機動戦士ガンダム Silent Trigger   作:ウルトラゼロNEO

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フロンティアⅠ─悲しみのかけら─

 

「……」

 

 宇宙へ上がる為、コロニー軍はシャトルを利用しての打ち上げが行われていた。

 そのシャトル内ではマヒロがおり、窓の方向を見つめていた。

 だが別に窓から映る景色を見ているわけではなく、愁いを帯びた表情は彼の心中を表していた。マヒロは数日前の出来事を思い出す。

 

 ・・・

 

「人っ子一人いねえ。まさかこんな場所に身を潜めているなんてなぁ。ハイゼンベルク准将が知らせてくれなけりゃ時間がかかったぜ」

 

 ここは日本。

 この小さな島国でかつてアフリカタワーに現れたデビルガンダムがいるという報告を地球攻略作戦の司令官を務めるヴァルター・ハイゼンベルクから直々に伝えられ、タクティックス隊などの一部の小隊が向けられた。

 

 海に面した人気のないこの場所にデビルガンダムは鎮座していた。それを見ながらアストレイBSRに乗るシドがぼやく。

 

(……しかし、こんな状態でも自己修復をしている……。これが……人間が作り出せるものなのか……。いや……作って良いものなのか……)

 

 シドのぼやきは通信越しでも聞こえてはいるが、そんな事よりもティグレは目の前の機能停止したかの如く動かないデビルガンダムを見つめながら考える。

 我々コロニー軍は踏み入れてはいけない領域に入ったのではないかと。

 

「……ッ」

 

 アストレイR改はデビルガンダムに近づき、カメラをズームしてデビルガンダムを見ていると、そこであることに気づく。

 デビルガンダムのコクピット部分がかつてのアフリカでの戦いの際に傷ついた箇所から内部が露出していたのだ。そこにいた人物にティグレは息を呑む。

 

(女の子……だと……!?)

 

 内部にいたのは金髪の少女だった。

 ボロボロの少女は触手にその身を拘束され、生きているのかも分からないほど状態が酷かった。

 

「──なにッ!?」

 

 兎に角、今はコクピットの少女を救い出すことが先決だ。

 そう思い、アストレイR改は更にデビルガンダムのコクピットへ近づいた瞬間、コクピットから伸びた触手がアストレイR改を襲い、すぐさまガーベラストレートを引き抜いて対処したことで事なきを得るが、デビルガンダムの今の行動はまるで少女を放す気はないと言わんばかりだった。

 

≪──兄さん!!≫

「……どうした、マヒロ」

 

 別行動を取っていたマヒロからの通信にティグレはデビルガンダムから目を逸らすことなく答える。

 上ずったようなマヒロの声と共に送られてきた映像を見て、ティグレも表情を僅かに引きつらせた。

 

≪兄さんに言われた通り周辺を調べたら、地下にこんな物が……≫

 

 マヒロが送って来た映像には無数のカプセルがあり、銀色の鱗で覆われた骸骨がいた。それはかつてアフリカでティグレが見たものと同じだった。

 

≪……カプセルに眠っているのは日本人だよ。もしかしたらこの骸骨は……≫

「……マヒロ、一度戻って来い。下手な事をして彼らを危険な目に遭わせるわけにはいかない。医療チームを要請する。彼らに任せよう」

 

 ある考えを思い立ったのかマヒロが声を震わせていると、冷静なティグレの判断に従う事にした。

 

『アイツの持つ細胞に感染されたが最後、アイツの支配下に置かれる生きる屍になっちまう』

 

 思い出すのはかつてのアフリカで出会ったパイロットの言葉が。

 ティグレの中である考えが浮かんでいた。

 

 ・・・

 

「他の部隊や輸送班はもうすぐ来るってよ」

「……その必要はないと伝えろ。ここでこの機体は破壊する」

 

 マヒロとの合流後、シドが他の隊からの知らせをティグレに報告するも、ティグレからの返答に怪訝そうな顔をしていると、モニターに映るアストレイR改はガーベラストレートとタイガーピアスを引き抜いていた。

