機動戦士ガンダム Silent Trigger   作:ウルトラゼロNEO

34 / 96
パナマベース─アイ─

 

 

 距離が空いていることを利用して素早く両腕のガトリング砲を発射するブレイカーFB。

 弾丸はバンシィDに直撃こそするものの損傷は軽微、そればかりか更に近づいてくる。

 

 近づいてくること自体はありがたいのだが、このまま突っ込んだところで展開中のビームトンファーによって消し炭にされるだけだろう。翔は策を巡らせるがその間もバンシィDは襲いかかってくる。

 

 ブレイカーFBの特質すべき点はやはりその高機動性だろう。ガトリング砲は発射しつつバーニアをすべて利用して飛び上がり両腕に装備されているバズーカを向け……。

 

「……」

 

 ありったけを発射する。

 砲弾がバンシィDに近づくがリーナは慌てた様子はない。

 それどころかその虚ろな瞳はブレイカーFBを捉える。バンシィDは左腕部のビームトンファーなぎ払うように振るい、放たれた極太のビーム刃は誘爆したものを含めて全て砲弾を爆発させる。

 

「──ッ!?」

 

 センサーでは捉えられているものの爆風で見えなくなってしまう。だがそれはバンシィDも同じこと。ブレイカーFBは硝煙の中を突っ込もうとバーニアを吹かすが、同時にバンシィDも爆煙から飛び出してきていた。

 

 目を見開いて驚く翔とは対照的にリーナの口元には嘲笑するような笑みが浮かんでいた。そのままバンシィDの右腕部のマニュビレータはブレイカーFBのメインカメラを掴む。

 

「──ぁっ!?」

 

 その際に凄まじい力なのか掴まれた箇所は凹み装甲が破られてしまう。

 そのまま飛び上がったバンシィDは飛び上がったと思えば弧を描いて、ブレイカーFBを地面に叩きつける。

 装備していたバズーカはその衝撃で離れてしまうが、今はそれよりも衝撃で息が詰まり呼吸が出来なくなってしまっていた。

 

 呻き声を上げる翔はその苦しみから必死に空気を吸おうとする。

 一時的なものであったのか何とか息を吸うことはできた。だがその間でもバンシィDは行動をしないわけではない。

 

 再びメインカメラを掴んで持ち上げる。

 ビームトンファーの展開を止め、ビームサーベルを引き抜いた。

 やはり肥大化しているがこのままコクピットを貫こうとしているのだろう。リーナの虚ろな瞳はブレイカーFBのコクピットしか見ていない。

 

「っ……!?」

 

 このままではマズい。

 腰部のラックにかけられているビームライフルを素早く取ってそのエネルギーが切れるまでバンシィDのメインカメラに向け、撃ち続ける。

 バンシィDのコクピット内ではその閃光でメインカメラが見えなくなるもサブモニターで確認しようとするが、ビームライフルをバンシィDに投げつけ、ブレイカーFBのメインカメラを持つマニピュレーターを右腕部のマニピュレーターで掴み左腕部のガトリング砲を展開して、バンシィDの関節部に叩きつける。

 ガトリング砲を全て撃ち尽くすとその際に関節部に損傷があったのかブレイカーFB体制が崩れたバンシィDのマニピュレーターから解放され、地面に立つ。

 

「っ……!?」

 

 リーナは自由になったブレイカーFBに一文字にビームサーベルを振るおうとするが、ブレイカーFBはその場にしゃがむように機体を操作して避ける。

 リーナは虚ろな瞳ではあるが、心なしかその瞳は驚いているように見える。モニターに映る屈んだブレイカーFBはギンッとメインカメラを発光させ、こちらを捉えていたのだ。

 

「───はぁあっ!!!」

「っ!?」

 

 ブレイカーFBの二つのマニピュレーターには地面に叩きつけられた際に落としたバズーカが握られていた。

 

 翔は叫ぶ。

 するとブレイカーFBはその叫び声に呼応するように力強く全身を上げながら野球の際にバットを振るうようにバズーカを振るい、バンシィDに叩きつけると、その際の衝撃でバンシィDは地面に打ち付けられる。

 

「……ッ!」

「……お膳立てしたんだ。頼むぞ……」

 

