ヒデュンの猛攻が始まった。
今まで手を抜いていたのかと驚かされるほどに、その動きは凶暴になっていた。
防戦一方のネメシスアーク。
その時、バラはある事に気付いた。
そしてある策に出た。
「応えてくれるか…一か八かやってみるしかない。」
バラはおもむろにシートの横からスイッチを引き出した。
それを右手に握り、通信回線を開いた。
(ヤツはこの機体に直接ダメージを与えてこなかった…)
(確か、「頂戴する」とか言ってたから、ネメシスアークを傷つけたくないはず…!)
接触回線を利用した映像通信。
鍔迫り合い状態のネメシスアークとヒデュンを繋げた。
意外なことに、ヒデュンのパイロット、コード・シーは、すぐに通信に応じた。
バラの前に映し出されたのは、仮面を被った姿。
口元だけでは性別の判断が難しい中性的な顔立ちだ。
『降参かな?』
コード・シーの余裕ある笑みに、バラは右手に握ったそれを見せつけるように突き出した。
『まさか…!?』
コード・シーの表情が変わった。
このスイッチの意味を、コード・シーは瞬時に察したのだ。
それを確認すると、バラはスイッチにかける指に力を込めた。
それを意味することに気付いたコード・シーは焦りを隠せない。
「今、自爆スイッチを押しました。私がこれを離したらこの機体は自爆します!」
『正気なの⁉︎』
なるほど、女か、とバラは思った。
わざわざ作っていた口調を忘れる程のこの焦り様、どうやら効果は抜群だったようだ。
この手法は、まだ地球にいた頃に就いた、あるテロリストの弾圧任務の時にやられた手だった。
自爆スイッチに指をかけ、それを離した瞬間に爆発する。
無理やり拘束しようにもスイッチから指を離されては意味がなくなるし、射殺したらしたで指の力が抜けて爆発。
命運は終始スイッチを握る者が支配している状態だ。
この場合、襲う側は下手な動きが一切できず、また応援が来ても、もとからそばにいる者を人質としているのと同意であるため、突入も迂闊にはできない。
つまり、スイッチを握る者はこの場で一番自由に行動できるということだ。
「ネメシスアークに搭載されているのは粒子爆発式自爆装置です。起動すればその強固な装甲でも耐えられないでしょう。」
『確かに、仰る通りです。』
粒子爆発式自爆装置。
それはイミュー粒子を限界まで圧縮し、それを解き放つ爆破装置。
その原理は、あのゴーストが自爆する時のものと同じである。
「さぁ、武装を解除しなさい。」
『………ッ!』
緊迫した時間が流れる。
『…ッ 仕方ない…その機体から降りて、スイッチを離してください。怪盗は硬直状態と相手に死なれるのが大嫌いなのでね。』
コード・シーはそう言って、ヒデュンに両手を挙げさせた。
双剣を地面に捨て、もう攻撃はしない、という意思表示だ。
「…!? りょ、了解した。ただし、少しでも動いたらその瞬間爆破するわ。」
『仰せの通りに。』
ネメシスアークのコックピットが開いた。
そこにはスイッチを握ったバラが、立つ。
(頭の切れる
コード・シーがそう呟いた。
『少し、手間取ってしまいましたがね!』
状況は急変する。
バラがワイヤーで地上に降りた時だった。
ヒデュンが、棒立ちのネメシスアークに飛びかかったのだ。
「目の前の宝に目が眩んだか!」
『違うね!』
バラはスイッチから手を離した。
ネメシスアークの全身から光が漏れ出した。
その光は、フロンティアを眩く照らす。
発光するネメシスアークに覆い被さるヒデュン。
『アーマーユニットパージ! システムコード、
ヒデュンに変化が。
各部の装甲が浮き、裂け目が広がっていく。
ウイングバインダーの外装も剥がれ、破られた殻は地面に落ちる。
フェイスを覆うカメラバイザーがスライドする。
そして現れた、2つの
重厚な殻を破り出てきたのは、しなやかな手脚。
それは、正しく
「ネメシス………!?」
ヒデュンはその蓑を破り、真の姿、"ネメシスⅨ"へと変貌した。
『
ネメシスⅨの体からも、光が放たれた。
と同時に、アークの自爆シークエンスが終了、爆破を告げる電子音が鳴る。
閃光が走った。
衝撃波が広がり、木々を、建物をなぎ倒す。
衝撃と眩しさに手で顔を覆うバラ。
しかし、爆発音だけが一向に聞こえてこない。
「何が…起きて……!?」
ようやく慣れた目でバラが目にしたのは、
膝をつくネメシスⅨと、その横で飛び立とうとする飛行形態のネメシスアーク。
確かに彼女は自爆スイッチを押し、自爆装置を起動させた。
システムも自爆シークエンスを完遂し、確かに爆発はしたはずだった。
「何で……」
数秒後。
ネメシスⅨの背中から、大量のイミュー粒子が放出された。
それは轟音を伴い、フロンティアの天井を突き破った。
