ローゼンメイデン プロジェクト・アリス   作:Ciels

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sequence 32 やばい奴

 

 

俺たちが住んでいる街は都会でもなければ田舎でもない。都心から離れていなければさほど近いわけでもないこの街は、それでも少なからず活気はある方だと思う。

さすがにネットやコンビニが発達した現代では個人商店なんてものは続々と閉店しているが、それでも街のいたるところに個人の喫茶店があったり、床屋があったりする。90年代の、なんだか懐かしいけど最近の空気が、この街にはまだ残っている。

今から紹介するこの人形を扱った店も、そのうちの一つ。いつからあるのか知らないが、ひっそりと街の片隅に存在し、潰える事なく営業をしている。店の中には溢れんばかりの物言わぬ人形たちが鎮座し、今か今かとまだ見ぬ主人を求めているのだろう。

 

「帰ったのかい、薔薇水晶」

 

そんな店の、一番奥。薄暗い部屋の中で作業台に向き合い、人形の頭部を作っている美青年がいる。日本人離れしたブロンドヘアーと顔の作りは、彼が日本人ではないということを想像するには難しくない。

 

「はい、お父様」

 

彼の後ろ、姿見から現れるのは、電柱の上から俺たちを観察していた紫のドール。薔薇水晶と呼ばれた彼女は、ただ青年の後ろに立ち尽くし、なにかを待っている。それに気がついたのかは知らないが、青年は手を止めて薔薇水晶に向き直った。青い瞳が彼女を覗く。

 

「また雪華綺晶のところへ?」

 

その問いに、薔薇水晶は頷く。一見すると無機質な瞳からはなにも感じられないが、それでも青年の方はなにかを読み取ったらしい。

 

「あまり彼女たちを邪魔してはいけないよ。特に、あのマスターは危ないから」

 

あのマスターというのが誰であれ、青年は薔薇水晶にそっと注意する。

 

「見ていた、だけです」

 

「そうか。あの子達が羨ましいかい?」

 

青年の問いに薔薇水晶は黙る。だが青年には彼女の思うところが手に取るように分かっていた。なぜなら、青年は彼女のお父様だから。父が子の事をわからないはずがなかった。

 

「君に寂しい思いをさせてしまっているのは分かる。でも、それももう少しだ。あと少しで、君にも妹が生まれるよ」

 

そう言うと、青年は先ほどまで手にしていた人形の頭部を指差す。まるで人間の肌のように、いやそれ以上に美しい表面は、まるでローゼンメイデンのそれである。でも、薔薇水晶はどこか複雑そうな顔で、と言ってもほとんど変化はないが、その頭部を見つめた。

 

「心配することはないさ薔薇水晶。僕は君も、そしてこれから生まれてくる人形も、平等に愛する。……おいで」

 

青年が薔薇水晶に手を伸ばすと、彼女はそれに甘える形で抱きつく。そっと目を閉じる薔薇水晶。父親の温もりに抱かれ、至福の時を味わう。

だが、そんな時間は長くは続かない。店の扉が開く音と共に、彼女の未発達な心を癒す時間は終わってしまった。

 

「お客さんだ。隠れてなさい」

 

青年がそう言うと、薔薇水晶は名残惜しそうに彼から離れる。そして青年が客へと向かうと、その後ろ姿をこっそりと見たのだった。

……自分の父と話す、白いパーカーを着た青年の姿も一緒に。

 

 

 

 

 

雪華綺晶アップデート計画。

名前だけ聞けば何やら彼女を強くする計画に聞こえるが、実際はそんな野蛮なものではない。

彼女と生活するようになり早一ヶ月。愛しくて可愛くて時々エロい我が人形、雪華綺晶。そんな彼女は、いつも白いドレスを着ている。ローゼンメイデンとしては意外と露出の高いドレスは、彼女の危なげなオーラと相まってとてもよく似合っているが、いつも見ていると思ってしまうのだ。……もっと可愛い服を着させてあげたい、と。