 

「機体を破壊し、中の少女を救い出す」

「なに言ってんだよ、そんな事したらただじゃ済まないだろッ!!」

「上には既に破壊されていたと伝えろ。この機体は所属不明の者達が狙っているからな」

 

 ティグレの中でデビルガンダムは人類が所有するにはまだ早い代物だという結論に至り、これを破壊する事にした。

 

 珍しく表情と声から純粋な怒りを感じる。

 ティグレの怒りを感じながら止めようとするシドだが、ティグレの意志は変わらないようだ。

 

「お前軍人だろッ!? なに考えてんだ!」

「軍人である以上に私はティグレ・インスラという人間だ。年端のいかない少女をこんな得体の知れない機体に乗せるだけではなく民間人をも利用して私兵にする……。人間がやって良い事ではない。私は自分が信じる道を歩く」

 

 かつてアフリカで戦闘したゾンビ兵。

 そしてマヒロが送って来たゾンビ兵のプラント。

 そこに眠るゾンビ兵とこの地域に住んでいた民間人と思われる日本人達。

 例えこれが上層部の意向だとして、自分はこのような行いを認めるわけにはいかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ったく、これだからお坊ちゃまは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アストレイR改の機体に衝撃が走る。

 機体を確認すれば、胴体部にアーマーシュナイダーの刃が貫いていた。

 ティグレは信じられないと言わんばかりにカメラを後方へ向けるとアストレイBSRがアーマーシュナイダーを持って確かにそこにいた。

 

「兄さんッ!!?」

「おっと動くなよ、マヒロ。……お坊ちゃまでも優秀な奴だと思ってついて来たが、こんな事になるんならここまでだな。俺にまで迷惑かけられたら堪ったもんじゃねぇ」

 

 コクピットではないものの胴体部に直撃を受けたアストレイR改にマヒロが悲鳴のように叫ぶと、マヒロを制止ながら今までティグレには良い感情は持っていなかったのか、吐き捨てるように言い放つ。

 

「民間人を利用する? 良いじゃねぇか、アフリカの時だってありゃ、地球の奴らだ。地球の奴らがどうなろうがどうでも良いし、寧ろ俺達の兵になるんだったら御の字だろ」

「人が人を道具にするなど……! その考え……このやり方……人間がして良いものではない……ッ!」

 

 シドが口元に歪な笑みを浮かべながら心底、愉快そうに言い放つと、ティグレはその言葉を否定しながらアーマーシュナイダーの刃から逃れ、アストレイBSRと対峙し反撃に備えガーベラストレートを向ける。

 

「──タクティックス隊、どうした!?」

 

 そこに遅れてきた部隊と輸送班が通信を入れてくる。

 損傷を受けたアストレイR改とそれに対峙するように立つアストレイBSRとブリッツ。

 尋常じゃない空気は遠巻きでも感じられていた。

 

「ウチの隊長がこの機体を破壊するって聞かないんですよ。それを止めようとしたらこんな状況です」

「なに?それは本当か!?」

 

 シドがわざとらしさを感じるような声で通信越しの隊長機に伝えると、まさかタクティックス隊の隊長がそのようなことをするとは信じがたいのか、隊長機がティグレに通信を入れようとするが……。

 

 《『……その必要はないと伝えろ。ここでこの機体は破壊する』》

「これが証拠ですよ」

 

 外部スピーカーから先程のティグレとのやり取りを流される。

 ティグレを追い込もうとしているのだ。

 

 元々気に食わなかったティグレだ。

 この際。ティグレが堕ちていくさまを見たかった。

 

「……ティグレ隊長。身柄を拘束させてもらうぞ」

「……ッ……」

 

 信じがたい事に変わりないが、音声まで流されてはティグレの身柄を拘束する他ない。

 隊長機からの通達にティグレは表情を険しくさせると……。

 

