「ねえ、衛宮君。私、昼休みにきちんと伝えたわよね?」
放課後、俺は遠坂に会った。
出会ってしまった。バッチシと階段で。
青筋を浮かべ、良い感じの笑顔を浮かべる遠坂。うん、怒ってますね。ハイ、激おこぷんぷん丸です。
「あ、いや……やあやあ遠坂奇遇だな。うん、あ~いや~学園のアイドルと呼ばれる遠坂に出会うなんて今日の俺は運が良いな、うん!」
「衛宮君、あんたねえ……今日の昼もあったし、もう放課後じゃないの!お世辞言うにももう少し状況を考えなさいよ!!」
「あ、いや、なんかすまん!」
「あ~、もう!あったまに来た!」
そう言って遠坂は腕を捲るとそこには魔術刻印があった。
「魔術刻印!?」
「あら、やっぱりあなたも知ってるのね。これを。そう、これは魔術刻印。この中に組み込まれてる魔術を私は瞬時に発動できるの」
「凛、私が相手をしようか?」
腕を捲り俺に魔術刻印を見せてくる遠坂と俺との間に割って入ったように現れるアーチャー。
「いいえ、その必要はないわ。アーチャーあなたは他のサーヴァントが現れた時に対処をお願い。サーヴァントの護衛をつけていないへっぽこなんて私一人でどうにかなるわ」
「へっぽこ!?」
「了解した。そんな半人前の魔術師以下のへっぽこ等君一人でどうにでも成るだろう。だが、まあ気を付けておいて損はあるまい」
そう言い残してアーチャーのサーヴァントはニヒルな笑みを浮かべて霊体化して消えた。
なんて奴らだ!半人前なのは間違いないが幾らなんでもへっぽこ呼ばわりとは…これは幾ら冬木の羊と呼ばれる士郎君でも激おこである。現在進行形でキャスターの下で修行中ではあるのでへっぽこ呼ばわりは頂けない。羊をなめてもらっては困る。温厚な羊が怒るとどうなるかこれは是非とも遠坂には骨の髄まで知ってもらう必要がある。
「遠坂、ここでの戦闘はまずいって。一般に知られちゃいけないんだろう!?」
「衛宮君、私は目の前にあるチャンスを逃す事はしないの」
「何を言って…」
「良く周りを見てみなさい」
遠坂にそう言われて周囲を見渡すと生徒はおろか先生すらいなかった。
「人払いの結界か!?」
「ご名答よ」
「そうか……なら、ありがとうよっと!」
急ぎ階段を飛び降りる。
着地の衝撃で足がじんじんするが、そんな事を気にしている場合ではない。
「な!?こら、待ちなさい!!」
急ぎ俺の後を追ってくる遠坂。
魔術に関しては俺は遠坂以下である。魔術戦では圧倒的に不利。なので、念話で助っ人を呼ぶことにしよう。
『キャスター、すまないがヘルプを頼む』
『だから聖杯戦争中は護衛もなしに学校に行くなんて無謀だと言ってのよ!この馬鹿!帰ったら説教は覚悟しときなさい!』
『あ、それは勘弁……あ、でも、怒るお前の姿を見る事が出来るなら……それもありか?』
『もう、馬鹿!強化魔術を全体にかけておくから竜牙兵が現れるまで持ちこたえときなさい』
そう言って念話が切られ俺の体に強化魔術がかけられ階段を飛び降りるたびに着地の際の衝撃が消えた。
良し、これで幾分か走る速度が速くなった。
「チッ、待ちなさい!!」
そう叫ぶ遠坂の声が徐々に遠くなり幾分か距離を離す事に成功したのが解る。
階段を飛び降り、遠坂と距離を離すと階段の隣の空き教室に入り込む。鍵をかけて出入り口をロック。
「間に合うか……」
出入り口の扉を中心に廊下側の壁に手を当てると
「トレースオン」
壁に強化魔術をかける。
俺がやる役割は竜牙兵が現れるまでの時間稼ぎ。別に遠坂に魔術戦で勝利する事では無い。
壁に強化魔術をかけ終わると教室の机の一つを倒し楯にして強化魔術をかける。
「もう逃がさないんだから!!」
やべ!遠坂の声が教室の扉越しに聞こえる。
「さあ、観念しなさい!!」
その言葉と共に壁の向こうから機関銃の如き速さで放たれる魔術弾が強化した壁にぶち当たる轟音が鳴り響く。
「ああ、もう本当面倒くさいわね!!」
あら、聞きました奥さん?遠坂さんの優等生の仮面が今はがれましたわよ?等とキャスターが居れば漫才をしたいところだが、まだ壁を貫いていないだけで轟音は現在進行形で鳴り響いており壁がいつまでもつか解らない以上更に防御を固めておく必要がある。一つの机に強化魔術を施し終えたらまた次の机を倒し楯にして強化魔術を施していく。
「フフ、さあもうすぐよ!」
遠坂の言葉にぎょっとし強化魔術を施した壁を見るとそこには亀裂が走り、まもなく壁が防御壁の役割を終えようとしていることを告げていた。
クソ!いざとなったら遠坂と戦うしかないのか!