だが、彼女は人形だ。一応子供用の服も着れないことはないのだが、あくまで人間用の服では彼女の魅力を引き出すことはできない(園児服やランドセル姿は良かったので除く)。

ならば、もう街のはずれにある人形屋へと赴いて人形用の服を探すしかないじゃない。

 

「えっと、ここが交差点で……おお、ここどこや」

 

だが、その人形屋にたどり着く前に迷ってしまっていた。なにせ、スマートフォンで地図検索しても載っていないのだ。

 

「マスター、意外と方向音痴なのね」

 

くすくすと、スマートフォンの液晶に潜む雪華綺晶が笑う。

 

「待てよ待てよ、四丁目……あ、これかぁ!」

 

そうして数分彷徨ってようやく見つけた人形屋、槐。ひっそりと、まるで見つけないでくださいと言わんばかりの場所にあるその人形屋さんは、外から見る限りでは店の中は暗くて営業しているのかも怪しい。

 

「やってんのかなぁ」

 

「入って見ないことには……」

 

雪華綺晶も、ここが営業中であるという確証はないらしい。

しかしわざわざ迷ってまで来たのだ。ここで帰ってしまっては無駄足になってしまう。雪華綺晶と散歩できたのはそれはそれでいいんだけど。

入口の扉を開く。ガチャコン、という重厚な音と共に、店内の淀んだ空気が漏れて来た。

 

「入って、どうぞ」

 

「やめなさい雪華綺晶」

 

すっかりネットにはまってしまった愛しの人形に注意して、俺は中へと入る。薄暗い店内は、数えるのが億劫なほどの数の人形が、棚やテーブルに置かれていた。え、なにこれは。ホラーか何か?

 

「すみませーん」

 

誰もいない店内で、俺の声だけが響く。

 

「お客さんかな?」

 

と、店の奥から人が出てくる。金髪で、いかにも外人といった作りの顔だが、その口から発せられたのは流暢な日本語。俺の得意な(大嘘)英語は陽の目を見ることはなさそうだ。

 

「はい、あの、服ありますか?」

 

「……人形用の、ってことだよね?」

 

「あ、はい」

 

コミュ障発動。

いや〜店で物の場所聞くときはどうしてもどもっちゃうんだよね。

すると店主であろう美青年は、にこやかな笑顔と共に、すぐ横の棚を指差した。

 

「そこに色々あるから見て見るといいよ」

 

「あ、ありがとナス!……ございます」

 

しまった、最近まともな会話をしてないせいで語録が出ちゃったよヤバイヤバイ。

言われるがままに俺は棚にある服に手を伸ばす。触って見ると分かるが、めちゃくちゃ質がいい。それでいて人形用……人形ガチ勢の店なのかここは。

 

「珍しいね。君みたいに若くて男の子が人形の服を見にくるなんて」

 

唐突に店主が口を開く。

 

「えっと、まぁそこそこ……」

 

「別に非難してるわけじゃないよ。ただ、このネットが発達して娯楽が溢れている現代で、人形に興味を持ってくれる若者が、純粋に嬉しいのさ」

 

若者って、この人も相当若いだろ。外人はぱっと見いくつかわからないけどさ。

 

「そうっすか……はは」

 

イケメンは苦手だ。この野郎、生まれた時からイージーモードな奴らめ……いかんいかん、なんでこんな僻んでるんだ。俺には雪華綺晶がいるからいいもん。

 

「どんな服を探してるんだい?」

 

「えっと、可愛い系かと思いきやちょっとサイコでややエロ真っ白ドールに合うかわいい服を」

 

「はえ〜」

 

しまった、欲が出すぎた。あまりの急すぎる情報に店長が上を向いてオーバーフローしてる。だが、数秒経つと店長はにこやかな笑顔でこちらへ向き直った。

 

「いいね!君はドールに可愛さを求めるフレンズなんだね!」

 

「ハハァ」

 

無理やり笑う。なんだこの店長、こいつも変態っぽいぞ。もしかしたら気があうかもしれないけど……

 

 

 

 

 

 

