機動戦士ガンダム Silent Trigger   作:ウルトラゼロNEO

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アイランド・イフィッシュ─絶望の始まり─

 

「こんのぉッ!!」

「っ!!」

 

 アルヴァアロンとエピオンの戦闘は熾烈を極めていた。

 アルヴァアロンのGNビームライフルによる攻撃をワイバーンモードで飛行しながら避け、着実にアルヴァアロンへの距離を縮める。

 

「テメェもアイツに似てるよなぁっ、ムカつくんだよッ!」

 

「なんだとッ!!」

 

 ちょろちょろとアルヴァアロンの攻撃を避け続けるエピオン、

 そしてそれに乗るのは裏切り者のエイナル。

 

 エイナルと言えば上層部に受けが悪いほど、甘さが目立つ人間だ。

 それがティグレを連想させる。シドから見て、エイナルとティグレは似ているのだ。

 

「俺はテメェらとは違う……! テメェらみてぇな甘ちゃんじゃねぇッ!! 上に、上に行くんだよッ!」

「ッ……!」

 

 ワイバーンモードからMSへと変形したエピオンはそのままアルヴァアロンへ近接戦を仕掛ける。

 GNビームサーベルとビームソードがぶつかり合いながら、シドは己の心中を吐き出すように叫ぶ。

 シドは兎に角、自分が高い地位を手に入れる事を望んでいた。その為に例えティグレの腰巾着と言われても彼に付いていったのだ。

 

「お前らは甘ちゃんの癖に才能だけは凄ェ……ッ! 本当に気に入らねぇ……なんで俺じゃねぇんだよッ! 俺のほうが……俺だったらその能力をもっと上手く使えるのにッ!」

 

 シドは心底、才能、そして実力のあるティグレやエイナルを憎んでいた。

 

 自分には実力がない。

 幾ら努力をしても彼らの足元にも及ばない。

 なのに実力のあるティグレやエイナルは活かそうとはしない。その気になれば、コロニー軍内でも凄まじい存在になれた筈なのに。

 

「ティグレを嵌めてやった時は心底楽しかったぜ……ッ! 仲間にやられていくアイツの姿は最高だった!!」

「仲間を嵌めたのか……ッ!?」

 

 そして憎んでいたティグレは自分の手で消した。

 やられていくアストレイR改の姿はとても滑稽で心が躍った。

 シドの言葉に衝撃を受け、目を見開くエイナルだが、二機のMSは何度もぶつかり合う。

 

「テメェもアイツの所に送ってやるよ……ッ! そこでアイツに聞くんだなァッ!」

「……負けるわけにはいかない……ッ! 私は仲間の為に戦うッ!!」

 

 アルヴァアロンはエピオンを蹴り飛ばし、背部の翼状のパーツを展開して、ビームライフルの粒子を圧縮し始め、吹き飛ばされたエピオンはそのままツインバスターライフルを構える。

 

「なにが仲間だ、そんなもんいらねぇッ! 一人で……一人だからこそ……。俺は……ここまで来れたんだァッ!!」

「私を慕い、散った仲間……。私に手をさし伸ばしてくれた仲間……! 私はいつだって仲間がいたからここまで来れたのだァッ!!」

 

 アルヴァアロンのGNビームライフルから圧縮された高威力ビームが放たれ、エピオンもツインバスターライフルを発射する。二つの高威力のビームはぶつかり合い、拮抗する。

 

「私は負けられん……ッ! 彼らと共に未来を掴むのだ……ッ!!」

 

 エイナルは歯を食いしばる。

 いつだって自分の周りには仲間がいた、いてくれた。

 

 そして今は新たな若い仲間達がいる。

 彼らは若い。その行く末を見届けたい。

 彼らを見ているとそう感じるのだ。

 

 特に翔だ。

 特異な能力を持つ彼は人によって恐れられるのかもしれない、

 だがあの光は希望に見えた。彼がどんな道を進むのか、興味があったのだ。

 

「届け……っ!! 届けエエエェェェェェェェーーーーーーーーーーーーーェェッッッ!!!!!」

 

 その為には前に進まなくてはいけない。

 この光の先の未来へ。

 エイナルは思いの有りっ丈をビームに乗せるかの如く叫ぶ。

 

「粒子量が……ッ!!?」

 

 アルヴァアロンの機体に異変が起きていた。

 それは疑似太陽炉の粒子量が少なくなってきているのだ。

 ただでさえ大量に粒子を使うこのビームを長時間こうして撃ち続けているのだ。この結果になるのは当然であり、徐々にツインバスターライフルのビームが押し始める。

 

「アレは……ッ!!」

 

 このままでは撃ち負けてしまう。

 何とかせねばと思考を巡らせていくうちにセンサーが何かを捉える。それは彼にとって良く知るものだった。

 

「どうしてお前が……なんでお前らが……なんでだアアァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーッッッ!!!!!!?」

 

 シドは怨憎の叫びをあげる。

 それはどこまでも才能と実力を持ちながら上を目指さなかった者達への憎悪の叫びだった。やがてツインバスターライフルのビームにアルヴァアロンは飲まれ、その閃光の中で消えていく。

 

「……ふぅ」

 

 何とかアルヴァアロンを撃破したエイナルは一息つくが、安心はできない。

 ここは戦場なのだ。意識を切り替えようとした瞬間、自分の機体の傍を赤い閃光が通り過ぎる。

 

「あの機体は……ッ」

 

