機動戦士ガンダム Silent Trigger 作:ウルトラゼロNEO
──私が目覚めてからの時間は一年半も満たない。だから記憶もそれだけしかない。
目が覚めた場所は真っ白な医務室のベットの上。
目を覚ました私を見る為、ベットの横に座っていたお父様が覗き込んだのを覚えてる。
そう……覚えてる……。
ねぇ、お父様……。
なんでそんなに悲しそうな顔をしているの……?
・・・
中立コロニー・サイド6。この街は地球軍とコロニー軍の中立の立場を取っている為、両陣営の高官や資産家、関係者などが戦火を避ける為などでこのコロニーに多く移住していた。
それはあのハイゼンベルグ家も同じだ。
豪華さを感じる大きなハイゼンベルグ家の屋敷。
その一室のベッドの上でリーナは目を覚ます。
ディビニダドとアークエンジェル隊の戦闘から時間が経ち、その際、
リーナは静かに上体を起こして時間を確認する。
時刻はAM9:00。今日は行くところがある。リーナはベットから出るのだった……。
・・・
(……ここに来るのも久しぶりね)
アークエンジェルは修復の為、サイド6へ入港していた。
修復の間、レーアは一人、許可を得てサイド6内の街を歩いていた。
どの道、アークエンジェルの修復には時間はかかる、
少しくらいは良いだろう。
アークエンジェルの私室にいてはカレヴィや翔のことなど考えてしまう。
ある意味、気分転換のようなモノだった。それにここはかつて自分が暮らしていた場所。このコロニーを逃避してはいたがこの機会にこの街に来たのだ。
(お花、買って行かないと)
勿論、目的があった。
その場所に行く為に手持ち無沙汰なのは気が引ける。
まずは花屋にでも行こうと携帯端末を手に取り、コロニー内の花屋を検索する。
携帯端末の液晶に映し出された近辺の花屋の場所をアプリで検索し、レーアは移動を始めるのだった。
・・・
「ここに来たのも一年ぶりかしら……」
レーアの目的の場所は墓地だった。
ある墓前の前に立てば、墓石にはシーナ・ハイゼンベルクの名が刻まれていた。
そう、ここはシーナの墓であり、レーアの目的も墓参りだった。
「姉さん……」
姉が死んだ事が全てが変わった。
父もルスランも自分も。
父が姉を巻き込まなければ姉は死ぬ事がなかった。
豹変していく父に耐えかねた自分はこのコロニーを離れ、フロンティアⅣに移り住んだ。
なるべく思い出さないようにしていたのだが、翔の存在があった。彼を見ていると姉を思い出させるのだった。
「……?」
墓前の前に立ち物思いに耽っていたが、何者かの気配を感じてその方向を見やる。
そして驚いた。
そこには黒いワンピースにクリーム色のコートを着た自分や姉に似た少女が花束を持って、自分を見て心なしか驚いたような表情で立っていたからだ。
リーナだ。
彼女もまたこのコロニーに来た事でシーナの墓に訪れていたのだ。
「……貴女がレーア・ハイゼンベルグ……?」
「……え、ええ。貴女は……?」
互いの顔を見て驚き固まる二人。
最初に口を開いたのはリーナだった。
リーナの問いかけに少しどもりながらも頷き、逆にリーナに尋ねる。
しかし次の瞬間、リーナの口から発せられた名前を聞いて彼女は驚くことになる。
「……私はリーナ・ハイゼンベルグ」
・・・
「……入って」
「ええ……」
あの後、リーナの誘いでレーアは実家に訪れていた。
普段の彼女なら断るつもりだったのだが、リーナの存在が気になってついて来たのだ。
「あなた一人なの……?」
「……お父様はこの家に帰ってくる事はない。使用人達もクビになった。最後の使用人だったルスランも今じゃパイロット。だから私が実質、一人で暮らしてる」
大きな屋敷とは裏腹に人の気配がまったくない。
自分がまだいた頃はルスランを始めとした使用人などがいた筈だ。
しかし今はいない。
レーアの問いかけに静かに答えられる。
幸い、ヴァルターはいないようだ。
いや、どちらかと言えばリーナについて問い詰めたい気持ちはあった。
別に腹違いならばそれでも構わないが、あまりにも母親似の自分や姉に似た容姿。
母はもうこの世にいない筈だし、なにより十代後半まで成長している。
普通に生まれたならば自分も知っているはずだ。
しかし自分は知らない。思い当たるのはクローン技術などだ。
「……何故、私を「お昼……」……えっ?」
「……お昼、食べた?」
彼女が自分をこの屋敷に呼んだ理由が知りたかった。
それを問いかけようとした瞬間、リーナの言葉に遮られ素っ頓狂な声を漏らす。
