機動戦士ガンダム Silent Trigger   作:ウルトラゼロNEO

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フロンティアI
フロンティアⅠ─オービタル・マニューバ─


「少佐、敵軍が高速でこちらに接近してきております!」

「目的はメメント・モリだろうねぇ……。たっぷり歓迎してやろうじゃないか」

 

 地上攻略作戦の為、軌道リング上に設置されたメメント・モリ。

 そのコントロールを握るのは地上制圧作戦で司令を務めたベロニカだ。

 宇宙戦艦グワデンでは、オペレーターの報告に楽しそうに舌で唇を舐めまわし、今か今かとその時を待ち望んでいた。

 

 ・・・

 

「メメント・モリには近づかせるなッ!撃ちまくれッ!!」

 

 戦闘が開始され、コロニー軍がメメント・モリを破壊せんとばかりに進行する地球軍に対して攻撃を始める。

 多数のメメント・モリ護衛部隊が防御を固め、そのうちの一機の隊長機が自身の隊に指示を飛ばす。

 

「なっ──!」

 

 しかし次の瞬間、一本の極太のビームが隊長機や周辺機体諸共護衛艦の一つを破壊する。

 周囲の護衛部隊がビームの発生源を確認すると、そこにはこちらに対しバスターライフルを向けるウィング、そしてそれに続くゴッド、ドラゴン、DX、XDVなどの地球軍のMS群がいた。

 

「メメント・モリの射線軸には入んなよッ!!」

「分かってるわよッ!」

「……了解」

 

 無数のビームを掻い潜りながら背部ブースターの推進力で一気に加速して、敵MSとの距離を一気に縮めたゴッドはその突進力を利用し、一撃で仕留めるとドラゴンとウィングに注意を促す。リンとリーナはそれぞれ彼女達らしい返事が返ってきた。

 

「さーて……久しぶりの宇宙戦だな」

「兄さん、ドジらないでよ」

 

 遅れて宇宙へと上がったグラン達もこの作戦に参加していた。

 地上での戦闘に慣れていたグランは久方ぶりの宇宙での戦闘に僅かな緊張を持っていると、それを見透かしたようにティアから突然、からかいの通信が入る。

 

「誰に言ってやがるッ!!!」

 

 ティアの挑発的な言葉に触発されたようにエースらしい凄まじい猛攻を見せ、次々と敵MSを撃墜していく。

 後に続くティアは口元に笑みをヴェルやカガミはそのエースの動きを見て愕然としている。

 

「……来た!」

 

 フェイロンフラッグを敵MSに突き刺し、そのまま近くの敵MSへ投げつけながら何かに気が付く。

 次の瞬間、オービタルリング状を沿ってアークエンジェルが通過し、一気にドラゴン達がいるポイントを通り過ぎる。

 

「頼んだぜ、ルル……!」

 

 追おうとする防衛部隊の前に躍り出ながらショウマが静かに呟く。

 アークエンジェルがこのメメント・モリ電撃強襲作戦の要なのだ。

 

 ・・・

 

「──このまま最大戦速で目標へ! 対空監視360度レンジ最大!」

「了解しました、艦長!」

 

 最大戦速でオービタルリング状をアークエンジェルが飛行する。

 緊張が走るアークエンジェルで、艦長席に座るルルは手早く指示を出し、マドックはそれに従う。

 

 ・・・

 

「ルル、大丈夫かしら……」

「……」

 

 作戦の為、翔とレーアはアークエンジェルの格納庫でMS内で待機していた。

 そんな中、レーアがブレイカー0へ通信を入れ、レーアの言葉に翔は作戦前の出来事を思い出す。

 

 ・・・

 

「──……数時間前、先行した部隊がメメント・モリの餌食になった。地上攻撃用の物かと思ってはいたのだが宇宙でも使えたようだ。これだけでも厄介だがメメント・モリには堅牢な装甲と護衛部隊がある。何よりオービタルリング状にある以上攻略は至難を極めるだろう」

 

 一時間前に行われた衛星基地にて行われているのはメメント・モリ電撃強襲作戦の為の会議。

 参加者に見せられたのはメメント・モリの放つ巨大自由電子レーザーが地球軍の第一陣を焼き消した映像だ。

 今、作戦の司令官を務めるレギンが映像を交えて作戦概要を説明する。

 

「だがオービタルリングを破壊できないのはコロニー軍とて同じこと。メメント・モリの砲口の死角になるこの場所を戦艦が強行突破し、諜報部が得たメメント・モリの弱点である電磁場光共振部を破壊してもらう。これを行ってもらうのは参加部隊の中で機動力を持つアークエンジェルにお願いしたい」

 

