孤独のグルメ 微クロスオーバー   作:minmin

38 / 40
孤独のグルメ新シーズン放送決定おめでとうございます!
ということでお久しぶりの更新でございます。

しまったな……鶏唐カレーとライスカレーでカレーがダブってしまった……
でも書きたかったんだからしょうがないよね!

ではどうぞ~


第三十四話 東京都新宿区歌舞伎町のライスカレー

 

 

 歌舞伎町。日本を代表する夜の街。日本三大歓楽街の1つらしい。日本人って、何かと三大何とかが好きだけどどうしてなんだろう。因みに、残りの2つは札幌のすすきのと、福岡の中洲だそうだ。ただ、歌舞伎町とは言ってもその街並みは1丁目と2丁目でぜんぜん違う。よく「眠らない街」と称される歓楽街は1丁目の方で、2丁目は普通のオフィスビル街だ。2丁目は大久保に接していることもあってか韓国料理店や、韓国の食材を売っている店も多く、その辺りには俺も訪れたことがある。

 

 

「昔と比べれば今はかなり静かになったほうよ。やっぱり、2000年代になってからかしら。なんだかんだ言っても、お上の権力はそこそこ強いってことよねえ」

 

 

 酒が飲めない俺のために淹れてくれたコーヒーを一緒に飲みつつそう語るのは、1丁目の裏通りで「BAR雅」を経営しているママだ。長年この店をやっており、その人柄から人望は厚く、この界隈ではそれなりに名の通った人物だ、とは吉野の言である。

 

 

「それにしても、ゴローちゃんに頼んでよかったわぁ。前の額と同じくらい素敵よ」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 目を細めながら俺の背後に掛けられた絵を見つめるママ。軽く頭を下げた後、俺も振り返る。そこにあるのは、それほど大きくもない、なんの変哲もない風景画だ。偉そうに人様の絵を批評できる知識も経験も持ち合わせてないが、なんだか本当にそこへ行ったような気分になってくる優しい絵。そう伝えると、ママが嬉しそうに笑ってくれた。

 

 

「この絵を描いた人はね、病気でずっと入院して出歩けなかった妹さんの為に全国を旅して色々な風景を描いて回って見せてあげてた子なのよ。そういう気持ちが、分かる人には分かるもんなのね」

 

 なるほど、道理で。見て欲しいって気持ちが伝わってくる優しい絵だった。今回の依頼は、傷んできていたこの絵に使われている額縁と、できるだけ似たようなものを探してほしい、というものだった。

 

 

「黒ちゃんとの思い出の絵でもあるからね……もう何年も顔見てないけど、できるだけそのままにしておきたくって。今でも時々ふと思っちゃうのよ。あの頃と全く変わらないまま、突然ひょっこり店に顔だしてくれるんじゃないか、って」

 

 

 そう言って寂しそうな顔をするママ。その言い方だと、おそらく――

 

 

「黒ちゃん、ですか。どういった方なんです?」

 

 

「麻雀打ちよ。年がら年中黒い帽子被っててね。『麻雀職人』って呼ばれるくらい、凄く強かったんだから」

 

 

 我が事のように嬉しそうにママが語る。本当に、大事な人なんだなあ。それにしても麻雀か。前にやったのはいつだっけ。確か、仕事の帰りだったような……あの時は、何を食べたんだっけ。いかん、思い出そうとすると。

 

 

 腹が、減った。

 

 

 。

 

 。

 

 。

 

 

 店を探そ……

 

 

「あら、もうこんな時間ね。引き止めちゃってごめんなさい。……そうだ、ゴローちゃんは麻雀は打てるの?」

 

 

「は、いや、まあ。素人麻雀ですが」

 

 

「それなら、私の知り合いがやってる雀荘に行ってご覧なさい。そこのカレーがまた美味しいんだから!きっと、ゴローちゃんも気にいるわよ」

 

 

 そう言って俺の方をポン、と叩くママ。カレー……カレーか。うん。雀荘で麻雀打ちながらカレーってのも乙かもしれない。仕事帰りに、乙なカレーで、お疲れさん。

 

 

 店に行こう。ママに雀荘の場所を聞いて足早にバーを出る。背中にかけられた「いってらっしゃい」の声が、なんだか妙にくすぐったかった。

 

 

 

 

 

 ママに紹介された雀荘は、なんとも年季が入った木造の建物だった。ここのマスターの星野源八さんという人が作るカレーが絶品らしい。季節やその日仕入れた食材で具材が変わる、ごく普通のカレーらしいのだがお客さんに大人気だそうだ。期待しながら古いながらも綺麗に掃除された扉を開けて中に入ってみると――

 

 

「……いらっしゃい。打ちますか?」

 

 

 スキンヘッドといういかつい見た目に反して、意外なほど穏やかな声で微笑みかけてくれたのがマスターの星野さんらしかった。1人だけエプロンをかけている。客は他に3人だけ。どうやら、俺が来なければマスターが入って始めようとしていたところだったらしい。

 

 

「ええ。この後も仕事あるんで少しだけ……それと、雅のママにおすすめされまして。カレーを1つ、お願いできますか」

 

 

 麻雀を打ち始める前に食べ物を頼むのを若干申し訳なく思いつつ注文すると、星野さんは笑って「かしこまりました」と言ってくれた。その後、一通りルールの説明をして奥に引っ込む。さて、久しぶりの麻雀のお相手はどんな人達だろう。

