鼻歌交じりに雪華綺晶の長い髪を、櫛でとかす。ふんわりとしていてボリューミーな白髪は、人形のものと言えども非常にときごたえがある。櫛を通すごとにふわりと香る花のような匂いも、また良い。
そんな、明らかに機嫌が良さそうな兄を見て、礼は疑問を隠せない。休日のサッカー練習が終わって帰ってきたらこの様子なのだから。
何やら、兄の友達がローゼンメイデンと契約したというのは聞いた。聞いたが、そこに上機嫌になる要素はあるのだろうか?おまけに雪華綺晶の服がワンピースになっている。
「気持ち悪いわね……」
礼の膝の上で紅茶を飲む水銀燈が呟く。
たしかに気持ちが悪い。単にキモい、というものではなく、理由がわからない事象に対して抱く、ある種の恐怖心のようなものだった。
「どうなってんだ……」
聞こうにも、あそこまで上機嫌だと逆に聞き辛い。とりあえず、心を落ち着かせるために水銀燈の頭を撫でる。ふわりと、並の女の子では出ないような良い香りが、礼の鼻をくすぐった。水銀燈も、何やら文句を言っているがまんざらでもなさそうだ。
「雪華綺晶、おいで」
ベッドに腰をかけ、自分の膝の上を軽く叩く。すると、雪華綺晶はにっこりとして華麗にジャンプ。空中でくるりと回ってふんわり俺の膝元に収まった。
彼女は首を動かし、背を向ける俺を覗いてくる。横顔に加えて上目遣い。それでいて何かわくわくしていそうな彼女の笑顔はいつになく愛らしい。
そんな雪華綺晶の頬に、俺も頬をすりすりと擦り付ける。痛くないようにしつつも、それでいてしっかりと温もりが感じられるように。この人形は、そんな俺を受け止めてくれるのだ。
「あらあら、いつになく嬉しそうな笑顔ですわ」
そう指摘され、そうかな?と尋ねる。
「ええ。あの方がミーディアムになったことが、そんなに嬉しい事なのですか?」
雪華綺晶の質問に、俺は笑うだけだった。ただ、苦笑ではなく、心の底の喜びが漏れるような、そんな笑み。
「んふふ〜。秘密」
第三者から見れば気持ち悪いことこの上ないが、そんな俺でも彼女はちゃんと話してくれる。いや、まぁ流石に雪華綺晶以外の第三者にこんな姿見せないけどさ。
まぁ、とちょっと困ったように答える雪華綺晶だが、その顔は特段困った顔をしていない。俺もそんな聞き手上手な彼女に甘えるように、こちらを向く雪華綺晶の桜色の唇に、そっと唇を重ねた。
「ん……」
目を閉じる雪華綺晶。対して俺はガン見である。いやーこの光景がたまらねぇぜ。もう顔中、スケべまみれ(?)や。
数秒してから唇を離すと、雪華綺晶の頬がぷくっと膨れた。
「もぅ、マスターったら。そうやって機嫌が良くなるとすぐにキスばっかり」
少し息を切らしつつも、そんなことを言う雪華綺晶。やや荒い息が俺の敏感な唇に当たる。これはエロいですよ。
「雪華綺晶がチャーミングすぎるからさ(白い悪魔)」
「うふふ、お上手ですこと」
お上手(意味深)なのは君なんだよなぁ、なんてくだらないことを考えながら、俺はまた唇を重ねる。すると、変化があった。ちろり、と唇の隙間に何かが侵入してくる。驚いたことに、それは雪華綺晶の舌だった。
彼女の表情を見てみると、いつものようなクールな表情ではない。頬を赤らめ、眉はややハの字になっており……まぁあれやわ、発情してる雌の顔になっているのだ。
「ッ!!!!!!」
その表情のエロさと言ったら。こんなことしてタナトス(かみまみた)、ただで済むと思ってるのかよ!(ゆうさく)
と、某ハチに刺されまくる男優のセリフを思い浮かべつつ、俺もやり返す。
具体的には、侵入してきた小さな舌に、俺の大きな舌を絡ませてみたのだ。
「んむ……!」
予想外の反撃に身体を震わせる雪華綺晶。いやーエロいっす(欲望忠実おじさん)。瞳は閉じたままだが、逆にそれがいい。純愛だね。
「ふー、ふー、ふー」
