機動戦士ガンダム Silent Trigger   作:ウルトラゼロNEO

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遅れまして新年明けましておめでとうございます。本年度も皆さんに少しでも楽しんでいただけるような話を作っていこうと思っておりますのでよろしくお願いします!


ギアナ─共に─

 

 雲の上に浮かぶ秘境とも言われるこのギアナ高地。

 その美しい自然の中をあまりにも不釣り合いな黄土色の半球状の頭部を持つ一つ目のMSが群れをなして、ある場所へ向かっていた。

 その進行は無駄がなくハッキリとその目指すべき場所が分かっているかのようだった。

 

 ・・・

 

「ぐっ……。うあぁッ……!!」

 

 同じくギアナ高地。

 ゴッドガンダムに乗り込んだショウマの身体はゴム状の薄い膜を張ったリングが頭上から下に通過し、その際に身体に膜が貼り付き、ファイタースーツが形成されていた。

 しかし身体には大きな負荷がかかるためショウマは苦痛に耐えながらも、それでもその瞳はギラギラと輝いていた。

 

「これが……!」

 

 ファイタースーツを着用した自分の掌を見つめながらファイタースーツを通じて感じるゴッドの力に驚嘆する。

 

 これこそ自分が求めていた力だ。

 これを自分のものにしなくてはいけない。

 

「驚いてる暇はないよ!」

「っ!?」

 

 ゴッドガンダムのコクピット部分でフェズの声が響く。

 同時にセンサーが反応し目の前のモニターを確認すれば、そこにはシャイニングガンダムを思わせるが細部が異なる赤を基調としたガンダムがいた。

 

「先生、それは……?」

「ライジングガンダム……。シャイニングを改修した機体だよッ! さぁショウマ。MFの感覚を掴むために手っ取り早いのは動かしてみることだ。早速行くよッ!」

 

 シャイニングを改修したライジングガンダム。

 その機体を知らないショウマの問いかけを答えながらも背部のコアランダーに備えられたヒートナギナタを取り出して一気にゴッドガンダム目がけて飛び出し、目にも止まらぬ速さで鋭い突きを繰り出す。

 

「グッ……うぁあっ!!?」

 

 迫りくるヒートナギナタの攻撃を見極め、対処しようとするショウマだが見極めることが出来ず、そのまま全て浴びてゴッドガンダムへの攻撃はそのまま痛みとなってショウマに伝わり、吹き飛んで倒れる。

 

「立て、ショウマ! ゴッドの力を使いこなせなかったらアンタはまだ弱いままだよ!」

「ッ!」

 

 ビシッとライジングを通してゴッドに指をさすフェズの言葉にショウマの瞳はぎらつく。

 

 この力を使いこなせなければ意味がない。

 自分の手は誰かに届くことは出来ないのだ。

 そんなことあってはならない。

 ショウマはゴッドを起こし、まだ慣れないMFの操縦で我武者羅にライジングへ向かっていくのだった。

 

 ・・・

 

「……くっ」

 

 ゴッドに乗って2日が経った。

 最初こそゴッドガンダムの操縦に慣れていなかったショウマだったが、元々のその要領の良さからかすぐにコツを掴み、今では少しずつフェズを押し始めていた。

 

「……アイツ、あんなに簡単に……」

 

 ゴッドとライジングのぶつかり稽古を見ながらリンは心底、驚いたようにショウマがまさに手足の如く動かすゴッドの動きを見ながら呟く。

 いくらMFがファイターの動きをトレースすると言ってもそう簡単にあそこまでの動きが出来るわけではない。

 

 自分だって苦労したのだ。

 しかしショウマは僅か2日でここまでの進歩を見せた。

 

「しかしあの様子……なにかに囚われ、生き急いでいるようにも見える」

「えっ……?」

 

 その背後で顎に手を添えながら佇むヤマトはここに来てからのショウマ、そして今のゴッドの動きを見て何かを感じ取る。その言葉にリンはなにか胸騒ぎを覚えるのだった。

 

(明鏡止水の境地に達しない限り、まだ弱いままだ)

 

 今のショウマはただ力を振り回すだけの存在のようにヤマトは感じる。

 

 ゴッドの力は強大だ。

 それを制御するだけの心の強さも必要だ。

 ショウマにゴッドを与えるには些か早すぎたのではないかとヤマトの心中を過った瞬間……。

 

