機動戦士ガンダム Silent Trigger   作:ウルトラゼロNEO

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アフリカタワー─INFINITY─

 

「───翔!」

 

 挙動不審に感じるほど周囲を見渡しながらGWFの会場を歩いている翔に声をかけてきたのはナオキだった。

 

「ナオキっ……!」

「控室にいなかったからビックリしたよ、ってかどうした、顔色悪くない?」

 

 何か月ぶりに見る親友の顔を見て、心底嬉しそうな顔を浮かべる。

 もう二度と会えないとも思っていたからだ。

 

 翔の傍に駆け寄りながらどことなく青ざめた様子を見て彼を心配する。

 翔からすれば何か月ぶりではあるが、ナオキからすれば数十分の間しか離れていただけに過ぎなかったからだ。

 

「──なに如月君、具合悪いの?」

 

 ナオキの後ろから翔に声をかけられ、聞き覚えのある声に顔を上げる。

 そこにいたのはあやこを除き、アカネを始めとするかつてのガンダムブレイカー隊の面々だったからだ。

 

「久方ぶりだな、寡黙な騎士よ。俺のバンドに入る気にh──「ひっさしぶりだねー!!」……えぇっ」

「アタシのCD買ってくれたーっ?」

 

 何やら右手で顔を覆いながら喋りかけてくるレイジとその話が終わる前にルミカが割り込んで、翔の手を掴んでブンブンと上下に振り回す。

 他にも変わらない面々達を見て、今にも泣きだしそうな顔を浮かべる。

 

「翔さーんっ!!」

 

 今度は背後から翔の名を呼ぶ者達がいる。

 振り返れば、あやこが翔の家族と共に手を振りながらこちらに向かって来ていた。

 

「母さん達……あやこと一緒に来たのか……?」

「あぁっ、いえ、近くで偶然お会いして」

 

 あやこと自分の家族と共に来たことにまさかと思いながら問いかけると、あやこは両手をふりながら、ここまでの経緯を軽く話す。

 ナオキもそうではあるが、あやこもGGFのイベント以降、翔の家族と面識があったのだ。

 

「それより翔、これ必要なものなんじゃないの?」

 

 あやこが話終えると、翔の母親が透明のケースに入ったガンプラを翔に見せながら聞いて来る。

 それはかつて翔がGGFにて仲間達と共に作り上げたガンダムブレイカー0が収められていたのだ。

 翔がガンプラを使ったエキシビションマッチをすることを知っていた母親は翔が自身のガンプラを忘れて行ったのだと持ってきたようだ。

 

「いや今日はイベントの為に作ったガンプラがあるから……」

「ほら言ったじゃないか。母さんはまったく……」

 

 腰のベルトにかけてある特製ポーチの中のガンダムブレイカーを見せながら少し困ったように答えると翔の反応を見て、翔の父親はやれやれと言わんばかりにため息をつくと、母親がなにやら反論しているのを聞き流している。それを見て、その場にいた面々は笑う。

 

(帰って来たんだ……。仲間達の所に……)

 

 家族やガンダムブレイカー隊の面々に囲まれて、改めて自分は帰ってこれた事を嬉しく思う。

 

 だが、何故だろう?

 嬉しいはずなのに、何故かその心は晴れてなかった。

 

 ・・・

 

「やはり混んでるな」

 

 あの後、折角このイベントに来たのであれば新しくなったガンプラシミュレーターで対戦をしないかという話になり、数あるシミュレーター置き場の一角に訪れた。

 

 ソウイチロウは辺りを見回しながら呟く。

 シミュレーター置き場はやはりイベントの目玉ともなっているせいか賑わいを見せていた。

 

「だがGGFの頃に比べて、一つの戦場に参加できる人数も増えているらしいな」

「そのうち100人同時対戦とか出来たりして」

 

 新しくなったガンプラバトルシミュレーターの説明が載っているのか、イベントのカタログを見ながらダイテツが呟くと、冗談交じりにLINXが答えていた。

 

「酷い戦い方するよな」

「……ああ」

 

 モニターに映る戦闘を見ながらナオキと翔が会話をする。

 数あるシミュレーターの中で行われている中の一つの戦闘が映っているモニターにはプラモデルのデビルガンダムとそれを護衛するようにデナン・ゾンがもう戦う必要もないのに相手チームを一方的に蹂躙していた。

 

「ハハッ、出直して来いよ!!」

 

