機動戦士ガンダム Silent Trigger   作:ウルトラゼロNEO

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フロンティアⅣ-覚醒-

 

「はぁっ……はぁっ……」

「すまねぇ、そのまま後方で援護してくれ」

 

 激戦区を何とか通り抜けた翔達は港地区にやってきていた。

 人をその手で殺め、精神的に消耗している翔は気遣われて後方支援を任されており、狙撃の才があるのか、翔の後方からのビームライフルによるスナイプは前方のデナン・ゾンの部隊の何機かの関節部分を撃ち抜く。

 

(……なるべくなら殺さない方が良いんだろうけど……でも俺にそんな余裕はない……。やる時は……やらないといけないのかもしれない……。でないと……死ぬのは……)

 

 先程の地獄の一端のような光景を思い出し震えてしまう。

 不殺を貫ける程、自分の腕に自信はないし下手な行動で自分の命を危険に晒すなど本末転倒だ。あくまで不殺は心がける程度で己の命を第一に行動するようにする。

 

(不殺か……。ガンダム作品にも何人かはいたけど俺は彼等のように信念のあっての行動じゃない。ただ俺自身が人殺しの感覚を味わいたくないだけなんだ)

 

 結局それは自身の手を極力汚したくないのと人殺しの際に感じたあの恐怖感などを味わいたくないだけで自分の命が危険ならば先程のように殺してしまうのだろう。そう思うとどこか自己嫌悪さえもする。

 

「──さて、ここから港の中に入れる。警備も厳重だろうから気を抜くなよ、入口に入ったら一気に強襲を仕掛けるぞ」

 

 そんな風に考え込んでいた翔にカレヴィから通信が入る。

 自分達は今、巨大なブリッジを超え、港の裏口にたどり着いていた。翔は気を引き締めるとカレヴィ達に続き、港内へ侵入する。

 

 ・・・

 

 港内に入るとデナン・ゾンが三機、ザクⅡが二機、警備のためか配備されていたが予め警備などがいるであろうと踏んでいたカレヴィの作戦で強襲攻撃を仕掛ける。一気に三機のガンダムが現れたことに警備の任についていたMS達は驚き、慌てふためいている。

 

「こいつでッ!」

 

 その隙をついてウィングは急接近して、一機のデナン・ゾンを先鋭なシールドでコクピットを貫くと、背後にいた違うデナン・ゾンにシールド内のビームサーベルをコクピットに投擲することによって無力化する。

 

「私だってッ!」

 

 カレヴィの強襲に触発されたようにレーアの駆るエクシアも動く。

 残ったデナン・ゾンにGNソードのライフルで撃ち抜き、その後、近くのザクⅡをGNソードを展開し、横一文字に切り裂いた。

 

「て、敵しゅ──!」

「……ッ!」

 

 最後に残ったザクⅡはザクマシンガンを連射しながら通信を行おうとすると出遅れた翔はシールドでガードしながらすぐに近づき、バーニアを利用した回し蹴りをザクⅡを浴びせ頭部のメインカメラを破壊するとビームサーベルを引き抜いて四肢を切断する。

 

(……生きてる……よな)

 

 入口の警備を無力化し、カレヴィ達は更に先へ進み始めると翔はチラリと自身が無力化したザクⅡを見る。見れば多少、傷は付いているがコクピットは無事だ。

 

(……アークエンジェルに何機かのGN-XⅢ……。そしてトールギス……。あの見た目……TV版ではなくEW版か……)

 

 そこから暫くカレヴィの案内のもとドッグへとたどり着いた翔達は物陰から様子を伺う。翔もまたメインカメラを操作してアークエンジェル周辺の敵部隊のMSを確認していた。

 

・・・

 

「もっと急げないのか?」

 

 コロニー連合軍に所属するエイナル・ブローマン少尉が搭乗するトールギスがケビン機に通信を入れる。

 彼等の背後にはまるで機械で出来た白い白馬のような巨大な強襲機動特装艦……アークエンジェルが格納されていた。どうやらアークエンジェルの出航に手間取っている様子だ。

 