「────何者っ!!?」

 

 何かの気配に感づいたヤマトは素早く振り返ると、黄土色の機体群……デスアーミーがこちらに接近してきていた。すぐにヤマトとリンがMFを呼び出す。

 

「なんでここにッ!?」

「──ぐぁっ!?」

 

 ドラゴンガンダムに搭乗して戦闘態勢を整えたリンはデスアーミーの大群が何故自分達の居場所を知り、目指してきたのか驚いていると通信越しにフェズの悲鳴が聞こえる。

 ライジングの方角を見ればそこにはマニピュレーターを突き出したゴッドと地面に叩きつけられたライジングの姿があった。

 

「ショウマっ! 今は稽古してる時じゃないわッ!! アンタは知らないと思うけど、あいつ等はデスアーミー……。アタシ達が戦ってる奴の手下みたいなもんよ! だからアンタも一緒に──「ヘヘッ……!」……えっ?」

 

 稽古よりも目の前の脅威を何とかせねば、リンがショウマに呼びかけるがゴッドからの通信で聞こえる場違いなショウマの笑い声に耳を疑い、モニターを映し出し、ショウマの様子を見る。

 

「力が……溢れてくる……! これが俺の求めた力……ッ!」

「アンタ……その顔……ッ!!」

 

 モニターの通信越しに見えるショウマの首から頬の辺りに薄い金属上の膜のようなモノが現れていた。

 口角を吊り上げ、歪に笑うショウマを見て、リンは驚愕する。

 それは自分達が追っている敵が持つ力の一つが起こす現象の一つだからだ。

 

「■■■■■■■■■■■■■■」

「リン、師匠! あのショウマ(バカ)はアタシが何とかするっ! 二人はデスアーミーを頼んだよッ!!」

 

 笑い声のようで、もはや人間の放つ言葉というよりも獣が放つ雄たけびのような咆哮を上げながらゴッドはライジング達に襲い掛かる。

 ショウマの身体に現れた金属の膜のようなものが原因なのか、今のショウマは正気ではない。フェズは機体を起こすと返事も待たずにゴッドへ向かっていく。

 

 ・・・

 

「■■■■■!」

「ウォオオオオオオォォォッッ!!!!」

 

 地面を蹴り、一気にこちらに砲弾の如く飛んでくるゴッドの動きを見極め、ヒートナギナタを捨てマニピュレーターによるカウンターを浴びせる。

 弾かれるように吹き飛んだゴッドだが獣の如く両手足を地につけ、再びこちらに襲い掛かって来る。

 

(デタラメな動きしてるようで、学んだ技を織り交ぜてくる……! コイツの才能、そして実力はアタシ以上だ……! だからこそ狙われたってのかい……ッ!)

 

 何度もマニピュレーターや脚部をぶつけ合うゴッドとライジング。その度に覇王不敗流の技を繰り出すゴッドにショウマの実力に状況こそ違えば喜んだが、今は苦しいだけだ。

 

「波動裂帛拳ッ!!」

 

 マニピュレーターを地面に叩きつけ、ゴッドへ凄まじい衝撃波を放つ。

 迫りくるその攻撃にゴッドは上空に飛びのいた。

 

「──蒼天紅蓮拳ッ!!」

 

 上空に逃げたゴッドに向かって間髪入れずに蒼天紅蓮拳を放ちゴッドを追撃しようとするが、ゴッドに搭乗しているショウマは口を大きく歪めてゴッドの機体を回転、頭部以外エネルギーを纏いライジングに対抗する。

 

 結果、ライジングは威力で負け、再び地面に叩きつけられる。

 

「クソッ……! アタシも……文字通り命を懸けるしかなさそうだね……ッ!!」

 

 機体を起こしながら前方を見ればゴッドは恐怖を煽るように不気味にこちらに近づいて来る。

 このままではやられてしまう。

 愛弟子を助ける為、フェズは覚悟を決めた表情を見せる。

 

「覇王不敗流最終奥義……ッ!! 石破天驚……ライジングフィンガアアアアッッ!!!」

 

 かつてアークエンジェルを救う際に見せた技の発展形を今度はショウマを救う為に放つ。まっすぐ伸びた光弾は大きな手のひらに姿を変えゴッドを拘束した。

 