「個人的にはね、こういう若妻っぽさもあったほうがいいと思うんだよね!」

 

「ありますねぇ!でもやっぱり僕は、王道を往く……ややエロロリ妻ですかね」

 

「あ〜いいっすねぇ!」

 

服について話すこと数分。俺と店長は意外にも趣味が合い、話し込んでしまっていた。気がつけば人形の枠を出て、性癖について語っている。

と、やはりそんな会話に雪華綺晶は飽きたようで、俺の電話を勝手にいじくってアラームを鳴らす。我に返って電話を取ると、やや不機嫌そうな雪華綺晶が声を鳴らした。

 

「……マスター、私そっちのけでお話しですか?私の服はどうでもいいのですか?先程から性癖のおはなしになっていますが」

 

「ヒエッ。いや、そんなことない!ああおほん、じゃあちょっと切るから、またな」

 

無理やり電話を切る。これ以上長居すると雪華綺晶に折檻されちゃう。それはそれでいいかもしれないけども。

 

「あ、じゃあ店長、これください」

 

そう言って俺が店主に差し出したのは、白いワンピース。ありきたりだが、こういうシンプルなものも中々良いものだ。早く着せてスカートに顔を突っ込みたい。

 

「こちら、1万4000円になります」

 

「1万!?まま、ええわ。現金で」

 

思ったよりも高いが、まぁ普通の服だって結構高いしなぁ。俺は懐から20000円を取り出すと、店長に差し出す。

 

「じゃあ6000円のお返しね。いやあ、今日は久しぶりに楽しかったよ。普段はこんなに話せないからね」

 

「いやいやこちらこそ。いい店見つけましたわ、また来ます」

 

満足したように言うと、俺は店を出た。いや〜今から雪華綺晶に着せるのが楽しみでたまらない。きっとちょっと拗ねてるだろうから、少しツンツンしたワンピース姿を拝めるぞ。

 

 

 

 

白いパーカーの青年が店を出て行く。

美青年はやや名残惜しそうにその背中を見届けると、一息つくように空気を吐き出した。

 

「あれが雪華綺晶の契約者か。愉快な青年じゃないか」

 

今さっきまで話していたことを思い出す。まったく、柄にもなく自分のことを話してしまった。主に性癖のことであるが。

 

「おとう、さま」

 

と、不意に後ろから薔薇水晶が声をかける。青年が振り返ると、彼女は不安そうな顔で彼を見上げていた。

 

「お父様は、私と話すのがつまらないの?」

 

「え」

 

彼女が言っているのは、先程青年が言った言葉……普段はこんなに話せないからね。

 

「違うんだ薔薇水晶。あれは営業トークで」

 

「あんなに楽しそうなお父様……私知らない」

 

「薔薇水晶、ひとの話を」

 

「nのフィールドに帰らせてもらいます」

 

まるで妻が実家に帰ると言わんばかりの薔薇水晶。

 

「ま、待ってくれ薔薇水晶!違うんだ、薔薇水晶!?」

 

懇願する青年を背に、薔薇水晶は姿見へと姿を消す。どうやら人形で手を焼いているのは俺だけじゃないようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよこの荷物」

 

夜。バイトを終えて家に帰ると、玄関にアンティークな鞄が置いてあった。どうやら宅配便が届けたようで、ご丁寧に伝票が貼ってある。宛先は自分で、送り主の名前は無い。

 

「新手のテロか?」

 

我ながら極端な考えを示し、注意深く鞄を観察するが、特に異常は見当たらない。いやまぁ、こんな一人暮らしの大学生狙ってどうすんだって話ではあるけど、人生何があるかわからない。聞けば一生のうちに二回もテロに巻き込まれた人間だっているらしいじゃないか。そうだ、この間だってバイト先に頭のおかしい客が入り込んで警察呼んだし、俺も狙われてるかもしれないんだ。そういやこの前も変な手紙が届いたな。何が巻きますか巻きませんかだ、巻くに決まってんだろ。ああクソが、全員ぶっ殺してやる。……話が脱線した。

