後日談、とでも言えばいいのだろうか。辛くも大親友にして宿敵である郁葉を倒した俺たちに残されていたのは大規模な証拠隠滅と警察や近隣住民に対する記憶操作だった。
水銀燈や主途蘭がフルに催眠をかけてくれたおかげでおおごとにならず、表向きにはあの爆発は地下に眠るメタンガスが爆発したことになっている。
力の供給を絶たれた雪華綺晶が倒された事で、彼女は奪った二体の身体を失った。それによって無事翠星石と主途蘭は身体を取り戻した。蒼星石も姉の元気な姿が見れて嬉しそうだったから良し。
今回の戦闘を受けてローゼンメイデンとそのマスターである俺たちは、無期限の休戦協定を結び。実質アリスゲームを放棄した姉妹達は本来ならば次の時代に備えて眠りに着くはずも、彼女達が今の時代に留まることを決定したのでそれもせず。
つまるところ、今は平和な生活が続いている。
平和?何言ってんのよ〜、と言う奴も今頃あの世で自分のドールと悔しがってるかまた違う世界でどんぱちしているんだろう。少なくとも、今の俺たちには関係のない事だ。
春。あの事件から一月以上経ち、みっちゃんの腕もローゼンメイデンの治癒能力のお陰で完治している。俺は相変わらずの大学生活と、控えている就活のために最近は蒼星石とみっちゃんとイチャつくのも控えめになっている。
ちなみに、あれからみっちゃんと同居し出した。案外同居してみるとあまりイチャつく事が無くなるってのは不思議なもんだ。今も、俺は大学終わりにみっちゃんと蒼星石、そして金糸雀の四人で夕飯の買い物をしている。
「今日はどうすっかな〜俺もな〜」
「簡単だからスパゲティにでもしようか?」
「ミート糞ースかな?(すっとぼけ)」
「え、なにそれは(困惑)」
すっかり淫夢厨となってしまった蒼星石とノーマルなみっちゃんと語録を交えながら会話する。ちなみに困惑したのは金糸雀だ。しょうもないが、淫夢はミーム汚染が酷いから人形にも移ってしまう。
と、そんな時、通路の奥に見知った顔を見た。ジュンくんとそのドールである真紅、そして雛苺と……誰だよ(ピネガキ)
ジュンくんはこちらに気がつくと、軽く会釈する。俺も手を振って挨拶。
「楽しそうだね〜!(無邪気)」
「俺も仲間に入れてくれよ〜(マジキチ四女)」
「ど、どうも……」
語録で話しかけるとジュンくんは若干引きながらも返答する。ふと、ジュンくんが連れている謎の女子中学生が彼の耳元で尋ねた。
「お知り合い?」
「ああ、うん。蒼星石のマスターの隆博さんと、金糸雀のマスターのみっちゃんさん」
夫婦のように俺とみっちゃんが挨拶すると、女子中学生は綺麗なお辞儀を見せた。
「柏葉巴です。雛苺の元マスターです」
「今はお友達なのよ。ねっ」
百合全開で巴ちゃんに抱き着く雛苺。金髪の美少女と黒髪ショートボブのこれまた美少女の絡みとか東方(クッキー☆)か何か?でも百合すき。あ、そうだ(唐突)今度蒼星石とみっちゃんの百合プレイでも見てみようかしら。
ジュンくんは、あれからほどなくして俺の知らないうちにマエストロだかなんだかになった。よく分からないが、神人形師になったらしい。そのおかげで、雛苺の腕を復活させた。なんか展開雑だな。
現在自分のドールを生み出そうと色々やってるらしい。頑張るしかないよ!(関西おばさん)
「そう言えば、最近河原と……弟の方と連絡取ったりしてますか?」
不意にジュンくんが尋ねてきた。え、と俺は急な質問に驚きながらも首を横に降る。あれ以来、礼くんとは関わっていない。郁葉も表向きには行方不明って事だし。葬式も挙げられてない。
「そうですか……」
何やら考え込むジュンくん。それを代弁するように真紅が言った。
「あの不出来な姉のマスターなのだけれど、最近学校に来ていないらしいのだわ」
「礼くんが?」
「水銀燈もどこかに行ってるし……ヒナもちょっと心配なのね」
なんだろう、あの兄弟の事だ、片割れだけになっても不安で仕方がない。
「翠星石達はどうなのかしら?」
真紅の質問に蒼星石は答える。
「うーん、翠星石は問題ないと思うよ。この間も、琉希ちゃんは復学したらしいし、主途蘭も家で大人しくしてるらしいし」
会話が止まる。皆が皆、推理するように考え出した。まぁ休戦協定を結んでいる以上あの弟君も余計なことはしないとは思うけどなぁ……いやあいつの弟だしなぁ。
鏡から、平和な日常を見下ろす。崩れそうな指先をべたりと鏡面につけ、まるでおもちゃを物欲しそうに眺める子供のように。だがしっかりとその指先には力が込められ、まるで平和な日常を恨めしく思うかのようにも見えて。
雪華綺晶は、もはや維持するのもやっとな状態で、姉妹達の日常を盗み見ていた。
口惜しい、口惜しい。わたしにもマスターがいたのに。それなのに奴らはわたしからマスターを奪っておいてあんなに楽しそうに。
許せない、許せない、ユルセナイ。
最期も見れなかった自分の恋しい人に想いを馳せる。だからこそ思う。余計に彼らを許せないと。彼女の顔がこれ以上ないくらいに歪んでいく。
「おやおや、舞台から退場した哀れなドールがここに一人。滑稽な事だ」
振り返らずとも分かる。崩壊する彼女を、nのフィールドへ連れてきた人物だ。うさぎ頭の紳士……しかしその正体はアリスゲームの進行を司り、彼女のマスターと何かしらの結託をしていた男。ラプラスの魔。
彼はあいも変わらずその不気味な出で立ちでやってくると、どこからか取り出したハンカチで鼻を拭った。
「ぶえっくしょん!はえ〜、すっごい花粉」
同時に、淫夢厨。何を考えているのか分からない。しかしそんな彼を無視してまで、雪華綺晶は現世を夢見て鏡に食らいつく。それほどまでに、彼女が夢見たマスターとの生活は遠くなってしまっていた。
ラプラスの魔はスマートフォンを取り出すと、画面を操作する。そしてそれを雪華綺晶に差し出した。
「……なに、うさぎさん」
「ふわふわ、うさぎちゃん(高音)電話だゾ。あく出ろよ(ホモはせっかち)」
意図が分からないまま、雪華綺晶は電話を取る。そして人形には大きなスマートフォンを耳に近づけた。
そして、その声の主に驚愕した。驚きすぎて一瞬TKGW君みたいな声が出てしまった。しどろもどろしながら電話の声を聞く。
「今まで、どこに……」
そう尋ねても彼は答えてくれない。だが、指示はしてきた。だから彼女は、心を躍らせてそれをしっかりと復唱しながら聞く。
それを傍で見ていたうさぎの哀れな視線に気がつかず。彼女はただ、喜んだ。
短め。最終動乱