機動戦士ガンダム Silent Trigger   作:ウルトラゼロNEO

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フロンティアⅠ─宇宙に散る花─

 

「お前もかァッ……!」

 

 紅く輝きながらこちらに向かって来るネメシスに憎悪のような叫びをあげながらターンXが向かって行く。

 ビームナギナタとターンXのアームユニットからのビームサーベルがぶつかり合い、剣戟が始まる。

 

「貴様を探していた……! ずっとッ!!」

「ご苦労なこった……ッ!」

 

 反発するかのように離れ、そしてすぐさまぶつかり合うネメシスとターンX。

 接触回線を通じて聞こえたルスランの憎悪の言葉に鬱陶しそうにインゲンスは答えると機体を分離させオールレンジ攻撃を始める。

 

「ファンネル達よッ!!」

 

 無様に攻撃を受ける気などない。

 展開中のファンネルに呼びかけ、オールレンジ攻撃に対応させる。

 

「コクピットは……。それかッ!!」

 

 オールレンジ攻撃をしかける部位の中で頭部だけが何もせず距離を置いていた。

 その事から恐らくは頭部がコクピットなのだろうと考え、ネメシスはコクピット目掛けてビームライフルに持ち変えることで銃撃を始める。

 

「ハッ……! 殺す気満々ってわけかい……! 良いぜ、そういうの……大好きだ」

 

 ネメシスから明確な殺意を感じる。

 どこまでもどす黒く自分を殺そうという意思を全身に感じる。

 常人ならば身震いしそうなその負の意思を寧ろインゲンスは心地よさそうな顔を浮かべる。

 

「気に入ったぁっ! これこそ戦いだッ! 死と隣り合わせだからこそ生を実感できる!」

「この……ッ……戦闘狂がァッ!!」

 

 ターンXトップは銃撃を避けると共に再合体。先程までと打って変わって高笑いしながらインゲンスは脚部のメガ粒子砲を放つと、ネメシスは旋回することで避けながらターンXに近づいていく。

 

「褒め言葉だ……! その力、もっと見せてみろ! お前はあの女とは違うだろォオッ!!?」

「言われずともシーナお嬢さんの仇はこの手で討つッ!!」

 

 エヴェイユの力はシーナを思い起こさせて不快ではあったが、ルスランのように明確な殺意を持って戦いを仕掛ける相手を寧ろ快く思っていた。

 相手を喜ばせているのは不本意であるが、このパイロットだけは絶対に自分の手で始末する。ターンXとネメシスの戦闘はまるでアニメかなにかのようにど派手になっていく。

 

【こんな事……私は望んでない……。エヴェイユの力も……私は分かり合うために使いたかった……】

 

 自分の復讐のために動くルスランが自分と同じ力を復讐の為に使う姿を見てシーナは心を痛めていた。

 

 そんな姿など見たくはなかったのだ。

 それも自分が原因で。

 

 シーナの悲痛な声を翔は黙って聞きながらシーナはつくづく戦いに向いている人間ではないのだと思う。

 

「……言葉や意思を伝えるだけが分かり合う方法じゃないのかも」

【え……?】

「奴は戦うことを喜びにしてる……。それは俺にも分かる……。そんな奴から戦いを取り上げて、話し合いをしましょうなんて言っても反発するだけだし……仮に出来たとして何時かは爆発する……。多分、酷な話なんだと思うんだ」

 

 ポツリと呟く翔にシーナは思わず聞き返してしまう。

 すると翔は自分なりに感じたままのことを答える。

 

 インゲンスは戦闘狂だ。

 そんな存在から戦いを取り上げるなどは彼にとっては酷な話だろうと。

 

【でも、それじゃあいつまで経っても分かり合えないままだよ!】

「うん……。色んな人がいるからぶつかり合う。だって皆、個を持ってるから。皆が皆同じじゃないから。だからこそぶつかり合って憎みあう。全ての人間が分かり合う事は難しいんじゃないか」

 

 翔の言葉にシーナが反発する。

 そんなことを言っていてはいつまでも戦いを繰り返す世界になってしまう。

 

 勿論、それは翔も分かっている。

 だからこそ分かり合う事がいかに難しいのかを感じる。

 

 何故なら一人一人違うから。

 

 アフリカタワーの時もそうだ。

 ティア達のような存在もいれば、エヴェイユを恐れる者たちだっている。

 