 

「まあいい。俺に届けた以上、中に金目のもんがあっても俺のもんだ」

 

生きるということは戦うことだ。手段は選ばない。俺は玄関の扉を開けて、鞄を中に放り投げる。この鞄がいかなるものであるにせよ、この坂口隆弘をどうこうできると思うなよ。

 

 

「あヤベェ、鞄置きっぱだわ」

 

風呂から出て、呑気にビール片手に電話をしていたら鞄の事を思い出した。そういや怪しい鞄の存在をすっかり忘れていた。

 

「あーめんどくせ」

 

ややアルコールが回った頭じゃやることなす事すべてが面倒だ。畜生、ビールなんて飲むんじゃなかったよ。と、電話越しに声が響く。今は友達と通話中だ。

 

「悪い、ちょっと掛け直すわ」

 

『は?いやお前から電話してきたんだろうがぶっ殺すぞ』

 

「うるせぇこの野郎ぶっ殺すぞ、アウト」

 

汚い言葉に同じように返すと、電話を強引に切る。どうせしょうもない内容の電話だったから口ではああ言っていたがあいつも気にしないだろう。電話の向こうで怒る変態パーカー野郎の事を頭の片隅に追いやり、俺は立ち上がる。

 

鞄はまだ玄関にぶん投げられている状態だった。それを抱え、狭いアパートの居間へと足を運ぶと、テーブルの上に置く。ヒョロガリな自分ではこんな荷物ですら重く感じる。

 

「では、オープン!」

 

そして間髪入れずに鞄を開ける。先ほどまでの危機管理意識はどこへいったのやら。だが仕方ない。このどこへ向かうかもわからない危うさが俺のなのだから。

そういう面では、俺は腐れ縁となっている友達と似通っているかもしれない。

 

鞄を開けて、身構える。手には大分前に友達とお揃いで購入したコンバットアックス。中から危険な動物が出てこようが、こいつで頭カチ割ってやるぜ。

 

「天誅ぅううううううおおおおおお?」

 

酔いのせいで抑えられない声を発しながら、俺は目を疑った。なんせ、目の前には青い服を着た小さい人間が入っているのだから。

 

「……これやばくね?」

 

下手すると誰かにはめられた可能性がある。意図せず誘拐犯に仕立てあげて、誘拐犯にしたんだよ(?)、お前を誘拐犯にしてやるよ。という事なのだろうか。

どうでもいい、とにかく生きてるか確かめなくては。しかしえらい美人だな。よく見れば顔の作りは日本人らしく無い。ヨーロッパ系の子供なのだろうか。そもそも男か?女か?

 

「ここでこの子を助けて、それで恋に発展して……ステキな事やないですか〜!」

 

某youtuberのようににやける。

そして彼女の息があるかどうか確かめた。

が、その前に。

 

「なんだこれ(驚愕)」

 

意図せず足を触った時のことだった。人間には無いはずの、関節があったのだ。

 

「え、人形?マジで?」

 

一気に酔いが覚め、いまだに目が覚めないこの人形らしき人物を触診する。

主要な手足に腹部。それらに関節があった。どう見ても、そして触っても人間にしか思えないが、どうやら人形らしい。

 

「ラブドールぅ……ですかね」

 

某動物園のお兄さんのように言うと、何やらアンティークなネジが同梱されていることに気がつく。

 

「あら、ゼンマイ仕掛けかな?」

 

ゼンマイがあると言うことは、それをさせる場所もあると言うこと。俺はそれを探す。

 

「やっぱりこういうのは……あそこにさすんだよなぁ?おーほっほっほ、元気だ」

 

元気なのは自分の股間だ。そしていやらしい場所にゼンマイを挿そうという考えに至った時だった。不意に、どこからか青い小さな光がやってきて自分にまとわりついた。

 

「おわ!?オーブだ!怪奇現象だ!きぃええええええええええ」

 

発狂し、青い光に向けてコンバットアックスを振るう。だが小さな光には当たらない。

 

「オーブ首長国連邦!」

 