それはまるで、光の斜塔。
ネメシスⅨは、解放されたネメシスアークの圧縮粒子を自らの身体に流し込み、そのベクトルをコントロールしたのだ。
『約束通り、この
「そんな………」
コード・シーは、ネメシスアークで飛び立って行った。
しかし、それを拒むように、青いIADが立ちはだかった。
その機体、テンペストアクセル。
「これより先には通さない。」
「少し手際が悪かったようですわね?」
地上にはギガンティックアサルトも駆けつけた。
空と地、この2方から挟まれた、コード・シー駆るネメシスアーク。
レーゲンとイクスが、先ほどのネメシスアーク自爆の光で異変に気付いたのだ。
そしてもう一人、コード・シーを捕らえるために出てきた。
「まさかネメシスⅨを建造し、それを操縦してくるとは。相当な技術力を有しているようですね。」
『E2…か。そちらの技術者の方々も、ある程度DNA適合をコントロール可能にしたのは感心しましたよ。』
一見幼いその身体つきとは裏腹に、大人びた声と口調の持ち主であるフロンティア基地司令官、E2。
彼女は軽装甲車の上に立ち、トランシーバーを口元にあてる。
「あなたの正体は判っています。直ちに投降しなさい、フィルs」
『それには及びませんよ
ネメシスアークがお辞儀の仕草をした。
それはまるで、スケートリンクに立ちショー開始の挨拶をするスケーター。
しかしそのネメシスアークの眼には、獣のような鋭さが滲み出ていた。
「クッ…! イクス軍曹、逃げなさい‼︎」
「な、何故です!? 敵は目の前に…」
「あなたじゃ
ネメシスアークが動いた。
背中から抜いた槍は、その鋭い矛先を地上に向けた。
『そう! なんたって私は、"伝説の騎士様"ですから‼︎』
一瞬の出来事だった。
ギガンティックアサルトのメインカメラが貫かれ、重い胴体を支える脚がもがれた。
ただし、それは動きを封じることだけを目的としたものだ。
「メインカメラがなくても!」
『その機体であまり上を見ない方がいいよ。銃口に何か入ったら
そう言ってギガンティックアサルトの背後に回り込む。
目を奪われたギガンティックアサルトは、狙いも定めずビーム砲を撃とうとする。
コード・シーは華麗とも取れる操縦技術でギガンティックアサルトを器用に持ち上げ、銃口を地面に突き刺した。
そして放たれるビーム。
土煙が上がり、誰もが周囲を見ることができなくなった。
それだけではない。
いままで正常に作動していた人工重力も消失していた。
コード・シーは人工重力装置のコアに当たるように、ギガンティックアサルトの角度を調節したのだ。
『確か、この辺。』
無重力状態になって漂う土煙の中、ギガンティックアサルトの脇腹を殴った。
すると、自動パイロット保護システムが作動し、脱出ポッドが射出された。
もちろん、その中にはイクスが押し込まれている。
機体を完全に知り尽くしていないとできない戦術だった。
『脱出装置は外さなきゃ。こういう使い方されちゃうよ?』
パイロットがいなくなったギガンティックアサルトは、もはや人形と化した。
その重量も、無重力下では軽々と持てる。
『さぁ、フィナーレですよ。』
「そうはさせない。」
ギガンティックアサルトを担ぐネメシスアークに、1機のIADが突進した。
漂う土煙を突き抜けて現れたのは、白いIAD、ネメシスⅨ。
『あのシステムロックを解いたとは、流石はE2。いや、"カトリーヌ・レイン"。いつの間に人格移植をしたのかは知らないけど、そうやって若さを保つのは哀れだよ。』
「言ってなさい。でも悪い子はお仕置きしなきゃいけないわね。」
元ヴェーガス操舵士、カトリーヌ・レイン。
彼女は姿を変え、今コード・シーの目の前に立ちふさがった。
バラは気を落としていた。
自分は無力だ、と。
「与えられた機体を奪われた…パイロットとして未熟だった……私の、負け…」
頬を伝う涙は、土煙が目に入ったためではない(そもそもヘルメットをしているのでありえない)。
「そこで諦めるのか。」
彼女を励ますように、青い巨人が歩み寄る。
「レーゲン隊長…」
「お前は、その程度じゃないはずだ。まだ戦いは終わってない。命を懸けてでも、あの機体が奪取されるのを防いでみせろ。それが、
バラ、その言葉に励まされたのか、その顔に伝う涙を拭った。
そして、立ち上がる。
どうも星々です
本編よりさきに投稿しました
いろいろペース配分の問題があったんで
そして出てきましたネメシスⅨ
こいつはホントにチートです
あんまり活躍しませんがホントにチートです
またいつか機体設定を紹介できるとは思いますが、ホントにチートです(しつけぇよ)
それと色々懐かしい面々が出てきましたね
その辺にも注目です(ハードルあげました)