【そんな事は分かってるけど……じゃあ……あの人と分かり合うにはどうすれば良いの……?】

「言葉が……話し合うだけが分かり合う術じゃない……。ショウマやフェズ達じゃないけど……ぶつかり合うことで分かり合える時だってあるんじゃないか。勿論すべてがそうだとは言わないけど」

 

 いかにエヴェイユであり、翔をこの世界に呼び寄せたシーナといえども完璧ではない。

 そんなシーナがか細い声で問いかけて来ると、翔はネメシスとの戦闘を繰り広げるターンXを見つめる。

 

【……翔、私に任せてもらって良い?】

「……ああ」

 

 翔の言葉に何か思うところがあったのか、シーナは先程とは変わり、ハッキリと翔にそう願うと翔は静かに頷き目を閉じる。

 

【シーナ・ハイゼンベルク、ガンダムブレイカー0行きます!】

 

 目を開いた翔の瞳の色は覚醒時とは違い両目とも紫色だった。

 シーナの意識が全面に出ているのだ。

 シーナ・ハイゼンベルクとしてブレイカー0を動かしネメシスやターンXへ向かっていく。

 

「邪魔をするなぁッ!!」

【ッ!】

 

 ターンXとの戦闘に割って入ったブレイカー0に対し、復讐の邪魔だと怒りのままビームナギナタを横一線に振るうもすぐさま反応したシーナが二つのビームトンファーを使って受け流す。

 

【ルスラン、私のことを考えてくれるなら復讐なんて止めてッ!】

「ッ!?」

 

 脚部を使ってビームナギナタを蹴り飛ばしたブレイカー0はそのままネメシスを掴み、接触回線を通じてそう告げる。

 二つのエヴェイユの光は機体を通じて交じり合うように動き、ルスランは目を見開き動きを止める。

 

「今のは……シーナ……お嬢さん……?」

 

 動きを止めたネメシスを一瞥し、そのままターンXへ向かっていく。

 そんなブレイカー0の後ろ姿を見ながら信じられないと言わんばかりに呟く。

 だが確かにブレイカー0がネメシスに触れた際にシーナの存在を感じたのだ。

 

「チッ、邪魔しやがって……! お前は俺を殺そうって感じじゃないな……!!」

 

 ネメシスとの戦いに割って入り、ビームトンファーとファンネルを駆使して向かってくるブレイカー0を見ながら、鬱陶しそうに呟く。

 ネメシスとは違い、目の前のガンダムからは殺意は感じなかった。

 

【やっと戦う気になったよ】

「な……に……!?」

【あの時と違う……私の全て……受け止めてね】

 

 機体同士がぶつかり合い接触回線を通じてシーナ、厳密に言えば翔を通じてのシーナではあるが声が聞こえ、インゲンスは珍しく動揺する。声こそ違うが明確にあの時の殺したはずの女の意思を感じたからだ。

 

「つくづく化けモンだな、お前は……ッ! 化けて出やがったかッ!!」

 

 背部のキャラパスからビームライフルを撃ちつつ、インゲンスは叫ぶ。

 忌々しいとすら感じた女が何らかの形でまた自分の前に現れた。

 普通ならば信じられないが超常現象に関してはシーナの一件以来、このような形で表れても疑いは持たなかった。

 

「他人に憑りついて、復讐か!?」

【違うよ、アナタと全力でぶつかり合う、それだけ!】

「良いぜ……。何度でも殺してやる……!!」

 

 恐怖を通り越して面白かった。

 あの時、殺した女をまた殺せると思えば悪くない。

 そして何よりあの時とは打って変わり、戦う気はあるようだ。

 インゲンスの口角は異常なまで吊り上がる。

 

【接近戦じゃ負けないッ!!】

 

 まるで見惚れてしまう演武のように両腕のビームトンファーを駆使してターンXに斬りかかる。

 攻撃をしようにも矢次にファンネルからの妨害を浴び、迂闊に行動が出来なかった。更には腰部のレールガンをそのまま密着状態で受けてしまう。

 

【でええぇぇぇやぁあっっ!!!】

 

 手を組むように二つのマニュビレーターを合わせてそのまま胴体部へと突き刺すブレイカー0。大出力のサーベルはターンXのキャラパスごと打ち破る。

 

【これが……私の本気だよ】

「面白ぇ……! 手も足も出ねぇたぁな……。気に入った……。強ぇよ……アンタは……! ククッ……ハハッ……!」

 

