Another side【ネメシスエイト】   作:星々

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last file「情熱の薔薇」

対峙する2機のネメシスタイプ。

ナンバリング機、正統機と言えるこの2機。

後にも先にも、ナンバリング機同士の戦闘はこれが唯一の例である。

それ故、本格的な戦闘が展開された場合の被害規模の予想がつかなかった。

さらに言えば、無重力下戦闘も例がない。

とは言え、辛うじて生きていた予備装置が、申し訳程度の微重力を展開していた。

 

「もう互いに正体を隠す必要はないわね。」

 

E2がそう言うが、コード・シーは答える気がない。

 

「あっそ。」

 

E2は諦めるように無表情のため息をつくと、双剣を構えた。

しかしこれでもコード・シーは動じず、ギガンティックアサルトを地面に下ろして棒立ち状態だ。

辛うじて生きている微重力程度の人工重力がギガンティックアサルトを地面に引き寄せる。

 

「できれば戦いたくはないんだけどなー。そういう訳にはいかない、よね?」

 

コード・シーは、名前は出さないが口調ではその正体を既に隠す気は無くなっていた。

コード・シー本人、隠すことに飽きたのか、それとも何か狙いがあるのか、それは定かではない。

 

「私も、色々と聞きたいことがあるから、殺したくはないのよ。ここで大人しく投降してくれると助かるわ。」

「怪盗に投降という選択肢は、ないよ…!」

 

一瞬の出来事だった。

E2の視界からネメシスアークが消えた。

それを追うように、警告音が鳴り響いた。

ネメシスⅨの脇腹が貫かれたのだ。

 

「若くなったのは、身体だけだね。」

 

冷たい声が聞こえた。

E2がコックピット内で振り向くと、全天周モニターの背中側に、赤いネメシスが立っていた。

その右手にはギガンティックアサルト、左手には槍が握られていた。

 

「いつの間に…!?」

 

驚くE2。

しかし、更に彼女を驚かせる事が起きた。

 

「損傷…拡大!? どうなってるの!?」

 

次々に表示される損傷箇所。

先ほどの一閃で同時に攻撃されたものだと理解するのに、そう時間はかからなかった。

 

「その機体の弱点は各部の排熱フィン。それを潰せば排熱が間に合わずに熱暴走を起こし、起動すらできなくなる。」

 

その通りになった。

ネメシスⅨが両膝をついて眼を閉じた。

 

「その機体を選んだのが間違いだったね。」

 

それだけ言い残し、ネメシスアークは高速移動形態に変形した。

粒子排出の独特の音が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コード・シーのショータイムは、幕を閉じようとしていた。

そんな時、それを妨げる者が現れた。

情熱に満ち溢れた者。

その者の名、バラ・ドリム。

彼女は微重力の大地を疾走していた。

彼女の愛機に乗って。

その姿を、コード・シーは背後に捉えた。

 

「あの子は…なるほど、しつこいね。」

 

背面の映像を前面に別窓で表示する。

そこには、中型バイクにまたがるネメシスアークのパイロットの姿が。

彼女の愛機、H-2000ヘカテーにまたがる、バラ・ドリムの姿が。

彼女が持つ技術を余すとこなく駆使し、背中に黒い筒を背負ってフルスロットルで疾走する。

そしてバラは、グリップから手を離し、黒い筒を肩に乗せた。

微重力下での手放し運転で、的確にネメシスアークの後ろを取る。

 

「もう迷わない…私は……!」

 

女性が持つには大きいその筒、"対AD砲"の狙いを定める。

そして間髪入れず、引き金を引いた。

反動で前輪が持ち上がるが、バラの神懸かり的な運転技術はその程度でバランスを崩すほど柔ではない。

コード・シーは余裕を持って回避行動を取る。

しかし、だ。

バラはそれすらも予測した砲撃を行っていた。

もはや勘に近い予測射撃が、ネメシスアークを襲う。

見事命中。

しかし大した損傷にはなっていない。

バラはそれを確認すると、次弾を装填する。

 

「バイクでネメシスアークに追いつけるとでも…?」

 

嘲笑うように呟いたコード・シー。

 

「アイツなら追いつくさ。」

 

男の声がしたと思えば、ネメシスアークが地面に叩きつけられた。

だが、それで動きを止めるほど、コード・シーは未熟ではない。

すぐさま急速変形し、槍でひと突き。

それを紙一重で回避しながらネメシスアークの動きを封じようと掴みかかる。

 

「レーゲン隊長!」

「俺が動きを止める、推進器を狙え!」

 

機動兵器同士の戦いとしてはあまりに古典的につかみ合い。

そんな混戦の中、バラはヘカテーを停めて、対AD砲を構えた。

 

