チェルシーside
標的の一人であるボルスの暗殺に成功した。
その最期は、敵である私の心を締めつける程だった。普通のターゲットは、仕事として、感情を押し殺してこなせる。しかし、裏のお仕事同士の対決はおぞましかった。
「あ、チェルシーちゃん。……うん、元気そうだね。お疲れさまー」
ボルスの遺体がある場所から数キロ走ると、辺りを見張っていたラバと出会った。
にしても、普段のおちゃらけた雰囲気なんかそこにはなく、ちょっとだけ違和感を感じてしまう。
「あら、ラバ。結界に異常はないかしら?」
「ああ、今んとこはな。チェルシーちゃんは、これからどうすんの?」
そうね、と呟く。
クロメの骸人形も、ナイトレイドメンバーの活躍により数が大分減った。更に、標的の一人であるボルスも倒した。
状況は完全に優勢だし…。
「私はこのままクロメを追い、エスデス達と合流前に仕留める」
「……流石に危険だぜ?ここで無理するキャラじゃないだろ!皆と合流しよう!」
「それじゃ遅い」
確かに危険かもしれない。けど…
「ここでクロメを逃したら新たな人形8体揃えて襲ってくるよ?そっちの方が危険でしょ!だからラバは戻ってこのことを皆に伝えて。で、改めて戦闘タイプの援軍を二人ほど派遣して」
それがコウタロウだったら……なんて考えてしまうあたり、私もまだまだ若いんだな、と思ってしまう。実際、成人超えたばかりなんだけど……。
ラバは、私の話に納得したのか、援軍を向かわせると言い走って行った。
『……流石に危険だぜ?ここで無理するキャラじゃないだろ!皆と合流しよう!』
さっきのラバのセリフが浮かんでくる。
確かに…なんか甘くなってきてるなぁ、私。
顔を軽く叩いて気合いを入れ直す。
流石にこんな甘ったるい気持ちで任務に行くわけにはいかない。
大仕事2発目……!張り切っていってみましょうか‼︎
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「あ……!やっぱりクロメちゃん!無事だったんだね!良かったーっ!」
私はさっき倒したボルスに変身して、切り株に腰掛けクッキーを口に運んでいるクロメに話しかける。話しかけられたクロメは、私、つまりボルスの姿を見て唖然の表情だ。
だけど、こんな間抜けな顔をしていても、隙なんかどこにも無かった。
「そういうボルスさんこそ…大爆発だったのに」
クロメの問いを、適当な理由をつけて流す。
コウタロウから聞いてたイェーガーズ各メンバーの口調や性格…。諸々問題はないみたいだね……。八房も解除されてる。
隙は大分できてきたけど、まだ仕掛けない。
コウタロウの情報では、クロメはドーピングを行っている……。それも、マインの長距離射撃を躱す程の。
そんなバケモノなんか勝ってこない。けど、どんな生物にも、急所はある。避ける隙を与えず、そこを一突きで、完璧に決めればいくらドーピングをしているクロメでも倒せるはず。
それまで、念を入れてもっと決定的な隙ができるまで待つ……‼︎
数分ほど歩く。
私の横を歩くクロメは、荒い息を吐いている。
本来ならチャンスなんだけど、それでも得体の知れない不気味さを感じる…。
決定的な隙が出来ないし、やっぱりコウタロウの忠告通り、何もしないで逃げようかな…。
「…うっ!」
クロメが不意に倒れる。
「だ…大丈夫クロメちゃん‼︎」
来た‼︎
決定的…とは言えないけど、それでも、今日一番の隙だ。恐らく、もうこれしかチャンスはない。
「……へーき。お菓子を食べれば治るから」
そう言い、クロメは弱々しい手で、袋からクスリ入りのクッキーを口に運ぶ。
「苦しそう…可哀想に」
ポケットからゆっくりと針を取り出す。
「そうだ!楽になるおまじないをしてあげるね!」
クロメの首裏の急所に、いつもと同じ感覚で手にある針を突き刺す。
あっけらかんとしているクロメは、糸が切れた人形のように、地面に崩れた。
「ほら…これでもう苦しまない。さよなら」
ボルスの変身を解き、いざズラをかろうとする。
呆気なかった。コウタロウはあんなに忠告して来たけど、やっぱりこの距離じゃ躱しようがないもの。それに急所も突いた。
「標的二人とも…暗殺終了」
最期にクロメが発した言葉は、『お姉ちゃん』だった。アカメちゃんはクロメとの因縁があるかもしれないけど、私も仕事だしね。それは割きらないと。
帝国の汚い闇を見て、虚無感で魂が死にかけていた私。その時、このガイアファンデーションと出会った。それで悪政太守を殺すと、
『私は世直しをした』
そう実感した。朽ちかけていた魂が蘇った。
