機動戦士ガンダム Silent Trigger 作:ウルトラゼロNEO
「よぉ、自分の愛機はどうだった?」
「……悪くない。不自由なく動かせる」
コロニー軍が占拠した軌道エレベーターの格納庫でティグレは自身の愛機を見上げていた。
そこに声をかけてくるのはジェイクだった。
ジェイクを一瞥し、彼の問いかけに対してアストレイR改を見上げながら呟く。それほどまでにティグレはこのアストレイR改の出来の良さを感じていた。
「弟さん、どうだった」
「……アイツはまだ弱い。そして脆い。だからこそ強くあらねばならない……。その為に私はアイツにそう接してきた」
以前の戦闘でマヒロがいたことは知っていた。
マヒロのことを問いかけると、ティグレはマヒロのことを考えているのかアストレイR改を見上げてはいるものの、その目は違う何かを見ているかのようだ。
「しかし最近、少し人が少なくなっているように見えるのだが……。収容している民間人の数も少し減っている気がする……」
「ああ、俺も感じてた。でも上に聞いたところでだんまりだ。なに考えてんだか」
周囲を見渡しながら呟けば、行き来する人間の姿は少なく、まだ軌道エレベーターを占拠した際に収容した民間人の姿も日に日に減っていっているように見える。
ジェイクもその事を感じていたのか上層部を訝しむ。
「敵部隊接近!!」
「……今は仕事をしよう。私達は軍人だ」
そんな二人に敵の存在を知らす警報が鳴り響く。
今までの考えを断ち切るようにティグレは目を閉じ、戦闘準備をするのだった……。
・・・
「──……どうした、マヒロ?」
コマンドポストからの指示で軌道エレベーター周辺の居住エリアを奪還する為、キュアノス隊は戦闘を行っていた
。今、戦闘を終えた彼らの活躍は目覚ましいもので、どんどんと軌道エレベーターへと進行していた。その中で翔はここずっと表情が優れないマヒロを気遣う。
「……グラン達のことが気になるのか?」
「えっ? あぁいえ……」
キュアノス隊がここまで来るのにグラン達が敵の足を止めてくれたお陰で突破出来た。
今も交戦中であろう、マヒロの悩みはその事かと思い聞いてみるが、どうやら違うようだ。
「……なんでもありません……。なんでも……」
「そうか……。なら良い」
どう考えてもなにかあるような様子ではあるが無理に聞き出すのも気が引ける。
翔は深くは聞かず短く会話を終える。
「友軍の被害はどうなんだよ?」
「まだ半分は残っているとのことです!」
そんな中、ブルースが自軍の状況について問いかけるとアレックからの返答に深々とため息をつく。
「半分やられたんじゃねぇか……。普通ならとっくに撤退だ、滅茶苦茶な作戦だぜ……」
「なにがあっても
今回の軌道エレベーター奪還作戦は大規模な作戦だ。
そして何よりコロニー軍が建造したメメントモリの破壊をする為には
しかしその為には軌道エレベーターが必要不可欠だ。
だからこそ無茶をしてでも取り返さねばならない。
ブルースもそれが分かってはいるのだが今回の作戦に悪態をついてしまい、シーザーに宥められる。
「分かってるよ、勝ったか負けたかの戦いに俺らが生きてるか死んでるかは関係ねーからなぁ……」
シーザーに言われなくとも今回の作戦の重要性は分かっている。
その為に危険を冒してでも今、戦っているのだ。しかしそれでもブルースは皮肉交じりに笑う。
「……おっ、俺達が一番乗りか」
そうこうしている間に遂に軌道エレベーターを目前にした。
周囲に味方の反応はなくブルースの言葉通り、コロニー軍に奪われた軌道エレベーターにここまで近づいたのはキュアノス隊だけだった。
「だが、突出し過ぎている」
「下がって味方と合流しますか?」
一番に来たということは他に味方はいないということだ。
隊長であるシーザーは今の自分達は寧ろ危険な状況に置かれているのだと判断し、アレックも同感なのか進言する。
「そうだな、少し下がった方が───」
それがシーザーの最後の言葉だった。
まっすぐ伸びた緋色のビームはジェスタのコクピットを貫き、シーザーの乗るジェスタは糸が切れた人形のように崩れ落ちる。
「──動けッ! ついて来い!!」
突然の出来事に言葉を失い、呆気にとられる翔とアレック。
しかしすぐに動いたのはブルースだった。
機体を動かし、素早く指示を出す。スナイパーによる攻撃だろう、シーザーがやられたということは既に敵はこちらを捉えているというとこだ。
