Another side【ネメシスエイト】   作:星々

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3rd file「終わらない歌」

「あれ、おかしいな?」

 

格納庫へと続く廊下、そこで携帯端末を眺めるバラは首をかしげた。

 

「どうしたバラ准尉。」

「いつも見てるネットニュースが見れないんですよ。宇宙でも電波は届くって聞いたんですが…?」

 

液晶パネルに表示される更新ボタンを押すが、表示されるのは『NO SIGNAL』の文字のみだった。

試行錯誤するバラに、レーゲンが背中で答えた。

 

「太陽嵐の影響だろう。まぁそこまで大規模のものでもないから明日には収まるだろう。」

「太陽嵐? あ、ここ宇宙なんですね。」

「最初は実感湧かないもんだ。」

 

納得いかない様子で不満げに携帯端末を仕舞うと、レーゲンとイクスに続く形で廊下を進む。

太陽フレアによる通信障害は大規模なものだと痛恨ものだが、今回のような比較的規模の小さいものであれば誰も気にすることはなかった。

しかし時に、この油断が隙となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「太陽フレア到達。通信障害を確認。」

 

宇宙ステーション・フロンティア近辺宙域。

ここにある一つのデブリが漂っていた。

それは旧ロシアの人工衛星の破片、に偽装したカプセルだ。

20メートル四方のその破片は、レーダー障害によって目を失ったフロンティアへと近づいて行く。

そのカプセルの中には、ある一人がいた。

顔はヘルメットで隠されて確認できないが、声は若々しい青年の声だった。

 

「コード・シー…ショータイムは近い。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フロンティア内はいつも通りの様子だった。

人工的に作り出された丘には草木や花々が色鮮やかに踊っている。

そこの丁度真下が、フロンティア基地の格納庫だ。

 

「これが我らがフロンティア隊に託されたテストタイプだ。」

 

レーゲンが指を指す。

そこにある赤、青、黄の巨人に、バラは唖然とし、イクスは喜びの笑みを浮かべた。

 

「こ…これは……!?」

 

彼女の目の前に立つ巨人。

それは人ならざるモノ。

闇に葬られたオーバーテクノロジーの塊。

 

「ネメシスタイプですわ‼︎」

 

そう、ここに並んでいるのは3機の連邦製IAD。

ネメシス08、テンペスト、ギガンティックだった。

だが、その機体は以前とは少し違っていた。

 

「どうしてこの機体が!?」

「そういえば説明していなかったなバラ准尉。」

 

レーゲンは手持ちのファイルから書類の束を探し出すと、それをバラに手渡した。

そこには底辺が無い三角形のようなマークが描かれている。

 

「これは?」

3A(スリーエー)計画のマニュアルだ。」

「3A計画?」

「大まかに説明するとだな。2年前のゴースト抗戦で大破したネメシスタイプを、本格的な対AD兵器として完成するという計画だ。E2司令が発案したものらしい。」

 

3A計画のマニュアルをめくっていくと、機体データが出てきた。

そこにある機体名は、"ネメシスアーク"、"テンペストアクセル"、"ギガンティックアサルト"だ。

可変機構を得たアークと機動力向上のアクセル、攻撃力増強のアサルト。

それらの頭文字をとって"3A"ということだ。

 

「まさか…アポスル神話計画の遺産が…。」

「あぁ。お前たちが乗る機体だ。まぁそういうわけで、機体割り振りを発表するぞ。」

 

レーゲンが改まって言うと、2人は緊張の面持ちで言葉を待った。

 

「事前のDNA照合による適性から判断して、俺はテンペストアクセルに乗る。イクス軍曹はギガンティックアサルト、バラ准尉はネメシスアークに、それぞれ搭乗してもらう。尚、初期起動はセルシルア少尉の観察の下行う。それに伴い、まずはネメシスアークから順番に起動していく。」

「じ、自分からですか!?」

「そうだ。」

「了解…です。」

 

バラは用意されたパイロットスーツに着替える為に、一旦格納庫から出て行った。

緊張した様子でぎこちない歩みを進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分して、パイロットスーツに身を包んだバラが戻ってきた。