二つ目の机に強化魔術を施し終えると俺は掃除用具入れのロッカーの中から箒を取り出し強化魔術をかけて強化魔術を施した机の陰に隠れる。
陰に隠れ終わると同時に壁が破壊され壁の向こうから無数の魔力弾が教室内に撃ち込まれる。
「グッ!」
強化した机を盾にしているが魔術弾を受ける度に振動が腕を伝い全身に走る。
こんなんを生身で受けていたんじゃあ命が幾らあっても足りやしないぞ!
徐々に徐々に伝わる振動が強くなっていく。
「このままじゃあジリ貧か」
何時キャスターの放った竜牙兵が到着するかわからない以上遠坂との戦闘も頭に入れておいた方がいいだろう。強化魔術で強化した壁が壊された以上戦闘は避けては通れない!
強化した箒を握りしめ、机を盾にし遠坂に強襲をかけようとしたその時、それは起こった。
「キャーー!?」
女子生徒の甲高い悲鳴が廊下を伝って教室内に響き渡る。
悲鳴の影響で遠坂から放たれる魔術弾が止まり俺は急いで遠坂の傍に駆け寄った。
「遠坂、今の!」
「ええ、悲鳴よ。まさかとは思うけど他のサーヴァントの襲撃!?」
「今すぐ悲鳴の下に行かないと!」
俺はそう言い残して廊下の窓をぶち破って1Fに降り立つ。そう言えば、よくよく考えてみれば俺が居たのは2Fなんだから1Fに窓を割って飛び降りればよかったんじゃないかと思ってしまったが後の祭り。
悲鳴のあった教室に行くとそこには
「フン!」
「……なんだこりゃあ!?」
パンティーを頭に被った竜牙兵とあれは、女子の体操服だろうか?を着た竜牙兵。
そして、極めつけはブ、ブラジャーをバスケットボールに引っ付けて遊んでいる竜牙兵達。そんな竜牙兵を駆除せんとばかりに黒と白の双剣で斬りかかるアーチャー。という奇妙な構図が出来上がっていた。
アーチャーが一体倒すたびに更に二体現れ、それが永遠と繰り返される。
しかも、竜牙兵は戦う意思がないのかその手に武器を持ってはおらず手を叩き、アーチャーを挑発しているのかブラジャーを付けたバスケットボールをこちらによこせととパスを誘っているのか分からない状態であった。
『……キャスター』
急ぎキャスターに念話をすると
『ええ、見てるわよ。だって、仕方ないじゃない!竜牙兵達に貴方が学校のどこにいるか伝え忘れちゃったんだもの!彼らもない頭を使って騒ぎを起こせばあの小娘が飛んでくると思ったのよ!』
上手いことを言ったつもりなのだろうか?だが、これでハッキリした事がある。
どうやら俺の未来の嫁さんはうっかり家さんみたいです。