 諜報部が得たメメント・モリの設計図。

 弱点である電磁場光共振部の位置を指し、レギンがアークエンジェル艦長であるルルを見ると、その場の者全ての視線がルルに集中し、彼女は静かに頷く。

 それを合図に作戦説明を終えるのだった。

 

 ・・・

 

「──……ルルッ!!」

 

 会議に参加するアークエンジェルのクルー達はアークエンジェルに戻る為、人工重力の中を移動していると、ルルを呼ぶ声が聞こえてくる。

 名前を呼ばれたことにより振り返れば、ルルと同じく紫色の髪の中年男性がいた。

 

「お……お父さん!? どうしてここに!?」

 

 その男性を見たルルは目を丸くして口を開き、その言葉にクルー達は驚く。

 彼はルルの父親であるアモン・ルティエンスなのだ。

 

「それは此方のセリフだ! なんでお前が……。お前はアークエンジェルの輸送任務を与えられた筈だろう!? なぜ今もアークエンジェルに乗り、しかも戦闘を行っているんだ?!」

「そ……それは……」

 

 アモンは困ったように眉を八の字に矢次に疑問を言い放つ。

 軍人となったルルにアモンは輸送任務を与えた。

 なのに調べてみればルルはいまだアークエンジェルの艦長として戦闘を行い、グレートキャニオン、パナマ、そして今作戦など危険な任務を行っていることを知ったのだ。

 

 ルルを追ってきたアモンの追及に言葉を詰まらせる。

 なんだかんだで今までアークエンジェルの艦長として過ごしてきたが、ここでまさか父に会うとは思わなかったのだ。

 

「こんな筈じゃなかった! マドック少佐、貴方も貴方だッ! 経験豊富であり貴方を旧知の仲だと信じたからこそ任せたのに……! ルル……なんでお前はこんな横道に逸れてしまったんだ……! お前は本来もっと──!!」

「──待ってくださいッ!!」

 

 アモンは頭を抱え、叫び散らすと、やがてはマドックにもその言葉が浴びせられ、その場にいたクルー達は段々と眉間に皺を寄せ始める。するとアモンの言葉を遮るようにルルが大声を張り上げる。

 

「始まりは輸送任務かもしれない……。でも、私はアークエンジェルの艦長です……。私は横道になんて逸れてません、今も不出来な私に付いて来てくれているクルーの皆さんと一本の道を歩いています! この作戦で……それを見ててください!!」

 

 強い言葉でアモンに言い放つ。

 ルルにこんな剣幕で言われたことなどなかったのか、アモンは言葉を失い、ルルはアモンを一瞥し、振り返って歩き始める。

 そんなルルにクルー達は口元に笑みを浮かべ、その後に続くのだった。

 

 ・・・

 

 《──大型敵機接近!》

「……!」

 

 物思いに耽っていた翔を呼び覚ますようにオペレーターの通信が入る。

 翔はブレイカー0のセンサーを動かし、相手を捉える。

 

 次の瞬間、真下から姿を現したのは金色の巨大MAだった。

 今回の為にグレイ達が用意した新武装を装備したダブルオーライザーとブレイカー0は緊急発進する。

 

「疑似太陽炉搭載型……!? でもあんな数……!?」

(アルヴァロン……!)

 

 そのMAを翔は知っている。

 七基の疑似太陽炉を装備した金色のMAであるアルヴァトーレにレーアは驚き、アルヴァトーレはそのままアークエンジェルへ襲い掛かって来る。

 

 ・・・

 

「……ッ……敵が近すぎます。ローエングリンの準備だけしてそれ以外のエネルギーは全て装甲強化に回してください。後は外のお二人がどうにかしてくれます」

「了解しました」

 

 アルヴァトーレは旋回しながら計22門のGNビーム砲がアークエンジェルを襲う。

 何とか耐えたものの危険な相手であることに変わりはない。

 ルルは冷静に指示を出すとCICにいるマドックが頷く。

 

「各機へ、船のダメージは気にしなくて結構です。敵への攻撃に集中してください!」

 

 マドックの頷きにそのまま翔とレーアに指示を出す。

 ここで躓くわけにはいかない。

 ルルは二人を信じる……いや、信じているのだった。

 

 ・・・

 

 アルヴァロンから放たれた大型GNファングを放つと、翔はフィンファンネルを展開、大型GNファングに対抗しながらアークエンジェルの甲板上に機体を固定し、ビームスマートガンで撃ち落そうとしていた。

 

「トランザムッ!!」

 

 トランザムを発動させるダブルオーライザー。

 真紅に発光するダブルオーライザーは新武装・GNバスターソードⅡを持ち、アルヴァトーレへと向かっていく。

 

