機動戦士ガンダム Silent Trigger   作:ウルトラゼロNEO

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パナマベース─大渦─

 

 

 《戦果を見た。殲滅は可能だったんじゃないかい?》

「あそこまでやれば十分だ。MS隊が完全に展開されていない隙をつくことに意味があったのだ。あの格闘機によって他のMSも鼓舞されているようにも感じた。あれ以上の戦闘はこちら側にも被害が出る」

 

 パナマ基地へと戻る道中で“仕掛け”を施してきたタクティックス隊は指定された格納庫に帰投していた。

 レッドフレームのコクピットにベロニカからの通信が響くとティグレは静かに返答する。

 

「それに私達の目的はあくまで奇襲であり、殲滅ではない。必要以上のことはしない。その結果、私達の内の誰かが死ぬなどあってはならないからな」

 《戦場の征服者なんて言われた隊の隊長にしてはお優しいことで》

「勝手にそう呼ばれているに過ぎない。私達は私達だ」

 

 ティグレの淡々とした物言いに、つまらなく感じたベロニカは皮肉めいた言葉をティグレに送るも、意に介した様子のない彼に更に退屈でつまらない印象を受ける。

 ルスランやエイナルなどに言えば食って掛かるような面白い反応、もしくはジェイク辺は軽口を返してくれただろう。そう思うと通信越しの男はつまらない、そう感じてベロニカは通信を切る。

 

 ・・・

 

(ティグレ・インスラ……。今までの戦果を見るに戦闘においてのレベルは軍の中でもトップクラスなんだろうけど忠犬エイナルみたいな甘さが目立つ。必要以上に相手を傷つけることもなく捕虜に対して好待遇で饗す。戦術と操縦技術によって戦場の征服者なんて呼ばれているからどんなもんかと思えば……正直、気に入らないね)

 

 携帯端末から己の目の前に立体ディスプレイを表示させ、先程まで閲覧していたティグレのデータを再度見つめる。

 その瞳は興味が失せたと同時にエイナルなどに対しての気に入らない不快な存在を前にするような目だ。

 

「状況はどうなっている?」

「トレント中隊は半分に分かれ、一方はトレント隊副隊長を中心に我がパナマ基地の戦力の大半と現在、全面に展開されたレギンの大部隊と交戦中です!」

「ならそっちにタクティックス隊を行かせな。すまし顔の甘ちゃん隊長にはそっちでも腕を振るってもらう、戦術だけじゃないらしいしねぇ」

 

 あくまで指令を務めるベロニカは現在の状況を尋ねると、忙しく手を動かしながらオペレーターの一人が答える。

 するとベロニカは帰投したばかりのタクティックス隊を増援として差し向けるよう指示を出す。

 

「タクティックス隊の情報通り、海中トンネルへ進行する敵部隊複数有りますが」

「ちゃんともう半分のトレント隊とカイリのおっさんを中心に防衛網は引いてあるはずだろう。招集して来たエース以外にも元々この基地にはエースがいるだろうに…。それより制空権はどうなっている?」

「航空優勢です! 現在、ジェイク・ヴェイド少尉の小隊が補給の為に基地へ戻ってきています」

 

 オペレーターの報告にタクティックス隊のからの有益な情報から手は打っていたベロニカは気にするなと言わんばかりに手をひらひらと振りながら制空権の有無を問いかけると、どうやらジェイク達はパナマ基地は広大な為、制空権を完全に取得できなかったものの航空優勢を勝ち取ったようだ。

 

「良いねェ、どんどん派手にやっていこうじゃないか」

 

 戦闘狂の類なのだろうか、頬を舐めずりするベロニカは心底、楽しそうだ。

 そうしている間にもパナマ基地では激闘が起き、撃っては撃たれ、その命を散らしていくのだった…。

 

 ・・・

 

「迷いは吹っ切れたか?」

 

 当初の予定通り、アークエンジェル隊は海中からのルートを使用していた。

 その道中でカレヴィがフェズに通信を入れる。するとフェズは柔らかい笑みを浮かべ……。

 

「ああ、お陰様でね。そういうアンタこそ前より一段と良い顔になったじゃないか」

「吹っ切れた……と言うよりは誓いを立てたからな」

 

