機動戦士ガンダム Silent Trigger 作:ウルトラゼロNEO
「見失っちまったな……」
「少し出過ぎたわね……。戻りましょう」
退いていったAGE-2達を追撃していたZプラスとエクシアだったが、その途中で見失ってしまう。
突出し過ぎた為、一度下がろうかとした瞬間、コクピット内で警報で鳴り響く。
モニターを見れば二筋の光が見える。反射神経的に機体を操作して後方に大きく飛びのく二機だが、次の瞬間……。
「なんだこりゃ……!?」
「アレは……!?」
自分達がいた場所では大きな爆発が起きる。
見れば地面は大きく抉り焼かれていた。
その威力に戦慄するショウマと源となったモノは何かとセンサーを駆使して探すレーアだが、意外と早く見つけた。
レーアには見覚えがある。あれはフォンブラウンで戦闘をした二本足のMA……そう、ビグザムだ。
威力を調整して放たれた大型メガ粒子砲を発射してくるビグザムに何とか機体を操作して避けてはいるが、二人とも疲れが出てきているのか動きが少し鈍っている。
(翔がやった時みたいに出来れば良いけど……!)
レーアが思い出すのはかつて翔が撃破したビグザム。
攻略法が分かっているかのように鮮やかに撃破していた。
あれと似たようにすれば撃波出来るのだろうが、接近することが難しい。
「あんな奴が二機も……どうしろってんだよ……!」
ショウマの口から愚痴がこぼれる。
その声色からどこか諦めが読み取れる。
実際、今の機体や自分の状態を顧みてもあのようなMAを撃波するどころか逃げることも難しいだろう。心の中でふつふつと絶望が湧き上がってくる。
「──諦めるなっ!!!」
絶望がショウマを包み込もうとしたその瞬間……。
憧れの師の力強い声がコクピット内に響き、ショウマは顔を上げると破壊音が鳴り響く。
「シャイニンングゥウッ!!!! フィンガアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーアアアッッッ!!!!!!!!!!」
次の瞬間、Zプラスのモニターには一筋の閃光が巨体を誇る一機のビグザムを地面に叩きつける。
モニター越しにも分かる自分に対し背を向ける機体。あの憧れた背中は例えMFであっても力強く映る。
「そう……諦めるな。諦めない限りはその手を伸ばせ。最後まで抗うのを忘れるな!」
「先生!」
力強く厳しくはあるが優しい師の言葉。
フェズは自分にも言い聞かせるようなその言葉にショウマの目じりに涙が浮かび、絶望が支配しようとしていた心に希望が湧き上がる。
その間にもシャイニングが叩きつけたビグザムは対空ミサイルなどで迎撃しようとするが、Zプラス達の背後から放たれた無数のミサイルがビグザムの動きを止める。
レーダーを見ればプロトゼロ、XDV、ヘビーアームズ、ジェガン二機がこちらに向かってきていた。更にヘビーアームズはバーニアを利用して宙に舞い上がる。
「火力が自慢らしいけど倒れてるならこっちのものよ、このコだって火力自慢なんだからっ!」
ヘビーアームズは全武装を開き、撃ち尽くさんと言わんばかりに激しい一斉射撃を開始する。
シャイニングはバッと後方へ下がり倒れるビグザムはiフィールド大した意味を持たずただ浴び続ける。それと同時に二機のジェガンも射撃を始めた。
「二本足か! ここに誘ったのか!」
「随分と手荒い歓迎だな!」
そうしている間にも片方のビグザムが拡散メガ粒子砲や対空ミサイルを駆使してショウマ達を襲ってくる。
あえてエクシアやZプラスに標的が向かないようにプロトゼロとXDVは前へ出ると、それに釣られたのかビグザムは飛び回る二機を迎撃する。
「──ッ!?」
倒れているビグザムに一斉射撃をしていたヘビーアームズだったが倒れているビグザムは全武装を駆使して周囲の機体を寄せ付けない。
六個の対空ミサイルは様々な角度からヘビーアームズに向かい、攻撃の最中だったヘビーアームズは身動きが取れず、直撃を覚悟するが……。
「助けられてばかりなんて私のプライドが許さないの」
向かってきた内の四つのミサイルは飛んできた四本のビームサーベルによって破壊される。
次の瞬間、ヘビーアームズは何かに掴まれ移動する。
見ればエクシアだった。接触回線で言われたレーアの言葉にティアの口元に笑みが浮かぶ。
「気が合うわね、私もよ」
エクシアに引き連れられながら、こちらを追尾してくる二つの対空ミサイルをビームガトリングで撃ち落すヘビーアームズ。ティアの言葉や行動にレーアも知らずに笑みがこぼれる。
「なら助け合いましょう? 残弾は?」