「ただ数を積めば良いというものじゃないわッ!!」

 

 砲門を掻い潜り、時にGNバスターソードⅡの巨大さをシールドとして利用しながら一気に接近したダブルオーライザーにアルヴァロンはGNフィールドを展開するが、GN粒子を定着させたGNバスターソードⅡはGNフィールドを突破して本体にダメージが加わる。

 

「私だって……ッ!!」

 

 機体に取りつき、そのままGNバスターソードⅡを突き刺すと、今度はGNソードⅢを展開、再びGNフィールドを突破して斬撃を浴びせる。

 

「アークエンジェルの一員なんだからッ!!」

 

 ルルは言った。

 同じ道を歩いていると。

 だからこそこれからも自分はルル達と同じ道を歩いていたいのだ。

 その為にはここで足止めを食う訳にはいかないのだ。

 

 大きく損傷を与えたトランザムライザーをGNビーム砲で跳ね除け、七基の疑似太陽炉をフル稼働してアークエンジェルに向かう。このパイロットに命じられたのは接近するアークエンジェルの破壊なのだ。

 

 ・・・

 

「捕まったか……ッ!」

 

 アークエンジェルの前部にアルヴァトーレが二基のクローアームを展開してアークエンジェルの装甲を抉るように掴む。

 そのまま機首部の大型GNキャノンを展開する。

 甲板にはブレイカー0がいるが、アルヴァトーレの装甲への自信とそのまま薙ぎ払えば良いと考えたのだ。

 

「……こんな状況は……初めてじゃあないんだ」

【翔のタイミングで良いよ】

 

 かつて思い出すのは親友と共に戦ったガンプラバトル。

 あそこまで無茶はする気はないがそれでも危険なことをするのに変わりない。

 すると内側から聞こえたシーナの声と共に翔とリーナはエヴェイユの力を解放し、機体を青白い光が包む。

 

「いつだって無茶は……全力でやる!」

 

 かつてデビルガンダム戦で見せたあり得ないほどのエネルギーを持ったビームサーベルを今度は二本持って薙ぎ払いクローアームを破壊する。

 そのまま最後に二本の巨大ビームサーベルをアルヴァトーレに突き刺し、アルヴァトーレは弾かれたように後方へ吹き飛ぶ。

 

「──今です、ローエングリン発射!」

 

 メメント・モリへの距離も縮まったことでアルヴァトーレごとメメント・モリの装甲を破壊しようとルルは指示を出す。

 ルルの指示を受けたCICにいるマドックは素早く周囲に指示を出すと、アークエンジェルから二つのローエングリンが発射され、アルヴァトーレもGNフィールドで防ごうとするが間に合わずローエングリンを浴び弾け飛んでしまい、最大までチャージされたローエングリンはそのまま背後のメメント・モリの装甲に直撃、続いてアークエンジェルの全武装も発射され、メメント・モリの装甲を削っていく。

 

 ・・・

 

「メメント・モリの装甲を破られました! しかし電磁場光共振部は無事です!」

「火力が足りなかったようだね……!! このままハチの巣にしてやりなッ!!」

 

 メメント・モリをコントロールするグワダンではオペレーターが慌ただしく報告をする。

 ここまで接近されたのは予想外ではあったがこのままアークエンジェルへ攻撃を浴びせれば落とせる筈だ。

 

「待ってください、敵のMSがッ!!」

「なにッ!?」

 

 安心しているのも束の間、オペレーターがアークエンジェルのMSの動きに気づき、それを知らせるとベロニカはすぐさま確認する。見れば青白い光に包まれたブレイカー0がビームスマートガンを向けているのだ。

 

 ・・・

 

 アークエンジェルの全武装を持ってしても外壁を削るのが精一杯だった。

 共振部の姿こそ見えるものの破壊は出来なかった。だがそこで終わりじゃない。

 ブレイカー0はその為に待機していたのだ。

 

「……撃ち抜くッ!!」

 

 翔の中で緊張が走る。

 しかしここで外すわけにはいかないのだ。

 

 今までで神経を集中させ引き金を引く。

 エヴェイユの力を上乗せしたかのように放たれたビームはまっすぐ電磁場光共振部のみを撃ち抜き爆発を起こすとアークエンジェルはグワダンなどの近くの護衛艦の攻撃をすり抜け、その横を通り過ぎて離脱する。

 

「翔達がやった!!」

「なら、もう用はないなッ!!」

 

 メメント・モリの破壊を確認したショウマやグラン達。

 喜ぶのも束の間、いつまでもここにいるわけにはいかない。

 素早く機体を反転し、その離脱するのであった。

 

 ・・・

 

「よくやってくれた、ルティエンス中佐」

 

