孤独のグルメ 微クロスオーバー   作:minmin

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お久しぶりの更新になりました。
最近猛暑と仕事が忙しすぎてあんまり筆がのりません。。
というわけで今回クロスは1つだけ。
ではどうぞ~


第二十二話 福岡県福岡市中央区天神のイカ天丼とかけうどん 

 博多。

 九州といえばまずは思い浮かぶのが福岡で、福岡と聞いて最初に思い浮かぶのが博多だ。余所者の勝手な意見だが、本州の大抵の人はそう思っているんじゃないだろうか。九州の他の県民に言うと怒られそうだが。

 今日ここに来たのは、金丸産業が自社イベントで使うヨーロッパの食器類を提案しに来たためだ。金丸産業は食品をメインとしてなんでも手広く扱う総合商社で、ヨーロッパの食品を仕入れたり、逆に向こうにモモンガの人形を販売したりと色々やっている。今回俺に仕事が回ってきたのは、ヨーロッパの食材にはヨーロッパの食器を、という理由だ。

 そんなことを考えながらテーブルの上のノートパソコンをかちゃかちゃやる。今は本決まりになった食器の価格と画像一覧をメールで送信しているところだ。

 

「……はい、これで完了です。

 この度はありがとうございます、荒岩さん」

 

「こちらこそ、どうもありがとうございます」

 

 いかにもできるビジネスマンという感じで礼を返してくれる荒岩一味さん。さすが大手商社第二営業課課長、貫禄がにじみ出ている。見た目は結構いかついが、これで家庭を大事にする良いパパなのだそうだ。

 

「そろそろお昼休みですね。よろしければ一緒にどうですか?」

 

 遠出した時は、その土地の人に美味い店を聞くのが鉄則だ。こういう地元に根ざした企業の人だと、かなりの隠れた名店を知っている可能性は大いにある。

 なんて期待していたんだが――。

 

「すみません。私はいつも弁当でして」

 

 照れたように頭を掻く荒岩さん。

 

「毎日奥さんの愛妻弁当ですか。羨ましいですね」

 

 何も言わずバツが悪そうに苦笑いしている。残念だが、そういうことなら仕方ないだろう。

 

「ありがとうございました。失礼します」

 

 そう言って部屋を後にする。ドアを閉める時に振り返ると、荒岩さんはずっと頭を下げたまま見送ってくれていた。うーん、やっぱり紳士だ。

 

 

 

 

 

 ――さて、何を食うか。

 

 この前博多に来た時は、鯖ごまと若鶏スープ炊きだったんだよなあ。今思い返すと、あんまり博多博多してない感じだった。今回も、何かそういうものが食べたい。

 博多で食べると美味しいけれども、博多といえばこれ、というわけでもないようなもの。折角現地に来たのに、明太子とモツ鍋だけ食べて帰りました、なんてのは残念すぎる。

 オフィスビル群の間を抜けて大通りへ。さすが、天神の大通りは活気に満ち溢れている。様々な店が軒を連ねていた。もちろん、食べ物も。

 焼き鳥、海鮮、焼き肉、モツ鍋に水炊き。ぱっと見ただけでは数え切れない。まるで福岡中の美味いものがここに集まっているかのようだ。店の看板の写真だけでも美味そうで、店に入ってメニューを捲る前から俺を撹乱してくる。

 博多ラーメンに、天むす……すごく、美味そうだ。美味そうなんだけど、ここでそれに落ち着いたらなんだか負けな気がする。

 何か、何かないのか。調度良い具合に博多感がでている食べ物は。何か――。

 

 

 うどん。

 

 

 濃い緑色の渋い暖簾に、白文字でシンプルに書かれたその3文字。他に宣伝は一切なし。ドヤ顔全くなしの店構え。

 

 ――確か、福岡のうどんって香川と違って麺が柔らかいのが特徴だったよな。

 

 讃岐うどん巡りはしたことあるが、福岡のうどんは初めてだ。いいじゃないか。目標、決定。

 体育の行進の如く向きをくるりと変えて店の方へ。暖簾を潜るのも、なんだか久しぶりな気がした。

 

 

 

「いらっしゃいませー」

 

 からからと引き戸を開けると、予想通りに小ぢんまりとした店だった。真ん中にぐるりと回って座れる大きなテーブル。4人掛けのテーブルが2つに、座敷席が2つ。テーブルの個人席に座ると、おばちゃんがにこにこしながらお冷を持ってきてくれた。きっと、大将と後数人で店を回しているんだろう。

 俺の他に2人の個人客が真ん中のテーブルでそれぞれうどんを食っている。1人は携帯をいじりながら。1人は漫画を読みながら。ちょっと端がよれよれになっている漫画。きっと、長年この店で読まれ続けてきたんだろう。

