機動戦士ガンダム Silent Trigger   作:ウルトラゼロNEO

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30000UAありがとうございます!正直、アンケートも意味ないかなと思いましたが何とか票を貰えて幸いでした。


30000UA記念小説
血のバレンタイン


 

「バレンタイン、ですねっ」

 

 開口一番にそう言ったのはルルだった。

 ここはアークエンジェルの食堂。

 その一角にはルル、レーア、リーナ、リンがおり、レーア達の視線が集中する。

 

「2月14日……だっけ。ぶっちゃけ大昔の風習でしょ? 今はこんなご時世だし物好きがやるって印象しかないわ」

「しかも国によって内容も違ったみたいね。私の周りでもやってた人は少なかったわ」

 

 口にスプーンを咥えながら、僅かに呆れ顔でルルに答えるリン。

 今は戦時中で、バレンタインという風習は風化していった。

 そんなリンに苦笑しながらレーアが頷く。

 

「そう、国によって違ったみたいなんです。ベトナムなどでは男性が女性に尽くす日だったり西欧では男女ともに贈り物をしたりとか! 日本では女性が男性にチョコレートの贈り物をしたりしたそうですよ」

「本っ当にまちまちね。っで、態々バレンタインの話をしてどういうつもり?」

 

 レーアの言葉に同意しながらルルはポンと手を合わせながら独自で調べたバレンタインの風習を口にすると、地域ごとに違ったバレンタインの風習にリンが首を傾げていると、態々この話題を出したルルの真意を知ろうとする。

 

「日ごろの感謝の気持ちを込めて、翔君達に何かプレゼントを送ろうと思うんです!」

 

 意を決してそう答えるルル。そう、今までここまで共に歩んできた翔達に感謝を込めて贈り物がしたかったのだ。

 

「悪くはないわね。私も感謝しているし」

「……でもなにあげんのよ」

 

 ルルの想いに同意し、自分もなにか送ろうと決めたのかレーアが頷き、多少、興味はあるのかリンが横目で問いかける。

 様々な風習があるバレンタイン。

 国によっても贈り物はそれぞれである。

 

「翔はガンプラを上げれば喜ぶと思うわ」

「まぁ確かに。でもあの子ちょっと面倒よね。ショウマが翔が作った赤いザクの事、シャーザクって言ってたから翔の前でそれ言ったら、頑なにシャアザクだって訂正させられたわ。でもそれってアクセントの問題でしょ?」

 

 以前ガンプラを共に作ったことのあるレーアはガンプラを作っている時に見せる翔の少年のような顔を思い出し、提案すると短い付き合いとはいえ翔がガンプラを作っていることを知っているのか、その際起きた出来事と疑問を口にする。とはいえそれは翔にとっては重要な問題である。

 

「兎に角、アークエンジェルはこの先のコロニーで補給を受けます。その際に何か決めましょう」

 

 ルルがこの先のアークエンジェルの予定を口にすると、バレンタインデーの贈り物を行うことが決まり彼女達は名にを送るのか話し合いを続けるのだった……。

 

 ・・・

 

「なぁ翔」

「……ん」

 

 アークエンジェルはあるコロニーに停泊している。補給を受けている間、パイロット達にはしばしの休息が訪れていた。

 ショウマに体術を教わった後、翔の部屋でガンプラを作っている翔とショウマ。ヤスリ掛けを行いながらショウマが翔に声をかけると翔はパーツに集中している為、返事だけする。

 

『ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああっっっっっっっ!!!!!!!?』

「……レーア達なんだけど……」

「……」

 

 遠くから聞こえるリンの絶叫を聞きながら今、アークエンジェルで静かにレーア達に関して噂されていることを口にすると、翔は黙って立ち上がる。

 

 ・・・

 

「なんで弱火で温めろって言ったのに強火でやってるのよッ?!」

「時間短縮になると思って……」

「ジーザス!!」

 

 エプロンに身を包んだリンの怒号が厨房に響く。

 リンの視線の先には焦げた生クリームが。

 焦がしてしまった理由を口にするレーアにリンはその言い訳を聞いて思わず頭を抱え天を仰いでしまう。

 どうせ贈り物をするならば手作りな物にしようとこうして厨房を借りてチョコレート作りに勤しんでいた。

 

