Another side【ネメシスエイト】   作:星々

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4th file「青空」

模擬戦は激戦だった。

互いに一歩も引かず、稀に見るハイレベルな戦いだった。といっても2対1、しかもレーゲンの表情にはまだ余裕がある。

 

『いい攻めだ。しかしまだ足りん!』

「速っ!? きゃあ!」

 

テンペストアクセルが地面を滑るようにしてネメシスアークの懐へ滑り込む。

咄嗟に槍で防ぐもパワー負けして大きく弾かれたネメシスアークと入れ替わるように、ギガンティックアサルトがその巨体を乗り出した。

 

「近距離ならば!」

 

2連装のガトリングを接射しようと左腕を突き出す。

同時に目くらましのスプレーミサイルも放つが、テンペストアクセルには掠りもしなかった。

逆に、ギガンティックアサルトに擬似被弾箇所が増えた。

パイロットのイクスすらも、その瞬間に気付くことができないほどの早業だった。

 

『この機体の最高速度は亜光速まで達する。この程度で捉えられないようじゃ、お前たちは機体を最大限に使いこなしてるとは言えまい!』

 

テンペストアクセルが宙に舞った。

この模擬戦で()()()飛翔した。

 

『第一に、バラ、お前はネメシスの最大の武器であるその機動力を活かしきれていない。その変形機構も使いこなさねば、スペックは引き出せんぞ!』

 

ネメシスアークとテンペストアクセルとの間に大きなスペック差があるわけではない。

それこそほんの僅かな差なのだが、それを十分に使いこなさなければ戦力差は大きくなるばかりだ。

 

『そしてイクス、お前の射撃の精度は高評に値するが、まだ読みが甘い! さらに言えば、ギガンティックアサルトの持ち味である大量のビーム兵装を様々な組み合わせで繰り出さねば、単機で単機なりの仕事が精一杯だ!』

 

圧倒的な物量を誇るギガンティックアサルトの兵装は、単機で一個中隊を相手にできるとも言われている。

その重量に見合わぬ機動力は、ネメシスアークやテンペストアクセルにはやはり及ばないが、量産機程度は凌ぐ。

それだけの決戦兵器をいきなり乗りこなせというのも無理な話だ。

レーゲンもそれくらい承知である。

しかし彼は彼女らに更に上を要求した。

 

『AD乗りに必要なものは、才能でも、技術でもない!』

 

上空から両肩のイミューキャノンを放つ。

実弾だったならフロンティアといえど地面が抉れ地下の基地も丸裸になるほどの威力があるその一撃、バラは常人とは思えない反射で回避した。

 

『一つは、戦うという"勇気"‼︎』

 

ネメシスアークが地面を蹴った。

背中のウイングバインダーから青い光を発しながら飛翔する。

 

『もう一つは、分析という"努力"‼︎』

 

ギガンティックアサルトのビームが広がるように放たれた。

弾幕を背中に、ネメシスアークが槍を構える。

 

『そして!』

 

ギガンティックアサルトの弾幕を盾に取ったネメシスアークは、鮮やかに空を舞った。

後ろにも目があるのかと思うほどにビームの軌跡を分析、理解し、フレンドリー・ファイヤーも怖れずに突貫、否、舞踊する。

 

『未来を"夢見る"ことだ‼︎』

 

ネメシスアークの突撃を正面で受け構えるテンペストアクセル。

一閃が走った。

その時、レーゲンの視界にネメシスアークの姿はなかった。

 

「殺人的な加速ッ! でもこれで、背中はもらいました!」

 

ネメシスアークは、接触直前に急速変形したのだ。

その一瞬の芸当に、今まで背中を許さなかったレーゲンが背後を晒した。

 

テンペストアクセルが振り返ったときには、既に槍を突き出したネメシスアークが。

ホログラムのビームランスがテンペストアクセルの左脇腹を貫いた。

 

『……見事…!』

 

大ダメージだった。

実戦なら致命傷となる一撃だ。

2対1とはいえ天晴れである。

この一撃が、この場の決着の一打となった。

模擬戦はここで終了し、それを告げる通信が入った。

 

『こちらE2。中々いい勝負でした。中尉以下2名、帰投してください。』

「「「了解!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして。

否、正確にはもう少し前の頃。

フロンティア外壁にデブリが取り付いた。

自動防衛システムが、デブリ除けのレーザーガンを向ける。

それが発射されると、奇妙なことにデブリは軌道を変えた。

もう一度狙いなおす防衛システム。

今度は軸合わせも完璧だ。

そして発射。

レーザーは見事、デブリを打ち砕いた。

と同時に、デブリの背後から()()が現れた。

その何かは、デブリの破片に飛び移ると、それを蹴飛ばして一気にレーザーガンとの間合いを詰めた。

自動防衛システムの識別は、この何かを見極められなかった。

宇宙空間でこんな動きをするものを登録されていなかったのだ。

レーザーガンについているカメラが砂嵐に変わる寸前、それは人型の影を残していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰投後、バラは自室の整理を始めていた。

当分ここで暮らすことになるため、せめて部屋くらいは自分好みの空間にと、思い思いのルームメイクをする。

その最中イクスに食事に誘われ、そして今、食堂で昼食を取っている。

といっても、ブリニッジ標準時ではもう15時を回ったあたりの遅い昼食だ。

 

「あら、パンとポトフですか。健康的ですわね。」

 

そう言って自分のプレートを運んでくるイクス。

バラの隣に座った彼女のそれには、如何にも高カロリーなハンバーガーが。

対するバラは、コッペパンとポトフだ。

 

「健康には気を遣わないと。それと軍曹、私は貴女の上官です。少しは気を…」

「いいじゃありませんの? ここは宇宙。孤立した絶海の孤島フロンティアに住んでいる以上、家族のように信頼し合わないと。」

「で、でもここは軍の組織ですよ!」

「そうですか。准尉はこのような堅苦しい礼儀があまりお好きではないと小耳に挟んだのですが、どうやらデマだったようですわね。」

 

なんとなく変な空気になる食堂。

少し離れて食事を取っていたセルシルアも苦笑いである。

 

「ま、まぁ、いいですけど。」

「あら、ではわたくしもイクスでよろしいですわ准尉。」

「ただし、任務中はキチンとしてくださいね。」

「承知しておりますわ。」

 

和解(?)したようで、楽しい食事が再開された。

といっても、内容は世間話。

本当に他愛もないことを長々と話していた。

 

 

その時

 

 

 

轟音と共に大きな揺れが発生した。

地震などありえない。

だとすれば考えられるのは、意図的な爆発や物理的衝撃。

フロンティアの自動防御システムの存在を考えれば何れにせよ人為的である可能性が高い。

 

「イクス軍曹、司令官へ向かうわよ!」

「承知いたしましたわ!」

 

そう言って立ち上がる2人。

そこに丁度、レーゲンがやってきた。

 

「その必要は無い。」

「隊長…?」

 

レーゲンは腕を組み、いつにもなく真剣な表情で言い放った。

その声は静かで、ゆっくりと、確実に発せられた。

 

「全機、緊急発進(スクランブル)だ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フロンティアの青空が砕かれた。

降臨するのは白い影。

背中から光の粒子を発しながら、優雅に新天地へと降り立った。

 

 

 

 

 




どうも星々です!

はい事件起きました
気になるその犯人ですが、それは次回までのお楽しみということで
では、また次回

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