「クソッ……なんて間抜けだッ……!突破して味方と合流するぞッッ!!!」
先程まで一番乗りなどとはしゃいでいた自分を恨めしく思う。
グラン達がいる場所まで下がろうにも既にGN-XⅢ達が後方を塞ぎこちらに攻撃をしかけていた。
「邪魔だァアッ!!!」
ブルースは今にも錯乱しそうな気持を抑え、昂るままに叫びながらビームライフルを連射してGN-XⅢの行動を乱し、その隙をついてブレイカーBとアレックのジェスタが撃墜する。
「がっ……!?」
「ブルースさんっ!!」
しかし敵はまるで狩りのようにこちらを追い詰める。
居住エリアのビルの物陰から放たれたビームは先行していたブルースのジェスタ・キャノンを撃ち抜き、アレックが悲鳴に似た声でブルースの名を叫ぶ。
「止まる……ッ……なああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっっっっっ!!!!!!」
次々と放たれるビームはブレイカーB達を襲う。
しかしそれは決してブレイカーBやアレックとマヒロのジェスタに届くことはなかった。
何故ならば直撃を受けたブルースが機体の両腕を開いて彼らの身代わりとなりながらも両肩に装備されているビーム砲と4連マルチランチャーを撃ち尽くして物陰に隠れていたGN-XⅢ達を撃破するも機体が限界に達し爆発してしまう。
「……ッ!」
ブルースは自分の身を犠牲にしてでも自分達に道を切り開いてくれた。
彼の最後の言葉通り止まる訳にはいかない。
翔達は歯を食い縛りながらも今はただこの状況を突破する為、進んでいた。
しかし冷静さを欠いていたのは事実だ。
だからこそ高台に潜んでいたGN-XⅢ達に気付かなかった。
GN-XⅢ達のGNランスから放たれたビームは翔達に向けられ、気づいた頃には回避は間に合わなかった。
「──翔さんッ!」
ブレイカーBの機体に衝撃が走る。
ビームによるものではない、機体が突き飛ばされたのだ。
驚きながらモニターを確認すると自機の前に庇うように立ったアレックのジェスタがビームによって貫かれている光景が目に入る。
「アレック……? なん、で……!?」
「貴方は……僕達の……英雄……だから……」
アレックのジェスタをブレイカーBの腕に抱え接触回線で信じられないと言わんばかりに呟く。
ジェスタから聞こえるアレックの声は弱弱しくその灯火はもう長くないことが分かってしまう。
「だから俺は──「そうです……」……!」
「貴方は……僕たちの仲間だ……。りゆ……う……は……それ……だ……け……──」
以前、アレックに否定した翔が言おうとした瞬間にアレックが遮り、その言葉を最後に彼は息絶えてしまう。
アレックの命を奪った高台にいたGN-XⅢ達、そしてブレイカーBの背後にもGN-XⅢが二機囲み、GNランスを突きつけ降伏を促そうとずる。
しかし翔の瞳は憎しみに染められており、すぐに武装を展開しようとするが……。
「──……止めてください」
「マヒロ……!?」
翔の行動を察知したマヒロのジェスタがビームライフルを背後からブレイカーBに突きつける。マヒロの行動に何故と言わんばかりに彼の名を呟く。
「よくやった、流石、タクティックス隊の一人だ」
「どういうことだ……!?」
GN-XⅢのパイロットはティグレが取り付けた発信機によってマヒロの乗るジェスタを見分け、マヒロを称賛していると翔はこの状況に戸惑う。
GN-XⅢのパイロットの言葉はマヒロを知っているかのような言動。
そのことから考えられるのは一つだけ。マヒロはコロニー軍の人間だということだ。
「俺達を……裏切っていたのか……!?」
「……ッ」
ジェスタのサブモニターへ映し出される翔の瞳は怒りに満ちていた。
覚悟していたとはいえいざ、その目を向けられることは心に響く。
「貴方がいなければ……。貴方が……あんな力を持っていなければ……っ……誰にも目を付けられることだってなかったのに……!」
「俺が目的か……ッ!」
翔のエヴェイユの力さえなければ自分は地球軍にスパイに行く必要はなかった。
半ば自分が逃げる為に翔の責任にするマヒロに翔は怒りを感じながらもエヴェイユの力を呪う。
「さぁ抵抗するなよ、面倒だからな」
GN-XⅢのパイロットは話を無理やりに終わらせ、ブレイカーBを連れ去ろうとする。
翔もこの状況では何も出来ず万事休すかと思ったその時──。
「──なんだっ!!?」