革命軍に加入すると、もっと闇をみることになった。けど、標的を殺すたびにまた実感する。その繰り返しだった。
別に不満がある訳じゃないけど、人殺し以外にしたいことだってあった。料理、買い物、それと、恋。
やろうと思えば出来たけど、私は人殺しだ。いくら世直しのためと言えど、それは変わらない。そんな人殺しに、恋なんてものはあり得なかった。
そんな時、コウタロウと出会った。
最初は、陽気で明るいバカなんて思っていたけど、とても優しくて、……私が汚れ役を被っているのを見抜いて、相談にのってくれたしりした。…恥ずかしいけど、コウタロウの事を好きになっていた。
そこからは、闇に沈んだ帝都と血以外、何もかもがカラフルになった。
料理、買い物、それに恋。
コウタロウと出会って、全て叶った。
けど、コウタロウのことを好きなのは、レオーネも同じだった。
私がナイトレイドに来る前からの付き合いで、私より親密だ。正直羨ましかった。自然にコウタロウとスキンシップをとるレオーネが。
けど、私はこの重大な任務を遂行した。自分でもよくやったと思っているし、体ももうクタクタだ。
(コウタロウ、褒めてくれるかな……)
ラバに、いろいろ理由をつけて来たけど、クロメを始末しに来たのは、コウタロウに褒めて貰いたかったから。
私は来た道を引き返そうとする。はやく拠点に戻らなきゃ。
「ねぇ…」
どす黒い殺気。
思わず振り返ると、そこには八房を構えたクロメが立っていた。
「確かに急所をえぐったはず…‼︎」
「無駄だよ?私を殺す気なら…心臓を潰すとか、首を切り離すくらいはしないとダメみたいだよ」
これが、クロメ?
侮っていた。油断していた。慢心していた。
後悔が溢れ出てくるけど、今は逃げるのが先決。
地面に思いっきり煙幕玉を叩きつける。クロメが咳き込んでいる間に、私は全速力で駆け出す。
とりあえずは、変身して逃げ延びる‼︎
ガイアファンデーションを開けようとすると、銃声と共に、左手に激痛が走る。
「く……そっ……」
銃弾が私の左手の甲を貫通して、あまりの痛さにガイアファンデーションを落としてしまう。
けど、それを拾ってる暇はない。後ろからはクロメの人形達が追ってきている。
やっとの想いで森を抜ける。既にスタミナはきれていて、肺と左手が痛い。それに、明らかにペースが落ちてきている。
「⁉︎」
骸人形の一体が、私の前に現れる。ソイツが手に持つ薙刀の横薙ぎで、私の右腕が宙を舞う。束の間、腹部に熱い痛みを感じる。
口から血を噴き出し、バランスを崩して倒れる。
(……やっぱり、コウタロウの言うこと、ちゃんと守っとくんだったな)
剣を持った人形が、仰向けに倒れている私の首を掴む。
レオーネが、『コウタロウが好きな人は居ない』って言っていたけど、私は分かっていた。
コウタロウは、レオーネのことが好きだって。二人を見てれば嫌でも分かった。その間に入って行ったのは、完全な部外者は、私だったって。
(……けど)
私だって、コウタロウが好きだった。
誰になんて言われようと、コウタロウが好きだった。
もう、コウタロウと話すことも出来ない。コウタロウは、私が死んだら、悲しんでくれるのかな?それとも、呆れられちゃうのかな。
ごめんね?お姉さんぶって、約束破ってまでいいとこ見せようとして。その結果がコレだよ。
もう、コウタロウのことは諦める。
今から死ぬ私が好きでいても、何の意味もない。だから、今からはコウタロウとレオーネを応援するだけ。
鈍い光を放つ刃が、私の首に押し付けられるまで、ほんの僅か。
(……今までありがとう、コウタロウ)
涙が頬を伝いながら、私はゆっくりと目を瞑った。
突如、耳に入ってくる轟音。
何事かと閉じた目を開く。視界に居た骸人形が、横から突っ込んできたナニカによって私の上から居なくなる。
その突っ込んできたモノを見るため、首を右にゆっくりと動かす。
「……う、そ?」
なんで、ここに居るの?
『…遅れてすみません、チェルシーさん……。ちょっとだけ…待っててください』
仮面で顔が見えなくても、分かる。はっきりと分かる。
コウタロウの声だ。とても、安心する。けど、いつもより低い。
でも、こんなタイミングで助けに来られたら……諦めるのも、諦めきれないよ…。
「…コウ、タロォ……」
『来いよ屍体共……。焼き尽くしてやる』
いや、あの、本当に申し訳ないんですが、次の更新は月末になりそうです……。
期末テストの勉強をしないといけないので……。
もしかしたら、近日中にもう一話だけ更新するかも…。
本当、なんでこんなタイミングで……。
そしてコウタロウ、超激おこ‼︎