次第に荒くなっていく互いの鼻息。
俺のはもうホモビデオで聞くようなのと変わりないが、雪華綺晶のは違う。もうなんて言うか、聖女の鼻息だ(錯乱)。
だからもっとイタズラしちゃいたいと思うのも仕方がない事であり……
「んむぅ!?」
絡めた舌を、雪華綺晶の小さな唇へと押しやり、そのままねじ込む。エロだよそれは!(天パ)
可憐で小さな人形の口にねじ込まれる舌。やはり人形には人間の舌は大きすぎるようで。ただのベロチューなのに雪華綺晶の口はパンパンに膨らんでいた。まるでナニかをねじ込まれているみたいに……いかん、いかん危ない危ない危ない(レ)
「う、おご、おぉ……」
普段出さないような、苦しそうな声。それがたまらない。だからこそ続けてしまうものでもある。いつのまにか、俺は体勢を崩して雪華綺晶をベッドに押し倒していた。少し抵抗する雪華綺晶の手首を押さえつけ、野獣(直球)のようにその花弁を貪る。そしてとうとう唇を離してみれば、雪華綺晶は今にも息絶え絶えといったように、過呼吸一歩手前にまでなってしまっていたのだ。
口をだらしなく開けてよだれをたらし、薔薇の眼帯が無く、そして焦点の合っていない左目からは涙が溢れている。全体をよく観察してみれば、肩まわりはややはだけ、お腹周りも少しめくれあがってちらりとおへそが見えている。極めつけは、スカートが上がりに上がって魅力的な太ももが大胆に見えてしまっている事だ。
「おほ^〜」
思わず声をあげた。
雪華綺晶は涙ぐんで、
「ます、たぁ……もっとぉ……」
顔をほてらせて言う。やっちゃいますか〜?そのための右手、あとそのための拳?
お前を芸術品にしてやるよ(至言)
「なにやってんだあいつら……」
そんな光景を、礼は扉のわずかな隙間から覗いていた。今日あったことを色々聞きたくて、意を決してあの気持ち悪い兄の部屋に来てみたら……なんかとんでもないことになってる。
止めるべきか否か悩み、そうこうしているうちになんか激しくなってしまったのだ。今更介入なんてできないだろう。
「ッ〜〜〜〜!!!!!!」
同じように、礼とそれを覗いている水銀燈は顔を真っ赤にして、目と口をかっ開きながら悶えている。きっとこういうことに耐性が無いんだろう。
だが、その光景をただ見ていた礼はやたらと冷静だった。兄があのドールと何やら一線を超えそうなのは知っていたが、まさかあそこまで加熱していたとは。
でも、身内がそういうことをしているのを見ても複雑なだけだ。なんだか後ろめたい、後悔のような念が少年の心に巣食っているのだ。
「……」
不意に、水銀燈を見下ろした。
銀髪の間から覗く彼女の顔は茹でタコのように真っ赤だ。ふと、感じた。自分のドールである彼女が、他人のいちゃつきを見て顔を赤らめているのが気に入らないと。
そこからの感情の昂りは早かった。
少年の妄想は飛躍するとはよく言うが、彼もまた例外では無い。なんだか無性に水銀燈を、あんな風にめちゃめちゃにしたいのだ。
普段、尻をひっぱたいたりして興奮している彼女に満足していたが、今はそれだけでは足りない。そうだ、自分も一線を超えてしまおう。そんな、京都に行こうみたいな感覚で……
「ッ!?」
水銀燈の口を手で後ろから塞ぎ、空いた腕を彼女の身体に巻きつける。
突然の行動に混乱する水銀燈だったが、抵抗しようとしてもなぜか身体が動かない。いや、本心では礼に期待していた。
そのまま礼の部屋へと運ばれる水銀燈。
どうなったかは想像に難くなかった。
なんだこの兄弟(ドン引き)
キボウノハナ〜
パソコンから歌が流れ、アニメの登場人物がうつ伏せで倒れている。ネットでの流行語になりつつある、止まるんじゃねぇぞ……という遺言を残し、謎のロボットが映った。
現在夜。
親友であり悪友である河原 郁葉でのやりとりの後、家にて蒼星石とだらけている。