もはや自分が何を言っているのかわからないが、光を追い払おうとしていると、謎の光が人形の腰部分へとまとわりついた。

 

「なんだこの野郎!」

 

ブチ切れながら光を捕まえようと人形の腰へと手をやる。そして、ようやく気がついた。ゼンマイを入れるネジ穴が、人形の腰にあるという事を。

 

「あっ」

光は、ゼンマイ穴の位置を教えてくれていたのだ。

 

「なんだこの野郎!全然いやらしいことなんて考えてねぇよ!ぶっ殺すぞ!」

 

物言わぬ光に怒り狂いながら、俺はゼンマイを人形の背中に挿してひねる。カチカチ、と機械的な感触が手に響いた。

だがそれよりも、今抱いている人形が柔らかくて、興奮している。今まで彼女なんていなかったからな。

 

「おほ〜」

 

そうこうしているうちに、ゼンマイが止まる。もう最大まで巻いたかな?

俺は手を止めて人形をテーブルに寝かせた。

 

すると、

 

カタッ。

 

カタカタ。

 

 

人形が、ぎこちなく動き出す。

 

「ヴォーすげ!」

 

科学の力に興奮していると、人形は立ち上がる。そしてゆっくりと、瞳を閉じているのにも関わらずこちらへと向かってくる。

 

「赤外線誘導かな?(適当)」

 

適当な事を呟いていると、目が開く。赤い瞳に青い瞳。左右で違う色の瞳は、一片の汚れもない。

 

「まるで宝石みたいだぁ(直喩)」

 

呑気にそんなことを言っていたが、今度は人形の動きが止まる。それを静かに見守っていると、不意に人形の動きが人間並みにスムーズになった。

 

そして、

 

「……君は、僕のマスター?」

 

透き通った声が耳を刺激する。

マスター(意味深)。俺にはそうとしか聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよあの野郎、電話切りやがって」

 

一方で、河原さん家ではその長男が不機嫌そうに電話を放り投げていた。

急に電話が来たかと思えばとんでもなくくだらない話だったし、それでも多少なりとも盛り上がっていたら鞄がなんたらって切られるし。

 

「あーつまんね」

 

「あらあら、愛しのマスターは不機嫌だわ」

 

と、寝転ぶ俺の足を枕がわりにしている雪華綺晶が言う。ちなみに、ちゃんとワンピースは着てもらっている。同じように寝転がっている雪華綺晶のワンピース姿はなんとも可愛らしい。それでいて、胸元が少しゆったりしているせいで見えそうで見えないというエロさもある。完璧だ。

 

「きらきー慰めて〜」

 

「まぁまぁ、甘えん坊ですわ」

 

上半身だけ起き上がり、寝転がる雪華綺晶の上に覆いかぶさる。体勢的にキツイが、それ以上に股間があったかい。

 

「でも夜も遅いですし、明日から大学ですよ?」

 

「うーむ、流石に明日休むのはヤバイか」

 

背に腹は変えられない。大人しく今日はいちゃつくことなく寝よう。

その時だった。携帯が振動する。どうやらメールが届いたようだった。

 

「なんだろ……お、隆弘じゃん」

 

先ほど電話を一方的に切られた友達からのメール。性格的に謝罪の文面ではないだろう。

スマホを手に取り、メールを開く。

件名は、やったぜ。で、本文は無し。代わりに、画像が添付されている。

 

「なんだあいつ」

 

奇行が目立つ友人から送られてきた画像を開く。そこには、茶髪でショートカットの、オッドアイの美人と、よく知るキチガイ友人がツーショット度アップで写っていた。

友人はその凶悪な笑顔を剥き出しにし、幼さを見せる美人は引きつった笑顔。なんだこの写真は。

 

「……あら、お姉様だわ」

 

と、画面を覗き込んできた雪華綺晶が呟く。

お姉様。つまり、ローゼンメイデン。

 

「……マジで?」

 

一番ローゼンメイデンと契約してはいけない奴が、マスターになった瞬間だった。

 


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