パイロットスーツは機体のイメージカラーに合わせてあり、バラのものは赤を基調としたものだ。

仮にも宇宙空間にあるフロンティアであるため、密閉度は高い。

 

「準備できたか。」

「はい。」

 

バラがコックピットから垂れるワイヤーに手をかけると、ワイヤーが巻き取られてバラをコックピットへ導く。

従来のADより少し広めのコックピットに座ると、セルシルアから起動の順序が説明された。

 

「それじゃ、起動に入ってちょうだい。」

「了解。ネメシスアーク、システムスタンドアップ…!」

 

バラのコールと共に全天周モニターが光を発し、周囲の状況を映し出した。

左を見ると機体の肩に座っているセルシルアが見える。

手に持った端末で正常を確認すると、バラに次のシークエンスへ入るよう合図した。

 

「DNA認識……コンタクトスタート。」

 

一対の操縦桿を握る。

すると、彼女の頭に様々な情報が雪崩込んできた。

何か自分以外の感情が、その主だ。

そして最後に聴こえたのは。

 

 

-All is calm All is bright-

 

 

「こ、これは!? セルシルア少尉!」

 

バラはパニック状態だった。

それもそうだろう、自分の脳に何かが介入し、聴いたことのない歌が聴こえたのだ。

これで冷静にいられる人間は少数派だろう。

 

「落ち着いて准尉。あなたはこの機体()を受け入れて。」

「………っ」

 

眼をぎゅっと瞑って集中する。

と、正面のモニターに起動完了を知らせるマークが表示された。

 

「き、起動完了です。」

「確認したわ。じゃあまずわネメシスアークを歩かせてエレベーターに移動して。」

「はい。」

 

四肢が導かれるようにネメシスアークを操縦するバラ。

元々テストパイロットとして様々なタイプのADに搭乗してきたということもあって、割とスムーズに感覚はつかめた。

 

「レーゲン中尉からの伝言よ。『お前は先に上に出て慣らし運転しとけ』だってさ。」

「え、あ、はい。では、エレベーターを起動します。下がってください。」

 

ネメシスアークを乗せたエレベーターが低い音を鳴らして動き出した。

最初こそノロノロとした動きだったが、徐々に速度を上げ、あっという間に地上へ出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後、ようやく3機の起動が終わり、全員が地上へ出た。

 

『こちらテンペストアクセル。これより擬似弾による模擬戦を開始する。ルールは、そうだな…2on1の時間制限型だな。』

「こちらネメシスアーク。私とイクスが組んで隊長と戦うってことですね。結果は総被弾数ですか?」

『いや、チームの平均被弾数だ。』

 

つまり、レーゲン駆るテンペストアクセル対バラ駆るネメシスアークとイクス駆るギガンティックアサルトの2対1。

しかもバラとイクス側は、最終的に双方の被弾数の平均をによって勝敗を決めるというのである。

バラとイクス側が圧倒的有利だ。

ただ、先ほどバラが見た資料によれば、3A計画において最も高性能に仕上がったのはテンペストアクセルらしい。

推進補助装置、イミュー粒子コンデンサー、イミューキャノンの3つが一体となった追加装備を両肩に取り付けることにより機動力が底上げされ、ネメシス08及びアークと同様に飛行能力を得るまでに至った。

またその汎用性の高さから"ネメシスタイプ最高性能機"と言われた。

 

「いくら高性能とはいえ、同じネメシスタイプであればそう大差はありませんわ。」

 

と、イクスは言う。

正直バラも同じ考えだった。

実際、操縦技術に多少定評がある彼女らが上手く連携をとれば、エース級のベテランパイロット相手と高いレベルで渡り合えるだろう。

 

「準備はできたか? では、始めるぞ!」

 

2機がテンペストアクセルと向き合い、共に身構える。

画面に模擬戦開始までの秒数が表示される。

それに合わせてセルシルアの秒読みが聞こえる。

その数字が0になった時、3機は同時に動いた。




どうも星々です!

不覚ッ、模擬戦まで書けなかった
3000字前後で書いてるんでどうしても収まんない時があるんですよね
もう少し長くてもいいかななんて思いながら毎回どうやって3000字前後に収めるかと試行錯誤してます

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