アジトに帰還して数日後、アニキはタツミに告げる。
「タツミ、もうそのインクルシオはお前のモンだ」
「な、なに言ってんだよアニキッ‼︎もう戦いは終わったんだよ!だからコレはアニキに返すって‼︎」
インクルシオの剣を突き出し必死に抗議するタツミ。
「インクルシオがお前を選んだんだよ。お前が装着した時に、ソイツも進化したんだ。だから俺はもうインクルシオを装着できねぇんだ」
「そんな……」
「そう辛気臭せぇツラすんなって!ほれ、この斧なんて使いやすそうだしよ‼︎」
完全に強がりだ。
いくつもの修羅場を共に潜り抜けた相棒とも呼ぶべき帝具をそう簡単に渡せるワケがない。きっと、いろいろな葛藤があったのだろう。タツミも薄っすらだが気づき顔を顰める。
「俺はこれから革命軍本部に行ってイエヤスを鍛えてくるぜ。教育係りってヤツだな。」
インクルシオは透明化のできる鎧型の帝具で、指名手配されているアニキはそれがないと動き辛い。それなら、革命軍本部で優秀な人材の育成に専念するということだ。
アニキの後ろには、ボスとチョウリ、スピアが荷物を背負い立っていた。ボスの義手にはアニキの荷物が握られている。
「一生会えなくなるってワケじゃない。革命実行の時にまた会おうぜ」
「……ああっ!イエヤスによろしく頼むぜ、アニキッ‼︎」
「おうっ‼︎」
そして最後にアニキの抱擁によって、完全にタツミの涙腺は崩壊した。俺はこの場の空気に耐え切れず、最初から泣いていたけど。
「あのっ!コウタロウさんッ‼︎」
スピアに呼ばれ俺は体を震わせる。
「ど、どうしたの?」
「…また、近いうちに遊びに来てもいいですか?」
こちらの顔を覗き込むような上目遣いで頬を染める。うん。OK。と言うか残ってて貰いたいのだが、スピアを危険に晒したくはない。でも、遊びに来るくらいなら……いいよね?
「うん!俺、待ってるよ‼︎」
俺の返事に目を大きく見開かせ、そして今度は綺麗な笑顔でスピアは答える。
「はいっ!なら今度、私にお料理教えてくださいね‼︎」
スピアは、さよならとは言わずアジトを後にした。それを見送る俺達に、今日の夕日が優しく微笑んだ。
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一週間後、俺とタツミは帝都の街に出ていた。
これから行く場所は『BOOKNight』という店。実はこの店はラバックが経営している貸本屋で、帝都での隠れ家として利用している。と言いつつ、実際に来るのはこれが初めてだが。
「よぉ!」
「おぅ」
互いに軽く会釈を済ませ、ラバックの先導で店の奥へと導かれる。スタッフ専用の扉を進み、地下室への階段を覆う蓋を開ける。
「うわ〜、本格的だね〜」
「だろ?俺の自慢だ」
「お前が作ったんじゃないだろ…」
ふざけあいながら階段を降りていく。
「やっほー♡帝都の隠れ家へ♡」
地下室へ出ると、ソファでベロンベロンに酔っている姐さんがいた。真昼間から3本も開けちゃって…姐さんらしいな。
「街はイェーガーズの話題で持ちきりだったぜ…」
エスデスか……。
この間、姐さんがエスデス将軍の偵察に行ってきたが本当に心配していた。原作では獣の勘により引き返せたが、分かっていても怖いのだ。
恐らく俺でも勝てない。ナイトレイド全員でかかっても、勝率は半分にも満たない。はっきり言ってバケモノだ。どうせタツミが気に入られるが、別に羨ましかったりはしない。だって怖いもん…。
「明日、エスデス主催都民武芸試合があるんだけどよ、お前ら出てみろよ」
ラバックがポスターを広げ俺達に見せる。
絶対出たくない。もう本当に嫌な予感しかしない。
「いや、俺はやめとくよ。タツミ、応援してるよ!」
まぁ、どうせタツミが生贄になってくれるけど面倒くさいってのもあるしな。イェーガーズとも絡みたくないし。
「えー、コウタロウが優勝したらお姐さん、ご褒美あげようと思ってたのにな〜」
「んじゃ、俺は明日に向けて寝るよ。おやすみ〜」
「「切り替えはやっ‼︎」」
……ご褒美には勝てない。
スピアちゃんが可愛い過ぎてツラい…。
そして、遂にお気に入りが100件突破いたしました。記念に番外編を書こうと思っています。内容は本編と全然関係ない一発ネタです。
皆様、本当にありがとうございます‼︎
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