 お冷を飲みながら、いかにも素人がパソコンで作りましたというメニューを開く。うどん、あったかいの、つめたいの。ぶっかけうどん、あったかいの、つめたいの。ざる、カレー、てんぷら、丼もの。何1つ奇をてらっていない、見事なメニュー。そして自分で撮ったであろう写真。どれも美味そうで、そそる。最後のページにたどり着くと、申し訳程度のお酒とソフトドリンクのメニュー。そして、後から挟まれたお勧めのメニューだった。

 

 ――ご要望にお応えして、イカ天丼セット、800円。

 

 注文、決定。

 

「すいませーん!イカ天丼、あったかいかけうどんのセットでお願いします」

 

「はーい!ちょっとだけ待っててねー!」

 

 おばちゃんの元気の良い返事が心地良い。なんというか、温かみに満ちている気がする。こういう店って、なんだかいい。俺的名店、決定。

 

 

 

 

「はいお待たせ!イカ天丼とかけうどんのあったかいののセットねー」

 

 おいでなすったぞ。

 

 

 

 イカ天丼セット

 

 イカ天丼

 大きなゲソの天ぷらが2つドデン!1枚大葉の天ぷらも。上から茶色のタレがたっぷり!

 

 かけうどん

 ちょっと細めのやわやわうどん。薄めの出汁の中で泳いでる感じ。

 

 

 

 

「いただきます」

 

 まずは、こいつから。

 割り箸を割って、真っ先にご飯の上のゲソの天ぷらを挟む。上からか、下からか。ちょっと迷って、先の方からがぶっといく。

 

 ――美味い。

 

 イカの足って、こんなにほくほくしてるもんだったっけ?簡単にぶちっと噛みきれて、噛めば噛むほど口の中で海の味が溢れてくる。外はサクっとしっかり天ぷらなのに、中はものすごくジューシーだ。

 噛んでいるうちにご飯が欲しくなる。我慢できなくなって、丼に口をつけてそのままかっこんだ。1口、2口。3口4口。ちょっと休憩するつもりだったのに、ご飯が止まらない。

 このちょっと辛めのタレが良い。チェーン店なんかの天丼のタレは甘ったるいだけのが多いが、これならタレだけでいつまでもご飯を食べ続けていられそうだ。

 とはいえ、さすがに少し水分が欲しくなってきた。

 

 ――ここでお待ちかねのうどん、登場。

 

 両手で持ち上げて、口をつけてずずっと出汁を一口。期待を裏切らない、薄味でまあるい感じ。今飲んだ出汁が、毛細血管を通って身体中に染み渡ってる感じがする。

 麺はどうだろう。ゆらゆらふわふわと出汁の中で踊っている麺は、見ているだけで柔らかいことがわかる。なるほど、讃岐うどんとは明らかに違う。

 箸で少しだけ持ち上げてから、ずずっと啜る。

 

 ――俺は今、うどんの新境地に到達した。

 

 しっかりうどんなんだけど、噛めば噛むほどしっかり出汁の味がする。柔らかめの麺に、出汁が上手い具合に染み込んでいるんだろう。コシが強くて、出汁を一緒に啜り込むうどんとは真逆の方向性。ハードなのも良いが、こういうソフトなやつも、嫌いじゃない。

 ここでもう一度天丼に戻る。うどんと丼のセットの嬉しいところは、うどんの出汁が汁物の代わりになってくれることだと思う。

 さて、第2ラウンド行くか、と丼を持ち上げたところで、ゲソの下から大葉がひょっこり顔を出した。

 

 ――悪い悪い。君のこと、すっかり忘れていたよ。

 

 シャクっとした歯ざわりの大葉に、なんだか楽しい気分になった。

 

 

 

 

「ふうっー」

 

 おばちゃんにタバコを吸っていいですかと聞くと、奥から灰皿を持ってきてくれた。こういう店も、今じゃ少なくなってきている。良い意味で昔ながらだ。

 

 ――今度来た時は、つめたい方食べてみるかなあ。

 

 ぼーっとタバコの煙を眺めながら、そんなことを考えていた。

 

 

 

 

 その後、イベント当日の夜に荒岩さんに自宅に招かれた。そこで荒岩さんが見事な手料理を振る舞ってくれたのだが……それはまた別の話だ。

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?
今回は名作『クッキングパパ』より『荒岩一味』です。きっと彼のレシピのお世話になったことがある人も読んでくれてる人の中にいるんじゃないでしょうか。
感想お待ちしております。


おまけ 最近ラブライブ!の映画見に行ったので勢いでそっちも書いちゃいました。笑
よかったらそちらも読んでやってください。(ダイレクトマーケティング)

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