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第1話
あるところに暗号を作るのが得意な教授がいた。彼は数学文学ありとあらゆる知識を持って誰にも解けないであろう暗号を作っては学生や友人に披露して悦に入るのが趣味だった。ただし彼の暗号は絶対に解けないというわけではなく、必ず解法が存在した。それは数値配列であったり、文字の規則性であったり、天文学に基づくものであった。
ある日、彼は友人にある暗号を紹介した。いつか作ったのだが、正確な日時を思い出せない。けれど解くことはできるだろうというのだ。彼の友人はいつものように解読に入った。
数学ならば最新の研究に基づくものから、本来ならばスーパーコンピュータが必要になる定理まで、ありとあらゆる可能性を考慮して考えていったが、一向に解くことができない。教授の暗号は必ず解けるようにできている。絶対に解けないことはないのだ。友人は悩みに悩んだ末白旗をあげたのであった。
「降参だ。この暗号は解くことができない」
眉に皺を寄せて暗号の記された紙を返す友人に対し、教授は本当に済まなそうな顔をしてこう言った。
「申し訳ない。それは暗号ではなく答えだった」