 作戦を終え、衛星基地へと戻って来たアークエンジェル隊。

 レギンはルルの前に立ち、今回の作戦の功労者として称える。

 

「これからも君にはアークエンジェルを率いてもらいたい。艦長代行ではなく、な」

「……ハッ、了解しました!」

 

 レギンは後ろで腕を組み放った言葉にルルは驚くが、相手が相手の為、すぐに敬礼をする。これで晴れて地球軍に代行ではなくアークエンジェルの艦長として任命されたのだ。

 

「……さて、ルティエンス艦長。早速だがフロンティアⅠへ向かってもらえるか?」

「フロンティアⅠ……ですか……?」

 

 若干、顔が綻んでいるルルに対して次の指令が与えられる。

 その名を思わず反復するルルにレギンは頷く。

 

「コロニー軍が何やら侵攻の為の準備をしているとのことだ。コロニー軍の動きは活発化し、新兵器も次々投入されている。君達は切り札のような存在なのでね、切り札はお守りではないのだ、存分にその力をふるってほしい」

「了解いたしました!」

 

 レギンの期待の言葉にルルは再び敬礼をしてこの部屋を出る。

 アークエンジェルは実際、妙な力を放つ翔をはじめ地球軍内でもかなりの注目を集めている部隊なのだ。

 

 ・・・

 

「……ルル」

「……お父さん」

 

 着々と発進準備が行われている中、ルルはアモンと向き合っていた。

 

 まだなにか言われるのだろうか?

 そんな風に考えていたルルではあったがアモンの目は不思議と穏やかだ。

 

「……知らない間に強くなっていたんだな」

「……うん、私、約束したことがあったの。弟みたいな子なんだけど……でも……彼がいるから私は頑張れる……強くなれるの」

 

 先程とは違い、穏やかなアモンの言葉に安心したのか同じく穏やかな表情でルルは会話をする。彼女の脳裏にいるのは翔の存在だ。

 

「呼び止めて悪かったな、行きなさい。みんなを待たせては悪いからね」

「うん!」

 

 ルルの肩に手を置き、そのままルルの頭に手をのせる。

 母ほどではないがやはり父親に撫でられるのは落ち着くのかルルは気持ち良さそうに目を細めると、手を放したアモンの言葉に頷いて、その横を通り過ぎてアークエンジェルへと向かう。

 

「……子供とばかり思っていたんだがな……」

 

 アークエンジェルへ向かうルルの背中を見ながら、しみじみと呟く。

 彼の中では今のルルの背中は大きく見えていた。

 

 ・・・

 

≪……メメント・モリが落ちたか≫

「言い訳はせん」

 

 メメント・モリを破壊されたグワダン、今回の司令官を務めたベロニカの私室にはヴァルターから直接通信が入っていた。ヴァルターの言葉に堂々とすら感じるほどベロニカは答える。

 

≪貴様のやり口で私も本国から随分と責められているのだ。和平などと言い出す者も現れた……。成果を見せてもらいたいものだな≫

 

 そう言って、ヴァルターは一方的に通信を切る。

 地上制圧作戦や今回のことをベロニカに任せたのはヴァルターだ。

 最初こそ戦果を挙げると期待していたが、今ではベロニカは役立たずの印象にしかなかった。

 

「やれやれ……」

 

 一人残されたベロニカ。

 面倒そうな声を上げながら立ち上がった次の瞬間、デスクをそのまま地面になぎ倒す。

 

「……あいつ等めぇ……ッ!!!」

 

 思い起こすのはメメント・モリを破壊したアークエンジェル隊のことだ。

 ベロニカの中ではグツグツと怒りが満ち溢れていた。

 思えば自分の失敗にはいつもあの艦の存在があった。

 自分はこの後、フロンティアⅠでの任務を与えられている。

 それはフロンティアⅠへ差し向けられたアークエンジェルに対抗する為だった。

 

(忠犬エイナルと一緒とはね……!)

 

 先にフロンティアⅠへ向かっているのはエイナルの隊だ。

 次回の作戦では否応なしに顔を合わせたりするだろう。

 今回の失態だけではなく気に入らない存在と仕事をしなければいけない事がベロニカを余計にイラつかせる。

 

 しかしそんなベロニカの耳にある知らせが届く。

 

【タクティックス隊の隊長であるティグレ・インスラは裏切り者としてMSごと撃破された】

 

 と……。




あっさり目ではありますがゲームにおけるオービタルリング編は終わりです。ゲームでも短いステージでしたしね…。金ジム?あぁっ、それは追々勿論登場しますよ。

さて次回から本格的にフロンティアⅠ編ですが、その前にティグレ達の話を挟ませてもらいます。

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