 シーナの本気を垣間見て満足げに笑みを漏らす。

 以前戦った際ははっきりと分かるくらいに手を抜かれていた。

 それがあの時、憤怒した大きな原因の一つだった。

 しかし今はその実力が見れて満足だった。

 

【っ!?】

「───シーナお嬢さん!!」

 

 するとターンXの背後から碧色に輝く巨大な蝶の羽のような物が姿を現す。

 

 月光蝶だ。

 

 息を呑み驚いて動けないブレイカー0を横からネメシスがターンXから掻っ攫うように掴み、すぐさまターンXから離脱する。

 

「ハハハッ……アーッハッハッハッハッハッ!!!!!!」

 

 ターンXの月光蝶はまるで傷ついた自機を包むように広がっていく。

 そんな中でインゲンスは少年のような大きな笑い声をあげていた。

 

 生前のシーナと過去に戦った時点で自分よりも強いのは分かっていた。

 なのに手を抜き戦いたくない、など寝言を言ったからこそ自分は怒り狂った。

 だが今は全力で戦えて心から満足だった。その高笑いは機体を包み始める月光蝶が繭のようになるまで聞こえた。

 

【どう……なったの……?】

『分かり安く言えば多分、疲れたから眠りについた……って感じかな。アレは人の手に余るモノだ。完全に破壊することだって難しいと思う。あのまま宇宙を放逐させておくのが一番だと思う』

 

 繭に包まれたターンXはそのまま宇宙空間を彷徨い始める。

 遠くなっていくターンXを見ながら、あの現象がなんだったのかシーナが誰に問うわけでもなく呟くと内側から翔の声が聞こえる。

 翔は損傷が大きかった故にあのような形で自己修復に入ったのだと感じたのだ。

 

 ・・・

 

「私に集るな、ハエがぁあっ!」

 

 一方、ラフレシアとの戦闘を繰り広げるのはエピオン、ゴッド、ダブルオーライザー、ドラゴン、ウィングの五機だ。どれも高性能でありエースである彼らは確実にラフレシアを追い詰めていた。

 

「ゼロ、私を導けッ!!」

 

 GNランスの内蔵型のビームを発砲しながらラフレシアに近づいていく。

 だがテンタクラーロッドの妨害に遭い、中々思うようにはいかなかった。故にエイナルはゼロシステムに攻略法を求める。

 

「──そんなもん頼らなくたって俺達が導いてやるよッ!!」

 

 ゼロシステムに委ねようとした瞬間、活気溢れるショウマの声によってそちらに意識を向ける。

 確認すれば自機に迫りくるテンタクラーロッドをゴッドが躍り出て、二本のゴッドスラッシュの出力を上げ竜巻の如く回転し、テンタグラーロッドを破壊しているのだ。

 

「うざったいてぇの! オジサンの邪魔はさせないわっ!!」

「……この先に貴方が求める未来があるなら私達が切り開く」

 

 今度はドラゴンとウィングがそれぞれテンタグラーロッドを破壊しながらエピオンに進むべき道を与える。その切り開かれた道をエピオンとダブルオーライザーが進む。

 

「行って! 仲間のため、なによりもあなたの為にッ!!」

 

 再びテンタグラーロッドが放たれ、機体をそれぞれ交差させながらエピオンとダブルオーライザーがそれぞれの武器で切り裂くとダブルオーライザーを通じてレーアが促す。それに頷いたエイナルはラフレシアへ突撃する。

 

「ベロニカアアアアアアァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーアアアアアッッッッ!!!!!!」

「きいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーっっっっっっ!!!!!!!!!」

 

 まさに魂の咆哮のようにベロニカの名を叫びながらラフレシアに向かっていく。

 いくら射撃やテンタグラーロッドを放っても、エピオンは悉く掻い潜り近づいてくる。

 どこまで自分を苛立たせるエイナルにベロニカは奇声に似た声を上げる。

 

「今、貴様を部下達の元へ送ってやる! 地獄の釜でその身を焼かれ続けろォオオッッッ!!」

 

 ラフレシアに近づき、思いの丈をぶつけながらケビン機のGNランスを投擲する。

 まっすぐ伸びたGNランスはラフレシアの露出されたコクピット目掛けて突き進む。

 

「なんでだ、なんでお前なんかにィイイイッ!!!!!」

「敵だった私に手を差し伸べてくれた者達がいる、仲間がいるのだ! 簡単に仲間を切り捨てるお前などに負ける筈がないッ!!」

 