 フェズもまたカレヴィの変化に気づいていた。

 彼女の指摘にカレヴィは負い目であるグランに対しての誓いを守るその決意の固さを表すように清潭な表情を見せる。

 

「……」

「嫉妬? 師匠と良い雰囲気だからって」

 

 カレヴィとフェズのやり取りを見て、ショウマはつまらなさそうな表情を浮かべていた。そこにレーアがからかうように通信をいれてくる。

 

「……別にそんなんじゃねーよ」

「ふぅん……。それより随分とサクサク進めるわね。このままだともう少しで海底トンネルよ」

 

 不貞腐れるようなしかめっ面で答えるショウマに苦笑しながらレーアはこれ以上、からかうのを止め、モニターを確認し周囲を伺う。海中の所々には両軍のMSの残骸が沈んでいた。

 

「恐らくは俺達が遅れてきたのが原因だろうな。海底トンネルを通っていくのは俺達だけじゃない。少数精鋭の隊が他にもこの海底トンネルを通っていくんだ」

 

 タクティックス隊の妨害のせいでかなり出発が遅れてしまった。

 恐らく他の隊は当初の予定通り、海底トンネルを目指し、その道中で戦闘があったのだろう。あちこちに機体の残骸などが沈んでいた。カレヴィからの通信と共に戦闘音が響き渡る。

 

「……追い付けたみたいだ」

「俺達も行くぞ!」

 

 翔の呟きがそれぞれのコクピット内で響くなか、彼らのモニターにはMS同士による戦闘が確認できた。

 見れば陸戦型ガンダムの小隊やNT-1を隊長機とした部隊など複数の小隊がズゴックやアッガイなどによるコロニー軍の混成部隊との戦闘を行っているのだ。カレヴィの通信と共に五機のガンダムは同時に動き出す。

 

 海底トンネルを背に陸戦型ガンダムの小隊との銃撃戦を繰り広げるアッガイとズゴックの混成部隊にブレイカーFBが飛び上がって両手に持ったバズーカを同時に撃ち始め、反応したズゴックやアッガイ全機は素早く反応し避けると、砲弾は地面に着弾して土が吹き飛ぶ。

 

「──不意打ちたぁな。だが相手が悪かったな」

「ッ!?」

 

 ある男性の声が響くと共にビームと実弾の攻撃による衝撃がブレイカーFB達を襲い、翔達は必死に歯を食いしばりながら衝撃に耐える。

 

「ハァアッ!!」

「ほぉ……良い蹴りじゃないか」

 

 いち早く対応したのはフェズだった。

 突き刺すような鋭い蹴りを繰り出すシャイニングに翔達を襲った機体であるハイゴッグが機体を反らし、バイス・クローで受け止めるとハイゴッグを操縦するカイリは敵ながら見事な蹴りにニヤリと笑みを浮かべ……。

 

「ただ場所が悪かったなぁっ!」

「ぐぅっ!?」

 

 二つのバイス・クローで蹴りを繰り出した右足部を掴んだハイゴッグはそのままジャイアントスゥイングの如くブンブンと回転し、遠心力を利用して投げ飛ばす。

 

「このパナマ基地で水中用MSも用意しないでくるたぁ舐められたもんだな。ガンダムばっか作ってんなら魚に変形するガンダムでも作ったらどうだ?」

 

 投げたシャイニングに追い打ちをかけようとビーム・カノンを発射しようとするカイリの表情は水陸両用機を1機も用意していない地球軍に対しての嘲笑を交えながら操縦桿のトリガーを引こうとする。

 

「おっとぉっ」

 

 だがそれも自分を狙ったビームを避けることで阻止される。

 見ればエクシアがGNソードの銃口をこちらに向けていた。

 

「カレヴィ、私が合図したら一気にみんなと一緒に海底トンネルを通り抜けて」

「なに?」

「目の前のMSは確実にエースよ。逃がしてくれとは思えない。私がここに残ってこいつらを引きつける。幸い、他の部隊がいてくれてるし、精鋭なんでしょう?」

 

 レーアは素早くカレヴィへと通信を繋げる。

 レーアの提案に怪訝そうな表情を浮かべるも、彼女は少しでも突破させることを選んだのだ。

 プロトゼロは火力に申し分もないし、一定条件下ならばシャイニングやブレイカーFBも期待できる。

 