「避難民の人数が多すぎて手間取っています。収容スペースにも入りきれるかどうか……。避難民の収容を中断すれば作業効率が上がりますが……」

「ダメだ、民間人と捕虜は最優先だ。機密が保てば良い、戦闘区画も使え! それでもスペースが空かなければ備品を捨てても構わん」

 

 副隊長を務めるケビン・マーカス准尉の提案は断固として却下される。

 エイナルは任務には忠実で影で彼を妬む者達からは忠犬エイナルなどと言われるが、その反面、非戦闘員などの保護を最優先に考え、甘さが目立つために上層部からの受けが悪いことで有名でもあった。

 

「少尉は……」

「……甘いか?」

 

 その性分がコロニー軍での彼の未来を暗くしている。

 彼を慕うからこそ苦言を呈そうとするが、それはエイナル自身でも自覚しているところであるのか、苦笑交じりに尋ね返す。

 

「いえ、作業を急ぎます」

「頼む。私は提示報告がある、少し外す」

 

 だがケビンを含め部下達にはその甘さは良くも悪くもエイナルの一部分であり、そんな彼だから付いてきたのだ。

 ケビンは短く返答し、その返事に満足そうに頷いたエイナルはトールギスのバーニアを吹かして、その場から離れる。

 

「──隊長機が消えた、今だッ」

 

 トールギスが完全にいなくなったことを確認したカレヴィは翔とレーアに声をかけ、バーニア全開で強襲攻撃を仕掛けた。

 

「オリジナルの太陽炉の力、見せてあげるわっ!」

 

 レーアの駆るエクシアの背面に剥き出しで搭載されているGNドライブの内部が音を立てて起動し、鮮やかな緑色の粒子を放出させながら擬似太陽炉の機体であるGN-XⅢを流れるようなスピードで素早く二機、それぞれ切断する。

 

 またその近くでもウィングはそのスピードで宙を舞いながら、出力調整したバスターライフルを放ち、そのビームはGN-XⅢを三機纏めて呑み込んで撃破する。

 

 突然の強襲によってGN-XⅢを一気に五機失ってしまったが、すぐさま思考を切り替えたケビンが近くにいた翔へ攻撃を仕掛けてくると翔は素早くスラスターを利用して距離を取ると相手の様子を伺う。

 

「キサマらが余計なことさえしなければッ!」

 

 だがケビンが駆るGN-XⅢは素早く距離を縮め、GNランスに装備されているバルカンを発射してきた。

 翔は素早く機体を操作してシールドで防ぐことで直撃を防ぐがケビン機のGN-XⅢの猛攻は止まらない。

 

「コイツでッ!」

「甘いッ!」

 

 翔は更に接近してくるGN-XⅢに向かってシールドを投擲するが、GN-XⅢはGNランスで払い除け、はじかれたシールドは宙に舞う。翔は所詮、ゲームでの経験、しかしケビンは実戦経験がある。その差はとてつもなく大きいのだ。

 

「ならばっ!!」

 

 しかし翔にだって何も出来ない訳ではない。

 宙に舞うシールドを見た翔は自身が過去に見たガンダム作品を参考にシールドへ向かってビームライフルを何発か撃つ。

 

「なっ!?」

 

 するとまっすぐ伸びたビームはシールドに反射され、何発か放たれた一つがGN-XⅢの擬似太陽炉に直撃し、ケビンは動揺してしまう。

 

「ッぐあぁっ!!?」

 

 動揺が隙となり、翔はすぐさま機体を操作、最大出力のバーニアでGN-XⅢへタックルを仕掛けてGN-XⅢは壁まで叩きつける。中のケビンは気を失ったのか動かなかった。

 

「──そこまでだッ!!」

 

 これで落ち着けるか……。そんな甘い考えを通信と共にGN-XⅢ達を無力化したカレヴィ達に向かってビームが放たれる。

 なんとか避けるウィングのメインカメラが捉えたのはアークエンジェルの甲板に立つトールギスだった。

 