「まだあるわ。さっきみたいな一斉射撃も可能」
「なら、援護お願い!」
確認に対して、ヘビーアームズの残弾状況を伝えるとエクシアはヘビーアームズを離して、ビグザムへ向かっていく。
「まったく……とんだじゃじゃ馬ね」
バーニアを利用して滞空するヘビーアームズはミサイルとガトリングを同時発射、メガ粒子砲が放たれる前にその砲口を破壊しようと言う魂胆だ。それが功を成したのか少なくともエクシアを狙える砲口は破壊できた。
「よく……言われるわッ!!!」
トランザムを使用し一気に接近する。
トランザムによるエクシアの機動力だけではなくヘビーアームズの援護も手伝って比較的容易く接近すると、GNブレイドを展開して、ビグザムのモノアイ部分に勢いのまま、ぶつかるように着地して、よろめくビグザムに大きく一太刀入れて、撃破することに成功する。
・・・
「──足元がお留守だよッ!!」
プロトゼロとXDVに気を取られている隙にシャイニングはばら撒かれるメガ粒子砲を避け、ビグザムの足元へ忍び込む。
気がついても遅い。すでにシャイニングは腰を低く落としていた。
「蒼天ッ……紅蓮拳ッッッ!!!」
真下から錐もみ回転しながら放たれたアッパーカットがビグザムのIフィールドジェネレーターごと損傷を与えた。
「グラン!!」
「ああッ!!」
今だと言わんばかりにビグザムから離れるシャイニングにカレヴィはグランに声をかけ、プロトゼロのツインバスターライフルとXDVのハモニカ砲が同時にビグザムの頭上から降り注いで、大きな損傷を与える。
「ショウマ!」
「……! ああ!!」
フェズがショウマに声をかける。
トドメを刺せと言う事だろう。
ビグザムが動き出す前にZプラスはWR形態へと変形して、一気にビグザムに接近する。
「そうだ……。俺は諦めないッ!」
先程、シャイニングが与えた損傷部へと接近したZプラスはビームサーベルを二つ引き抜き、同時に突き刺す。
そして一度、地面に着地し、その決意を現すようにZプラスはマニピュレーターを閉じると一気に飛び上がり、そのまま突き刺した二つのビームサーベルへマニピュレーターを打ち付けると、ビグザムはそのまま地面に倒れ、機能を停止する。
ショウマ達はビグザムを撃破することに成功したのだ。
上空を見ればアークエンジェルが降下してきていた。
・・・
「美脚のMA……。やられちゃったみたいだけど?」
「なぁにまだ手はあるさ、ここを取られてもマスドライバーはくれてやんないよ」
大型潜水母艦から戦闘様子を見ていたジェイクは隣にいるベロニカに声をかける。
形勢を不利と判断したベロニカは基地からの撤収を始めていた。そこに陽動を引き受け、ビグザムが現れたのと同時にジェイク達も収容していた。その隣でベロニカはほくそ笑む。
・・・
《アークエンジェル、マスドライバーへ到着しました。施設のコントロールを奪い、これより
「ああ、健闘を祈る」
ビッグトレーでは、いよいよ宇宙へ上がろうとするアークエンジェルの艦長であるルルは司令官であるレギンに報告をすると、レギンを始めとしたブリッジにいる者は敬礼をして、通信を終える。
(いよいよか……。しかし、この胸騒ぎは一体……)
どうにも先程から嫌な予感がしてならない。
形勢は逆転し、基地の制圧も時間の問題だろう。
しかしレギンの心中は穏やかなものではなかった。
・・・
「どうすんだよ、ティグレ!」
「無駄死にする気はない。隙を見て撤退だ。隠し玉があるようだが、この状況でどこまで出来るかも分からん」
前線の一部のMSに伝えられた撤退命令にシドが意見を求めると、ティグレはガーベラストレートですれ違いざまに地球軍のMSを切り裂きながら答える。あくまで一部のMSだけだ。伝えられなかったMS達は早い話は囮だろう。
「MS隊へ。ある程度の戦闘をしつつ撤退だ。これ以上はただの負け戦だ」
しかしなにも知らない仲間を置いて逃げることはティグレには出来なかった。
ティグレは同じく前線に出ているMS隊全機に告げ、戦闘をしながら撤退するタイミングを見極めるのだった。
・・・
「グラン、色々とありがとう」
「気持ち悪いこと言うなよ、核兵器……任せたぞ」
マスドライバーももうすぐ準備が完了する。
アークエンジェルの周辺はグラン達が警戒をしていた。
MSが収容される中、別れの挨拶をするカレヴィにこそばゆいような表情を浮かべながらモニター越しで答えるグランは健闘を祈り、カレヴィは大役を任されている以上は表情を引き締め、頷く。
「準備完了!!」
「出してください!!」