「……分かった。だか、いざという時はトランザムでもなんでも使用して一気に離脱しろよ。俺達の機体は水中じゃ難しいがお前のエクシアなら出来る筈だ」

「言われなくても」

 

 己を危険に晒してでも突破口を開こうとするレーアの覚悟にカレヴィは真摯な態度で受け止め、助言をするとレーアは微笑を浮かべて操縦桿を握り締める。

 

「おっと……!」

 

 GNソードを展開、GN粒子を放出して一気に接近してくるエクシアにカイリは表情を引き締め、機体を素早く操作して必要最小限の動作で機体を反らし、闘牛士の如く避けるとエクシアの背後にビーム・カノンを発射しようとするも……。

 

「──今よッ!」

「お前ら行くぞッ!」

 

 レーアは素早く合図を出して機体をすぐさま反転させ回転斬りのようにGNソードの刃をハイゴック目掛けて放ち、ハイゴックがまたもやそれを避けている隙に4機のガンダムが海底トンネルを目指して一気に突き進む。

 

 閉じられた海底トンネル付近を防衛をする機体群に対し、ガンダム4機による同時射撃攻撃によって少しでも数を減らしてトンネル入口のシャッターを破壊すると残った機体のパイロット達が動揺している隙に海底トンネルへと侵入する。

 

「……レーア、気をつけて」

「ええ、貴方も」

 

 その刹那、一人この場に留まるレーアを案じた翔を、レーアは安心させるように心強い笑みを浮かべながら見送ると、カイリ達との戦闘を再開する。

 

「驚いた。GN粒子の話は聞いてはいたがまさか水中でそこまで動けるとは……」

 

 GNソードによる斬撃を幾度も放つエクシアに対し、レーアに聞こえるはずのない独り言を呟きながら攻撃を避け続ける。

 

「ッ!?」

 

 避け続ける間、時折見せるエクシアの隙を見逃さず、カイリはすかさずエクシアの頭部のメインカメラに向かってビーム・カノンを発射する。

 

「隊長、4機に突破されましたが勢いはまだこちらにあります」

「第二、第三防衛ラインへの通達も完了です、隊長」

 

 レーアは動揺し直撃するもエクシアの性能に助けられてか、無傷近い状態だ。その隙にカイリのハイゴックの周囲には味方機のズゴックとアッガイがそれぞれ降り立つ。

 

「ご苦労さん。自分が囮になってでも他の奴らを行かせるたぁな。荒廃してるっていうジャパンの自己犠牲の精神って奴か? まぁアンタがジャパニーズかは知らんが」

 

 地球軍の複数の小隊と交戦中の他の機体をモニター越しで見ながら報告する部下達を労いながら目の前で攻撃のタイミングを図るエクシアにポツリとこぼす。

 

「態々俺を止めてでも残ったんだから1対1で……と言ってやりたいが、生憎、これは殺し合いであってスポーツマンシップにのとった試合じゃない。こっちは仲間と共に行かせてもらおうじゃないの」

 

 好戦的な笑みを浮かべるカイリのハイゴックからなにかプレッシャーのようなものを感じたのか息を呑むレーアは自然と操縦桿への力を強める。

 

「俺達が起こす大渦に耐えられるか、ガンダムちゃん」

 

 カイリの言葉と共にハイゴックとその背後に控えるズゴックとアッガイのモノアイが妖しく光る。それと同時に攻撃を開始するハイゴック達とそれを単機で立ち向かうエクシアとの戦闘が開始されたのだった……。




このところスランプです。まぁ今に始まったわけではありませんが…。パナマベース編もそろそろ中盤に入り始め、物語の前半をそろそろ終わりに近づいてきています。せめてこのパナマ編を書きあげ近いうちに前半を書き上げたいものです。

後、私事ですが友人と年内にガンダムフロント東京に行ってきます。一応、1の方ではありますがガンダムブレイカーの舞台のような場所なので楽しみだったりしてます。

もしご来場の際、物販コーナーでトリコロールカラーのアッガイをHGかSDか悩んでいる奴に出くわしてもそっとしておいてやってください、まぁ悩むなら両方買っちゃえば良いだろって話なんですが、それをし過ぎるとお財布の中身がggg

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