「ちっ、戻ってきやがったか!」

「一度ならず二度までも我が軍の艦を……! この盗人がァッ!」

 

 ビームサーベルを引き抜いたトールギスはその高機動を利用して一気に接近する。

 素早く反応したカレヴィのウィングもシールド内のビームサーベルを引き抜いて振り下ろした。

 

「お前らが間抜けなんだよォッ!」

「──ッ!? その声……カレヴィかっ!?」

 

 鍔迫り合いになるウィングとトールギス。

 その最中に発したカレヴィの声にエイナルは面食らったようだった。

 

「あぁっ? 誰だ、お前!?」

「貴様ッ! この私を忘れたなどとは言わさんッ!」

 

 当のカレヴィはとぼけたように言い返すとエイナルは怒って鍔迫り合いの最中に蹴りを放つが、直撃する前にウィングは軽やかに後方へ飛び退く。

 

「ハッ! 相っ変わらず暑苦しいな、エイナル!」

「貴様も相変わらずふざけた奴だな!」

 

 どういうわけかカレヴィとエイナルは知人関係にあるようだ。

 茶化すように話しかけるカレヴィにエイナルは神経を逆なでされたように怒鳴る。

 二人の間に緊迫した空気が流れる。いくら旧知の仲とは言え今は敵同士なのだ。

 

「援護する!」

「バカ! 手ェだすなッ!!」

 

 そんな緊迫した空気の中でレーアのエクシアがGNソードの複合兵装のビームライフルで援護射撃をしようと構えるが、予想に反して焦ったようにカレヴィから怒鳴られてしまった。

 

「目障りだなッ」

 

 エイナルは実力者。下手に標的にされれば危険だ。

 思わず叫んだカレヴィだが既に遅く、標的にされたエクシアに向かってトールギスは全速力で近づく。

 

(マズいッ!)

 

 エクシアへ急接近するトールギスを見て、翔は心の内で叫ぶ。

 だが今からでは幾ら動こうとしても間に合いっこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【──レーアッ!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 トールギスが斬りかかったビームサーベルはエクシアのメインカメラギリギリのところで防がれた。

 

 

 

 

 

「なっ……!?」

 

 

 

 

 

 驚くレーアとエイナル。その原因を見れば、エクシアとトールギスの合間に割って入り、己のビームサーベルでエイナルの攻撃を逸らす翔の機体があったからだ。

 

「──ッ!?」

 

 だが、一番驚いているのは翔自身だ。

 間に合わないと思った瞬間、己の身体はまるで誰かが操るように勝手に動き、また機体もそれに応じる様にありえないスピードを出して、エクシア達の間に割って入っていたのだから。

 

「今の声……。クッ!」

 

 トールギスがビームサーベルを振りかぶった瞬間に聞こえた声は翔にとっては何度か聞き覚えがあった。

 だが今はそのことを考える前に目の前の障害をどうにかしなければならない。翔はすぐさまトールギスを払いのけた

 

 すると突然、今度は翔の機体が赤みを帯びた光を纏ったのだ。

 

「これは……あの時と同じ……っ!?」

 

 誰もが驚く中、翔は既視感があった。

 この感覚は前回のガンダムグレートフロントで行われたガンプラバトルにおいて自身のガンプラを操るOSである【GAIOS】が起動した際の【覚醒】と呼ばれる現象を初めて体感した際の感覚に酷似していた。

 

「……面白いッ!」

 

 一方、後方へと飛び退いたエイナルは不思議な現象を起こす目の前のガンダムを見て、戦意を燃やすのだった。




因みに覚醒は翔がこの世界へ連れて来た張本人である【彼女】が原因です。そして【彼女】は今どこにいるのかは…まぁ下手な発言は控えます。ということでこれが発端で今後も何回か翔は覚醒していきます。翔の機体も名前で書こうとは思うのですが、翔自身が今乗っている機体の見た目などを把握していないため、あえて伏せてあります。まぁ翔の機体はガンプラバトルと同じくそのまんまガンダムブレイカーなんですけどね。

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