ローゼンメイデン プロジェクト・アリス   作:Ciels

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あ、そうだ(唐突)
ローゼンメイデンのR-18って需要ありますかね……?


sequence49 猫と人形

 

 部屋のベッドでぼうっとしながら、包帯でぐるぐる巻きになった左手の薬指を眺める。人形のマスケット銃によって確かに吹き飛ばされたはずの指輪から上。痛みは無い。少し違和感はあるが、包帯の巻きつける感触があるだけでなんとも無い。

 

「マスター、紅茶をお持ちしましたわ」

 

 ふと、雪華綺晶がドアを開けてやってくる。手にはお盆。その上に陶磁器のカップが二つにポット。俺は上半身を起こして笑顔で彼女を迎えた。

 

「おお、ありがとね」

 

 礼を言うと彼女はにっこりと微笑む。雪華綺晶は俺の側に寄ると、ベッド側の机の上にお盆を置こうとして、サバゲーグッズが邪魔だったので躊躇してしまう。俺はちょっと慌ててベッドから降り、謝りながら乱雑にグッズを手でのける。

 

「いや〜悪い悪い」

 

 散らかし放題の机の上を俺基準で綺麗にすると、雪華綺晶はようやくお盆を置いて見せた。

 

「少しは整理整頓した方がよろしいですわ」

 

「男の部屋なんてこんなもんだよ」

 

 そう言って俺はベッドに腰掛ける。ふと、鼻を紅茶の香りがくすぐった。深呼吸してそれをもっと楽しむと、「大きくなった」雪華綺晶に質問する。

 

「ダージリンか?」

 

「アールグレイです」

 

「あ、そっかぁ……(ガバガバ嗅覚)」

 

 紅茶の匂いとかよくわからないからね、しょうがないね。自分にそう言い聞かせる。

 雪華綺晶はカップに紅茶を注ぐと、そのうちの一つを俺に手渡してきた。無意識的に利き手である左手で、それを取る。包帯が邪魔しているが特に問題はない。

 

「手の具合はどうです?」

 

「もうほとんど治ってる」

 

「……私が言うのもおかしな話ですが、不思議な体ですわね」

 

「ん、まぁそうっすね」

 

 吹き飛んだ薬指。いや、吹き飛んだはずの薬指と言うべきか。結論だけ言えば、生えてきた。俺にもよくわからないが、医者に行くわけにもいかないから自宅で消毒して包帯しといたら、次の日には元通りだったのだ。俺本当に人間なんですかね……?

 雪華綺晶はそんな俺の薬指をじっと眺める。

 

「ごめんなさい、私がもっとしっかりしていれば、痛い思いをしなくて済みましたのに……」

 

 俺はそんな彼女の謝罪を鼻で笑った。

 

「バカだなぁ、こうして大人きらきーといちゃつけるんだから指の一本くらい安いっての。ていうかもう生えてるし、謝るなよな」

 

 雛苺から取り戻した薔薇。槐との協定に基づき借用し、今は雪華綺晶が大人化している。もともと大人っぽい雰囲気があった雪華綺晶は大人化してもそんなには変わらない。身長は150センチくらいと意外にも低いが、胸は結構大きくてスタイルは良いし、正直勃○した(団長)

 ドレスもそれに合わせて巨大化したが、今は取り敢えず買ってきたコスプレ用の学生服に身を包んでいる。美少女JKといちゃつけるってやだもう最高かわいい……(ババババッ)

 

「膝枕していい?」

 

 紅茶を飲み干し、落ち着いたところで頼み込む。雪華綺晶はにっこりと微笑み、ベッドに腰掛けている自身の太ももを軽く叩いた。

 

「おほ^〜(復活の0)」

 

 クッソ汚い声をあげて雪華綺晶の太ももに頭を滑らせる。もちろん顔は雪華綺晶の方を向いた状態。目はカッ開き、丈の短いスカートと太ももの境界線をSNJ並みに見つめる。ああ、見える。今日はっていうかいつも真っ白だ。

