ローゼンメイデン プロジェクト・アリス   作:Ciels

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ダークソウル3で人間性がボロボロになっているので初投稿です。


sequence80 暗い魂

 

 

 

 約束は呪いと変わらない。俺の心が暗い闇だと仮定するならば、約束はその中に燻っている残り火で……暗闇の中ちっぽけにちらつくその火は、けれでも決して消え去ることはなく。

 

 俺はその火を忘れては思い出し。永遠に存在し続ける火が記憶の奥底を焚きつければ、俺の暗い使命を魂の奥底から呼び醒す。

 俺という薪を燃やしながら、新しい俺へと繋げるために。繰り返すために。

 

 使命のため。約束のため。全ては彼女のため。

 

 異なる輪廻の中で俺はその火を撒き散らし、すべてを薪にして焚べていく。皆が気がついた時にはもう遅い。その残り火はいつしか炎の嵐となって彼らに襲い掛かり、俺という災厄に飲み込まれて消えて行く。

 

 これが呪いとして言わずに何という。

 

 消えぬ野心を携え、自分を世界の枠組から外し、そして異端の輪の中へと縛り付けるのだ。それはまさしく呪いだろう。絶えず戦い、奪い、奪われ、消し消され。その輪廻から逃れられる者はいない。

 

 けれどね。誰しもその僅かな残り火に魅入ってしまうものなのさ。鬼と化してもなお、その火から逃れることをしないものなのさ。

 

 弟も。友人も。弟の友人も。そしてあの少女達も。彼女達の偉大なる父も。

 

 だからこうして、世界を超えてまでも存在し続ける。大きな世界を超えて、繋がりが弱い世界の果てでさえも、こうして戦うのさ。

 

 

 

 ちょっとダークソウルっぽくなって厨二感増したけども、そういうことなのさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コツコツと、わざとらしく床を歩く音が響く。冬の寒さに打ち拉がれて誰も来ないこの公園のトイレにて、俺が用を足しているのにも関わらず、彼女はやってきたのだ。

 

「イマイチ分からなかったんだ、なんで君は毎度毎度俺に突っかかってくるのかね」

 

 自分の息子がしっかりと廃液を出している様を見ながらそう言う。足音が止まり、彼女は口を開いた。

 

「もう分かっているでしょう。リリィさんの身体を返してもらうためです」

 

 ぶるぶるっと身が震える。どうして用を足す時ってこうなんて言うか、気持ちがいいんだろう。小便は邪淫だった……?

 

「そうじゃないさ。もっと前の話だ。君が主途蘭と同化する前の話さ……やたらとアリスゲームにこだわってたじゃないか。大した理由も無さそうなのに、ナイフなんて持ってさ」

 

 別に重要な話ではない。ただ、俺が話したかっただけ。

 

「それに答えてなにかこちらにメリットでも?」

 

「いいじゃないか。ちょっとした会話さ。そこまでコミュ障じゃないだろう?」

 

 しばらく彼女は黙っていた。俺といえば、我慢しまくってたから出っ放し。

 

「……最初は、妹のためでした」

 

 まるでドラマにおいて追い詰められた犯人みたいに話し出す。

 

「翠星石が私の元へ来て、彼女が庭師の如雨露で妹の心を癒してあげた。当時、病気がちだった妹は、元気を無くしていたから」

 

 そういや香織ちゃんは病弱らしいな。クッソアグレッシブな姉とは似ても似つかないが。

 

「その恩返しのために翠星石をアリスにしようと?泣かせるじゃないか、女の友情だな」

 

「どこまでも人を馬鹿にする。やはり貴方は死ぬべきだわ」

 

 チャキン、と金属が擦れ合う音がする。腕の暗器が伸びた音。

 ようやく用を足し終えると、俺は彼女の方へ向く。チャックを全開に下ろし、息子を見せつけるように。

 

「ちょ!」

 

「ホラ、見ろよ見ろよ」

 

 大先輩の力を借りて、まるで後輩を犯すかのように。

 案の定琉希は白百合のような顔を真っ赤に染めて目をそらしている。瞬間、俺は銃を抜いて彼女に発砲した。

 

「っ!汚いですよ!色々な意味で!」

 

「そうだよ。世の中綺麗事ばっかりじゃないからね、しょうがないね」

 

 銃弾を回避してトイレから逃げて行く暗殺者。可愛い暗殺者もいたもんだ、俺はその隙にトイレの窓をよじ登って逃げ出す。

 分断してきやがった。今頃雪華綺晶は翠星石と戦ってるに違いない……なるほど、そんなに時間を止められるのが嫌か。

 

「残弾44発」

 

 拳銃に装填されている弾薬と予備の弾倉を確認する。かなり厳しいだろうがイケるだろう。もう一つ切り札もあるしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるで侍の果たし合いのように、雪華綺晶と翠星石は向き合っていた。森の少し開けた場所、銃撃戦には向かないけれど彼女達が戦うならば丁度いいだろう。

 表情には何もない。死をも優しく齎す愛しの末妹は、闘志をむき出しにする姉に語りかける。

 

「私、デート中なの。愛するマスターと、サンドイッチを食べながら。お空を眺めていましたのよ」

 

「こんな寒い中でよくやるです。やっぱりイカれてますねあんたら」

 