「文字通り、これがアタシの命だッ! 目を覚ませ、ショウマァアッ!!!!」

 

 両腕を突き出し、今度は石破天驚拳とは違う温かな光弾を放つ。

 この光弾はフェズの言葉通り、彼女の生体エネルギーを放ったモノ。

 技の拘束を解放されたゴッドは今度はこの光に包まれ、もがき苦しむ。

 

「────ハァッ……ハァッ……!! 先生……俺……っ!?」

 

 やがて解放されたゴッドは地面に両手足をつける。

 先程のフェズの強い生命エネルギーの力のお陰かそのコクピットのショウマの身体から金属の膜は消え去っていた。

 

 その代り、ショウマの右手の甲には何やら紋章のようなモノが浮かび上がっている。

 ビッシャリと汗をかくショウマにライジングが近づく。

 

「……俺……ッ……ゴッドの操縦中、いきなり……身体や意識が自分じゃなくなった気がして……ッ!?」

「それがアタシ達の敵の力さ……。が、なんでそんなに力がほしかったんだい?」

「……手を差し伸べても……誰も掴めなかった……。だから力が欲しかったんだ……! でも……こんな……ッ!」

 

 兎に角、自分が覚えている限りのことをフェズに話す。

 静かに答えるフェズはヤマトと同じようにショウマの様子が気になっていたのか問いかける。

 するとショウマは先程の影響からか震えながら、そして先程の力に恐怖しながら答える。

 

「……馬鹿だね、アンタは」

「なっ……!」

「なんでアンタ一人で背負い込んで手を伸ばそうとするんだい? アンタ一人でやらなきゃいけない訳じゃないだろ? そういう時は仲間を頼るもんさ。誰かと手を取り合うことは弱さじゃないよ」

 

 ふと心底呆れたように呟かれる。

 いくら何でも手を届かせたいと思うこの気持ちを馬鹿呼ばわりされるのは不本意だ。

 しかし次のフェズの言葉にその言葉が胸に届いたのかハッとした表情を見せる。

 

「……誰かと手を取り合う事は弱さじゃない……か。それも一つの強さか……」

「その通りだ。行くよ、ショウマ!」

 

 誰かに手を届かせたかった。

 一人では届かなくとも手を取り合えば届く。

 

 ショウマは静かに顔を上げる。

 その引き締まった表情を見て、また一つ強くなった弟子にフェズはライジングを通してそのままゴッドの背部をポンと叩き、起き上がらせる。

 

「こいつらを蹴散らすには石破天驚拳が一番さ」

「でも俺はそんな……!」

「ぶっつけ本番たけどね。でもこの技は自然の力を借りて初めて出せる技、今のあんたにはピッタリさ」

 

 フェズの言葉から自分も石破天驚拳を出すことを求められていることを察知したショウマだが、ショウマ自身、その技はまだ未取得の技だ。

 

 しかしフェズにはショウマが出せるというある種の確信があった。

 

「……」

 

 静かに目を閉じる。

 今のショウマに外気は感じられなかった。

 全身の意識を集中させ、あの悪夢のような漆黒の空間を感じる。

 

「──ッ!!」

 

 気が狂いそうになるが、そこで初めて感じることがあった。

 風の流れや川のせせらぎ、そして木々のざわめき……。この世界に生きるモノ達の声のような物を感じる。

 

 今のショウマには漆黒の空間で水の一滴を感じたような気分だった。

 それに合わせて構えを取るゴッドにエネルギーが集まりだす。

 

「行くよ、ショウマッ!!」

「応ッ!!」

 

 フェズの呼びかけに力強く答える。

 今のショウマには出せるという確信があった。

 デスアーミーと戦闘を繰り広げるドラゴンとマスターは既にライジング達を察知して退避している。

 

「「石破ァッ! 天ッ驚ッ拳ンンンンンッッッ!!!!!!」

 

 同時に両腕を突き出して放たれる覇王不敗流が最終奥義。

 二つの光弾はデスアーミーを大量に巻き込み破壊し大爆発を起こす。

 その光景を見たショウマは自分の中の気持ちも落ち着くのを感じた。

 

 ・・・

 