 

「もう、困ったマスターだわ」

 

「んふふ〜ああ良い匂いおあぁぁぁ……」

 

 欲望に生きてこそ人間だ。ああ、大きくなっても存在する球体関節がまた良い味を出している。片方の手で彼女の膝の球体関節をさする。

 

「んっ」

 

 唐突に艶っぽい声が雪華綺晶から漏れる。膝をさすっていた手は、次第に太ももへと伸びる。

 

「やだ、まだお昼ですわ」

 

「何の問題ですか?(レ)何も問題ないね。ラミレスビーチの誓い(自己解決)」

 

 気がつけば両手が彼女のスカートへと侵入し、張りのある尻を撫で回していた。こんなんだから隆博から性癖ねじ曲がってるって言われるんだよ(自嘲)

 さすりながら彼女と目が合う。雪のように白い肌は次第に紅潮していく。

 と、ここで手を止めた。急に消えた刺激に、雪華綺晶は首を傾げる。

 

「え?」

 

「じゃあ俺、膝枕で寝るから(棒読み)」

 

「や、やめちゃう、のですか?」

 

「しょうがないさ(ネズミ)今はお昼時、えっちな行為は全部禁止だよ(青少年)」

 

「っ……」

 

 物欲しそうな目でこちらを見る雪華綺晶だが、俺は知らな〜い(ヘッタクソな絵)お昼だからって言ったのはそっちだって、それ一番言われてるから。

 目を閉じる。ああ、カフェイン摂取したから意外と眠くないなぁ。でも頬に伝わる感触がすべすべして気持ちが良い。あぁ^〜たまらねぇぜ。

 少しだけ、ほんの少し薄目で雪華綺晶の様子を伺う。

 

「……」

 

 寂しそうな顔でしょげる美少女がそこにはいた。メイソンがクラフチェンコを前に殺さずにはいられないように、俺も野獣と化そうとする心を抑え込む。Must die......(ブラック汚物)

 だが、俺も鬼ではない。畜生ではあるけど。そこでいたずら心に火がついた俺は、少しばかり意地悪することにした。

 

「The お願いしますと言ってみろ(simple2000シリーズ)」

 

「え?」

 

「そんなしょんぼりされたってさ〜。しょうがない、雪華綺晶がお願いしてくれたら、俺も許したる(関西クレーマー)」

 

 何を許すのかは分からないが、雪華綺晶にそう促す。雪華綺晶は少しばかり気恥ずかしそうにしていたが、欲望には逆らえないらしい。次第に顔が俺に近づいてきて、彼女の唇が俺の耳に触れそうになった。

 

「調子にのらないでマスター!」

 

「ア゛ッ!」

 

 耳元で急に大声を出され驚く。

 

「変態のくせに、何がお願いですか!あなたがお願いしなさいよ!」

 

「え、あっ」

 

 唐突に二章が始まって一転攻勢される。身体の大きくなった雪華綺晶はパワーも桁違いだ。柔道の寝技に移行するようにゴロゴロ動きまくると、気がつけばマウントを取られていた。

 

「ロリコンマスター解体ショーの始まりですわ」

 

 顔を赤らめながらじゅるりと舌なめずりする雪華綺晶。目がいってしまっている。これはガチだ。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!待って!助けて!待って下さい!お願いします!アアアアアアアア!(発狂)」

 

 だが時すでに遅し、火のついた雪華綺晶は止まらない。俺は抵抗しようにも力負けおじさんだし、股間痛い痛いなのだった(意味深)

 野獣と化した雪華綺晶の魔の手からは逃れられない!

