Another side【ネメシスエイト】   作:星々

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5th file「電光石火」

揺れは断続的に続いた。

この状況に人々は焦り、パニック状態に陥っていた。

これが数十年前の人々ならば、ここまでパニックになることは無かっただろう。

その理由は、ここ二十年間程、地球に大規模な()()というものが発生していなかったことにある。

ついでに言えば、それによる火山活動も音沙汰なしで、そういった自然的な側面で見れば地球史上最も平和だったと言えるかもしれない。

しかし戦時中の人類にとってこの事実は、意外と気付かないものであった。

否、そんな余裕が無かったのだろう。

日々戦争で多くの血が流れ、社会は戦争を前提に回り始めていた。

それ故、ここフロンティア基地の対応は、軍事基地とは思えないほど遅かった。

 

 

 

 

 

 

 

スクランブルを受けて緊急発進したテンペストアクセル、ギガンティックアサルト、ネメシスアーク。

基地内の混乱の中、やっとのことで出た地上は悲惨な状態だった。

建物は土塊と化し、至る所で炎が叫ぶ。

体験したことのない、自分の立っている場所が揺れるという現象に慌てふためく研究員たちが見えた。

見上げればスペースコロニー・フロンティアの天井(そら)は裂け、全てを飲み込まんとする果てない宇宙が覗いていた。

 

「じきにフロンティアから空気が消える。全員ヘルメットの着用を忘れるな! 人工重力が働いているがコックピットの外はすぐ宇宙だと思え!」

「「了解!」」

「避難中の研究員をあまり刺激するなよ。ただでさえ混乱してるんだからな。」

 

3機はテンペストアクセルを先頭としてデルタ陣形で、司令官であるE2の指示したポイントへ向かう。

そこは宇宙における動植物の実験施設であった。

人の手で形作られた樹海が視界に入った。

 

「被害箇所の推移から推測すると、敵は少数だ。利はこちらにある。」

 

フロンティア隊も少数であるといえば少数だが、たった1機で軍の1部隊を相手できるほどの機体だ。

利はフロンティア隊にあると考えるのが自然だろう。

 

「でもどうやってここまで来たのかしら? 宇宙用のADは開発されてませんのに。」

「考えるのは後よ軍曹。今は敵機の迎撃だけを考えて。」

 

3機は樹海手前に降り立った。

接近に感づいたのか爆発音は止み、敵機らしき影は確認できない。

木々の背の高さから考えて敵機は地面に伏せた状態で隠れていると判断するのが妥当だろう。

そうすると、そう素早くは動けまい。

 

「幸いこの樹海エリアは比較的狭い。エリア全体を3機で包囲するぞ。配置は今から送信する位置情報に従え。」

「「了解…!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

指定ポイントに到達したネメシスアークは、腰からライフルを取り外し臨戦態勢を整えた。

 

「落ち着け私。実戦は何度もやってきてるんだ…」

 

妙な静けさに緊張感が高まる。

恐らく他の2人も同じような心境なのだろうと思いながら、敵機の姿を探す。

その時。

 

「エマージェンシー!?」

 

コックピットに警告音が鳴り響いた。

それとほぼ同時に、地面を抉るように一筋のビームが放たれた。

それはネメシスアークを狙って撃たれたもので、あわや直撃というところだった。

 

「正面…!」

 

ライフルを構えようとしたその時、木々をなぎ倒してそれは現れた。

白い身体を跳ねあがらせ、背中のウイングバインダーからは青い光が漏れている。

神々しいまでに優雅に浮遊するその機体は、いままで目にしたことのないタイプのADだった。

 

「こちらネメシスアーク。敵機を発見しました。応援を!」

 

通信を入れた。

しかし誰からも返事は無かった。

調べてみて気付いたが、どうやらジャミングされているようだ。

それに太陽嵐も加わり、少し離れるだけで通信機器が使用不能になるらしい。

 

「派手に戦闘すれば気付いてくれるかもしれないけど、そしたらフロンティアが崩壊する危険性もある…どうする……」

 

その答えが出る前に、白い機体が動いた。

両手に握った双剣を両サイドに構えた。

いわずもがなそれで斬りかかって来たので、槍を抜く暇もなくバラは咄嗟にライフルで受け止めた。

結果的にライフルは折れ曲がってしまったが何とか機体へのダメージは避けることができた。

 

「あなたは何者ですか。何故こんなところにいるんですか!」

 

質問に返ってきたのはソードの一撃だった。

今度は槍で受けて、そのまま鍔迫り合い状態に持ち込んだ。

 