 デビルガンダムを操っていた金髪を特徴的なリーゼントにした青年がシミュレーターから出て、相手に吐き捨てる。対戦相手は悔しそうな顔をするが敗北した手前、何も言えなかった。

 

「あ……? おいアンタ、如月 翔か?」

「……そうだが」

 

 金髪の青年は遠巻きでこちらを見ている翔に気づくと名指しで聞いて来る。

 特に偽る必要もない為、素直に答える翔だが、先程の戦闘を見たせいなのかどこか不機嫌な様子だ。

 

「丁度良いや。ここにいる奴ら弱くてさ、アンタ相手してくれよ。選抜プレイヤーなんだろ?」

「……良いだろう」

 

 青年は周囲を見下した目で見渡す。

 周りの人間は不快そうな表情を浮かべていると、翔が静かに返答しシミュレーターの前に向かう。

 

「2対1だ。俺も……!」

「いや、一人で良い」

 

 相手はデビルガンダムとデナン・ゾン、対して自分は改造ガンプラとはいえ一機。

 

 ナオキが助っ人を買って出ようとするが、それを翔は断る。

 その瞳は純粋に怒りで満ちていた。翔と金髪の青年達はガンプラバトルシミュレーターに乗り込む。

 

≪Gunpla set up≫

 

「ガンダムブレイカー……如月翔……出るッ!!」

 

 シミュレーター内に乗り込んだ翔は金髪の青年達と対戦をする為、マッチングを開始するとシミュレーターの指示に従いガンダムブレイカーをセット、準備完了の合図と共に出撃する。

 

 ・・・

 

 戦いの舞台はガンダムカフェをモチーフにしたステージだ。

 テーブルを模した部隊の上に置かれる障害物の中には実際の商品を元にしたものがホログラムとしてあった。その上をブレイカーが飛行する。

 

「ッ……!」

 

 翔のシミュレーター内で危険を知らせるアラートが鳴り響く。

 同時に目の前に極太のビームが迫り、すぐさま機体を旋回させそれを回避する。シミュレーターがロックするのはデビルガンダムの最終形態とデナン・ゾンだ。

 

「アンタの試合、見てたぜ。そのスカした顔は気に入らなかったけどな!!」

「そうかい……ッ!」

 

 デナン・ゾンはショットランサーをこちらに乱射しながら接近してくると、ガンプラを動かし軽やかに避け続ける。

 やがて距離を縮め接近戦になるとデナン・ゾンのプレイヤーがショットランサーで何度も突きを浴びせてくるも翔はそれを避けて、ビームサーベルを引き抜いてショットランサーを持つ腕ごと斬り上げる。

 

「まず一機……ッ!?」

 

 宙に舞うショットランサーを持つ腕ごと掴み、デナン・ゾンの胸部へと深々と突き刺し撃墜するブレイカーだが、直後に翔の顔は硬直した。

 

『まだ……死にたくっ……ないィッ!!』

 

 脳裏に蘇るフロンティアⅣで初めて人殺しをした時の記憶。

 その時に殺したデナン・ゾンのパイロットの死体が今、対戦相手のデナン・ゾンを撃破した際にフラッシュバックする。

 

 ・・・

 

「翔……?」

「危ないっ!!」

 

 デナン・ゾンを撃破した瞬間、空中で静止するブレイカーを見て、ナオキが怪訝そうに翔の名を呟くと、すぐさまアカネが翔の危機に気付き、叫ぶ。

 

 ・・・

 

「っ……!?」

 

 翔に出来た隙。

 その間にデビルガンダムの背部から伸びたアームがブレイカーを拘束する。

 

 ハッとした頃には遅かった。

 ギリギリとデビルガンダムのアームはブレイカーを締め上げる。

 

『翔ォッ!!』

「──ッ!」

 

 そして再びフラッシュバックするのはつい三十分ほど前の出来事。

 ガンダムヘッドによって拘束されて、デビルガンダムへ運ばれていく記憶、そしてレーアの声だ。あの恐怖感が再び翔を襲う。

 

「うああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっっっっ!!!!!!!!!?」

 

 ・・・

 

(なんだ……ッ!?)