「……悪いが断る」

「なにっ!?」

「私は私の信じる道を行く……。私はこの機体を見て、コロニー軍を蝕む悪意を感じたのだ……。私はそれを見過ごす訳にはいかない。私はそんな悪意には屈しない……ッ! 私は私に出来る事をする……。ここで捕まる気はないッ!!」

 

 静かに呟くティグレに予想外の返事に隊長が驚いていると、ハッキリとした力強い意志を感じるその瞳をデビルガンダムへ向けて、上空に飛び上がる。

 

「クッ……撃てッ!!」

 

 隊長機の言葉を皮切りにMS隊の射撃が飛び上がったアストレイR改に向けられ、アストレイR改はガーベラストレートとタイガーピアスを巧みに動かして弾く。

 

「兄さんッ!!」

「動くなっつてんだろ。利口なお前なら分かんだろ、今、どうすべきか」

 

 射撃を受け始めたティグレにマヒロはティグレの元に向かおうとするが、シドに止められる。

 確かにシドの言うように今、兄の為に動けば兄同様、あの銃口は自分にも向けられるだろう。

 

「グッ!?」

 

 だが幾らティグレと言えど損傷を受けた機体では限界があるのか、射撃を受け始め、それを皮切りに直撃が多くなっていく。

 通信越しに聞こえるティグレの苦悶の声にマヒロは動こうとするが……。

 

「──マヒロ!」

 

 損傷が大きくなっていくアストレイR改のティグレから直接、ブリッツに通信が入ると、思わず動きを止めてしまう。

 

「軍人や家は関係なくお前は……お前が信じた人の道を行けッ! お前が出来る事をするんだ……ッ!!」

 

 遂にはビームが海上に出たアストレイR改を貫いていく。

 そんな中でティグレは最後に弟に自分が言える助言をすると、バーニアに直撃を受け、そのまま海に落ちてしまう。

 

「やったか!?」

「……まっ生き残ったとしてもあんな機体の状態で海に落ちたんだ。助からないでしょ。なぁ、マヒロ」

 

 海に落下し沈んだアストレイR改に隊長は確認しようとするが、シドはあの機体状況では助からないと判断し、あえてマヒロのブリッツの肩部に手を置いて、接触回線で言うと、マヒロは俯いたまま何も答えなかった。

 

 ・・・

 

(……兄さん、貴方は馬鹿だよ……。あんな結果じゃ出来る事もなにもないじゃないか……。僕は……)

 

 かつての出来事を思い出し、兄のあの行動は愚かだと判断した。

 破壊すると言っても反対しないと、兄はシドを買い被っていたのだろう。

 

 だが、別にシドは好きでティグレの下にいるわけじゃない。

 どちらかと言えば兄を嫌っていた。

 その事を兄は知らなかったのだ。

 だからあのような結果になった。

 

 自分はあのような過ちは犯さない。

 マヒロの瞳はどんどん冷めたものへと変わっていくのだった……。

 

 ・・・

 

「ショウマ、入るわよ」

 

 場所は変わり、宇宙。フロンティアⅠへ向かうアークエンジェル内にて翔を探していたレーアが翔がショウマの部屋にいると聞き、彼の部屋に訪れていた。

 

「って……なにやってるのッ!?」

 

 するとそこには翔がショウマに関節技を受けている光景とそれを眺めるリンとリーナの姿があった。

 

「翔の奴が体術を覚えたいって言うもんだから」

「えっ……?」

 

 関節技を解き、グッタリと倒れている翔を見て苦笑しながらショウマが立ち上がるとレーアはまさか翔がそんな事を言うとは思わなかったのか、翔を見る。

 

「……さっき護身術の話になったんだ。リーナも知らないだろうと思ってたら俺だけ何も知らなくて……。さっきリーナに投げ飛ばされたんだ……。だから教えてもらおうと……」

 

 元々身体を動かすタイプではない翔は体力切れしているのか倒れたまま口だけ動かす。

 翔の言う通り、先程、その話題になりリーナも知らないと思っていたが、私、知ってるけど、というリーナの言葉と共に自分の身体は宙を舞った。

 その事から自分も体術を覚えたいと今、ショウマに教えを請うたのだ。

 

