機動戦士ガンダム Silent Trigger   作:ウルトラゼロNEO

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パナマベース─宇宙へ上がるためには─

 

 

「こちらに傾いてきたな」

 

 最前線で戦闘を行っているビッグトレーのブリッチでレギンが誰に聞くわけでもなく呟くと、戦況を見極める。

 一時期はどうなることかと思ったが、こちらが押し始め有利になったところだ。今では正面で戦闘を行っている一部の部隊も突破したとの報告もある。

 

「裏部隊はどうだ?」

「現在、アークエンジェル隊が進攻、フリーデン隊はフリーデンは沈んだものの残ったMS隊も同様に進攻しています」

「それ以外はやられたと言うのか……」

 

 裏部隊というのは現在、アークエンジェル隊などが行っている作戦を実行している隊達のことだ。

 彼らに何かあれば陽動も兼ねている自分達の行動も無駄というものだ。

 現在、名前があがった隊以外の話を聞かない以上は全滅したと思って良いだろう。

 これ以上の犠牲は避けたい。突破した部隊が少しでも裏部隊の手助けになるようなことになることを願わずにはいられない。

 

「……司令」

「なんだ?」

 

 そこに秘書官がそっとレギンのそばに歩み寄ると耳打ちをする。

 あまり大きな声で言えないことなのだろう。レギンは耳を傾ける。

 

「……地上攻略作戦阻止のために動いた宇宙艦隊の半数が現在、壊滅したとこの報告です。報告ではMAらしき機体もあったとか」

「……なんだと? クッ……例えパナマを落とせても地上攻略作戦を阻止できなくては無意味だ」

 

 コロニー軍の地上攻略作戦阻止のために動いていた宇宙艦隊の半数が壊滅状態、驚かざるえなかった。

 先程、無駄といったが、それ以上に阻止できなくては作戦そのものが無意味だ。レギンは頭を悩ませる。

 

「……アークエンジェル隊はもっともマスドライバーに近かったな」

「……彼らを向かわせる気ですか? 正直、艦長の力量などを考えても力不足かと……。まさか、例のパイロットに任せる気ですか?」

「全てを任せる気はない……が、あの部隊のMSなどは正直、異常と言っていい性能を誇っている。しかも戦果も上々……。だが、その殆どはコロニー軍の戦艦、そして機体だ。悔しいが我々よりもMS開発は優れているのだろうな。しかし今はこちらにある。例のパイロットを含めて役に立ってくれるだろう。我々には選択できるほどの余裕がない。使えるものは使わなくては」

 

 ポツリと呟くレギンの一言に秘書官が待ったをかける。

 力量不足だと判断したからだ。しかしそれもレギンの言葉で押し黙ってしまう。確かに自分達には余裕がないのだ。秘書官はアークエンジェル隊への連絡のため動き出すのだった。

 

 ・・・

 

「どうだ、ドクター?」

 

 グラン達の援護もあり、アークエンジェルにたどり着いたカレヴィはブレイカーFBのコクピットから翔を抱えて、医務室に運び込んでいた。

 翔の身体を検査しているドクターに問いかける。翔とは短い付き合いではあるがそれでも何も思っていないわけではない。心なしか心配そうな表情だ。

 

「外傷などもなし異常は見当たらない……が、意識を失っている。直に目を覚ますとは思うのだが……。また妙な光を出したそうじゃないか」

「ああ……。それが何かあんのか?」

「……彼は私の知っている“人間”なのかと思ってね」

 

 翔から離れ、彼が寝かされているカプセルを操作して安静状態にするとドクターは神妙な面持ちでカレヴィを見ると、ドクターに問いかけに対し訝しみながら問い返す。

 するとドクターはカプセル内の翔を見ながらの呟きを聞き取ったカレヴィは聞き捨てならないと言わんばかりにドクターをジロリと見る。

 