「目的は何ですか!」

『その機体を…ネメシスを頂戴しに参上いたしました。』

「何ですって!?」

 

純白のその機体に乗るパイロットは丁寧な口調でそう告げる。

どこか挑戦的な口調ともとれるその言葉を言い終わると、その機体は優雅に宙返りをして間合いを取った。

 

『この機体()の名はヒデュン。私はコード・シー。ネメシスに心奪われた怪盗さ。』

 

白い機体、ヒデュンはウイングバインダーから放つ光を一層増すと、それをマントのようになびかせ、両脚を揃えた。

それは決闘前の騎士のよう。

 

「色々と聞きたいことがありますが、投降する気がないなら拘束、もしくは撃墜します。」

『私を捉えられるかな?』

 

挑戦的な口調。

数瞬の硬直の後、2機が同時に動いた。

激しく交わり合う刃と刃は、時折スパークを起こしながら目にも留まらぬ速さで乱舞する。

その重厚な見た目とは相反し、機敏な動きでネメシスアークに猛攻する。

電光石火の連続だった。

しかしそれでも機動力に関してはネメシスアークが大きく上回っている。

 

(いつかできた隙を叩けば勝機はある…パイロットスキルは、悔しいけどあっちのほうが上みたいね…)

 

バラは戦いながらも冷静に状況と相互の特徴を分析できるようになっていた。

これも、レーゲンの教えが活きた証なのかもしれない。

 

(いや、今はいち早くあの2人に気付かせなきゃ)

(ライフルは壊れちゃってて閃光弾代わりに使うこともできないし、だからといってこ密着戦から離脱できるかも危うい……なら…!)

 

バラは左右一対の操縦桿を強く握り直し、一気に手前に引いた。

それに呼応してネメシスアークが宙返りのモーションを取る。

その最中、ちょうど仰向けの状態になったその時、バラは操縦桿のボタンの一つを押した。

 

「ホーミングビーム!‼︎」

 

ニーアーマー上部の発射管から赤いビームが無数に発射された。

それは噴水のように四方八方に放物線を描いたかと思うと、急に軌道を変えてヒデュンを追従した。

この行動には2つの目的があった。

一つは、真上に発射することで閃光弾として利用し、レーゲンとイクスに異常を知らせること。

もう一つは、誘導兵器回避のセオリー、垂直上昇及び直線方向に最大加速、を実行させ、敵を大きく動かすこと。

パイロットスキルが高い者ほど取りやすい行動を読み、それを利用しようと試みたのだ。

しかし、

 

『読めるよ、キミの考え。』

 

そう言ったコード・シー。

彼(或は彼女)はその場を動かなかった。

両手を左右に拡げると、ヒデュンの両手のシールドアーマー先端部分から赤いオーラのような現象が起きた。

 

『放射波動障壁、展開!!』

 

それは波動、それもかなり強力な。

波動は自在に操られ、ヒデュンを護る壁を形成した。

そしてホーミングビームはその波動に侵食され、無効化された。

白い機体は相変わらずそこに立っていた。

心なしか今までよりずっと強い圧迫感を放ちながら。

 

「なんてこと………」

『ヒデュンは鉄壁さ。このアーマーがある限り、ネメシスの固定装備ごときじゃ突破できまい。』

 

本来、あれほどの干渉波を放った場合、その本体もしくはその装甲が融解、崩壊する。

しかしヒデュンはそれに耐えて見せた。

ベクトルが外向きだったとはいえ驚異的である。

 

「鉄壁の装甲と優秀なパイロットスキルね…ちょっと雲行き怪しいかも…」

『さぁて、今度はこっちからいくぞーっ!』

 

ヒデュンは再び双剣を構え、ウイングバインダーから青白い光を放つ。

その姿は2本の牙を剥く白虎の如く、否、もっとずっと可憐であった。

重厚な四肢であるにもかかわらず、それが攻撃だと思うには抵抗があるほどしなやかだった。

しかしその奥に潜む殺気は、青白く燃え上がる粒子に映し出されているように、獲物を睨みつけていた。




どうも星々です

実戦ですよはい!
謎の機体ヒデュンとの戦いは描いててなんか楽しいです
想像して頭のなかで動かしてみてっていうのが、そのイメージがなんか綺麗なんですよね
機体イラストも描いたんでまたどこかの機会にお見せできたらいいなと思っています

そんなこんなで、本編もラストスパートです
今後とも、星々と"ネメシスエイト"をよろしくお願いします!

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