「じゃあ先生達、俺は行きます」

「ああ、アタシ達はアタシ達で奴を調べるよ」

「デスアーミーがここに来たのも、奴の細胞を埋め込まれたお前を追っての事だろうからな」

 

 あれから修行を終えたショウマは向かい合うフェズとヤマトに頭を下げると、フェズとヤマトはショウマを襲ったあの機体を更に調べるようだ。

 

「……」

 

 その中でリンが一人、なにも言わずに俯いていた。

 ショウマは行ってしまう。短い期間とはいえ再会は純粋に嬉しかった。

 なのにその時間はあっという間に過ぎてしまった。

 

「……リン、ショウマについて行ってやれ」

「え……?」

「アークエンジェルに戻るとはいえ、こいつだけじゃ心配さ。お目付け役が必要だよ。あたしたちは大丈夫さ」

 

 そんなリンを知ってか知らずかヤマトはリンにショウマに同行するように勧めるとリンは驚き、微笑みながらフェズはショウマの頭をグシグシと撫でながら答える。

 

「……うん、アタシ、ショウマと一緒に行くッ!!」

「はぁっ!?」

 

 リンが同行の意志を見せるといきなりの出来事にショウマは驚いた顔を浮かべる。

 

「アンタが馬鹿な事を考えないかアタシがアンタの傍で見てるッ! もし変なことしようってんならアタシが力づくでも引っ叩いて戻すッ! アンタが誰かに手を伸ばそうってんならアタシも一緒に伸ばすッ!ア ンタがなんて言おうがアタシは一緒に行くんだからっ!」

 

 ショウマを支えようとするリンの言葉。

 そこに嘘偽りがなかく、ただただショウマを、ショウマだけを想っての言葉だった。

 

「……分かったよ。行こうぜ、リン」

 

 純粋にそのリンの気持ちは嬉しかった。

 ショウマは頷くとフェズ達に別れを告げ、機体に乗り込もうとする。

 

「……二人に選別をくれてやろう」

「えっ?」

 

 そんな二人のやり取りを見て、ヤマトが静かに口を開く。

 選別とは何か。ショウマとリンが顔を見合わせるとヤマトが指を鳴らした瞬間、崖下から馬のようなMSが現れる。

 

「モビルホース・風雲再起。MFの技術を応用して我が愛馬の為に作ったモノよ。風雲再起共々お前達に託そう」

「大先生……。ありがとうございます!」

 

 モビルホース・風雲再起。

 中には実際に風雲再起の名を持つ馬が乗り込んでいる。

 ショウマはヤマトに対して改めて深々と頭を下げるのだった。

 

 ・・・

 

≪──ではリンさんとその機体のことは分かりました。それとショウマさん、そのままアフリカに向かってもらって良いですか?≫

「アフリカ? 翔がいるところか?」

 

 通信で今までの経緯を説明し終えたショウマにルルは新たな指示を出す。

 それは以前言っていた作戦の補助のことだろう。

 

≪戦闘が激化し、我が軍が圧されている状況です。今、レーアさんとリーナさんも一緒に地球に降りていますので、今後、ショウマさん達と合流してアフリカに向かっていただきます≫

「分かった。折角、翔が生きてるって分かったんだ。なんかあったら困るからな」

 

 ルルの策作戦に関する説明を聞き終えたショウマは頷き、ゴッドを起動させる。ショウマの意志は言葉通りだった。

 

「行こうぜ、リンッ!」

「うんっ!」

 

 風雲再起にゴッドとドラゴンが乗り込む。

 手綱を握るゴッドに乗るショウマはリンに声をかけるとリンは頷き、風雲再起は地面を蹴って空を駆ける。

 

 二人の旅立ちを祝福するようにギアナの空は暖かな光が差し晴天だ。

 旅立つショウマの右手の甲にはフェズの生命エネルギーを受けた際にうっすらと現れた紋章がハッキリと浮かび上がる。

 これは後に【秩序の守り手】と称される集団のリーダーを務めるKing of Heartの紋章であった……。




ライジングの設定もGNドライブ同様少し弄ってます。なので本作のライジングはシャイニングの改修機です。

3月3日に発売が決定したブレイカー3。厳密にいうと違いますが、2か月後じゃあっという間ですね。

次回からアフリカタワー編に!遂に翔の出番ですよー。そして何気に人気のあるABCトリオも出ます。

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