 ジャキン、と翠星石が如雨露を物々しく取り出す。左手には銃身とストックが切り詰められた古めかしい水平二連の散弾銃を。まるで獣狩りの夜と言わんばかりの物々しさだ。それ絶対琉希ちゃんの趣味でしょ。

 

「あらあら、啓蒙が高そうね。私が獣かしら?」

 

「化け物っていう点では似たようなもんです。さぁ末妹、早くお前も獲物を出せ、ですぅ」

 

 長身巨乳の姉が言う。しかしまぁ、翠星石もかなり美人だよなぁ。ああ雪華綺晶のが美人だからそんなに怒らないで。

 雪華綺晶は狂気に満ちた顔で微笑むと、一振りの刀を召喚した。結晶にて造られた、白く美しい刀。やっぱり俺のドールだ、センスが違う。

 

「誰にでも、成し遂げたい事があるのね」

 

 両手で刀を添えるように握る。

 

「一人お姉様を倒すたび、潤むの」

 

 パキン、と水晶の刀が分裂する。彼女の左手にはもう一振りの短刀が。

 

「私の暗い魂が、光り輝く結晶のように。だからお姉様」

 

 不自然なほど落ち着いた様子で刀を構える雪華綺晶。それを見て翠星石も構え出す。

 

「死んで、その身体を私の血肉にさせて下さいな」

 

 冷酷に、しかし美しく彼女は言ってみせた。翠星石は獰猛に笑うと、

 

「やってみろ、です。死ぬのはお前だけですけどね」

 

 雪華綺晶に向け突っ込んでいく翠星石。元来人見知りで臆病な彼女はもういない。いるのは復讐に取り憑かれ、異端を狩る狩人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森に銃声が響く。冬場の森では鳴く鳥もいない。ただ銃声だけが、この寒空に響くのみ。

 窓から出た途端に琉希が襲ってきた。分かっていた事だからすぐに対処もできたし、今回は前回とは違って俺にもそれなりにやる気があるし、一対一だからやりやすい。

 

「せやぁッ!」

 

 剣で斬りかかる琉希。完全に剣筋を見切ってそれを避けると、タックルで彼女と押し出して距離を取る。さすがに彼女はよろけもしないが、その隙に俺は拳銃を一発撃ち込む。

 それを上半身の移動だけで完全に避け切ると、彼女は小ぶりのナイフを投げてきた。マジでアサシンしてるなこいつ。

 

「あぶねっ」

 

 ナイフを避けつつ転がって再度狙うと、また彼女は続けざまにナイフを投げていた。避けきれないと思った俺は腕でガードする……当たり前のように左腕にナイフが突き刺さった。

 

「アッ!(スタッカート)」

 

 痛いけど仕方ない。どうせすぐ治る。俺は腕からナイフを抜くと、左手にそれを持って拳銃と構える。まるで伝説の傭兵のようなスタイルを見て琉希はドヤ顔で言った。

 

「ビッグボス被れのCQC使いですか?」

 

「それMGS4の台詞でしょ。琉希ちゃん結構ゲーオタだよね」

 

 その言葉が癇に障ったのか、彼女は低い体勢のまま左右にうねるようにして射線を回避しつつ、剣を振るい出す。俺は剣を握る彼女の腕を足の裏で蹴って防ぎつつ、拳銃を撃ち込む。

 

「ふっ!」

 

 物理法則をやや無視して回転しながら回避する琉希。俺はその隙に彼女に背を向けて逃げ出す。

 

「え!逃げるのですか!」

 

 それが想定外だったようで、後ろから全力疾走で追いかけてくる……

 

 彼女の狙いは分かっていた。俺と雪華綺晶の完全な分断だ。さっきから誘い込まれるように戦っていたが、きっと反対側には雪華綺晶と翠星石がいるんだろう。だからこっちから仕掛けてチャンスを伺ってたのだ。

 おそらく雪華綺晶は俺が走る方向にいる。でなければ琉希があんなに血相変えて追ってこない。わかりやすい子で助かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い魂を求めるものと、血を求める狩人。メーカーは同じだが若干ゲーム性の違う戦闘スタイルを用いる両者の戦闘は拮抗していた。

 

「せやぁ!」

 

 懐に潜り込んで如雨露を振るう翠星石。雪華綺晶は焦りもせずにそれを左手の短刀で弾く。見事なパリィだった。だがゲームと違って翠星石は回転蹴りで追撃を仕掛ける。

 

「お姉様、パリィされたら攻撃されませんと」

 

「これはゲームじゃないです!」

 

 確かにその通りだ。雪華綺晶はちょっとがっかりしつつも蹴りを避けて大振りのモーションで剣を振るう。ヒュンッと風を斬る音が響くが、翠星石はそれを如雨露で受け流した。

 

「おっも……」

 

 雪華綺晶のマスターは俺だ。そのせいか、流れ込むエネルギーも尋常ではない。単なる一撃も、相当なパワーらしい。

 

「あらあらお姉様。薔薇を用いているのは貴女だけではないわ」

 

 低く構えると、そのままロケットのように突っ込む雪華綺晶。それを好機と見た翠星石は、左手の散弾銃を彼女に向けて発砲する。

 どうやらそれを見越していたようで、雪華綺晶は蔓を即座に展開してそれを防いだ。

 

「ちょ!それずるいです!」

 

 そのまま雪華綺晶は前回転しながら刀を叩き込む。翠星石は間一髪ヤーナムステップで回避……もう作品違いませんかね?

 


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