アークエンジェルのブリッジでは乗組員があわただしく指を動かしていた。
施設のコントロールを掌握し、準備を整えたことを告げるマドックにルルは力強く言葉を発し、アークエンジェルはマスドライバーを伝って一気に宇宙へ向かって飛び立っていく。
・・・
「頼んだぜ……」
モニター越しにどんどん小さくなっていくアークエンジェルを見送るグラン達。
地球攻略作戦を阻止してもらいたいが、それ以上に無事も祈る。
だが、それを叶えまいと彼らの機体に警報が鳴り響いた。
「──なっ!!?」
背後からアークエンジェルへ無数の砲撃が放たれる。
目を見開き、振り返るグラン。
パナマ基地の囲むように広がる少し離れた山岳の方から四機のビグザムがアークエンジェルを狙って大型メガ粒子砲を放っていたのだ。
「これが本命なの……!?」
「クッソォッ!!! 止めろおおぉおぉぉぉぉぉーーーーっっっっ!!!!!!」
このままではアークエンジェルが落とされるのも時間の問題だ。
急いで向かうグラン達だが射程距離にはまだ届かない。
ティアやグランを始めとした面々に悲痛な表情が浮かぶ。
・・・
「このままじゃやられる!!」
この状況はアークエンジェルの面々も知れ渡っていた。
このまま成す術もなく撃ち落されると言うのだろうか、とZプラスのコクピット内でショウマが悲愴な声を上げていた。
「あだぁっ!!?」
「情けない声出すんじゃないよ! 言ったろう、諦めるなって!!」
するとコクピット内に衝撃が走る。
見れば殴られたのかシャイニングがZプラスの近くにいたのだ。するとシャイニングは物資搬入口に移動する。
・・・
「フェズ……。お前、まさか……」
「悪いね、色男。アタシはあんまり頭は良くないモンでこれ以外は浮かばなかったんだ。……ショウマや坊や達のこと、任せたよ」
シャイニングのコクピット内に今度はカレヴィから通信が入る。
動き出したシャイニングを見て、彼女の意図が分かったのだろう。
するとニカッと笑う彼女に何も言えなくなる。
ここからでは自分には打開策はない。
しかし彼女には何らかの策がある。
彼女の決意を無駄に出来ない、だからこそゆっくりと頷く。
「先生、なにする気だよ!?」
「ショウマ、アンタにはまだ見せてなかったね。これがアタシが教える最後の技さ」
今度はショウマから通信が入る。
フェズがなにをするかは分からないが嫌な予感がする。
するとフェズは物資搬入口を開き、その機体を輝かせながら、ショウマに優しく語り掛ける。
「なにが最後だよ!? ふざけんn「──ショウマ!!」……っ!!」
「これも言ったはずさ、最後まで抗えって。アタシは最後まで手を伸ばすだけさ!」
必死に止めようとするショウマの言葉を遮り、輝きを放つシャイニングはア-クエンジェルから飛び立ったのだ。
「ハァッ……!! 覇王不敗流が最終奥義……ッ!」
飛び出したシャイニングはメガ粒子砲を掻い潜りながら意識を集中させる。
フェズは両手首を合わせると、そこに光が溢れ、同時にシャイニングにも同様に光が現れ出る。フェズはカッと目を見開くと……。
「石破ァアッ!!!天ッ驚ッ拳ンンッッッ!!!! 」
シャイニングから放たれた光り輝く光弾は四機のビグザムの真ん中の二機を同時に撃破しただ。驚異的な力を見せたシャイニングにビグザム達は標的が変える。
「それで良いんだよ……! アタシ一人でさぁっ……。アレは見逃してもらうよ!!」
こちらに放たれるメガ粒子砲を避ければ、アークエンジェルに向かいかねない。
だからあえて避けずシャイニングフィンガーを放つ手を突き出しながらフェズはビグザムに向かっていく。
「ショウマ……。強くなれ!!」
・・・
「先生……っ」
アークエンジェルの物資搬入口にはZプラスが移動し、シャイニングの勇姿をショウマがその目に焼き付ける。
憧れた背中が遠くなっていく手を伸ばしても決して届かない。
やがて、シャイニングの姿さえも分からなくなった時、その場から閃光が溢れる。
「せんっせええェェェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーーーーーェエエエッッッ!!!!!!」
輝く光が地の果てまで照らす。
伸ばした手は届くことはない。
憧れの師との別れ。
ショウマの悲痛な叫びがZプラスのコクピットだけではなく、アークエンジェルの格納庫全体にまで響くのだった……。
パナマ編はひとまず終了です…。いやぁ難産だった…。さて次回から日常を挟みつつ宇宙に上がり、ゲームの前半を締めくくるあの戦いへ入っていきます。まぁでも今回同様、色々と違うんですがね