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「……あら?」
ふと、水銀燈軍の人形たちを捻りつぶしていた雪華綺晶の腕が止まった。
しかし止まったのはほんの一瞬で、次の瞬間には手にしていた人形の頭を握りつぶした。
陽動のはずが一方的に相手を素手で捻りつぶしているってことは見つかっても案外安心だったんじゃないですかね、とは言わないでおく。
同じように翠星石も違和感を察知した。
如雨露で人形を殴る手を止め、雪華綺晶に話しかける。
「雪華綺晶、こいつら逃げてってません?」
「ええ、妙ですね……」
逃げる方角は敵の拠点である教会。彼らのほとんどはもうすでに姿を消していた。
最初はマスターたちが見つかったんじゃないかと思った。
それなら一大事だし、彼女たちも急行する必要がある。
しかし、マスターたちからそんな連絡はない。
それに、水銀燈の目的である雪華綺晶たちが出てきたのに、彼女が出てこないのもおかしい。
経験から言って、戦闘時の水銀燈は自ら相手をするタイプだ。
加えて、人形たちが言ってたことも気になる。
彼らが逃げ始める直前、しきりに焦ったような会話をしていた。
それは雪華綺晶たちが強過ぎるなどといった事に対する焦りではないと、同じ人形の直感として理解できた。
まるで、主に危機が迫っているというような……
マスターたちが水銀燈を追い詰めたのだろうか?
いや、いくら普通の人間よりも強いあの二人でも、ローゼンメイデンでトップクラスの力を誇る水銀燈を追い詰めるなんて事は出来ないだろう。
それに、ここは水銀燈のテリトリーで、エリアの複雑さを見ただけで彼女の状態が良いという事も理解できる。
「……とにかく、今は教会へ急ぎましょう。マスターたちが逃げていく人形と鉢合わせしても困ります」
「それもそうですね、はやいとこ琉希にも逢いたいですし」
「……お姉様、もしかしてあの方の事が好きなのですか?(青春)」
「う、うるせぇです!」
ホモはホモでもいいですわゾ~な展開がちょっとだけあるらしい。
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その頃、俺と琉希ちゃんは教会への侵入に成功していた。
正面から堂々入るのはまずいので、裏口の扉をアックスでこじ開けてやった。
どうやら護衛はいないようで、先ほどから誰一人として遭遇しない。
まぁそれはそれで好都合だ。
「静かだな……」
「貴方が喋らなければ」
「酷いっすね」
この子は俺が嫌いなんだろうか。
確かに目の前でいちゃいちゃしたり変な事言ったりもしたが、そこまで強く当たらなくてもいいじゃないの。
ちょっとだけしょげながら、先に進む。
と、その時。
「いやぁあああああああああああ」
突然、上の階から女性の悲鳴が聞こえてきた。
二人で一瞬びくっとなりながらも、足を動かす。
どうやら一番上の階から聞こえてきたようだ。