「ねぇマスター、なんでこの人は事あるごとに死んでしまうの?」
「そういうもんだからだよ」
膝の上に乗せている蒼星石の質問に答える。彼女曰く、かなり久しぶりの目覚めのようで、前に起きていた時にはパソコンなんてものはなかったらしい。だからだろうか、その反動と言わんばかりに、蒼星石はパソコンにかじりついている。
大学では主にパソコンやテクノロジーを取り扱った講義が多いため、俺も教えてあげるのは楽しいもんだ。伝わっているかは別として、な。
だが、それはそれで何か虚しいものもある。だって蒼星石がパソコンに食いついてしまっていては、俺の相手をしてもらえないんだから。
「そんなに楽しいか?」
そう尋ねると、シルクハットを脱いでいる茶髪が前後に揺れた。
「スゥーん、そうか」
ふわりと漂う柑橘系のいい香りを吸い込みつつ、答える。郁葉の野郎、今までこんないい思いしてきたのか。羨ましいね。
時計を見る。時間は夜の8時。まだ寝るには早いし、かと言ってテレビは無いから面白い番組も見れない。ゲームだって、今使ってるパソコンでやってるからできねぇし。かと言って、宿題もないから他にやることもない。
「どうしたもんかな」
昼間にテンションが高過ぎたせいで今になってダウナーになってしまっているから、いちゃつこうとも思えない。
そうこうしている間にも、蒼星石は巧みにマウスを動かして動画のマイリストを開いている。マイリストには汚い動画しかないけど。
暇すぎて左手の薬指を見る。そこには、契約の証である指輪がしっかりとはめられていた。
「……」
ふと、蒼星石にイタズラしようと思う。
ちょんっと彼女の脇腹を指で小突く。
「んひゃん!?」
「おお〜!」
思ったよりも女の子らしい声をあげる蒼星石に、ちょっと感動してしまった。いやそりゃおっさんみたいに太い声出されても困るが。
「ちょっと、何するのマスター?」
振り返って、やや怒ったように言う蒼星石。
「だってつまんねぇんだもん」
「あ、ごめんね?ついつい見すぎちゃった。パソコンありがとう」
困ったように謝る蒼星石。気の利くいい子やこの子は……なんて思う。でも、暇なのは別にパソコンを取られているからではない。
「えー、僕蒼星石ちゃんと遊びたい」
さくらんぼ小学校のクソガキを真似してそんなこと言うと、蒼星石は首を傾げた。かわいい。
「僕と?」
「そうだよ(肯定ペンギン)俺もイチャイチャしたいけどな〜」
そう言うと、蒼星石は驚いたように顔を赤らめる。
「え!?で、でも僕ら、まだ出会って1週間も経ってないんだよ!?」
「大丈夫大丈夫、最近は出会って則合体するらしいから(広告並感)」
適当なことを連呼する。正直、いちゃつくつもりはあんまりなかった。単に目の前の少女を困らせたいと言う小学生みたいな理由。
「で、でも……僕、男みたいだし……」
「なんの問題ですか?(レ)」
「そ、それに、今までそんなこと言われたことなかったから……どうすればいいのかわからないよ」
やはり乙女か。いや俺も童貞だけど。
しかしそう言われると、いたずら心に火がつくな。
「じゃあ、俺が教えてやるよ(デスボ)」
イケボを作ろうとしてデスボイスになってしまったがどうでもいいわ。
でも、冗談のつもりで言った言葉は、蒼星石には本気と捉えられたようで。
「えっと……ほんとに……僕でいいの……?」
どこか、甘えるような声色と顔で、そんなこと言ってくるもんだから。
「おほ^〜(フルタチさん)」
正体表したね。と、言われてもおかしくないほどに興奮してしまった。
なぜかいい雰囲気になった2人。俺はそのままのキモい顔で唇をすぼめて近付ける。蒼星石も目を閉じ……
「させねーですぅ!!!!!!」
突如飛来した何かが俺の頭にぶち当たった。
止まるんじゃねぇぞ…