機動戦士ガンダム Silent Trigger   作:ウルトラゼロNEO

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スペース─エヴェイユ─

 

 

 《後少しで本隊と合流できます。MS隊の皆さんは先行してください》

「なんてデブリだ……」

 

 ドミニオンからの戦闘後、アークエンジェルで簡易的な補給や整備を受け、すぐに出撃したプロトゼロ、エクシア、ゼータプラスの三機。

 ルルから指示を受ける中、行く手を阻むかのようにスペースデブリが周囲を漂う。

 あまりの数にカレヴィの口から思わず驚きの声が漏れる。

 

「どう思う?」

「……いると思うわ。これだけのデブリに紛れてしまえば楽に降下出来るもの」

 

 カレヴィは併走しているレーアに意見を伺うと、彼女はモニターを見ながら己の考えを答えると先行しているゼータプラスに合流する。

 

「……このデブリ……。地球軍の(ふね)のモノじゃないか……?」

「兎も角、後少しで本隊だ。見ろ」

 

 先行していたゼータプラスと合流すると、ショウマが周囲のデブリを見て疑問が浮かび上がる。

 自分も一応は軍の人間だ。

 ある程度の戦艦などは分かる。

 これは破壊された地球軍の戦艦のモノではないだろうか?

 

 そんなショウマにカレヴィが声をかける。

 三人のモニターにはここからでも見えるほど先頭を繰り広げている地球軍の艦隊とコロニー軍の部隊があった。

 

「なっ!?」

 

 後少しで合流。まさに目と鼻の先と言った所か。しかし突如、モニターに写っていたもっとも近くの地球軍の戦艦が大爆発を起こし、カレヴィ達は驚く。爆発が消える中、一機のMSが姿を見せた。

 

「レーアお嬢さん」

「っ!? ルスランッ!!?」

 

 MSの名はヤクトドーガ。

 そしてエクシアのコクピットに聞き覚えのある声の通信が入り、自分の名を口にすると驚いたレーアはその者の名を口にする。

 

 ヤクトドーガに搭乗しているのはルスランだった。

 ヤクトドーガとエクシアが動きを止めたことでプロトゼロとゼータプラスも動きを止め、様子を伺う。

 

「お嬢さん……。私と共にヴァルター様の……お父上のもとに帰っていただきたい」

「ありえないわ。貴方なら分かる筈よ」

 

 静かにレーアへ声をかける。

 戦いたくはないのだろう。しかしレーアは迷うことなくキッパリと即答する。

 

「……まだあの事を。あれは事故だった、お父上は──!!」

「貴方がそれを言うの!? 貴方は姉さんのことを……」

 

 驚き、そして苦しげな表情を浮かべるルスラン。

 必死に弁明をしようとするも、その言葉はレーアには届かない。

 寧ろ何故、ルスランはそんな事が言えるのかと信じられないと言わんばかりだ。

 

「だがもういない……ッ! 私には……拾われた恩を返すことだけだ!」

「……今の貴方を見たら、姉さんはなんと言うかしら」

 

 次第に感情的になり始める。

 彼の中で今のヴァルターに従い、復讐の道に進むことが正しいかは分からない。

 だが少なくともその道を進むことで救われている。

 そんなルスランにレーアは失望したといった様子だ。

 

「……聞き届けてはもらえないか」

「……ハイゼンベルグの姓は捨てたわ」

 

 レーアの様子からもう交渉の余地がないことを悟ったルスランの言葉に、これ以上言う言葉はないと言わんばかりに静かに言い放つ。

 彼女は父親であるヴァルター・ハイゼンベルグはどうしても許せなかった。

 

「……そうか……。なら……ヴァルター様には全て終わった後、腹を切り詫びよう……」

 

 ルスランの中で怒りがあふれ出る。

 シーナを失ったヴァルターにとって残されたレーアは拠り所になれた筈だ。

 自分と、そしてヴァルターに目を向けて欲しくて戦場にまで出てきたリーナは拠り所にすらなれなかった。

 自分達がなりたかった場所になれるのに……そんな怒りがルスランを支配する。

 

「ここで死んでいただくッ!!!