 

 デビルガンダムを操る金髪の青年はブレイカーを拘束した瞬間、勝利を確信していた。

 後は目の前で選抜プレイヤーである翔のブレイカーを粉々にしようと思っていた所だ。

 

 しかし翔が錯乱したような叫び声をあげた瞬間、ブレイカーは半ば無理やりアームを引きちぎり、先程の軽やかな動きとは対照的に弾丸のようにこちらに飛んできて、デビルガンダムへ体当たりをしかけ、地面に倒れると共に地表を削る。

 

「っ……!!」

 

 地面に倒れ、態勢を立て直そうとモニターを見る金髪の青年はその瞬間、固まり息を呑む。

 

 そこに映るのは馬乗りになって自分を見下ろすブレイカーの姿だ。

 ツインアイを輝かせ見下ろすその姿は威圧感を与え、さながら悪鬼のようだ。

 

「うあぁあっっ!!?」

 

 その印象は間違っていなかったのか、すぐにブレイカーは両手にビームサーベルを持つと、デビルガンダムの機体を何度も何度も深く突き刺す。

 やがてビームサーベルも壊れると今度はハンドパーツを握って拳のように叩きつける。

 

 ・・・

 

「……翔……さん……?」

 

 戦闘を見ていたガンダムブレイカー隊の面々は絶句する。

 先程の見慣れた翔の戦い方から一変した野獣のように知性も感じられず暴力のような戦い方に。

 やがてシミュレーターがデビルガンダムの戦闘継続不可能を判断し、戦闘が終了する。

 

「はぁっ……はぁっ……!」

 

 シミュレーターから出てきた翔はふらつきながらも、ブレイカーを持ってまるで何かから逃げるように息を荒げながら、この場所を出る。

 

 ・・・

 

「……やっと……戻って来れたのに……」

 

 逃げるように路地裏に入り込んだ翔は壁に身を預け、そのままズルズルと座り込む。

 あの世界で戦い戦争を経験した翔。同じMSを扱った戦いであることから戦争での記憶が蘇り、純粋にガンプラバトルが楽しめなくなってしまっていた。

 悲痛そうな顔を隠すように膝の上に乗せた両腕に顔をつけ、うつ伏せになっていた。

 

「……なんで……?」

 

 誰に問いかけるわけでもなくそう呟く。

 勿論、その問いかけに答える者などいない。

 

「なんでずっと……レーア達の事が気になるんだよ……ッ!!」

 

 そう、翔の頭の中からはレーア達のことが離れなかった。

 先程のバトルでもレーアの声が脳裏を過ぎった。

 自分は自分の本来いるべき場所に帰ってこれたのに……。

 

 シーナは言った。

 もう関係ないと。

 なのに頭から離れないのだ。

 

「──翔さんッ!」

 

 座り込んで頭を抱えていると声をかけるのはあやこだ。

 あの場から飛び出した翔をあやこは追ってきたのだ。

 

「大丈夫ですか、翔さん……?」

 

 頭を抱えて座り込んでいる翔に駆け寄り、その身体を抱き寄せる。

 手を離せば今にも崩れ落ちそうな程、今の翔が酷く脆く感じた。

 

「こんなに震えて……。翔さん、なにかあったんだったら言ってください、私達は仲間ですよ?」

「仲間……」

 

 あやこの言葉に翔はその単語を口にする。

 そうだ、彼女の言うように自分は仲間達がいるこの世界に帰ってこれた。

 なのに何故、レーア達の事が頭から離れないのか。

 

『……ここに来れば会えると思ってた』

『迎えに来たぜ、ヒーロー!』

 

 頭の中で過るレーアとショウマの笑顔。そして次々とあの世界で出会った人々の顔が浮かび上がる。

 

「そっか……」

 

 そこで漸く分かった。

 寧ろ何故今の今まで分からなかったのかと自分を恥じる。

 

(……レーアやショウマ……。ルルに皆……。俺にとってあの人達も大切な仲間なんだ)

 

 ナオキ達がかけがえのない仲間なのであれば、レーア達だってそうなのだ。

 だからこそ彼らが頭から離れなかった。

 

 ならばもう迷う必要はない。

 翔はゆっくりとあやこの手を振りほどいて立ち上がり、歩き始める。

 

「翔さん、待って、行かないで……っ!!」

 

 背を向けて歩き始めた翔の手を掴む。

 彼女には今にも翔が消え去りそうに見え、翔をこのまま行かせてはいけないと思ったからだ。

 

