Another side【ネメシスエイト】   作:星々

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2nd file「人にやさしく」

「おーい。大丈夫かい? おーい!」

「ふぇえ?」

 

肩を激しく揺さぶられて目を覚ましたバラ。

視界には1人の女性がいた。

比較的ラフな格好で、セミロングの髪がふわふわなびいている。

 

「は、はい! すみません、対G訓練をあまりしてなくて、気を失ってしまいました!」

「生きてりゃいいのよ。最初はみんなそういうもんだから。」

 

女性はバラに手を差し出すと、彼女の手を握って立ち上がる手伝いをしてくれた。

まだ少し残る頭痛を我慢しながら、同時に吐き気も抑え、ゆっくりと立ち上がる。

 

「なかなか強い女の子ね。そんじょそこらの男でも直後はフラフラよ。」

 

とてもフレンドリーで接しやすい性格に少し安心するバラ。

正直にいい人だなと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し休んだ後、フロンティアについての説明を受けながら自分の配属先であるフロンティア基地へ向かった。

内装は、上を見なければ地上と何ら変わらない景色で、人工重力も存在する。

 

「ここフロンティアは約9.5ヘクタールで、中身は研究施設が大多数を占めてるの。フロンティア基地はその中心であり我らフロンティア隊の本部ね。」

「私が配属された所ですか。思ってたより広いんですね、ここ。」

「そりゃそうよ。ある程度の広さが無いと研究もクソもないからねぇ。」

 

そうこうしているうちにフロンティア基地のとある一室に案内された。

大きめのテーブルを囲むように椅子が並んでいる。

どうやらここはブリーフィングルームらしい。

 

「まだ司令と隊長は来てないみたいね…じゃあまず私から自己紹介しちゃおうかな。」

 

バラをここまで案内した女性は襟を正し咳払いをした。

 

「私はセルシルア・アロー少尉。フロンティア隊のオペレーターです。よろしくね!」

「バラ・ドリム准尉です! テストパイロットとしてこちらに派遣されました、よろしくお願いします!」

 

示された席に座る。

そのまま世間話をしていると、ブリーフィングルームの扉が開いた。

入ってきたのは30代のガタイのいい男性とバラよりもひと回りもふた回りも幼い少女だ。

 

「ったく…地上の奴ら、またこんな若いのを…」

「中尉、失礼ですよ。」

「これは失敬。」

 

バラ自身は気にしていなかったが、少女に指摘されて反省の意を示す男性。

先程セルシルアの言葉から、この2人が司令と隊長だということは察しがついた。

 

「本日付でこちらの所属になりました、バラ・ドリム准尉です!」

「おうおう。俺はレーゲン・シュペルヴェン中尉。フロンティア隊の隊長だ。」

「よろしくお願いします中尉。で、司令は…」

「私です。」

 

レーゲンの隣に座った少女が手を挙げる。

まさかと思ったバラはそれを表情に出さないように気をつけながら姿勢を正した。

 

「私がここの司令官、E2(イーツー)です。今後あなたへの指示はレーゲン中尉を通して私が下します。」

「は、はい、了解です!」

「元気のいい子が来てくれて、よかったではないかレーゲン中尉。」

「は、はぁ…」

 

レーゲンは頭を掻いた。

どうやらこの基地に配属された人員の多くが若者らしい。

バラもその一人で、レーゲンからしてみればもう少し経験を積んだ人員が欲しいところだった。

 

「まぁいい。挨拶代わりと言っちゃなんだが、恒例の講習会をしようと思う。」

「恒例なんですか?」

「俺にとっちゃな。もう一人のフロンティア隊員が着き次第、始めるぞ。」

 

レーゲンはしょうがないといった感じで妥協し、隊としてスタートを切る準備を始めるつもりだ。

彼の言葉から推測するに、フロンティア隊の構成人数はたった3人らしい。

軍の施設の中でも謎の多いここ宇宙ステーション・フロンティアということもあり、あまり多くの人を呼ぶわけにはいかないのだろう。

 

「では、私はここで。セルシルア少尉、少しお仕事を頼みたいのですが?」

「? 了解です。」

 

E2はセルシルアが連れてブリーフィングルームを出ると、レーゲンとバラ2人きりになった。

改めて向き合うと、レーゲンから放たれるベテランの空気に少し負けそうになる。

 

「バラ・ドリム准尉、だったかな?」

「え、えぇ。」

「日本語に似たような単語があってな。確か"薔薇(ローズ)"って意味だった。」

「は、はぁ…」

 

突然日本語の話をされて少し戸惑うバラ。

レーゲンは終始目を合わせずに手元を見ていた。

 

「その名の通り、お前自身少し棘がありそうだな。」

 

冗談めかしくレーゲンが言うと、シワの多い眉間がほぐれ、軽く笑った。

その表情にバラの緊張感が少し解けた。

 

 

 

 

 

 

「あら、楽しそうですわね。」

 

しばらく話していると、ようやくもう一人のフロンティア隊員がブリーフィングルームに入ってきた。

艶のある紺色の長髪を背中い揺らし凛とした立ち居振る舞いで歩くその姿は、その若さには見合わない迫力を生み出している。

 

「遅いぞイクス軍曹。」

「失礼いたしましたわ。」

 

バラは、自分より階級が下という事実の驚きながら、イクスと握手を交わした。

 

「イクス・ナッハフォルグ軍曹です。よろしくお願いいたしますわ、バラ・ドリム准尉。」

「私の名前を?」

「えぇもちろん、勉強済みですわ。」

 

 

 

 

 

2人はレーゲンに向き合うように座り、レーゲンの中では恒例の講習会が始まった。

 

「AD乗りには、技術や才能が必要だ。しかし、それ以上にまず、"ADとは何か"を知ることが必要だ。」

 

前時代的なホワイトボードに大きくADと書くレーゲン。

 

「まずは手始めに、バラ准尉、ADの成り行きについて知っていることを述べてみろ。」

「はい。2470年代に連邦軍が実行した"次世代兵器開発計画"に基づいて開発された機動兵器です。先陣を切った中国の開発チームが作り上げた可変戦車が"お人形さん"と揶揄されたことに、そのネーミングが由来していると記憶しています。その後26世紀初頭にルークがロールアウト。それ以降、ウォーリアーなどの発展機が開発されています。」

 

起立して一通り自分の知識を並べてみたバラは、緊張しながらも、実に簡潔で満点に近い回答をした。

しかし、それに意を唱えたのはイクスだった。

 

「それではまだ大事なことが語れていませんわ。ADの歴史において特筆すべきなのは、ゴースト抗戦において活躍した連邦製のIADですわ。私たち一兵士にはその存在すらはっきりと知らされていない最新鋭機を語らずして、ADは語れませんのよ?」

 

今まで表情を変えずに聞いていたレーゲンの眉がピクリと動いた。

バラは、自分があえて触れなかったことを堂々と語ったイクスに驚いた。

ゴースト抗戦の実態である"アポスル神話計画"は連邦の闇を露わにしたものとして歴史の闇に葬られたという事情により、軍内でその話をするのはタブーとされていたからだ。

 

「ふっ…中々面白いな、君たち。よし、では早速、模擬戦といくか。」

「え、講習会は……?」

「終わりだ終わり。俺の気分が変わった!」

 

レーゲンはそう言うと、ブリーフィングルームを出た。

相当な変わり者2人と同じ部隊に配属されたんだと知りため息をついたバラは、イクスに続いてレーゲンについて行った。




どうも星々です!

本編含めだいぶ間隔が空いてしまいましたね(汗
次回からようやくロボットが登場します
本編と併せ、どうぞよろしくお願いします!

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