 叩きつけられた際にリーナは思わず目をギュッと閉じてしまう。

 目を開けた頃にはブレイカーFBは倒れるバンシィDに組み付いていた。

 ブレイカーFBのコクピットの内で翔は汗をビッショリ掻きながら願掛けのように呟くと胸の中で返事をするように強い鼓動が響く。するとブレイカーFBとバンシィDが放つ二つの光は少しずつ交じり合いを始める。

 

「なにっ……!? なにかが……くるっ……!!」

 

 混じりあった光は両者のコクピット内のモニターを強く輝かせる。

 その溢れんばかりの光はリーナの視界を奪うも、その際になにかが強い違和感を感じ始める。自分の中に入ってくるような感覚だ。だが不思議と嫌悪感はなかった。

 

 ・・・

 

 

【貴女は私……なのね】

「──なに言っているの……? 私は私……」

 

 どこまでも続く真っ白な世界。

 ここはどこなのか、強いて言うのであればリーナ・ハイゼンベルグの精神世界だろう。

 周囲を見渡しているリーナに自分に似た声が聞こえる。しかしその言葉は意味がわからないから否定をする。

 

【そう、だね……。貴女は貴女。私であって私ではない……】

「貴女のこの温かい感じ……。私には、ない……。なんでなの? これがないから私は……お父様に愛されないの?」

【貴女は私の中の孤独感をより一層強くした人なんだよ……。だからそう感じるの】

 

 彼女の言葉はイマイチわからない。

 いや理解をしたくないのだろうか。だが実体は見えないものの聞こえてくる声はその声は自分なんかとは違い、温かさを感じる。

 

 そこでふと出てくるのは父だ。

 しかし温かな声はそれを否定する。だがその否定の言葉に理解しようとしていなかったが、それでも聞き捨てならなかった。

 

「待って……。それじゃあ……私はっ……!!」

 

 この声の主のクローンとでも言うのだろうか?

 しかし自分の中に幼少期の記憶はない。目が覚めた時にはヴァルターがいて、自分は事故で記憶があやふやなのだと言われたが、それでもどんどん考えていくうちにある疑惑が立つ。

 

 自分には二人の姉がいて、そのうちの長女のシーナは事故で亡くなったという話は聞いたことがある。もし自分が彼女のクローンならば、所詮は紛い物として父は愛するのを止めたのだろうかと彼女は今にも泣きそうな顔をして頭を抱えてその場に蹲る。

 

【ごめんなさい、そんな風に苦しめるつもりはなかったの……。でもね、例えなんであろうと貴女は貴女……。貴女は生きてるの。貴女は私にはなれないし私も貴女にはなれない。だってそれが貴女だから】

「っ……!」

 

 目尻には涙が浮かぶ。

 リーナは決して人前では泣くような人物ではない。

 

 涙を流せば鬱陶しがられると思っているからだ。

 ただでさえ父から愛されなくなっていると自覚をしているのだから涙など見せれば余計に見向きされなくなるだろうと思っていた。だが、そんなリーナの心にも限界が訪れた。

 

 彼女の頬に涙が伝う。

 しかしそんな彼女を温かな光が彼女を包む。リーナにはまるで誰かに抱きしめられているような感覚だ。そしてその耳元で自分に語りかけていた女性の声が聞こえる。

 

「……お姉……ちゃん……?」

【……そうなるのかな。貴女は紛れもなく私の……いや……私達の妹よ。名前を教えてくれるかな】

 

 ポツリと呟く。

 この自分を抱きしめているような光と声の主に対して彼女にはある種の確信があった。

 そしてそれは肯定された。

 

 姉が居るとは知っていたがもう会うことはないと思っていた。

 もしかしたらこれは幻覚なのかもしれない。でもそうだとしても構わない。

 

「──リーナ…。私の名前……リーナだよっ……。”シーナ”お姉ちゃん……っ!」

 

 折れかけた心は今は救われているのだ、

 自然と涙は止まっている。

 彼女は必死に自分の名とそしてこの声の主であろう姉の名を口にする。

 

【うん、ありがとうリーナ。私を受け入れてくれて】

 