 

 

 

 

 

 

 

 昼間だと言うのに隣の部屋から悶絶したような声と嬌声が響いてくる。礼は数式を書く手を止めてペンを置くと、無表情のまま震えて壁を叩く。

 

「うるせぇクソ兄貴!こっちは勉強してんだ!殺すぞ!」

 

 色々ありすぎてすっかり口が悪くなった礼が叫ぶ。

 

「ほんとお盛んね、バカ末妹は」

 

 ベッドの上で空手部の後輩のように本を読む水銀燈がボヤいた。ここ二日ほどこんな調子だ。連休だし指が千切れたと聞いていたから最初は大目に見てやったが、ものすごくうるさくてありえないほど汚いので礼のストレスがヤバイらしい。おまけに薔薇の使用権はあのバカ兄貴に優先権があるらしく、その期間は三日なので少なくともあと一日はこれが続く。

 

「夜も寝れやしないぞ……」

 

 疲れた様子で呟く礼。水銀燈は夜、という言葉に反応した。

 

「夜は私たちも似たようなもんじゃない」

 

「俺たちはもっとお淑やかだ」

 

「ハッ、笑っちゃう」

 

 つまるところ、今日も平和である。ほんとぉ?(純粋たる疑問)

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日が経ち、俺と隆博は槐の店へとやって来ていた。今は道中で、あと数分でたどり着くといった所だ。

 

「あー、あともうちょいで夏休みか」

 

「大学生特有のクソ長夏休みくんほんと好き。蒼星石といちゃつかなきゃ(使命感)」

 

 いつものように下らないことを話しつつ、俺たちは店の扉を開ける。カランコロンとベルなのかなんなのかよく分からない音が響いて来客を知らせるが、いくら経っても槐が出てこない。

 

「おーい槐〜来たぞ〜」

 

「今日はちゃんと客として来たんだから出迎えろや〜」

 

 むしろ客として来ないことが多すぎる。だが声をかけても槐はやって来ない。不審に思い、俺たちは顔を見合わせて隠し持っているナイフに手をかける。これ職質されたら1発でアウトだよな。

 サバゲーで培ったクリアリング技術で慎重に店内を探索していくと、裏方の工房に槐はいた。いたのだが、どういうわけかうつ伏せになって倒れている。そばには慌てた様子の薔薇水晶が必死に槐の身体を揺さぶっている。

 

「どうした!?なにがあった!」

 

 俺が質問すると、薔薇水晶はようやくこちらに気がついたみたいだった。彼女は慌てた様子で身体を震わせながら必死に訴える。

 

「帰ってきたら……お父様が……倒れてて……私……」

 

 どうやら薔薇水晶もなにが起きたのかわからないようだった。俺は槐のそばに駆け寄り、彼の身体を仰向けにする。どうやら呼吸と脈拍は問題ないようだったが、頭から少量出血している。

 

「ハンカチあるか?」

 

「これ……」

 

 薔薇水晶から小さめのハンカチを受け取ると、それを槐の額に押し当てた。

 

「殴られたっぽいな」

 

「ああ。拳でやるんなら顔面狙うだろうから、きっと鈍器だな。でもそれにしちゃ傷口が浅い。やったのは女か?」

 

 専門じゃないが、これくらいは傷口を見れば推察できた。きっと、あまり力のない人間が殴打したんだろう。だが殴られた跡から出血しているということは、何か硬いもので殴ったということだ。

 きっとそこまで深刻ではない。俺は止血もそこそこに、槐を起こすことにした。

 

「おい、起きろ。娘さんが心配してるぞ」

 

 ペシペシと頬を叩く。すると、うーんと呻いた後にようやく槐の目が見開かれた。

 

「こ、ここは……店でやられたなぁ(推理)」

 

 どうやら意識は問題ないようだ。やられた直前の記憶もあるようだし、これなら問題ないだろう。俺は彼を椅子に座らせると質問する。

 

「なにがあった?」

 

 そう尋ねると、槐は薔薇水晶から水をもらって一気飲みして言った。

 

「わからない……店の扉が開いて顔を出したら誰もいなくて……いたずらかと思って工房に戻ったら、気配がして。振り向いたらガツンと……イタタ」

 