「……あやこ……ありがとう。あやこは大切な仲間の一人だ。そう、大切な……。だからこそ俺は大切な仲間達を助けに行かないといけない」

「翔さん……?」

「……やり残したことがあるんだ……。でも、大丈夫、絶対に帰って来る」

 

 翔はあやこに振り返り、その手を優しく掴んで解く。

 

 あやこには感謝している。

 彼女のお陰で気づくことが出来たから。

 だからこそ自分は行かねばならない。仲間がピンチなのだ。

 翔はそのまま駆け出し、背中に聞こえるあやこの自分の名を呼ぶ声を無視して走り去った。

 

 ・・・

 

「……いるんだろう?」

 

 再び地下に戻って来た翔は自分を異世界へと連れて行ったプロトタイプのガンプラバトルシミュレーターに乗り込み、シーナに呼びかける。

 

 翔の中で彼女はここにいると確信があったのだ。

 

【……なんで戻って来たの?】

「やり残したことがあるんだ……。戦争を終わらせる……。出来るかわからない……でもそう、頼まれた」

【あの世界に戻れば貴方にとって辛いだけなんだよ……?】

「でも……あの世界には大切な仲間がいるんだ……。俺は彼らを助けたい。アンタに巻き込まれたんじゃない。今度は自分の意志であの世界に行くんだ」

 

 僅かに聞こえるシーナの声。彼女の問いかけに翔は迷いなく答える。

 

「あの世界に戻る方法は?」

【ある……。同じ方法で戻れる。でも貴方をこの世界に戻した影響でまた私の力は弱まっちゃった……。あなたの力を必要なの……。貴方と私はまた一つになって力を使う必要がある】

 

 シーナによればまだ方法はあるようだ。

 それはかつてのように翔の中でシーナを宿すということだろう。

 

 戻る方法があるなら迷いはない。

 翔は頷くと、どこからか青い小さな光球が現れ、かつてのフロンティアⅣでの時同様、胸に溶け込むように入っていき、自然と馴染んでいく感覚を味わう。

 

≪Gunpla set up≫

 

【……そのプラモデルは……?】

「……ガンダムブレイカー0。俺がかつて使った仲間達との絆の証だ。俺はこれを新しい仲間達の為に使いたい……。そして……アンタとも……0から一緒に進みたいんだ」

 

 エヴェイユの力を解放し、かつてシーナに導かれた時のようにガンプラをセットする。

 今度は内側から聞こえるシーナの声に翔はセットしたガンプラ……ガンダムブレイカー0を見る。

 

「そう言えば、自己紹介もなにもなかったな……。俺は如月 翔、よろしく」

【シーナ・ハイゼンベルクだよ、よろしくね、翔】

 

 意思疎通はしたことがあるがこうしてちゃんと自分達の事を話すのは初めてだ。」なんだか変な気分だが、それぞれ自己紹介する。

 

【……翔、本当に良いの……? 涙が……】

「えっ……?」

 

 かつてと同じようにドーム内のどこからともなく光の粒子が溢れ、ドーム全体を包み込み始める。

 どんどん視界が白くなっていく中、シーナが本当に良いのかと伺う。

 シーナの指摘に拳を頬に当てると確かに涙が流れていた。

 

「……前に進んでいけば涙は乾いてく……。乾かない涙なんてない……。大丈夫だ、アンタが俺に戦争を終わらせられるっていう可能性を見つけ出したのなら俺は戦う」

 

 もう会えなくなるかもしれないナオキ達に対しての涙か、それともレーア達へ再会を喜ぶ涙か。

 この涙が何故流れるのか翔でも分からなかった。

 それでも自分の覚悟に迷いはない。

 

「ガンダムブレイカー0……如月 翔……行きますッ!!」

 

 やがてドーム内は粒子に包まれ完全に視界が真っ白になり、なにも見えなくなる。

 少しずつ意識が遠のく中、翔は叫ぶ。

 

 その瞬間、この世界から再び如月翔は消えた……。





ガンダムブレイカー0

HEAD Hi-νガンダム
BODY νガンダム
ARMS ユニコーンガンダム
LEGS ストライクフリーダムガンダム
BACKPACK Hi-νガンダム
SHIELD ユニコーンガンダム

多種の武器を使う予定ですが、基本、ビームライフルやビームサーベルはνガンダムのを使っている感じです。

詳しい外観は活動報告の【ガンブレ小説の俺ガンダム】に某画像投稿サイトへのリンクがありますので、興味がありましたらそちらを参照して下さい。

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