 実際に見たことがなかったが、その機体をエイナルは知っていた。

 同型かと思ったが、〝彼”専用だという話も聞いていた。

 だが、シドの話ではもうこの世にはいないはず。

 

 そしてそれに続く二つの機体。

 その方向は仲間達が進んだ道だ。エイナルもその後を追おうとするもコロニー群の機体に阻まれてしまう。

 

 ・・・

 

「ショウマ、さっさとリーナを連れてアークエンジェルに行きなさいよッ!!」

「お前を置いていけるはずないだろっ!!」

 

 場所は変わり、ここではジェイクとレンを撃破したゴッド達がいる宙域だ。

 

 大破したウィングを庇うゴッドとそれを守るドラゴン。

 アストレイ天と二機のインパルスの波状攻撃に苦しみながらもリンが帰投を促すも、そうすれば手練れ三機を相手にする事になる、そうすればリンが危ない。ショウマはリンを置いていけなかった。

 

「俺は……お前を失いたくなんてないんだッ! もうこりごりなんだよ、誰かが自分達の為にいなくなるなんてッ!! 上手く言えない……。でも……リンにはこれからも傍にいてほしいんだよッ!!」

 

 かつてパナマと核攻撃阻止作戦でその苦しみを味わった。

 自分は見ているだけだったあの苦しみを味わいたくなかった。

 そして何より昔から知り、一緒にいるときは常に傍にいてくれたリンがいなくなるのは何よりも耐えがたかった。

 

「……ッ……。アタシだってアンタの傍にいたいわよッ! アンタの傍でずっとずっと……!!!」

 

 フェイロンフラッグを風車の如く回転させ、自分達への攻撃を防ぎながら、ショウマの本心からの叫びに思わず自分の本音を叫ぶ。

 

「もうハッキリ言ってやるわよ! ショウマ……この世界中にいる誰よりも……ううん……宇宙中にいる誰よりも大好きッ! アンタのお嫁さんになるんだからぁッ!」

「リ……リン……!!」

 

 この際だ。

 もう言えなくなってしまうかもしれない。

 ならばここで思いの丈をぶつけてしまおう。

 そのリンの本音を聞いたショウマはここが戦場にも拘らず、年相応に頬を紅潮させる。

 

「──なら披露宴は必ず参加しなきゃねぇ」

「聞いてるこっちまでこっぱずかしいわ」

 

 すると彼らの機体に良く知る声が通信越しに聞こえる。

 彼らをよく知り、昔から自分達を見てくれた存在だ。

 

「ッ!?」

 

 まもなくアストレイ天に赤い閃光がぶつかる。

 それはかつてショウマ達と刃を交えたアストレイR改だ。

 そしてそれに続くように現れたのはフェズとヤマトがそれぞれ乗るライジングとマスターだった。

 

「先生、どうして……!? それにアイツは……!?」

「今は敵じゃないよ。まっ、ここはアタシ達に任せな」

 

 ライジング達やアストレイR改に驚くショウマは困惑しながらも説明を求めると、アストレイR改に関してはフェズ自身も微妙なのか、敵ではないことを伝えると大破したウィングを見ながらドラゴン達の前に躍り出る。

 

「マヒロ、引け」

「兄さん……!!?」

 

 アストレイR改に乗っていたのはティグレだった。

 海に落ちたアストレイR改をデビルガンダムを追っていたフェズ達によって救われたのだ。マヒロは思いもしない兄の登場に目に見えて動揺する。

 

「あのコロニーはただのコロニーではない……。その中身はあの悪魔のようなガンダムだ……!!」

 

 ティグレの発した言葉はマヒロやリンとショウマを驚かせる。

 言葉だけでは分からないが、リン達にはそれがかつてアフリカタワーで現れたあのガンダムだとすぐに連想したのだ。

 

「じゃあ傍にいる翔達は……」

「レーア、翔、応答しろッ!!」

 

 あのコロニーにデビルガンダムが潜んでいるとすると先行した翔達が危険だ。

 リンが不安を感じながら呟く。すぐにショウマがブレイカー0やダブルオーライザーに通信を取ろうとするが……。

 

 

「きゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっっっ!!!!?」

 

 

 聞こえてきたのはレーアの悲鳴だった。

 悪い事というのは続けざまに起きるとはよく言ったものだ。

 ショウマ達の心を不安が支配する。

 

「なにかあったみたいだね……。ショウマ、その子を連れていきな、リンは前に進むんだ!」

「「は、はい」」

 

 フェズが素早く指示を出すと、二人はおずおずと言われたまま動き出す。

 今の状況が決して良い方向に進んでいるとは思えなかった。

 

 ・・・

 

「翔……!? レーア……!?」

 

 何とか前に進みリンは目を疑う。

 そこには大破したブレイカー0とダブルオーライザーが漂っていたからだ。

 慌てて二機を回収するドラゴン。ブレイカー0には意識がない翔がいることは確認したが、ダブルオーライザーはコクピットが無理やり引きはがされたようで、もぬけの殻だった。

 

「どうなってんのよ……。クッ……!!」

 

 二人とも実力者だ。

 並みのパイロットでは通用しないはずだ。

 しかしその二人が乗る機体がこうも無残な姿になっている。

 リンは絶望しそうになるが、ここは戦場、二機を連れ、そのままアークエンジェルへ向かうのだった……。




ついに発売前日となったブレイカー3。楽しみですねぇ。
この本編は予想では後二、三話で終了予定です。まぁEX編も予定してますので、完結はまだ遠いですが…。

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