 するとその優しげな声……いや、かつてこの世を離れた筈のシーナ・ハイゼンベルグはリーナへ礼を口にする。

 確かにシーナは死んでいる。だが今その意識は翔の中に宿っていた。そもそも翔をこの世界へ呼んだのは彼女なのだ。

 

 しかし彼女の力は弱く翔の中の奥深くでしか保てず突発的な状況で短時間でしかその意識を表に出すことはできない燃え滓のようなものなのだ。

 だからいくら翔へ語りかけようとして中々その声は届かず、普段は彼の中でその意識は眠っていた。

 

 そしてブレイカーが時折見せるあの光、これはこの世界でシーナが初めて発した力だ。

 今では翔とリーナが。そして僅かながらルスランが光が放った。だから今回、リーナが暴走に近い形で光を放った際、それをなんとしてでも食い止めたかった。

 

 彼女に自分に近い何かを感じたから余計に。

 だから無理をしてでも前に出た。力が弱いせいで翔とは上手く意思疎通が出来なかったが、彼はそれでもシーナの意思を汲んでくれた。

 

 問題もあった。

 シーナの言葉通りだ。自分がもしリーナの意識の中に飛び込めたとしてもリーナが自分を拒絶されれば彼女の負の感情によって力の弱い自分は消え去るだろう。

 でも彼女は拒絶することなく受け入れてくれた。だからシーナは感謝した。

 

「私のこと……今……抱きしめてくれてるの?」

【そうだよ、嫌……かな?】

「ううん……。もっと……そのっ……抱きしめてほしい……な」

 

 リーナは愛を知らない。

 この初めて感じる温もりが愛だというのなら独占したくなってくる。

 思えば彼女は誰かに抱きしめられたこともない。無論、ヴァルターにもだ。

 

 愛も知らなければ人の温もりさえも知らないのだ。

 リーナの願いに対して、シーナはその弱々しい力を振り絞って彼女を包む光を強める。

 

「あの気持ちの悪さはお姉ちゃんのせい?」

【……そうかも。きっとリーナが言った通りだよ。自分を見ているようだから気持ちが悪かった。だから不快感になり嫌悪感になった。でも、今は?】

「ん……。そこまで気持ち悪くない」

 

 リーナはそもそもブレイカーFBを襲いかかった原因とも言える不快感について尋ねるとシーナはリーナの言葉通りだと言う。

 事実、シーナの意識を宿している翔もまた不快感に襲われていた。

 しかし、今は不快感を感じてはいないのか気持ち良さそうに目を細めていた。

 

【……ごめんね、リーナ。そろそろ……限界……みたい……】

「……なんで……? やだっ……。私、もう少しお姉ちゃんといたいっ……!」

【私の力……弱くなってるんだ。彼のおかげで繋ぎ留められてるけど……そろそr────────】

 

 シーナの声が薄れていく。

 それと同時に自分を包んでいた光さえも消えかけていた。

 初めて感じた温もりを手放したくはない。リーナは悲痛な表情を浮かべる。

 

 しかし彼女の願いは叶うことはなくパッとシーナの声もその温もりも感じなくなってしまう。リーナはまたこの真っ白な空間に取り残される、やがて視界が真っ暗に暗転するのだった……。

 

 ・・・

 

「どうなってんだ……!?」

 

 先程まで膨大な光が溢れていた場所は嘘のように消えて、その場にはデストロイモードが解除されたバンシィが地面に倒れ、そこに組み付くブレイカーFBがいた。

 一連の出来事にジェイクは困惑しているとカレヴィは鍔迫り合いを行っていたAGE-2を蹴り飛ばしネオバードモードへ変形して、ブレイカーFBの元へ向かう。

 

「ったく……お守りは勘弁なんだよ!!」

 

 吹き飛ばされたAGE-2も体勢を整えると素早く変形してプロトゼロを追う。

 もし仮にバンシィ……いや、リーナ・ハイゼンベルグになにかあったら厄介だ。

 

 文句を言いながらプロトゼロを射撃しつつバンシィのもとへ向かう。

 しかし射撃は全て避けられてしまう。それどころかプロトゼロとバンシィ達が射線上に重なる為に下手な射撃はできなかった。

 

「翔、しっかりしろ!」

 