「けど人に教えるってのも悪くないよな。お陰で俺も学ぶことあったし」

「人に教えるって言うのも修行の一つ……ってことかもね」

 

 腕を動かし、体を解しているショウマの呟くに同じく格闘技を使い、少林寺拳法の修行中の身であるリンは同意する。

 

「……それでレーアお姉ちゃんはどうしてここに?」

「えっ……あぁっ……そろそろフロンティアⅠ周辺宙域に着くわ。フロンティアⅠはもう占拠されていて私達に出撃命令が出たわ」

 

 壁際で体育座りをしていたリーナがポツリとレーアの目的を聞くと、いまだに息を切らせて倒れている翔を見ていたレーアは慌ててルルからの指示を知らせる。

 

 ・・・

 

「フロンティアⅠか……。なんたって奴ら、今更あんな場所を?」

「フロンティアⅠは小惑星から鉱物資源の発掘を行っているわ。それを狙っての事じゃないかしら」

 

 ショウマとリンを除き、パイロットスーツに着替えた翔達は格納庫に向かっていた。

 その道中でショウマが何故コロニー軍はフロンティアⅠを狙ったのか疑問を感じていると、それにレーアが答える。

 

「随分と詳しいのね」

「私はフロンティアⅣに住んでいたのよ」

 

 フロンティアⅠの鉱物資源のことは知らなかったリンが感心したようにレーアに喋りかけると、微笑を浮かべながらレーアが答える。

 

「あれ、そういやフロンティアⅣって敵にぶっ壊されちまったって聞いたぜ」

「そうね」

 

 翔とレーア達が初めて出会った地であるフロンティアⅣ。

 だが今はもうない。

 その事をショウマが口にすると、事実なのでレーアは頷く。

 

「そうか……。それでレーアは戦っているのか……」

「え……?」

 

 納得したようにうんうんと頷くショウマに呆気にとられたような顔を浮かべるレーア。

 彼はなにに納得したのだろうと。

 

「……ん? それが戦う理由じゃないのか?」

「そう、ね……。そう……」

 

 レーアの話からそれが民間人であったレーアが戦う理由だと思っていたが、どうやら違うようだ。

 その事を追求するが、レーアは戦う理由について思うことがあるのか生返事をする。

 

 ・・・

 

「準備はできてるぞー!」

 

 格納庫に到着した翔達。パイロット達に気づいたグレイが呼びかけると、それぞれ頷いて、自身の機体へと向かっていく。

 

「──気になるの?」

 

 ブレイカー0へ向かう最中の翔はあるものに目を向ける。

 それは宇宙に上がる際に一緒に持ってきたブレイカーBだった。

 頭部と胴体以外の損傷は激しく使い物にならないそうだ。

 

 翔の視線に気づいたリーナが声をかける。

 

「……いままで一緒に戦ったからな。だが今は感慨に耽っている時じゃない」

「うん……。そうだね」

 

 かつての愛機を見つめながら思うところがあるのか、静かに答える。

 

 その意識は次の作戦に向けられていた。

 その事に同意しながら、リーナはブレイカー0の隣に設置されているウィングへと向かう。

 

 ・・・

 

 

≪発進準備完了! ブレイカー0発進どうぞ!≫

「ガンダムブレイカー0、如月翔……出る」

 

 ブレイカー0に乗り込んだ翔は既に起動してあるブレイカー0を動かし、カタパルトに設置する。

 オペレーターの合図と共に発進し、仲間達と共にフロンティアⅠへ向かうのだった。

 




ガンダムブレイカー3発売まで遂に一か月を切りましたねー。ここ最近、ずっとPV見てます。

後、ネタバレですが本編中はレーアの機体はダブルオーライザーのままで行こうと思ってます。っていうのも実はEXミッションを題材にした話を考えていたり…。その時にあの機体を出そうかなと。

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