正面を囲んでいたGN-XⅢのうちの二機を上空からビームが貫く。
すると今度は背後で大きな振動が置き、振り返れば背後を囲んでいたGN-XⅢ達は吹き飛んでいた。
「っ!?」
砂煙の中から現れたのは二機のガンダムだ。
そのうちの一機はすぐさま飛び出し、マヒロのジェスタにマニュピュレーターを突き出して攻撃をしかける。
何とかその攻撃を回避することには成功したもののブレイカーBから距離を開けてしまった。
そこにブレイカーBと距離を詰めようとするGN-XⅢを上空から飛来したMAが体当たりをしてビルへと吹き飛ばして破壊した。
「ウィング……!?」
体当たりと同時に変形し地面に降り立ったMSを見て翔は驚く。
それは各部が大型化されているもののかつての戦友が乗っていた機体だからだ。
「──……ここに来れば会えると思ってた」
「レーア……!?」
先に地面に降り立った二機のガンダム……ゴッドガンダムとドラゴンガンダムの傍に静かに降り立つ機体はダブルオーライザーだ。
そしてそのパイロットの声を聞き、翔は驚きながら彼女の名を口にすると、レーアは柔らかく微笑む。
「迎えに来たぜ、ヒーロー!」
「ショウマ!?」
今度はゴッドからも通信が入り翔は驚く。その間にゴッドはブレイカーBの機体を起こし、通信越しでショウマは快活な笑みを浮かべていた。
「アタシは
「……リーナ・ハイゼンベルク……。貴方とは……こうして話すのは初めてなのかな……」
ドラゴンに乗るリンと改修を受けたウィングに乗っているリーナがそれぞれ己の名を口にする。
リーナは以前、パナマで戦闘した際、彼女と話したのは翔ではなくシーナだ。翔に接するのはこれが初めてだろう。
「……で、どうするアイツ」
話もほどほどにゴッドはマヒロのジェスタを見ながら翔に問いかけると、翔は機体を動かしマヒロのジェスタの前に立ち、腕部ガトリングを向ける。
「……抵抗しないのか?」
「……しませんよ、無駄なだけだ……。僕はコロニー軍の軍人……その任務を果たそうとした……。貴方は地球軍の人間だ、撃てば良い」
動きもしないマヒロのジェスタを見て抵抗の意志が感じられないことからその気はないのかと問いかけると、マヒロは静かに答える。
「……後悔してるのか?」
「ッ……」
マヒロの声色から後悔の念を感じとり、そのことを問いかけると答えはしないもののマヒロは息をのんでいた。
キュアノス隊の死、
地球軍での出来事。
様々なことがマヒロの頭の中で巡っていた。
「……後悔しているのであれば殺しはしない。地球軍で身柄を拘束する」
死んで償うという言葉があるが、翔はマヒロを生かす道を選ぶ。
マヒロの反応を見て、それが良いと感じたからだ。
その言葉を聞いたマヒロは俯く。それは彼にとって残酷な道となるだろうからだ。
「──翔、高速で接近する敵部隊を確認!」
「!」
その場の空気を打ち破るようにレーアから通信が入り、その場に緊張が走る。
次の瞬間、分断するようにブレイカーBとジェスタの間にビームが襲い掛かる。
「──いきなり味方のシグナルが消えるもんだからビックリしたが、こういうことか」
上空から飛来する敵部隊……それはジェイクの隊だ。
しかしジェイクの乗るAGE-2は今までのものとは違い、両肩に設置されたサイドバインダー……ツインドッズキャノンと両脛後部にあるカーフミサイルが装備された、より射撃戦に特化したAGE-2 ダブルバレットとしてこちらに向かって来ていた。
「……まだ詰めが甘いな」
「兄さん……!?」
地上からもアストレイR改とアストレイBSRがこちらに向かって来ていた。
アストレイR改はマヒロのジェスタの前に立ちながら静かにマヒロに対して呟くと、マヒロはティグレ達に驚くものの、その言葉を聞いて俯く。
「マヒロ、ここは私達が引き受ける。お前は戻ってブリッツを取って来い」
「了解……」
ガーベラストレートとタイガーピアスを引き抜いてマヒロのジェスタの前に立つアストレイR改。
機体越しではあるが兄の背中は大きく見え、マヒロは彼の言われるまま機体を動かし撤退する。
「クッ……行くぞ、皆」
「「「「了解!」」」」
軌道エレベーターへ向かっていくマヒロのジェスタを追おうにもAGE-2
しかし彼らは知らなかった。
このアフリカの地で蠢く悪魔の存在を──。
さてショウマ達とも合流した翔。リーナの機体はウィングなんですけども改修を受けた設定で、見た目はEW版になってます。