「……前にレギン司令がここで話していたことがあってね。人類の革新……彼は私達とは違う次元に立っているのではないかな。そして時々恐ろしくなるんだ、人知を超えたような彼に私がなにが出来る? 人間なら治せるかもしれない。だけど彼がもし机上の空論とまで言われたニュータイプと呼ばれる存在だとしたら……私になにが出来る? 精々、こうやってベットよりも安静にできるカプセルに入れるぐらいだし、彼が医務室に運ばれてくるときはあの光関連だ。あの光が原因ならば私に手の施しようがない……。私も映像で見せてもらったがね、こうして今の彼を見てると、あの光の輝きはまるで彼の生命を食い尽くして放たれているようにも見えるよ」

 

 彼は自分の役職に誇りを持っている。

 だからこそ何も出来ない自分が情けなく、そして自分よりも若い青年が目覚めることを願うしかないのが堪らなく歯痒かった。

 カレヴィもドクターへの鋭く刺すような目つきを止め、なにか声をかけたかったが下手な慰めはかえって逆効果だろう。だからなにも言えなかった。

 

「……すまなかったね、変な話をして。君は君の役目を果たしてくれ」

「……ああ」

 

 その場に重い空気が流れる。

 カレヴィもドクターもどちらも喋りはしない。だが今は戦闘中だ。ドクターはカレヴィに声をかけると、カレヴィは近くの台に置いていたヘルメットを取って神妙な面持ちのまま医務室を出て格納庫へと向かう。医務室内では意識を失い、カプセル内で眠り続ける翔と立ち尽くすドクターだけが残っていた。

 

 ・・・

 

 《……──ということだ。出来るだろう?》

「出来る出来ないじゃなく、やれってんでしょ」

 

 ベロニカからの通信が直接ジェイクへと送られると、伝えられた指示にジェイクはXDVの相手をしながら口をへの字にして、どこか面倒臭そうな表情を浮かべる。

 実際今、ベロニカからの指示を実行するには自分達はリスクを負わなければならない。

 

「──ッ!」

「っ!?」

 

 XDVはそうしている間にも大型ビームサーベルを鋭く素早く振ってくる。

 反射的にジェイクは行動を見極めて、AGE-2を操作して、放った前蹴りは大型ビームサーベルを持つマニピュレーターに当たって軌道を逸らす。予想外の行動にこれにはグランも目を見開いて驚いた。

 

「お前ら聞いたな? あんまり入れ込み過ぎんなよ」

 

 このままではまずいとブレストバルカンを発射するXDVだがAGE-2は後方へ下がりつつ避けながらオペレーターから指示を聞いていたであろう付近の味方機に通信を入れるとXDVに背を向け、変形をして一気に飛び立つ。

 

 それを聞いたリーナと共に来た部隊のガフランやザクⅡは牽制の射撃をしながら徐々に下がっていく。戦闘をしていたヘビーアームズやシャイニング、ジェガン2機はその攻撃に身動きが取れなかった。

 

「おめおめ下がんなきゃいけないのかよ……! こんな奴に……!」

「っ!? くそっ待て!!」

 

 レンは所謂、遺伝子操作を受けたコーディネーターと言われる存在だ。

 だからこそナチュラルでありながらもコーディネーターである自分よりも上であり、空の支配者の異名を持つジェイクを崇拝しているし、自分に自信がある。

 

 だがこの目の前のZプラスの地球軍のパイロットは先程から格闘技の技のようなもので自分の攻撃を受け流している。

 それが神経を逆撫でするようで腹立たしかった。

 FインパルスはビームライフルをZプラスへ投げつけると直前でバルカンで射撃して、爆発させるとZプラスのメインカメラが爆発で遮っている間にFインパルスの起動力を活かして下がる。

 だがすぐにショウマが追撃する。それが狙いだとも知らないで……。

 

「くっ!!?」

 

 エクシアとの戦闘を行っていたバンシィもビームマグナムで射撃をして下がろうとする。ビームマグナムの極太のビームはエクシアに向かい、エクシアはシールドで防ぐがあまりの衝撃にシールドの表面は削れて、機体が揺れる。

 

「──逃がさないっ!!」

「──邪魔!!」

 

 機体の揺れを機体を動かすことで直し、下がろうとするバンシィを逃すまいと追撃しようとするエクシアは、GNソードを展開し斬りかかるとバンシィも片方のマニピュレーターでビームサーベルを引き抜いて応戦する。両機体のコクピット近くで剣と剣がぶつかり合い火花が飛び散る。