「強盗か?」

 

「いや、今見たけど店の金庫もレジも問題なかったよ……」

 

 とすれば、一体目的は何だろうか。俺たちは考える。と、そんな時だった。コップに水を汲みに行った薔薇水晶が血相を変えてこちらに戻ってきたのだ。とてとて走って慌てふためながら何かを言おうとしている。

 

「なんだ、落ち着け」

 

「すすすす、主途蘭が……!お父様!」

 

「主途蘭がどうしたんだい?」

 

「い、いないんです!」

 

 え、という間延びした声を出して槐は駆け出す。俺達もその後を追う。

 工房の奥へと行くと、槐が呆然としていた。主途蘭を閉じ込めていた檻が開いているのだ。

 

「い、いない!そんな、どうして!」

 

 俺と隆博は顔を見合わせる。どうやら襲撃者はこれが狙いだったようだ。

 

「主途蘭の武装はどこだ?」

 

 隆博が聞く。槐はハッとしてそばにあったタンスの引き出しを開ける。しかしもぬけの殻。どうやら完全武装しているようだ、あののじゃろりドールは。

 

「クソ、やられた!きっと主途蘭は誰かと契約してたんだ!クソ!」

 

 ため息をつく。大事な愛娘なのにそれすらも把握してなかったのかこいつは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やる事が派手じゃな」

 

 病室にて、来客用の丸椅子に座ってりんごを齧る主途蘭が言った。ベッドの上ではめぐちゃんが咳き込みながらも不敵な笑みを見せる。

 

「でしょう?ゴホッ、恋する乙女は強いのよ」

 

「身体はポンコツじゃがな。そんなに無理せんでも、もう少し上手いやり方があったろうに」

 

 呆れたように主途蘭が言い、めぐちゃんのそばに置かれた金槌を見た。

 

「姿は見られてないわ。一瞬こっちを向いたけど、すぐに気絶させたから大丈夫、ゴホッゴホッ」

 

 どうやら槐襲撃はめぐちゃんの仕業らしい。しかしそんな行動だけでも咳き込むくらい、彼女の体力は衰えているようで、いくら性格上他人を何とも思っていない主途蘭も少しばかり心配する。

 

「とにかく今は休め。儂を連れ出したと言うことは何かやりたい事があるのじゃろう?」

 

 それを聞いた途端にめぐちゃんの表情が歪む。これは地雷を踏み抜いたな、と考えるのには困らなかった。

 

「そう、そうよ……あの泥棒猫……水銀燈……私から礼くんを奪ったあの憎たらしいカラスみたいな人形……奴を殺して礼くんを……ウゲホッ、ゴホッ」

 

「もう良い。何となく分かったわ」

 

 なんだか良くないことに巻き込まれたな、なんて思いながら、どうせなら目の前の病弱な少女の願いを叶えつつ自身の願望も叶えてしまおうと主途蘭は画策する。だが、その前にまずは彼女に回復してもらわないと戦の前にこちらが動けない。

 

「泣けるのぉ」

 

 まるで新作リメイクでケツアゴになってしまった新人警官のように呟く。そして何やら企んでいるのは彼女達だけではない。他の場所でも、新たな不穏の種が生まれようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 琉希ちゃんは、俺たちが知らないだけでお嬢様だったりする。家はめちゃくちゃ広いし、ドラマの世界でしか見たことないような家政婦がいれば、ルンバもいる。食事は手が込んでいるし、今日はジャンクフードでいいか〜なんてことは絶対に無い。

 林本家は代々貿易で栄えてきたお家らしく、この町のことを何年も住んでいるのにあまり知らない俺ですら、名前は聞いた事がある。つまり、それくらい凄いのだ。まさか琉希ちゃんがこの家の長女であるなんて、思いもしなかった。

 

「それで。今のところ何にも進展は無い……そういうことかしら?」

 

