悶絶人形、専属調教師の平野源五郎と申します(大嘘)
私が悶絶人形を書くのは何年振りでしょうか……
大変長らくお待たせしましたが、少しずつ復活します。
「それで、琉希ちゃんは何をしにここへ?」
地帯を見られてしょんぼりしている礼を横目に俺は話をする。
ちなみに雪華綺晶からはローキック10回という地味に痛いお仕置きを受けましたが元気です。
琉希ちゃんは客人用に出した紅茶を啜って、カップをソーサーに置くと言った。
「……翠星石に破廉恥なことをした件については目を瞑りましょう。私達に非がないというわけでもありませんし」
「なんのこったよ(すっとぼけ)」
「マスター?」
「はいすいませんでした」
雪華綺晶に微笑まれて即座に謝る。
俺はマスターとしてこのままでいいんだろうか。
琉希ちゃんは咳払いすると話を戻した。
「水銀燈の様子を見に来たのですが……この分だと問題はなさそうですね」
問題しかないと思うんですがそれは……
口に出そうになるが、話がこじれそうになるので黙る。
雪華綺晶に怒られたくないし。
「それともう一つ。近頃、新しくドールが目覚めたという事を聞きました」
唐突に、琉希ちゃんが言った。
さすがに真面目にならざるを得ない状況に、俺はふざけた表情を消して尋ねる。
「どうやって?」
「翠星石が放っていた自立型の人形が、赤いドールを見たと。恐らく、第五ドールの真紅でしょう」
赤い第五ドール。
当然ながら雪華綺晶の姉。
赤いということから、某ロボットアニメの宿敵を思い出す。3倍の速度で動いたりしないだろうな。
と、真紅という名前を聞いた途端に、礼の横でぐったりしていた水銀燈が飛び起きる。
「真紅ですって!?」
俺達は驚きながらも、水銀燈に尋ねた。
「知ってんのか?」
「当たり前でしょう!?あの不細工な出来損ないドールぅぅぅうう!!!!!!今度あったらギッタギタのメッタメタに」
「お前も不細工で出来損ないだろ」
「あひん!?」
礼に尻を叩かれる水銀燈。
どうやら水銀燈は真紅ってやつにかなりご執心のご様子だ。
「あいつらは昔から仲が悪いですからね〜」
そう言うのは同じくローゼンメイデンの翠星石。
「お父様の工房にいた頃から喧嘩ばっかりですぅ」
ずずずっと、紅茶ではなく緑茶を飲む。
はえ〜女の子の喧嘩って陰湿そう。怖いな〜戸締りしとこ。
ぼそっと、翠星石が蒼星石ならよかったのに、と言ったが俺は何も触れない。
言葉から察するに、仲が良かったのだろうか。
まぁ、そのうち会いそうだけどな。
「それで、伝えて来たってことは当然何か考えてるんだろう?」
そう尋ねると、琉希ちゃんは頷いた。
「真紅と、そのマスターに接触しようかと」
「随分事を急ぐんだな」
「不安要素は排除すべきですから」
おっしゃる通りだ。
邪魔者は叩き潰すに限る。
俺も随分考え方が物騒になったなぁ。
「なるほどね。敵なら排除するに限るからな。……それで、琉希ちゃん。マスターの居所は掴んでるのかな?」
「ええ、もちろんです。あなたには、そのマスターと接触して欲しいのです」
ため息を吐く。
どうせそんな事だろうと思った。
ただでさえ強いこのコンビが、わざわざ俺のところまで来るのだ。
自分でできる事なら俺に伝えないだろう。伝えたとしても事後承諾だろうな。
「それでそのマスターの情報は?」
そう尋ねると、琉希ちゃんはスマホを取り出してしばらく操作し、こちらに渡して来た。
充電があまり無いことには突っ込まない。
「なになに……桜田ジュン、14歳……え、中学生?」
まさかの展開だ。
スマホの液晶に書かれていたマスターの情報。
それは、礼と同じく中学生男子。
写真を見るに、部活などはやっていないのだろう、線が細すぎるし、線が細い。
言っちゃ悪いが、銃でも持ってこられないと一対一では負ける要素はない。
「さすがに俺がコンタクトするのはまずいだろ、ショタコンに思われちゃう、ヤバイヤバイ」
年下の、しかも男子に手を出したとなれば色々と伝説になる。警察に捕まろうものなら一生ネットの晒し者だ。
そんな称号欲しくないです。
俺が難色を示していると、不意に礼が立ち上がり、俺の手からスマホを奪い取った。
「なんか言ってから取れよお前」
「……ふーん、桜田、ローゼンメイデンと契約したんだ」
と、礼は知っているかのように言う。
「知ってるの?」
「俺のクラスにいるオタク」
はえ〜すっごい世間狭い。
「ならお前がコンタクト取れば……」
「無理。こいつ引きこもりだし」
あっ(察し)
若いのに難儀やなぁ桜田くん。
だがそうなるとどうしようか。
礼もなんだか関わりたくなさそうだし。
ここは俺が一肌脱いで……
「はん、私のマスターとあろう者が随分とへっぴり腰ね」
アホ黒ドールが煽り出す。
礼が振り返って水銀燈を睨みつけた。なんだろうか、随分と礼の機嫌が悪い。
礼は水銀燈に詰め寄る。
「なんだこの野郎」
その威圧感に水銀燈はビビりながらも言った。
「そんな弱っちい奴相手にビビってんじゃないわよ」
プルプルと震える礼。
あーヤバい、完全にお怒りだねあれは。
怖いな〜きらきー助けてーと隣にいる雪華綺晶に抱きつく。
「あらあら、そんなにがっつかなくてもおっぱいはあげますわ」
「欲しいです(本音)」
「お前らやめるです」
何を勘違いしたのか雪華綺晶が甘えさせてくれるが翠星石は甘くなかった。
「……やってやろうじゃねぇか」
不意に礼が呟く。
そして水銀燈のヘッドドレスを掻っさらい、自身につけるという奇行をすると言った。
「俺が調べてやるよ」