深夜、nのフィールド。
ようやく翠星石がおとなしくなり、雪華綺晶に頼んで帰ってもらう事に成功した。
雪華綺晶曰く、nのフィールドへは俺の部屋の大きな鏡を通って来たのだという。
帰りもnのフィールドの出口から鏡を経由する・・・・・・という事なのだが、現代社会に生きる身としては今一実感が湧かない。
なんだよ鏡を通っていくって・・・・・・どこでもドアみたいだな。
ちなみに、nのフィールド内での人間はいわゆる精神体のようなもので、フィールド内にいる時は、実際の身体は寝ているような状態にあるという。
nのフィールドで負ったりした傷は現実にも反映されるようで、きっと帰ったら服が血まみれになっているだろう。
貴重なパーカーが一着ゴミと化したわけだ。
なお、nのフィールドはローゼンメイデンでなければ行き来できないようで、閉じ込められた場合は植物状態・・・・・・最悪、死亡と同義にされてしまう。
なんてところに連れて来たんだ(憤慨)
「さぁ、こちらですわ」
雪華綺晶が大きな鏡の前で手招きをする。
どうやらここが出口らしい。
「やっと帰れるのか・・・・・・」
なんだか今日は疲れた。
そりゃああんだけ走ったり吹き飛ばされたり養分にされかけたりすれば疲れるし、むしろ生きてる方がラッキーだ。
それじゃあ鏡を通って帰るとしよう・・・・・・あ、そうだ。
俺は鏡を通らずに雪華綺晶を見つめる。
彼女はにっこりとして首を傾げており、その仕草が可愛い。ほんと抱きしめたい。
じゃなくてだ、これから雪華綺晶はどうしようか。
仮にも俺はローゼンメイデンのマスターになることを受け入れはしたが、日常生活で人形と楽しく喋っているところを見られたら精神病院に連れてかれてしまう。
河原君、病室へ戻ろう!なんて礼に言われるのはごめんだ。
「あー、雪華綺晶。契約しといて何だが、これからの生活について考えたか?」
「???仰っている意味が分かりかねますが・・・・・・」
「つまりだ、家族に君が動いているところを見られると、あれだ、ヤバいんだ」
その言葉に雪華綺晶は更に首を傾げて見せた。
可愛いのはわかったからちょっとは理解してくれよな~頼むよ~。
「えっと、動く人形なんて普通の人間が見たら驚くだろ。それじゃなくても二十歳の男が人形と会話してたら俺は精神病院か間違って刑務所に入れられちまう」
「え・・・・・・マスターは私といるのが嫌なの?どうして?」
急に雪華綺晶が泣き出しそうな顔で俺に訴えてくる。
これはまずい、一歩間違えたらまた拘束されて養分にされかねん。
違うんだよ雪華綺晶、ここで大事なのは俺が日常の生活を送れるか否かなんだよ。
俺は彼女を抱っこして自分のおでこと雪華綺晶のおでこを合わせる。
ふわっとしたいい匂いがするし世界一と言っても過言ではない整った顔が目の前にあって正直たまらねぇが我慢する。
雪華綺晶は驚いた顔で左目を見開く。
その表情が愛しくてたまらない。
出逢って数時間足らずでここまで情が湧くとは、ローゼンもいい仕事をする。
「いいか雪華綺晶、嫌だったらこうして助けてないだろ。それに言ったろ?孤独にしないって」
うるうると目を潤わせる雪華綺晶は頷く。
その涙をぺろぺろして飲みたい(ド変態)
「・・・・・・仕方ない。弟にはなんとか説得してみるよ。さ、家に帰ろう」
最後は俺が折れた。
リアリストな礼にはなんて言われるか分からないが、俺の弟だから何とかなるだろう。
あいつを信じよう。
俺の許しを聞いた雪華綺晶の顔が、ひまわりみたいに晴れる。
あまりにもかわいくて明るいその笑顔は、雪華綺晶という冷たいイメージを持つ名前からはかけ離れているようにも感じた。
「マスター・・・・・・やっぱり、私あなたを選んで良かった」
突然目の前でそんな事を言い出すもんだから思わず俺は照れてしまう。
大胆な告白は女の子の特権だ。
「なんだなんだよぉ、お前俺に興味あんのか~?デュフフ・・・・・・んッ!!??」
「ん・・・・・・」
突然、雪華綺晶の顔が迫り、俺の唇に柔らかいものが押し付けられた。
彼女の唇だった。
生まれてこの方恋愛なんて二次元に対する片思いしかしてこなかった俺にとって、一日で何回も相手からされることなんてありえなかったから、思わず目を見開いて硬直してしまう。
瞳に映るのは目を瞑ってこちらに情熱を傾ける一人の
彼女の白い頬は赤く染まっていて、妙にこちらを煽ってきた。
諸君らには悪いが、俺どうやらリア充になったっぽい~(YUDT)
「ぷはっ・・・・・・」
どこぞの巫女がでかい湯呑でお茶を飲むよりも綺麗な音を立てて、雪華綺晶は唇を放した。
彼女が息を荒げて、俺の唇との間に糸を引かせている姿はセクシー・・・・・・エロイっ!
こんな感じでふざけているものの、俺は心臓の鼓動が破れそうなほど早い。
ドッキドッキ・・・・・・
「ちょ、雪華綺晶!?何してんすか!」
「暴れないで・・・・・・暴れないで・・・・・・」
「まずいですよ!」
お約束の台詞とともに雪華綺晶は再度迫ろうとする。
このままじゃ人形と一線を越えてしまいそうだ。
俺はほっぺに手を当ててくる雪華綺晶をむりやり引き剥がし、脇に抱える。
「あら、意外と臆病ですね?」
「う、うるさいんじゃい!」
俺は恥ずかしさのあまり噛みながら、鏡に向けて走り出す。
今はとにかく家へ帰ろう。
でないと、俺の股間に入った45口径ピストルが暴発してしまいそうだ。