 小学校高学年くらいのゴスロリツインテールの少女が、高そうなソファーに腰掛けながら言う。対面にはブレザー姿の琉希ちゃんが少しバツの悪そうな顔をして、これまた高そうな椅子に座っている。

 

「まぁ、そういうことに……」

 

 珍しく、いつもは強気な琉希ちゃんが下手に出ている。ツインテールの少女はため息を吐くと手元にあったぬいぐるみを投げつけた。

 

「任せてくれれば全部うまく行くって言ったのはそっちだよね?だから翠星石もお姉ちゃんに任せた。違う?」

 

「いえ……合ってます……」

 

「だよね?はぁ〜……ナイフとか格闘が凄いのは認めるけどさ、お姉ちゃんバカなんだから。できない事があれば私に相談するなりなんなりしてよ。いい?」

 

「はい……」

 

 すっかり意気消沈する琉希ちゃん。そんな二人を見ていられないのか、テレビを見ていた翠星石が助け舟を出した。

 

「香織、もうその辺にしてやるです。お前の姉も、意外と初心でバカだけどしっかり自分の仕事をしようと頑張ってるんですから」

 

 初心でバカ。フォローになってないフォローが琉希ちゃんを襲う。

 

「まあいいけどさ。まだ時間はあるし。でもねお姉ちゃん、情に流されてやる必要のない事までやってたら、いつか足元を掬われる。おじいちゃんがよく言ってたでしょ?」

 

「はい……」

 

「もう……ねぇみつ、紅茶を頂戴。お姉ちゃんと翠星石のもね」

 

「はい、お嬢様」

 

 みつ、と呼ばれた眼鏡の女性はにっこりと微笑んで台所へと向かう。ふと、香織という琉希ちゃんの妹が家政婦のみつに尋ねた。

 

「そういえば金糸雀は?」

 

「今、河原家の偵察に出ています。でもなんだか、あんまり行きたくなかったみたいで……」

 

「ふぅん。この前の接触で何かあったのかしら」

 

「たぶん……紅茶です、お嬢様」

 

 高そうなカップに淹れられた紅茶を受け取ると香織は礼を言う。続いて琉希ちゃんと翠星石もそれを受け取ると、熱々の液体を口に含んだ。アールグレイだ。

 みつ、という女性。彼女は金糸雀のマスターで、元々勤めていた会社でパワハラとセクハラに遭い鬱になりかけていたところを香織に救われた経緯がある。

 

「多分あのヤバイ弟にでも会ったですぅ。兄貴もヤバければ弟もイかれてるです」

 

 兄弟揃ってやばい奴認定される河原家。無理もない。

 

「そんなにヤバイの?なんか逆に会ってみたいんだけど」

 

「「やめたほうがいいです」」

 

「……ああ、そう」

 

 姉とそのドールに揃って止められる。俺ってそんなに危険ですかね……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジュンくんは、あの事件の後、数日してから復学した。クラスはそれなりに騒ついたらしいが、事の経緯を知っている礼が上手いこと気を回して今じゃなんとかやっているらしい。

 ようやく放課後になり、珍しく礼と一緒に帰路へとつくジュンくん。

 

「あれからどうだ。雛苺とうまくやってるのか?」

 

 本来敵であるはずの礼が、気にかけたように尋ねてくる。

 

「なんだか昔に比べてしおらしくなった。でも、その……か、可愛いよ」

 

 頬を赤らめながらそう言うジュンくん。そうかそうか、と笑いながら礼が茶化す。だが、次に出した話題で風向きが変わった。

 

「真紅はどうしてる?」

 

「……」

 

 しばらくジュンくんは黙り込む。どうやら何かあったようだ。

 

「言いたくなければそれで良い。誰にだってそういう話題はある」

 

「いや……そうじゃないけど……なんだか、様子がおかしいんだ」

 

「どんな風に?」

 

「その……なんだか元気がないみたいで。どうしたんだって聞いても何でもないって。前みたいに怒ることもなくなったけど、どうにもそれが不気味で」

 