 

「っ!?」

 

 だがそれも長くは続かず、エクシアが膝蹴りのように放った攻撃がバンシィが持つビームサーベルを弾き、そのままグルリと回転、横一文字にGNソードを振るうとリーナは驚きつつも咄嗟に反応し機体を後方に反らすも、バンシィのコクピットの表面を大きく切り裂き、機体同士が密接していることもあってか中のパイロットの姿がエクシアのモニターにも映る。

 

「!?」

 

 パイロットを見たレーアは目を疑う。

 明らかに自分よりも小さな恐らく年下であろう少女だったからだ。

 

 そして何よりも見づらくはあったがパイロットの目だ。

 なにか強烈な違和感と共に既視感を感じる。それがエクシアの動きを一瞬鈍らせ、バンシィにも後退させる隙を与えてしまう。

 

「っ……待ちなさい!!」

「おい、レーア!?」

「ショウマが行ったわ!」

 

 バンシィを追うレーアの中で様々な疑問が浮かび上がる。

 何故、あのパイロットを見た時に感じた感覚はなんなのか、そしてあんな年端もいかない少女がパイロットをしているのか? 自分は二十代ではあるがあのパイロットは十代ではないのか? 

 何であれショウマも追撃する以上、カレヴィの通信が聞こえるが自分もショウマの援護と共にバンシィを追おうと行動を起こす。

 

「悪い、遅れた。だがあの二人……」

「戦場での線引きは難しいさなぁ」

 

 エクシアと入れ替わりのようにアークエンジェルから到着したカレヴィが追撃している2機をモニターで見ながら表情を険しくさせるとグランはため息をつきながら少し呆れ顔だ。

 

「……どう思う、色男達?」

「明らかに誘われてるだろうな。態々、背を向けていくぐらいだ」

「普通なら行きたくはないんだが、あの二人が行っちまった以上は見過ごせんしな」

 

 フェズはカレヴィとグランにそれぞれ意見を伺うと、敵の意図を読み解いてカレヴィがアークエンジェルへ通信を入れる。

 

「どうする、艦長代行殿?」

 《……追撃をお願いします。そしてアークエンジェルはこのままマスドライバーへの強行着陸を開始します。コロニー軍の地上攻略作戦阻止の為の作戦に参加するよう通達が来ました……。宇宙(そら)へ上がり、情報にある核搭載兵器の地上降下を阻止せよ、とのことです》

 《各機、目的地までの障害を速やかに排除せよ。着陸後は施設のコントロールを奪い、準備完了しだい発進する。発進後はコース変更や減速はできない。必ず発進までに本艦へ合流せよ》

 

 一応、彼女は自分達の上司だ。

 判断は仰がなくてはいけない。しかし、ルルから発せられた言葉に一同、表情を変える。すぐに放たれるマドックの言葉にどうやら聞き間違いなどではなかった事を悟る。

 

「……良いように使われてるね」

「どの道、進むしかないわけだ……」

 

 裏部隊として動かされ、今度はすぐに宇宙(そら)へ上がり核搭載兵器の撃破。

 正直、頭が痛くなってくるが、駄々をこねるわけにはいかない。そうしてその場にいるプロトゼロ達が動き出そうとした瞬間……。

 

「───なんだ!?」

「前! エクシア達が向かった方!!」

 

 衝撃とともに前方からモニターでも確認できるほどの大爆発が起きる。

 グランが状況を知ろうとするなかで、いち早くティアが言葉を発する。彼女の言葉通り、前方で何かが起きた。

 

「ショウマ達との距離はまだそれほどない筈だ! 行くぞ!!」

 

 ショウマ達に何が起きたのか、とにかく向かわねばならない。

 カレヴィの一声でプロトゼロ以下全機はバーニアを使用して一気に飛び立つのだった。

 




久しぶりにブレイカーを起動してやったんですけど、以外と操作は忘れてないもんですね。さて今月までにはパナマ編を終わらせたいところではあります。

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