 

 その怒りを表すかのようにルスランのヤクトドーガの背後にデブリに隠れていた一機の白い大型MA……ディビニダドが現れるのだった……。

 

 ・・・

 

 不思議な感覚だった。

 翔は自分の意識が深いところにあるのが分かる。

 そして目の前に温かさを感じるこのレーアに似た女性……。

 翔には分かった。この女性が自分をこの世界に連れて来た張本人だろう。

 

「アンタが俺をこの世界に連れて来たわけ」

 

【ごめんなさい……】

 

「意思疎通が出来るだけ良いな……」

 

【……今はこうして貴方と意思疎通が出来るけど……私は普段……貴方を呼び出した影響で貴方の意識の奥底で眠っているの……。突発的な状況で少しだけ意識を表に出すことが出来るのだけど……それもとても負担が大きいから、頻繁には出来ない……。最近だと貴方と一つになった時間が長くなったから、こうやって意思疎通も出来るほどになったわ】

 

「……初めて目を覚ましたコロニ-でレーアを助けた時……。グレートキャニオン……。そしてこの間のパナマ……。全部、アンタか……」

 

【ごめんなさい……。レーアもルスランも私の大切な人達……リーナもそうなった……。貴方が苦しんでいた事は知ってた……。本当に……本当にごめんなさい……】

 

「謝って済む問題だと思っているのか? 俺は少なくとも殺人だってした。それをごめんなさいで済ませられるって言うのか?」

 

【……本当にごめんなさい……。私には……選択肢がなかった……。誰だってよかった訳じゃないの……。私や貴方のような抜き出た能力を持った人じゃないといけなかった……。貴方なら戦いを終わらせられると思った】

 

「抜き出た能力……? おいおい、俺がNT(ニュータイプ)とかそんなのとか言うのか?」

 

NT(ニュータイプ)やイノベイター、Xラウンダーに近いようで違う存在……エヴェイユと呼んでいたわ……。その力は強大で機械でしかないMSさえも圧倒的な力を手に入れられる。貴方が時折見せたあの光はエヴェイユが放てる光よ。その力が強くなればなるほど人知を超えた存在になれる。現に世界を超えて、貴方は私の声が聞こえた】

 

「エヴェイユ……ね。俺は人間で十分なんだがな……。それで俺は元の世界に帰れるのか?」

 

【……正直、分からない……。私もその時、無我夢中で……。私はもう死んでいて、貴方の中で生きているような状態……。でも、こうして貴方と意思疎通出来るまで回復出来た……。もう少し経てば、貴方を帰すことが出来るかも】

 

「帰らせてくれればそれで構わない。……今更、人殺しの事実が消える訳でもない。例えそれが過去に戻れたとしたってどうしようもないんだからな」

 

【……本当に……ごめんなさい……】

 

 ・・・

 

「うっ……ぁっ……」

 

 遂に翔は目を覚ました。

 自分がカプセル内で眠っている状況が分かっていないのか、周囲を慌しく見渡している。翔の目覚めに気づいたドクターはカプセルを開けた。

 

「遂に目を覚ましたか!」

「ドク……ター……? なんか重力、変じゃない? もしかして宇宙に上がった……?」

 

 翔の傍に駆け寄って肩に手を置いて嬉しそうに声をかけると、医務室で発生している人工重力を感じながら言葉を発する。

 そもそも翔は地球攻略作戦阻止の作戦参加のことも知らなければ、フェズの一件も知らないのだ。

 

「っ!? なんだ……!?」

 

 状況も分からない翔にドクターが阻止作戦に参加し、カレヴィ達も出撃していることを教えていると突如、アークエンジェルが爆発と共に強烈な振動が襲う。

 なにが起きているかまったく分からない翔だが、兎に角、何時までも寝ている訳には行かない。起き上がり出ようとする。

 

「翔、君はまだ本調子じゃないだろう!?」

「でも今の……敵が来たんじゃないのか……? だったら戦わないと……。俺は……死にたくないっ……。その為に戦ってきたんだ……ッ!」

 

 すぐに敵襲を知らせるアラームが艦内に鳴り響く。

 戦おうとする翔に気づいたのかドクターが止めるが、翔の強い瞳を見てなにも言えなくなる。

 翔はすぐに医務室から無重力の廊下に出て壁を蹴ってMSデッキへ向かうのだった……。

 




ということで翔も漸く起きました。今回出てきたエヴェイユという単語。ゲームにおける覚醒の名前として登場させました。

ゲーム前半を締め括るであろうミッションであるこの話、気合入れて書いていきますよ。…別に今までの話を気合入れてないとかそういう訳ではないのであしからず

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