「なるほど」

 

 分かったように礼は頷いた。

 

「何か知ってるのか?」

 

「いや。だがまぁ、真紅からすれば自分の契約者が自分そっちのけで従者とくっつくのは面白くないだろう」

 

「……そうだな」

 

 ジュンくんもそれは承知しているらしい。

 元々雛苺とは、真紅を介した契約に過ぎなかった。それをあの事件の後、正式な契約者としてしっかりと契約し、今に至るわけだ。あんな事があった後だ、真紅としては複雑だろう。それを、まだはっきりとジュンくんは分かっていないし知らないのだ。

 

「まぁ、それを何とかするのはお前だよ。大丈夫だ、お前ならできる」

 

「お前、妙に僕のこと買ってるよな」

 

「ああ。お前は俺たちと「同じ」だからな」

 

 同じ。ドールのために。自分のために。だがジュンくんは複雑そうな表情でそれを否定した。

 

「残念だけど、僕はお前たちと違って手段を選ばない極悪人じゃないぞ」

 

「それでいいのさ。一人くらいまともなのがいなきゃな」

 

「自覚はあるんだな」

 

 思春期の少年達は帰る。それぞれが大切に想う者がいる場所へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「真紅が、いない?」

 

 だからこそ、この事実は衝撃だった。泣きながらなにかの手紙を差し出してきた雛苺をなだめつつ、その衝撃を必死に受け止めようとする。

 

「お昼寝して、起きたら、手紙があって、ひっく、ジュン、私、私のせいなの。真紅からジュンを奪っちゃったから、だから」

 

 きっと、その通りなのだろう。だがそれを肯定してしまうのは良くないのだとジュンくんは考え、必死に雛苺をなだめる。

 

「違うよ雛苺。ちょっと休もう、な?泣いてたら姉ちゃんのご飯もおいしく食べられないだろ?」

 

 そう言って雛苺を抱き抱え、リビングのソファーへと連れて行く。

 くんくん探偵を見せ彼女を落ち着かせ、自身はリビングの台所付近で椅子に座りながら手紙を読む。真紅が書いたものらしく、彼女らしい丁寧な字で、しっかりとした日本語でそれは書かれていた。

 

ーー私は人形。いつか人間は、人形遊びをやめて人間になる。それでいいの。私は、いつか忘れられる。でもね、それまででいい。雛苺を愛してあげて。

 

 その言葉が印象的だった。そして自分がしてしまった選択に酷く後悔しながらも、その選択を否定しようとする自分を必死に殺す。

 正しい選択なんてない。間違った選択も無い。だから、僕は。正しくも無いし間違ってもいない。

 少年は確かに大人へと変わりつつあった。自分の大切な雛苺を見る。あの子を捨てようとは思わないし思いたく無い。もしこの幸せを邪魔しようとするならば、きっと、認めたく無いけど、容赦はしないんだ。

 ああ、なんだ。同じじゃ無いか。あの兄弟と。

 

「でも、でも」

 

 それでも、真紅。僕の背中を一番最初に押してくれたのは、お前だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜の街を彷徨う。田舎でも都会でも無い街は住みやすいものだ。そして彷徨いやすくもある。

 例えば生きる人形。彼女らが飛んでいても、人が多くない街では誰も気がつかない。目立ちやすい赤いドレスでも、気にも留めない。

 しばらく彷徨って、行く宛てのない彼女は廃屋を見つけた。乗ってきた鞄を比較的綺麗なところへ置くと、その中へと入って眠ることにする。

 夜の帳は人の心を落ち着かせる。でも元から下がりきった心はどうなる?そんなこと予想もしていなかった。久しぶりに味わう孤独を噛み締めながら、眠れない夜を耐える。高貴な少女は自分でも分からないくらいに涙を流している。嗚咽を漏らし、父親ですら困惑するくらいの姿で、必死に心を殺す。