「邪魔をして!」

「当然だ!」

 

必死に取り掛かるレーゲンだったが、熟練パイロットである彼を、コード・シーは凌駕していた。

蹴飛ばされて再び飛びかかるテンペストアクセルに、その胸部に槍を立てた。

ビームの刃がそれを貫く。

 

「今だ、撃て!」

「隊長!」

 

若干コックピットを外したその槍が、徐々にコックピット側へ移動する。

 

「生きろ、バラ・ドリム‼︎」

 

数秒後、胸部で真っ二つにされたテンペストアクセルが、地面に落ちた。

レーゲン・シュペルヴェン重傷。

後の話だが、彼はパイロットとしては再起不能だろうと言われた。

しかし、彼の行いが、コード・シーにわずかな隙を作った。

 

「うおぉおぉぉおおおお‼︎」

 

バラの叫びと共に、弾頭が吐き出された。

それは一直線に、ネメシスアークの翼へ喰らい付く。

そして命中。

今度は推進器を正確に狙った。

 

「左手推進システム異常…やるね…!」

 

しかしそれでも、コード・シーは止まらなかった。

推進力のバランスが崩れても、速度は落ちたが飛行を実現する操縦技術を、コード・シーは有していた。

だとしても、バラは諦めることをしなかった。

 

「逃がさない!」

 

予備弾を使い果たした対AD砲を投げ捨て、再びヘカテーが吠えた。

瞬間的に最大速まで加速し、ネメシスアークの尻尾に噛み付かんとしていた。

しかし、対AD砲は無い。

攻撃手段は無い。

それでもバラは追いかけた。

もしここで、コード・シーがギガンティックアサルトを手放していたのなら、バラはすぐに突き放されていただろう。

更に、もしコード・シーが人工重力装置を完全に破壊していれば、バラがヘカテーで追ってくることも、ギガンティックを抱えたことによるバランスの崩れも無かっただろう。

しかしコード・シーには特別な思い入れがあったのだが、それはここで語ることではない。

 

(どうすれば……)

 

バラは必死に考えた。

今彼女に出来ることは限られていた。

そしてそれが何なのかは、彼女も気付いていた。

だが、中々行動に移せずにいた。

 

(でも…やるしか、ないよね…)

 

「ヘカテー、ごめん!」

 

バラは辛そうな表情を浮かべると、近場の建物の残骸に飛び乗った。

坂になっているそれを最大速で登る。

そして、思い切りジャンプした。

 

「いっけぇぇええええ‼︎」

 

バラは宙返りすると、ヘカテーから手を離し、愛機を蹴り飛ばした。

ヘカテーは縦回転をしながら飛んでいく、質量兵器と化した。

愛したバイクとの別れに、涙を浮かべるバラ。

そしてヘカテーは、ネメシスアークの右推進器にめり込み、爆発した。

 

 

 

 

 

その後のことを、バラは知らない。

 

 

 

 

 

勢い余ってフロンティアの重力圏から投げ出された彼女は、無重力と慣性に身を任せ、闇の広がる星空に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言うと、怪盗コード・シーはネメシスアーク及びギガンティックアサルトの奪取に成功した。

フロンティア基地はその失態を問われはしたが、3A計画自体が表沙汰に出来ることではなく、また有能な人材であるのも事実だったため、何事も無かったかのように地球に戻された。

ただ一人を除いて。

前述の事情を言い訳に、軍はバラ・ドリムの捜索をしようとしなかった。

それに反発したレーゲン・シュペルヴェン中尉とイクス・ナッハフォルグ軍曹は軍を離反。

フロンティア隊は散り散りになった。

 

 

そして彼女が生きた証として、このファイルが、数年後ある少年に届けられた。

また機会があれば、そのことについて記せるかもしれないが、今は事件ごと闇に葬られたバラ・ドリム准尉の勇姿を、後世に伝えたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--- Y.V. 親愛なるバラ・ドリムに捧げる ---




どうも星々です

なんだろ、鬱エンド…なのかな、これ
個人的にバラ・ドリムっていうキャラが好きなんで、なんか悲しくなってきますよね(自分で書いといて)
実はレーゲンも戦死するシナリオ構成だったんですが、バラを際立たせるために重傷でとどめました

あと最後の意味深な一行
あれは作品にデータファイル感出したかっただけなんであんまり気にしないでください

と、まぁ
こちらの作品はこれで完結ですね
予定ではここでネメシスⅨの元ネタ集書くつもりだったんですが、そんな空気じゃないんでね、またの機会に


では、本編の方でまた会いましょうノシ


--- バラ・ドリムに敬意を表して ---

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