 迫りくるGNランスに半ば発狂しながらベロニカは叫ぶと、エイナルは自分を導き、背中を押してくれた新たな仲間達を背後に感じながら強く、そして誇りに思いながら叫ぶ。GNランスはラフレシアのコクピットに突き刺さり、大爆発を起こすのだった。

 

 ・・・

 

「……本当にシーナお嬢さんなのか?」

【……うん。今はこの人の体の中にいるけど……。ねぇルスラン……もう止めて】

 

 ネメシスは抱かれるような形でいるブレイカー0に接触回線による通信を行うと、ルスランの問いかけにシーナは答えながら復讐の道を歩むルスランを止めようとする。

 

【復讐をするルスランなんて私、見たくない……】

「……私は貴方を心から愛していた。誰よりも……。貴女を失った代償は貴女を死に追いやった者達の死でしか償えない……! 自己満足だと言うのは分かってはいます……」

 

 シーナは悲痛そうな声でルスランに訴えかける。

 そんな言葉にルスランは心を痛めるがそれでも今更、復讐の道から外れるなど出来なかった。

 

【今のルスランは嫌いだよ……。その自己満足が私を苦しめているのが分からないの……? ルスランが誰かに復讐すれば、その人を失った誰かがルスランに復讐に来るかもしれない……。そんな負の連鎖がある世界なんて私とお父様が願った世界にはないよ】

「それ……は……」

 

 シーナの言葉の一つ一つがまるでナイフのように心に突き刺さる。

 分かっていたことだ。

 シーナが復讐を望んでいなかったことなど。

 

【ルスラン、本当に私を想っているのならあの人を止めて】

「ヴァルター様を……ですか……?」

 

 シーナの言うあの人とと言うのはすぐに理解出来た。

 ヴァルターの事だろう。

 確かに今のヴァルターは自分と同じで変貌し、シーナを奪った世界に対して復讐をしようとしているように見える。

 

【……あの人はヴァルター・ハイゼンベルクだった人。私の知っている高潔なお父様は死んじゃった……。今のあの人は世界を破滅させる悪魔だよ。止めないと私とお父様が願った世界とは正反対の世界になってしまう……。だからルスラン、私達に力を貸して】

 

 今のヴァルターはヴァルター・ハイゼンベルクであってそうではない。

 自分の死が切っ掛けとはいえアルティメットガンダムやリーナなどあのような行いをする人物を父だとは思いたくなかった。その為にルスランに協力を求めたのだ。

 

「……考えさせて欲しい……。私とて今のヴァルター様がおかしな事くらいは分かっている」

 

 変貌したヴァルターのことは今までも何度だって考えてきた事だ。

 

 だが彼には恩義がある。

 今までその為について来たのだ。

 

 ネメシスはブレイカー0を突き放し、背を向けるとグワデンへ向かう。

 ラフレシアが落ちたことはルスランも知っていた。

 これ以上の戦闘に意味はない。

 ブレイカー0もそんなネメシスの背を見つめる。

 

【ルスラン……】

「……」

 

 去っていくネメシスを見ながら、シーナは意識を再び内側に戻していく。

 シーナの呟きを内側から聞きながら表に出た翔の意識は去りゆくネメシスを見つめる。

 

【……ねぇ翔……。分かり合うのって本当に難しいんだね。時には全力でぶつかる事が必要な時があるのは分かったけど私はやっぱり争いなんて嫌だな……】

「それがシーナの個だよ……。その個を否定する気はない。でも、本当にヴァルター・ハイゼンベルクを止めたいのなら……」

【分かってる、その時は全力でぶつかるよ】

 

 戦いを純粋に楽しむインゲンス、復讐の道を行くルスラン。

 彼らと手を取り合うのは難しいのかもしれない。

 

 ここだけではない。

 もしかしたら世界には決して分かり合えない人物だっているだろう。

 改めて自分や父が掲げた理想の難しさを感じるシーナに翔は自分なりの言葉を言うと、シーナは父を止めるため改めて決意するのだった……。

 

 しかしそんな彼女の思いとは裏腹にヴァルターによって一つのコロニーが地球に向かっていく……。

 それは終わりの始まりだった……。

 




今回のシーナの入れ替わりに関して分かりやすく言えば仮面ライダードライブのタイプトライドロンなどを参考にしていただければ分かり易いかと。入れ替わりに関してはもっと早くにやりたかったんですが、中々思うように出すタイミングを得られず今回初になりました。

さて次回はちょっとした日常回になります。その後は最終決戦です!

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