その後に続く彼女の言葉に首を横に振るのだった……。
・・・
「美味しいわ……!」
食堂で向かい合う形で座り、リーナが作った料理を一口、食べるレーアは目を見開いて驚く。
自分ではここまで作れない程、とても美味しく感じた。
その言葉を聞いて向かい側のリーナは少し驚いたような表情を浮かべる。
「私、なにか変な事言ったかしら……?」
「……ううん。お父様がまだ家にいた時、何度も作ったけどなにも言ってくれなかった……。だから、貴女が初めて美味しいって言ってくれた」
リーナを見て怪訝そうに問いかける。
特に自分はおかしな事を言ったつもりはない。
しかしリーナにとって初めて言われた事で照れているのか少し俯いている。
「……あの男……。いや……お父様とは普段、どんなことを?」
「……なにもないよ。ずっと暗い顔をしてる……。私はね……お父様の笑顔を見た事ないの……。美味しい料理を作れば笑ってくれると思ったけど、なにも言ってくれない……。パイロットになって戦ってもお父様は私に見向きもしてくれない……」
ヴァルターに対し敵意はあるが、あえてお父様と呼ぶリーナの前でかつて呼んでいた呼称で普段の様子を尋ねる。
しかしリーナはゆっくりと首を横に振りながら答える。
彼女はヴァルターの笑顔を見た事ない。
ヴァルターを笑顔にすること、自分を見てほしい、それがリーナの行動理由となっていた。その結果、料理の上達やパイロットとなった事に繋がった。
「待って……! 貴女、パイロットをやっているの……!?」
しかし言葉の最後にあった言葉をレーアは聞き逃さなかった。
寧ろ、聞き捨てならなかった。
嘘であってほしいがリーナは頷く。
そこであることを思い出す。
パナマでの戦闘だ。
あの時、感じた強烈な違和感と既視感。
もしかしてあの時、戦闘をした黒いMSに乗っていたのは彼女ではないだろうか。
「……ねぇ、お父様が笑ったところ見た事ある?」
「……あるわ」
様々な考えが頭の中を駆け巡ってはいるが、その前にリーナの問いかけに答える。
あまり思い出したくはないが記憶にはある。
よく姉や自分などと接している時など満面とは言わないが穏やかな笑みを浮かべていたのは覚えている。
「貴女の存在は知ってた……。でもお父様を置いて家を出た貴女を今まで私は許せなかった……。教会で会った時……なんて言ってやろうとも思った……。でも……同時に知りたい事もあった……。ねぇ教えて……? どうすればお父様は笑ってくれるの……?」
リーナのレーアへの印象は大変な時に家族を置いて家を出て行った姉という悪いものだった。
でも、そんな彼女を家に招いてどうしても聞きたいことがあった。少し首を傾げ悲しげな微笑を浮かべながらリーナはレーアに問いかける。
「どんな料理を作れば良いの……? どれだけ地球軍の人達を殺せば良いの……? どうすればお父様は笑ってくれるの……? なにをすればお父様は私を見てくれるの……? どんな事をすれば……お父様は私を愛してくれるの……っ?」
「貴女……」
今までリーナは愛や人の温もりを知らない。
パナマで翔を通じてシーナと邂逅して漸く知る事ができた。
それ以降も別に何かが変わったわけではない。
何か話そうとしたが時間がないと断られ、相手にされなかった。
今までもこの繰り返し、まるで自分を避けるように相手にしないのだ。
目尻に涙を溜めるリーナを見て、レーアはフォークを置く。
リーナが限界だと言う事は会って一時間もしないレーアにさえ分かるのだ。
「……貴女は……なんでこの家を出たの……?」
これもどうしても聞きたかった。
家を出たレーアを罵ろうとも考えていたがその前にまず理由を知りたかった。
その問いかけにレーアは少し驚いたような顔を浮かべるが、少し目を閉じ間をおく。
「……姉さんが死んだ理由を貴女は知っているかしら?」
間を置いて、目を閉じたまま静かに問いかけるレーアに質問を質問で返すなとは言いたくなったが、それが理由に関わっているのであればとリーナは首を横に振って答える。
事故で亡くなったとしか知らない。自分は詳しくは知らないのだ。
「分かったわ……。それを踏まえて話をしましょう。私がここを出た理由を」
ゆっくりと目を開け話を始める。
それはこのハイゼンベルク家の過去の話だった……。
ということで次回は過去話を交えて話です。この話からまた章が変わるわけですが、次章はオリジナル中心になります。まぁオリジナルって言ったってゲームで語られなかったレーアやショウマの機体のあれこれの補完ですが・・・。