 何とかブレイカーFBの元へたどり着いたプロトゼロはMS形態へ変形して、勢いあるまま地面に着地する。

 

 そのままブレイカーFBを回収すると再び飛び立つ。

 接触回線で連絡を試みるも返事はなくそれどころかモニターに映る翔はグッタリとした姿勢で気絶していた。

 

「お嬢ちゃん、寝るならベッドで寝な!」

「私は……っ」

「意識があるんなら上等だ。動けんなら動いてもらいたいもんだがね」

 

 プロトゼロと同じ要領で変形して地面に着地したAGE-2はバンシィを回収して通信を入れると、リーナは意識があるようだ。

 ジェイクの言葉にリーナは少しもたつきながらもなんとか操縦を再開するが……。

 

「おいおい…」

 

 コクピット内で警報が鳴り響く。

 嫌な予感がして見れば、プロトゼロが片方のバスターライフルを向け発射していた。

 

 片方とは言え、その威力は絶大なのものでこちらに向かってくるビームにジェイクは表情を険しくさせながらバンシィを掴むとAGE-2の全ての動力を使って後方へ避ける。脚部に掠りはしたが、なんとか行動は出来る。

 

「今度は大型の熱源……? 勘弁してくれよ……」

 

 レーダーの遠方に何かをキャッチする。

 その大きさにジェイクはうんざりしたような表情を浮かべる。

 すると海を映すモニターの方では水しぶきを派手に上げながらアークエンジェルが現れた。

 

 同時に開かれたカタパルトからベースジャバーに搭乗したMSが5機、飛び出してくる。

 それと同時に艦砲射撃が放たれ、パナマ基地を蹂躙していく。

 

「──無事なの、カレヴィ? 翔は!?」

「レーアか! 無事でなによりだが、翔は気絶しているからこのままじゃマズイ!」

 

 そのうちの一機はエクシアだ。

 真っ先に到着したエクシアはAGE-2達に牽制しながら動かないブレイカーFBを見て慌ててプロトゼロに通信を入れると、プロトゼロはブレイカーFBを抱えたまま、カレヴィは冷や汗を流しながら答える。

 

「だったら俺たちに任せてお前は一度戻れ!」

「グランか! 恩にきる!」

 

 射撃を避けているAGE-2とバンシィは後方へ下がっていくと、今度はグランからの通信が入り、モニターを確認するとベースジャバーに搭乗するXDV達が近づいてくる。

 同時に全速力で飛ばしてきたベースジャバーから勢いよく飛び出し、ドシンッと地面に音を立て着地したヘビーアームズは射撃を開始し、シャイニングやZプラスなどを援護射撃を開始する。

 

 カレヴィは礼を言うとXDVとすれ違った瞬間にバーニアを全て使用してブレイカーFBを抱えてアークエンジェルへと向かい、XDVやジェガン達は入れ違いに戦闘を開始するのだった。

 

 ・・・

 

「敵戦艦、海面トンネル入口周辺に出現!そこからMSが何機か増援できています!」

「前線のレギン大隊の一部の部隊が突破されたとのことです!!」

 

 パナマ基地の司令部ではオペレーターが慌ただしく矢継ぎに報告をするとベロニカは下唇を噛み締める。

 前線のレギン大隊へもエースを向けたとは言え、やはり一部は突破してきた。形勢は傾き始めていた。

 

「……仕方がないね。だったらまず第三防衛ラインの奴らを奥に誘ってやんな。レギンのじいさんにも冥土の土産にプレゼントはその後にしてやろうじゃないか」

 

 ふとモニターを確認してあるMAの部隊のデータを確認するとベロニカは立ち上がり、不敵な笑みを浮かべる。最終局面を迎えようとしているパナマ基地戦はどうやらまだ波乱が待っているようだ。




途中でシーナなのかリーナなのか訳がわからなくなり、ゲシュタルト崩壊してました。一応、見直してはいますがが、ここはシーナの部分じゃない?ってのがありましたら教えていただけると幸いです。

また今更感がありますが、翔の中にいたというシーナが一応登場しました。まぁこの辺りの話などについては追々やっていこうと思います。予定では後三話か四話で終わる予定ではいますけど、今までに比べてパナマベースがなんだかんだで一番の難産でした。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。