを無理強いする気はないですよ」

 

 自惚れがあったのかもしれない。

 自身が倒れる前のカレヴィ達の会話からフォン・ブラウンで戦闘が起こるかも知れない。

 だが戦力はたったのMS二機。自分は必要とされているのではと。

 だがそんなことはなかった。いや必要としているのかもしれない、だがルルの翔を気遣った笑顔を見て翔は自身を恥じる。

 

「──よしよし」

 

 そんな翔の頭にルルは手を置いてゆっくりと撫でる。突然の出来事で翔は理解が追い付かないが、そんな翔にお構いなしに頭を撫で続ける。

 

「えっ……あっ……? な、なにを……?」

「え? あぁ……私、昔、お母さんにこうやって疲れた時とか撫でて貰ったことがあったので翔君にもやっちゃいました……。凄く落ち着くから翔君にも効くかなーって。迷惑……でした?」

 

 料理を食べさせられたかと思えば今度は頭を撫でられる始末だ。

 もう恥ずかしさで頭がいっぱいだ。困惑する翔にあくまでルルは翔を気遣っての行動らしい。

 

「……落ち着きは……しますけど……。その……やっぱり……同い年のような女の人に撫でられるのは恥ずかしいです」

「あれ、翔君はおいくつなんですか?」

「……19です。もうすぐ20です」

 

 不思議なことにルルに撫でられていると落ち着くのだ。

 安らぎさえも覚える。だが恥ずかしいことには変わりない。翔の言葉を聞いたルルは何気なく翔の年齢を聞いてみると翔は間を置いて答える。ふとあと一ヶ月で20歳になるな、などど考えていた。

 

「へぇー。あっ、私は21です。二歳も年下なんですねぇ。なんだか弟ができたみたいですっ」

(……撫でるのは止めてくれないんだな)

 

 ルルの幼い見た目から同い年もしくは年下などと考えていたがまさか2歳年上とは思わなかった。嬉しそうなルルを見て翔は内心ため息をつきつつ恥ずかしさはあるものの、この世界に来て初めて感じた優しい人の温もり、そしてそこから感じる優しさと安らぎを只々、甘んじて受け入れるのだった。




この時点では翔にはまだ戦う気はないです。寧ろいきなり異世界に飛ばされ理不尽さも感じています。だが、そんな翔もフォン・ブラウン編では…。

ルルは21歳にさせていただきました。ゲーム内では年齢が一切分からないので…。

私の予想では今の登場キャラですとレーア22ルル21カレヴィ&エイナル二十代後半マドック五十代後半辺です。そして翔は19歳で近々20になる予定です。

ルルは最初妹のようなキャラにしようかななんて思いましたが、最終的に姉属性になりました。次回からフォン・ブラウン編に入ります

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