 数時間した頃だったか。治らない悲しみと孤独に耐えていると、物音がした。ガサリ、ガサリと何かが廃屋にいるようだった。

 鞄を開いて周囲を確認する。人口精霊が周囲を照らすが、物音の正体は分からない。次第に物音が近づいてくる。動物だろうか。

 

「姿を見せなさい」

 

 得体の知れない恐怖を抑え込み、そう言うと、物音が止んだ。しかしすぐに物音は再び鳴り出す。しかも先程より近づいてくる。

 

「にゃーお」

 

 姿が見えた。猫だ。どこにでもいるような、猫だった。真紅は恐怖した。

 

「ね、猫っ!」

 

 光る目が真紅を捉える。一歩、また一歩と近寄ってくる猫。真紅は猫にトラウマがある。そのせいで、見れば発狂するくらい。だが、今は戦わなくてはならない。そうしなければ、猫は自分を殺そうとしてくるだろう。

 

「あっちへ行きなさい!この悪魔め!」

 

「悪魔。こんな姿をしていてそんなことを言われたのは初めてだよ」

 

「えっ」

 

 猫が喋った。思考が追いつかない。猫は真紅の1メートル手前に来ると止まり、口を開いた。

 

「私からすれば君の方がよっぽど人から離れていると思うがね。生きる人形とは、物好きでなければそれはそれは恐ろしいと思うが」

 

「な、なんなのあなたは」

 

「私か?私は、なんだろうな。悪魔、そう、悪魔だ。きっと、多分。それに近いのかも知れない」

 

 不敵に笑う猫。

 

「君こそなんだい?こっちも名乗ったんだ、そっちも名乗るべきだと思うがね」

 

 それもそうだと、なぜか納得して名乗る真紅。

 

「私は誇り高きローゼンメイデンの……いえ、嘘よ。哀れな生きた人形の、ただの真紅よ」

 

 自嘲するように名乗る真紅を見て、猫はふむ、と何かを考える。

 

「どうやら何かお悩みのようだ。ふむふむ、なるほど。その様子だと、恋路だね。ふむ」

 

「な、なによ!人形が、恋心を抱くのはいけないのかしら!」

 

「おいおい、急に大声を出すなよ。近所迷惑だ。なぁに、私も似たようなものだと思ってね……」

 

「猫になにがわかるの!」

 

「それは猫差別だと思うんだが。まあいい、今日は気分が良い」

 

 そう言うと、猫はケタケタと笑って唸った。にゃあああお、と憎たらしく鳴く。

 すると、猫の体に異変が起きた。うねうねと、全身が黒くなって肥大化していく。突然の異変に開いた口が塞がらない真紅。猫のシルエットが人間大になると、変化は一旦治る。そしてすぐにまた変化が起き、今度は人間のシルエットへと変わる。

 

「な、なにが起きてるの……」

 

 ガクガクと震える真紅。すると黒かったシルエットに色がつき始める。気がつけば、そこには金髪の、美女とも美少年とも取れる人間がいた。

 

「泊まるところがないなら来ると良い。なぁに、とって食おうなんて考えちゃいないさ」

 

 猫の時とは打って変わり、透き通った高めの声でそう言う誰か。誰かは廃屋から出て行こうとして、振り返った。

 

「どうする?」

 

 真紅は悩む。悩んで、決める。

 

「……お邪魔するのだわ」

 

「そうかい」

 

 その人の後ろを鞄ごと飛んでついていく。物語は確実に、次のステップへと進もうとしていた。

 

 




淫夢要素が強すぎて寒いとの0評価をいただきました。いやーほならね。ちゃんと概要を読めと私は言いたい。
ていうか書いてあるのにわざわざ読みにきてクソみたいなこと書き込んで満足なんですかね……?頭悪い視聴者は死んでくれよな〜頼むよ〜


基本的に頭悪すぎるコメントや評価には徹底抗戦しますので、ハイ、ヨロシクぅ!

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