「りーんちゃーん」

「ふわぁっ!? なんでリーナは酔ってるのぉっ!?」

 

 同じくエプロン姿のリーナが突然、リンの脇腹に抱き着くと、薄っすらと感じる酒の匂いと頬を紅潮させたリーナを見て、彼女が酔っ払っていることをすぐに気づく。

 恐らくは用意したブランデーを飲んでしまったのだろう。

 

「りんちゃん、私とキャラ被ってるーあり得なーいっ」

「どこがっ!? アタシとアンタのどこがキャラ被ってんのよ!!?」

 

 リンのツインテールをぶんぶんと引っ張りながら据わった目で文句を言うリーナに普段のリーナと正反対の性格のリンは涙目になりながら叫ぶ。

 

「きゃああぁあっ!!?」

「ふぁっ!?」

 

 今度はルルの悲鳴と共にそちらに目を向ければ転倒しているルルとルルが持っていたと思われる宙に舞ったボウルから飛び出て此方に迫りくる生クリームの中身だった。リンはそのまま頭から生クリームを浴びてしまう。

 

「作るならただのチョコじゃなくてアレンジを入れて凄いチョコに……そうGNチョコレートにしないと……」

「りんちゃん、真っ白! 私も真っ白だぁっ! あははぁっ!!」

「ごめんなさい、リンさん、リーナさーん!!」

 

 鍋を見ながらブツブツ呟いてるレーアとリンと自分を指差しながらゲラゲラ笑っているリーナ、そしてリンやリーナに生クリームを誤ってこぼしかけてしまったルルはひたすらに謝る。リンはひたすらに俯き、表情こそ見えないが震わせている肩からその感情が読み取れる。

 

 ・・・

 

「「うあぁっ……」」

 

 食堂の入り口から顔を覗かせ今までの光景を見ていた翔とショウマはあまりの惨状に言葉を詰まらせる。

 

「やべぇよ。リンなんて怒りのスーパーモードだよ……」

「GNチョコレートってなんだよ……。口の中がトランザムバーストするのか……?」

 

 リンの様子を見て、口元を抑えながらあまりの状況に同情し、一人なにか行っているレーアを見ては翔は不安を募らせる。誰が食べるにせよ、流石に想像ができなかった。

 

 ・・・

 

「翔君、ショウマさん、どうぞ!」

 

 さて日付は2月14日のバレンタインデー。

 翔とショウマは早速、ルルからチョコレートを貰っていた。

 

「ありがとう」

「サンキュー」

 

 可愛らしい小包の中に入っていたのはトリュフである。

 あの惨状から生まれた物とは思えないくらいだ。二人は素直に礼を言い、受け取る。

 

「皆にプレゼントしてんだって?」

「はい、日頃の感謝を込めて……。さっきもグレイさんにあげたら後十年は戦えるって」

 

 ルル達がなにやらチョコを配っていると言うのはショウマも耳に挟んでいた。

 厨房の一件もその為だろう。ルルは頷き、先程グレイに渡した際の反応を口にする。

 

 ・・・

 

「……チョコ」

 

 あの後、ショウマやルルと別れた翔は今度はリーナに出会い、リーナからもチョコを渡される。ルルとは違った梱包の仕方は彼女達の個性が見て取れる。

 

「……リラックス効果あるって聞いた。シーナお姉ちゃんに出会わせてくれた貴方には感謝している。だから食べて休んでほしい」

「ああ、ありがとう……」

 

 目の前のリーナは普段のリーナだが厨房で大笑いしていたリーナの事が脳裏に蘇り、自分を案じてくれているリーナには悪いが言葉が頭の中に入ってこない。

 

 ・・・

 

「……はい」

「リンも悪いな!」

 

 そっぽを向きながら両手でチョコを突き出してくるリンにショウマは笑顔で受け止める。包まれたチョコを眺めているショウマを少し不安げに横目でチラチラと見ていた。

 

「皆に教えるついでに作っただけよ! こんな物でアタシの気持ちを推し量んないでよね!」

「ついででもリンが作ってくれたって言うのが嬉しいぜ、ありがとな」

 

 素直になれず腕を組み相変わらずそっぽを向きながら答えるリンに、ショウマは眩しいまでの笑顔をリンに向けながら礼を言う。

 