 

 

「突然すみません。井之頭といいます、よろしく」

 

 

 そう言いながら着席すると、3人口々に名乗り返してくれた。

 

 

「井川ひろゆきといいます。よろしくおねがいします」

 

 

 1人目は井川さん。年齢は30代くらいだろうか。物腰丁寧な爽やかな人で、清潔感も相まって若く見える。イケメンっていうのはこういう人を言うのかもしれない。

 

 

「沖本です。よろしく」

 

 

 2人目は沖本さん。年齢は多分20そこそこだろう。井川さんとは違って迫力のあるワイルド系で、いかにも麻雀に慣れてますって感じがする。かなり遊んでる大学生か何かだろうか。

 

 

「……亻鬼(カイ)と呼ばれています」

 

 

 煙草を消しつつそれだけ言って黙り込んだのが3人目のカイさんだ。井川さんと同じくイケメン系なんだろうけど、なんというか生活感、存在感がない。全身黒ずくめだし、素性が全く予想できない。なんだか危険な匂いがしてきそうだ。……実は幽霊って言われても納得できそう。

 

 で、そんな軽い挨拶の後に東風1回で精算ということで麻雀が始まったんだが……俺は全く何もできなかった。ラス親を引いたんだが、井川さん、沖本さんの順番で同じように500,300をツモ和了りするという冗談みたいな対局だ。しかも和了牌が同じ。どういう偶然だ。俺は聴牌すらできてないっていうのに。高くはないけどヤキトリで1人沈みは嫌だなあ、なんて思っていると。

 

 

「はい、おまたせしました。ライスカレーどうぞ」

 

 

 マスターがカレーを持ってきてくれた。キタキタ、待ってました!

 

 

 ライスカレー

 楕円形の銀の深皿に入った黄色いカレー。真っ赤な福神漬けもたっぷり!

 

 

 おおー。いいね、いいですよ。久しぶりにみたな、こういう黄色いカレー。トロトロとも、べちゃっとしたのとも違う、このサラッとしたルーの感じ。流行りの店みたいに具が大きすぎてゴロゴロしてないのもいい。

 

 

「いただきます」

 

 

 これも嬉しい、水の入ったコップにつけられたスプーンを取って、構える。因みに俺はライスを左側にする派だ。濡れたままのスプーンでライスを少しだけ取り分けて、ルーに浸して……一口。

 

 

 うぉぉん。俺の心は今、令和から昭和にチェンジした。

 

 

 どこのスーパーでも売ってそうな豚コマと、乱切りにされた人参。クタっとなった玉ねぎ。特に奇をてらっていないその味が、なんだか嬉しい。なんだろう。特別に美味い!というわけでもないのに、掻き込むスプーンが止まらない。あ、今度はカイさんがまた同じ牌で500,300をツモ和了りした。まあいっか。

 

 口いっぱいに放り込み過ぎたカレーをもごもごしつつ牌を自動卓の中に送り込む。なるべく早く、できるだけ早く。……焦るんじゃない。俺は、早くカレーが食べたいだけなんだ。

 牌が混ぜられるのを待つ間、次はいよいよ援軍を呼ぶ。真っ赤な福神漬け、参戦。どうみても自然な色じゃなさそうなんだけど、黄色いルーに真っ赤な福神漬けの色ってよく映える。それでいて銀の皿に載っていればもう無敵だ。ルーから具材を選り分けて……豚肉と、人参と、玉ねぎとを全部すくってから、ライスの上に。そこに福神漬けも入れて、大きく掬ってバク、っと一口。

 

 くぅ~っ、これですよ、これ!この態とらしいカレーときたら!まさしく、カレーでも、カレーライスでもない、正真正銘の『ライスカレー』だ。

 よし、残りも少ないし最後はお行儀悪くいこう。福神漬けも、ライスも、全部いっしょにぐちゃぐちゃにかき混ぜていく。ライスの白い部分がなくなるように、念入りに。

 

 おっと、最後は俺の親番だった。配牌は、っと……って、あれ、これ。もしかして……うーん、なんだか凄いことになっちゃったぞ。

 

 

「て、天和です」

 

 

「「「!!!!」」」」

 

 

 当たり前だが当たり前だが、凄い厳しい目で俺を睨んでくる3人。いや、ホント運だけなんですごめんなさい……そんなことを思いながら、俺は最後の一口のカレーを放り込んだ。うん、口の中が全部カレー味。美味い。

 

 

 その後、井川さんの知り合いである天さんという人が入ってきて、怪獣大決戦さながらの麻雀が繰り広げられたり、沖本さんが『黒ちゃん』の弟子だと知って驚いたり、カイさんに「……名前は?」と聞かれて名刺を渡したりするのだが……それはまた別の話だ。

 

 

 




今回は『麻雀覇道伝説 天牌外伝』より「雅のママ」。
『麻雀飛龍伝説 天牌』より「沖本瞬」。
『天 天和通りの快男児』より「井川ひろゆき」。
『むこうぶち 高レート裏麻雀列伝』より「人鬼(カイ)」。
麻雀オールスターズでございます。ちなみに序盤3局では上級者同士の熱い戦いが繰り広げられておりますが、ゴローちゃんは気づいておりません。


次の更新はヒロアカ/アベンジャーズの方になると思いますがのんびりお待ちくださいませ。(待ってる人いたら、ね!)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。