「恥かしげもなくそんな台詞……」

「そうでもないって。俺、リンだから言えることいっぱいあんだぜ。なんだかんだでこのアークエンジェルじゃリンが一番長い付き合いだし俺の事、一番分かってくれてんのはリンだろ」

 

 呆れとそんな風に言えるショウマを羨ましく思い、思わず口にしてみるとショウマの飾らない本心の言葉に目を見開き、途端に顔を林檎の如く紅潮させる。

 

我爱你(ウォーアイニー)……」

 

 自分はショウマのこういう素直で真っすぐな所に憧れ惹かれたのだと改めて感じ、自分も素直になってみようと小声ではあるがある言葉を口にする。

 

「なんか言ったか?」

「なんでもないっ!」

 

 しかしその言葉は小さくショウマには聞こえていなかったようだ。

 聞き返してくるショウマに対し、リンは耳まで真っ赤にさせ俯いて怒鳴り声にも似た声を上げるのだった。

 

 ・・・

 

「……翔、これ」

 

 一方、翔はレーアに出くわしていた。

 目の前で恥かしそうにチョコを差し出すその姿は年上ながらも可愛らしく見えるが、どうにも厨房で聞いたGNチョコレートが頭から離れない。

 

「その……食べてほしいの」

「……ああ」

 

 もじもじと顔を紅潮させながら言う姿も可愛らしいし、そう言われては食べないわけにはいかない。

 翔はレーアとそのまま休憩所のベンチに腰掛け、包まれた小さな丸いトリュフを取り出し、口にする。

 

「……どう、かしら。味見はしたのだけれど……」

 

 元々、無表情の翔はトリュフを口にしたまま大きな反応を見せない。

 そのことは分かってはいるが、レーアは不味かったのではないかと不安になってしまう。

 

「……美味しいよ。目の前で大きな星が点いたり消えたりするくらい」

 

 不味くはない。

 チョコレート特有の甘みもある……が強いて言えば独特な味と言うべきだろうか。食べれば食べるほど意識が朦朧としてくるくらいだ。なんてことない、チョコレートだ、うん。

 

【──でも隠し味は一つに絞ったほうが良いかな】

「えっ?」

 

 ふと翔の雰囲気が変わったように見える。瞳の色も紫色に変わっているのは気のせいだろうか。

 チョコを一つ食べ、微笑を浮かべる目の前の翔を見て、レーアはひどく懐かしい気分になる。まるで数年ぶりに最愛の家族に出会ったような気分だった。

 

【後はブランデーの量も少なくしたほうが良いかも。美味しいものをプレゼントしたいっていう素敵な乙女心が隠し味の一つに入っているから、後はレシピ通りにすればもっと素敵な物になるよ。アレンジしたい気持ちは分かるけど、それはもっとスキルアップしてからだね。マニュアル通りなんて、っていう言葉もあるけど先人が残した偉大な物は活用しないと】

 

 目の前の微笑を浮かべ、助言をする翔?を見て、素直に頷いてしまう。

 今の翔?の言葉がスッと胸の中に入ってくるのだ。勿論、なぜそうなのかは分からないから困惑するが。

 

「翔、これ……」

「……え?」

 

 するとレーアは持っていた紙袋を翔に渡す。

 するとそこで翔の雰囲気は先程とまた変わり、数分前の無表情のものへと切り替わり、紙袋を受け取る。

 

「プラモデル。翔好きでしょう? 私、詳しくないから好みの物かはわからないけど……」

「……ありがとう」

 

 そう、紙袋の中身はプラモデルだ。

 かつて翔と共に作ったがプラモデルに詳しくない。

 そんなレーアがチョイスしたものとは何なのか興味がないわけではなかった。

 翔は紙袋の中身を見ようと顔を覗かせると……。

 

「ガ……ガ○ガル……! ヒュ……ヒュ○ケバ○ン……!?」

 

 紙袋の中身を見て絶句する。

 まさかこの世界にもあるとは思っていなかった。

 寧ろヒ○ッケ○インに関しては今、もらえたら普通のガンプラよりも嬉しい気がする。




どこが血のバレンタインなの?っていう突っ込みはなしでお願いします。タイトルが単純に思いつかなかっただけなんです…。

さて改めて30000UAありがとうございます。小説も終盤ですがこれからもよろしくお願いいたします!

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